リーマンショックが一段落したのちの2010年代以降、マイナス金利政策の影響や、老後不安などの背景もあり、不動産ファンドの投資機会が多くなっています。
そのなかで就職・転職の機会は継続的に存在し、金融業界・資産運用業界の経験は高収入を狙える領域のひとつです。
今回の記事では、日本の不動産ファンドビジネスの動向と、ファンドのなかでも専門性が要求されるオペレーション・資金管理業務について紹介します。不動産ファンドやファンドのオペレーション実務に興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
【目次】
日本の不動産ファンドの市場動向・転職動向
日本の不動産ファンドビジネスは、長期的に見て良好な市場環境が続いています。さらに、新型コロナ・ショックが一巡したのちは、事業機会が豊富にある状況といえるでしょう。そのなかで、専門性の高い人材の採用ニーズも高まっています。まずは、不動産ファンドの市場動向や転職動向について解説します。
ドイツやアメリカが日本不動産に投資する一方リスクも
日本の不動産市況は、リーマン後に底打ちしてから長期にわたり上昇傾向にあります。国土交通省が発表する不動産価格指数を見ると、区分マンションを筆頭に、右肩上がりが続いている状況です。新型コロナ・ショックでは一時的にオフィスやホテルなどが逆風環境となりましたが、足元は再び良好な環境が続いています。
主要先進国ではインフレの加速とともに不動産の高騰も進むなかで、相対的に物価上昇が緩やかな日本の不動産に投資する動きが見られます。
・ドイツの保険大手アリアンツが大都市圏の賃貸マンション投資を積極化
・KKRが日本でインフラ投資を開始
・米国大手投資ファンドのブラックストーンは、2026年までに日本の不動産における運用資産総額1兆ドルを目指す
・ゴールドマンサックスが日本の不動産投資を強化
近年進む円安も、海外投資家からすると外貨換算したときの不動産価格が割安に見えるため、投資を積極化する要因となります。
一方で、先行きを見ると気になる材料もあります。日銀が近々マイナス金利を修正する可能性を示唆していることです。不動産は多くの買い手が融資を活用して投資するため、金利上昇は不動産需要の減退、市況悪化をもたらすリスク要因のひとつとなります。海外はすでに日本よりはるかに高金利であるため、海外投資家が直ちに反応する可能性は限定的です。
一方で、日本の個人投資家は金利上昇リスクに敏感な向きもあり、個人投資家が売買しやすい上場REITについては、不動産市況が良好であるにもかかわらず需要が集まりにくい状態が続いています。不動産ファンド全体の動向でいえば環境は良好で、ファンド規模が成長するなかで人員の拡大を検討する企業も少なくないと考えられます。
不動産ファンドの転職機会
不動産ファンドにおいて、近年の市況改善を背景に人員を増やそうとする動きも散見されます。ただし、ファンドビジネスでは大きな組織を持たない企業も多く、業界全体で人員が増加傾向といっても、転職難易度が高いことには変わりありません。転職するには高い専門性が要求されるでしょう。
不動産ファンドで評価される専門性は、大まかに分けて以下の二つに分類されます。
・ファンドや資産運用に関する専門性
・不動産に関する専門性
不動産ファンドにおいては、ファンド運営や投資実行のための人員が必要です。この後紹介するオペレーションのように資金管理や会計・経理の専門性を有している人材や、投資銀行や投資プロジェクトなどで資産評価、投資判断および投資先の収益性分析などができる人材が求められます。
これらについては不動産というよりも、金融関連のスキルや経験が求められます。事業会社でも、新規投資やM&Aなどの部署にいた方が転職に成功するケースも少なくありません。
他方で重視されるのが、いわゆる不動産に関する専門性がある方です。不動産特有の資産評価や税務、物件の品質の判断などができる方が求められます。また、投資するかたわら自社で物件の開発などを手掛けているケースも多く、その場合は、不動産開発や管理などより不動産実務に近い知見を持つ人材を集めることもあります。
不動産ファンドの転職機会は確かに拡大傾向ではありますが、もともとが狭き門である分、以上の専門性が重視される状況には大きく変わりないでしょう。ただし、一部のファンドは組織拡大を加速させている場合もあり、若手であればポテンシャルベースで採用を検討する企業も見られます。
不動産ファンドの年収イメージ
不動産ファンドの年収は、おおむね外資系>大手(財閥系グループなど)>それ以外という形になります。外資系の不動産ファンドともなれば、担当者クラスでも1,000万円台のオファーもあり得るでしょうか。
だとすれば、中堅クラス・チームマネージャークラスになれば2,000万円越えも考えられるでしょう。
ついで高い年収が期待できるのは、財閥系などの大手不動産や商社のグループが運営するファンドです。担当者クラスなら若手で600万円~、中堅になれば1,000万円、マネージャークラスになれば年収1,500万円以上のオファーもあり得ると思われます。
それ以外の中堅ファンドについては、これらより年収が一回り下がるものの、世間一般で見れば高年収な部類に入るのは変わらないでしょう。担当者クラスでも、経験年数や成績等によって1,000万円は充分に目指せます。マネージャークラスになれば1,000万円~1,500万円程度のオファーは期待できるでしょう。
先に紹介した通り、不動産ファンドへの転職は、若手を除いて高いスキルと経験が求められます。少数精鋭で要求レベルが高い分、魅力的なオファーの転職が多いのです。近年の日本の良好な不動産市況を背景に、安定した投資収益を出しやすくなっている点も、魅力的なオファー提示に繋がっていると考えられます。
不動産ファンドの大まかな職種
ファンドビジネス特有の職種に絞ると、不動産ファンドの職種はおおまかに以下のとおりとなります。
・物件開発・管理の部署
・入居者や物件購入者向け営業
・ファンドマネジャー(兼金融機関向けの営業)
・オペレーション
多くの不動産ファンドは、自社で不動産物件の開発や管理を行います。物件開発を進めたのち売却して収入を得たり、開発後にテナントや入居者を誘致して賃料収入を得たりといった形で、ファンドの収益を獲得するためです。したがって、不動産の開発プロジェクトや管理を担う役割が必要となります。
特に不動産周りの専門性が要求される仕事なため、グループ企業などに多くの部分が外だしされている場合もありますが、ファンド内でも一定の機能を有しているケースが多いです。
続いて、開発・所有する物件を収益化する部隊となります。不動産ファンドにおいて「営業」に近い活動は対投資家向けと不動産需要者(入居者や購入者)向けがありますが、単に「営業」というと不動産の購入者や入居者向けの営業部隊を指すケースが多いです。
ファンドマネジャーは不動産のポートフォリオ管理や収益性分析などを担うほか、投資家向けの運用状況の報告、新規投資家の誘致など実質的に機関投資家向け営業に近い役割を持つケースが多いです。
株や債券のように柔軟に売買できるものではなく、また開発・売買の方針は他部署と連携しながら方針を決定していくファンドが多いといえます。その分、対投資家向けの報告や営業活動に必要なデータの分析や資料作成などの比重が多いファンドも見られます。
オペレーションはこの後詳しく紹介しますが、主にファンドの資金管理や経理・会計を担うチームです。ファンドによってはストレートに経理や会計と呼ばれている場合もあります。
不動産ファンドは税制や法制度の兼ね合いなどからストラクチャーが複雑になるケースがしばしばあり、そのなかで投資家と投資先物件の間の資金流出入を的確に管理する役割を担います。ファンドマネジャーとオペレーションは、資金にかかわるタスクや分析作業が多いため、相対的に金融経験者の知見を活かしやすい傾向があります。
不動産ファンドでのオペレーション業務について紹介
不動産ファンドと一口にいってもさまざまな業務がありますが、今回はなかでも専門性が要求される一方で、金融出身者との親和性が高いオペレーション業務について紹介します。
ファンドを含む金融機関から不動産ファンドに転職しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
投資家から受け取った資金の流れを管理する仕事
オペレーションとは、投資家から受け取った資金が、ファンドの意図通り運用されるよう管理する仕事です。不動産ファンドでは投資家から受け取った資金を源泉として、必要に応じて借入なども活用しながら不動産の開発・管理などをおこなって収益を獲得します。
獲得した収益から報酬をうけとったうえで、利益が充分にでていれば分配金として定期的に投資家に還元する仕組みです。J-REITに代表されるように、当期の利益の大半を分配金として返すことで税法上の優遇を受けられる場合があるため、一般に不動産ファンドは利益に応じて積極的に分配金を出す傾向にあります。
単純な仕事に見えますが、不動産開発や管理側では日々さまざまな形で資金が必要です。月々で定常的に支出されるものもあれば、イレギュラーに多額な資金が出ていくタイミングもあります。他方、分配金の支払いはファンドにとっては多額のキャッシュアウトになるため、資金ショートを引き起こさないよう徹底しなければなりません。
対して、投資家からの出資(キャピタルコールといいます)は金額や頻度が確定するものではないので、資金の流出入については常にバランスをとっていく必要があるのです。
SPCの構造をふまえた資金管理が必要に
多くの不動産ファンドは、いくつかの形式上の会社や法人・組織(以降便宜上、総称して「法人」と呼びます)を立てて運営されます。SPCや特定目的会社、匿名組合などがあり、制度上必要に応じて、ひとつのファンドで複数の法人を経由するケースも少なくありません。
法人はそれぞれがバランスシートや損益計算書を管理する必要があります。会計や経理などの知見・スキルを持つものが対応して、法制度を守りつつファンドの資金が円滑に流れるよう継続的に管理していくのです。
たとえば、投資家から新たな資金を獲得した場合、投資家はファンドのいずれかの法人に「出資」した形となるのが一般的です。
出資先では株式(出資権・投資口など)を発行して法人に配分する必要があるため、ファンドは増資が必要です。もし逆に投資家がファンドを売却する場合は「減資」となります。それぞれ発行や償却といった対応が必要です。
また、資金の流出入においては、関連する法人それぞれに費用か収入もしくは資産・負債の計上が正しく行われる必要があります。投資家と投資先である開発・管理物件間の資金管理というと単純そうに見えますが、不動産ファンドに多い複雑なストラクチャーも一因となり、会計・経理業務も高度なスキルが要求されるケースが少なくありません。
オペレーションへの転職に適した方
不動産ファンドのオペレーション業務は、つぎのような方が適しているといえます。
・金融・ファンド経験者
・企業での経理・会計経験者
・(若手なら)数値でのデータ集計・分析に長けた人
まず、金融や不動産以外を含むファンド経験者は強みを発揮しやすい職種といえます。投資先は不動産ですが、資金管理が主体となるため不動産の経験よりも金融周りの経験が役立ちます。
投資銀行や銀行などでSPCを活用したファイナンスや不動産金融を経験している方は、特に強みを発揮できる余地があるでしょう。またファンドやディールなどの金融ビジネスの資金管理を行うバックオフィス経験者も親和性が高いと期待できます。
また、事業会社の出身でも、経理や財務など会計周りの部署にいた方は強みを発揮できます。ファンドビジネスや投資に関するキャッチアップは必要となる一方で、企業の会計や帳簿付け、資金管理といった領域の知識やスキルはすぐに有効活用できるでしょう。また、税務に関する知識もオペレーションでは役立ちます。
ここまでは、即戦力となるためにこれまで培ったスキルや経験を活用する場合です。一方で、現状不動産ファンドの環境は良好であるため、ファンドによってはポテンシャルベースで専門知識や経験が浅い方を雇用するケースも見られます。オペレーションはエクセルなどを活用したデータ分析や数値分析が多く介在します。
ポテンシャル採用の場合は、このようなデータ分析や計算のスキルが評価されるでしょう。たとえば大学の研究で複雑かつ膨大なデータを分析した経験などがあれば、ポテンシャル採用においては評価される余地があるでしょうか。
オペレーション業務はファンドビジネスの専門性を培ううえで有効
今回は不動産ファンドのオペレーション業務について紹介しました。ひと口にファンドビジネスといってもさまざまな業務がありますが、オペレーション業務はそのなかでもファンドビジネスとしての専門性を培ううえで魅力的な仕事のひとつです。
SPCを活用した運用は不動産に限ったものではないため、オペレーションを理解しておけばほかのタイプの投資ファンドへの転職にチャレンジする際にも役立つ可能性があります。ファンドにおける会計や経理、税務などの経験を培うことができるため、不動産ファンドの中でも特に高い専門性を身に着けられる業務のひとつです。
即戦力として転職するのであれば、金融もしくは経理・会計の経験が求められますが、若手であれば、足元は未経験のポテンシャルベースでの採用も見られます。今回の記事を参考に、不動産ファンドのオペレーションに興味を持った方は、ぜひチャレンジしてみてください。
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