プライベートエクイティファンド(PEファンド)は、採用時も各候補者の実力やスキルを厳正に審査しますが、個々に差はあれど入社後キャッチアップするべきスキル・経験も多くあります。
そこで、今回は、プライベートエクイティファンドへの転職を検討されている方向けに、入社後1年目で身に付けておくべきスキルや経験についてご紹介します。
【目次】
- NDAの交渉・エグゼキューション
- 複雑かつ変数の多い財務分析・財務モデリングスキル
- パワポ等による投資員会向けの資料作成、および投資候補先への提案資料(ピッチブック)作成
- デューデリジェンスを大局的に捉えた上での分析・投資仮説への反映
- (参考)PE入社後「2年目以降」に抑えておくべきスキル
NDAの交渉・エグゼキューション
まず最初に身に付けておくスキル・経験としてNDAの交渉・エグゼキューションがあります。プライベートエクイティファンドが投資を検討する際は最初の段階では売り手のファイナンシャルアドバイザーから案件を紹介される際はノンネームベースのティーザーがメインですが、ティーザーを受領した後に、当該案件を本格的にファンドとして検討する場合は売り手とNDA(秘密保持契約書)を締結してインフォメーションメモランダムとプロセスレターを受領します。
NDAをプライベートエクイティファンドと売り手が締結する場合には、情報開示先の範囲や秘密保持の有効期間等、NDAの項目ごとに交渉ポイントが存在します。一般的な国内案件ではそこまで複雑な論点がNDA締結時点で生じることは非常に少ないですし投資銀行出身の人はNDAのやり取りになれているので、そこまでキャッチアップが必要なわけではないと思いますが、コンサルティングファーム出身の人はプライベートエクイティファンドに入社する前は多少戸惑う方もいるかもしれないので、入社後に速やかにNDA交渉時の論点把握や弁護士とのやりとりに慣れる必要があります。
複雑かつ変数の多い財務分析・財務モデリングスキル
1年目に身に付けておくべきスキル・経験として、初期的な案件検討をする際に必要な財務分析・財務モデリングも挙げられます。
実際にプライベートエクイティファンドが投資する企業は未公開企業であることも多く、限定的な情報の中から初期的に検討していくことが重要になります。上場企業案件においても公開情報はありますが、公開財務情報を使用して初期的な財務分析・財務モデル作成をする必要があります。
投資銀行出身者であれば、財務分析や財務モデリングは非常に慣れていると思いますが、戦略コンサルティングファーム出身の方はPLの予想のモデル作成になれている方が多い一方で、BSやキャッシュフロー計算書を含めた財務三表のモデル作成、特にLBOモデルの作成に関しては、基本的なモデルの型を学ぶ必要があるでしょうか。採用プロセスでもテストはあるものの、実務ではより複雑かつ変数が多くなるので、入社後にキャッチアップが必要です。
最近ではプライベートエクイティファンドでも総合商社出身者やMBA出身の新卒の方もいます。実務で財務分析や財務モデリングの絶対量が足りていない人もいると思いますので、まずは数を実務でこなしていくことが重要になります。
パワポ等による投資員会向けの資料作成、および投資候補先への提案資料(ピッチブック)作成
他に入社1年目で身に付けておくべき基礎的なスキルとして、パワポ等による投資員会向けの資料作成、および投資候補先への提案資料(ピッチブック)作成が挙げられます。
投資銀行、戦略コンサルティングファームともに仕事でパワポを使用した資料作成を多く経験していると思いますが、投資委員会のメンバーに色々と突っ込まれることがないように、ハイクオリティな資料をリターン分析とともに行う必要があります。
また投資候補先に提案する資料作成に関しても、同様にプライベートエクイティファンドとしての投資アングル、および投資候補先が抱えている問題点の指摘とプライベートエクイティファンドとしてどのようなリソース提供とバリューアップができるかという観点で提案することが多いです。
コンサルティングファームの場合はRFP(Request for Proposal)が来てから業務のスコープを決めて提案をすることが多いと思いますし、投資銀行ではより積極的に資金調達・バイサイドM&A・セルサイドM&Aの提案に関してはクライアントに資本市場の状況。財務分析、バリュエーション等の観点を交えて分析・提案することが多いので、プライベートエクイティファンドの提案は、戦略コンサルティングファームと投資銀行のピッチブックのハイブリッドといえるでしょう。
提案書作成においては、どのような投資アングルのパターンがあるか、初期的な分析としてどのようなアングルが財務面・事業面で考えられるかという点を反射的にイメージできるかが大事になってくるでしょうか。経験のある上司と働く中で、色々なインサイトを吸収する挙動が大切です。
デューデリジェンスを大局的に捉えた上での分析・投資仮説への反映
プライベートエクイティファンド入社後、業界未経験の場合はアソシエイトとして入社するケースが一般的ですが、アソシエイトが担当する重要な業務の一つにデューデリジェンスがあります。
FASやコンサルティングファーム出身の方であれば、今までは事業会社やプライベートエクイティファンドから依頼され財務やビジネスに関するデューデリジェンスを行うことが多く、実際にレポート作成する立場を経験されていると思いますが、プライベートエクイティファンドに入社した場合は、デューデリジェンスをリードし検出事項をどのように財務モデルに反映させるか、投資実行にあたって事業面で問題になる点はないかということを慎重に検討するので、今まで手を動かしていた方は、より大局的にデューデリジェンスをとらえて分析や投資仮説に反映させる必要があります。
この意味では、投資銀行でデューデリジェンスを仕切って、Q&A対応やディール実行上重要な論点は何かを肌感覚で理解できる人の方が、プライベートエクイティファンドに入社しても違和感なく業務を進めていくことができるでしょう。
デューデリジェンスで検出された事項は、財務モデルのみならず、SPA等の契約交渉において論点になるポイントや、価格交渉で運転資本やネットデットのクロージング日までの変動でどのように有利・不利に働くか等、ディール全体を通じて重要なプロセスになあるため、できる限り入社後からすぐに慣れることが肝要です。
(参考)PE入社後「2年目以降」に抑えておくべきスキル
2年目以降はNDAの交渉や財務モデリング、提案書の作成等といったハードスキルは当然として、レンダーである銀行との交渉、バリューアップの局面において投資先における経営陣やキーマンとなる人物とのコミュニケーションなど、意思決定に携わることが多くなってくるので、より定性的・ヒューマンスキルが求められます。つまり、今後のプライベートエクイティファンド内でのプロモーション(シニアアソシエイトもしくはヴァイスプレジデント)を見据えたスキルを鍛えていくことが重要です。
具体的には、LBOローンの提供者である、銀行(メガバンク・地銀等)とは、プライベートエクイティファンドのアソシエイトが作成したLBOモデルを基礎にローンがEBITDAの何倍とれるか、等を交渉していくことになります。
また、他にもデューデリジェンスで発見された事項を株式譲渡契約書(SPA) にどのように織り込んでいくか、SPAの交渉上の論点は何が重要で、買手として譲れるポイントとそうでないポイントを峻別してシニアを協力して交渉する等のスキルも重要になります。
このあたりのSPA交渉に関しては、投資銀行等でM&Aアドバイザリー業務を経験した人であれば比較的慣れていると思いますが、コンサルティングファーム出身の方であれば、多少の慣れと新たな知識のインプットが必要なエリアになりますのでキャッチアップが必要になります。
まとめ
プライベートエクイティファンドに転職する人は外資系戦略コンサルティングファーム・投資銀行出身者が殆どであり、多くの候補者は入社時の厳格な採用テストや面接を経て入社しているため、ハードスキルは一定以上担保されています。
しかしながら、取り扱う案件のサイズや投資アングル等はファンドによって様々であり、入社後もスムーズに活かせるスキルもある一方で、ディールのソーシング、財務モデリング・ストラクチャーの知識・資料作成・バリューアップの局面において追加的な知識やスキル獲得・キャッチアップが必要なものも多くあります。
また、例えば、FASから直接入社できたとしても、財務モデリングやバリュエーション、コーポレートファイナンスの知識・経験については外資系投資銀行出身者に劣ってしまう可能性、プレゼンテーション資料の作成のセンスは戦略コンサルティングファーム出身者に劣ってしまう可能性があります
それぞれに得意不得意を捉え、選考を突破し入社した後も常にスキルや経験値のキャッチアップを意識しておく必要があります。いずれにしてもプライベートエクイティファンドに転職する場合は常に学習・インプットして自分のものにしていく姿勢は極めて重要です。
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>プライベートエクイティファンドへのキャリアに関する記事
公認会計士からPEファンドへのキャリアパス【入社前後に役立つスキル・経験】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/accountanttope
FASからPEファンドに転職して活かせるスキル・キャッチアップが必要なスキルとは
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/fas_pe
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今回は、プライベートエクイティファンドへの転職を検討されている方向けに、入社後1年目で身に付けておくべきスキルや経験についてご紹介しました。
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