SaaS営業の新任マージャーに就任された最初のミッションとして、自身に課せられた数字をいかに達成するか、その対策を練り始めることが挙げられます。一方で、よくSaaS企業に転職されたご人材より、数字を達成するために「どのようにすれば効果的にKPIを設定できるか」といった悩みをいただくことがあります。
そこで、今回の記事では、様々な企業のマネージャー~CXOクラスからお聞きした情報なども参考に、新任マージャーが抑えるべきKPIの設定方法についてお伝えします。
【目次】
SaaS営業におけるKPIの設定について
そもそも、
KPIとはKey Performance Indicatorsの略。日本語に訳すと「重要業績評価指標」です。
KGIとはKey Goal Indicatorの略。日本語では「重要目標達成指標」です。
KGIが最終目標であるのに対し、KPIは目標を達成するための中間目標といったイメージです。
例えばご自身がとある外資系のSaaSベンチャー企業へ転職し、新任営業マネージャーに就任したと仮定します。US本社から日本支社へ、今年度は「売上を前年比20%アップさせる」というKGIが神のお告げのように降ってきたとします。
新年度が始まり営業活動をスタートさせるにあたり、そのKGIを達成するために着任早々の営業マネージャーであるあなたは具体的にどうしたらいいか目標達成のプランニングを試みます。
さまざまな角度から過去のデータを見つめ、担当営業の活動量、商談件数、成約率などを分析し、商材の特性をキャッチアップしながらKGI達成の要素を分解したところ、
①成約率を上げる余地があること
②リピーターの数を増やせる可能性があること
上記2点に気づきます。そしてその2つの目標を達成することが「売上を前年比20%アップさせる」ことにに不可欠である、という仮説を立てたとします。
その立てた仮説に対し、
①’「成約率を15%アップさせる」
②‘「リピーターの数を2倍にする」
という数値目標を充てると結果的に「売上が前年比20%アップ」できるとした場合、「成約率を15%アップ」、「リピーターを2倍にする」という数値目標がKPIとなります。
KPIを設定するときの注意点
定量的なKPIを設定
KPIとは指標です。つまり、「具体的な数値」である必要があります。
KPIを設定したいときは数字以外の目標はKPIではないことを留意する必要があります。
これはSaaSに限りませんが、営業目標を達成するためには、常に具体的な数字を意識し、「訪問件数」や、「電話の件数」、「新規開拓件数」、「イベントからの商談発生率」、「どんなに遅くとも12時間以内には一時回答を実施」など、「数」や「時間」という誰もが理解できる共通言語で会話することを心がけましょう。
KPIを認識のズレが生じる可能性がある主観的な表現で設定するのは避けましょう。これは「指標」ではありません。
・営業マネージャーが「なんとなく雰囲気やさじ加減」で考えたKPI
・「できるだけ」昨年より多い商談発掘を心がける
・「可能な限り早く」イベント参加者のフォローを行う
上記のような表現は、主観的で営業マネージャーと担当営業の意思疎通を妨げるものであり、属人的な情報になりがちです。上記のような表現を使われると、一気に解読が不能になり、正しいアドバイスもできず、関係者皆が不幸になります。
営業は数字を立てることが仕事です。数字に基づいた定量的、具体的、客観的なデータで話せる必要があります。
数字は世界共通です。あなたが在籍している会社が内資系企業であろうと、外資系企業であろうと、誰もがみな数字をもとに会話ができれば、意思の疎通は容易に可能です。相手を納得させる際も、自分が理解する際にも数字であればシンプルに情報が伝わります。
営業が現実的に達成可能かつ合理的なKPIを立てる
具体的な目標数値を営業マネージャーが設定したとして、そのKPIが「現実的なKPIになり得るか」という点も重要です。
気合や根性で営業をすることは時には必要です。例えば今期見込んでいた成約確度が高い案件が不測の事態で失注してしまい、バックアップの商談もない状況に直面してしまったとしましょう。
すでにマネジメントに成約確実、とレポートしており、US本社にも問題なく受注できると伝わっている案件が通常では考えられない事情で失注した場合、何とかしてその穴を埋めるための可能性を探し出し、それこそ数字を絞り出すための気合や根性が求められるかもしれません。
ただし、こうしたケースは一般的ではありません。日々の営業活動を機能させるためには、下記のようなKPIを設定する場合、過去の行動履歴や、担当営業のキャパシティ、現在進めている案件数、家庭の事情などを含め、柔軟に設定していく必要があるでしょう。
・1週間の活動件数:XX
・初回訪問後のフォローコールまでのリードタイム:XX
・新規商談発掘件数:XX
・失注商談からの再案件化数:XX
・成約率の向上:XX
また、営業担当者へ一律にKPIを設定する必要があったとしても、それが義務なのか、努力目標かによっても全く異なります。そもそもKGI達成のために活動量が圧倒的に少ないと客観的に判断できるチーム状況であれば、営業全員が今の2倍の活動量を達成することは必要かつ合理的と言えるでしょう。
自走できる営業はどんどん案件クローズのために積極的に活動しますし、促されないと行動を起こさなかったり、慣れるまで時間がかかる営業もいます。KPIを設定する際、とりあえずの形ばかりのKPIになり、緊張感もなく誰も気に留めないようなものであっては意味がありません。マネジメントしている担当営業のチーム状況や会社の雰囲気を踏まえた上で、KGIが達成できるような意義のあるKPIを設定しましょう。
SaaS営業のモデルに即したKPIを設定
SaaS営業であれば、Churn Rate(解約率)やRenewal Rate(更新率)、ACV(Annual Contract Value)、その他特有のワードが登場します。SaaSのビジネスモデルに関連のあるKPIを設定し、そのKPIを達成するには具体的にどうすべきかを落とし込み、KPIを設定していきましょう。
例えば、解約率(Churn Rate)を改善する場合、過去の解約した契約の特徴を分析します。その結果、解約したお客様には営業担当者が平均して以下のような行動をとっていたとします。
①2ヶ月に1度しか訪問していなかった
②利用状況の確認をしていなかった
③契約しているソリューション以外のサービスを全く紹介しなかった
④活用事例の紹介や活用促進の情報提供は聞かれた時のみ実施
この場合、
①最低でも1ヶ月に1回は訪問
②定期的(2週間に1回)な利用状況の確認
③新しいサービスは発表されて1週間以内にご案内
④3ヶ月に1回は事例紹介
など、解約率を抑えるためにSaaSのビジネスモデルに即した適切なKPIを設定することが重要です。
KPIの達成度を可視化しコーチングに活かす
KPIは設定することが目的ではありません。繰り返しますがKGIを達成するための中間目標です。
担当営業に一律か各個人に適したKPIを設定したら終わりではありません。ここからが始まりです。設定したKPIがクリアできるかどうか、設定したKPIがKGI達成につながりそうか可視化し、定点観測をしましょう。つまり、PDCAを回します。
KPIはKGI達成のためにクリアすべき指標であり、営業目標を達成する上で足りない要素です。KPIを達成するよう営業メンバーをコーチングすることが営業チームの強化につながり、結果的にKGI達成につながります。
したがって営業マネージャーは、担当営業がKPIを達成できるような活動を行っているか、マインドセットが備わっているかをフォローするべきです。もしそうでないならば、営業マネージャーの出番です。チームの成長はマネージャーとしての結果に直結しますので、KPIを意識しながらKGI達成にも直結する活動が自然にできるチームを作り上げるべきです。
なぜ設定したKPIを達成できなかったか、達成するためには自身の活動をどのように改善すべきなのか、原因と結果を定期的に分析し、次のアクションにつなげる絶好の機会と捉え、活かしていきましょう。
SaaS営業のKPIの評価項目
一般的な営業のKPI
SaaS営業に必要なKPIの項目について触れていきます。まずは営業として一般的なKPIはSaaS営業でも同様に評価項目となります。
・訪問件数
・新規顧客の獲得数
・新規顧客からの売上
・成約率
・既存顧客からのアップセル
例えば上記のKPIは基本的な項目のため、いつでも確認できるようレポートやダッシュボードの一番見える位置に固定し、自分の行動を振り返れるよう最低でも1日1回は目にするようにしましょう。成約率など毎日変化する数字ではなくとも、自分の現状を把握するため、目に触れる状況にしておくことで日頃の行動の変化につながります。
KPI達成のためには量を取るか質を取るべきか
毎年20−30%の成長を10年以上続けているSaaSベンダーの役員が以前このようなことを言っていました。「SaaS営業で数字を上げるために必要なのは、活動の量か質かと聞かれたら、誰がなんと言おうと量を優先する。これは経験からいって間違いない。」
数々のSaaS営業で結果を出す営業やマネージャーを育ててきた方が言うセリフには説得力がありました。これはもちろん質を否定しているわけではなく、まずはたくさん活動、つまり経験を積んでお客さんと話し、小さな成功体験を積み上げていくことが数字への近道だという意味です。
学んだことを試し、体得し自分のものにし、失敗も成功も繰り返し、経験がないなら量でカバーしていく。60点のアウトプットでいいから活動量とスピードを意識し手数を出し、とにかく量をこなしていく。それは結果的に質の向上につながっていくという教えでした。
また、KPIが量(訪問件数、新規顧客への提案数、コール件数)であると、行動の目安になりやすく、量をこなすと知見が貯まり、活動のバリエーションも増えてきます。KPIは定量的でわかりやすく、成長につなげるためにも前向きな目標設定をすることの重要性を学びました。
SaaS営業特有のKPI
上記に加え、SaaS営業に登場するKPIはというと、例えば以下の項目があります。
・解約率(Churn Rate)
・更新率(Renewal Rate)
特に更新率はSaaS営業によっては欠かすことができないKPIです。SaaS営業モデルは顧客から契約を獲得し、サブスクリプションという形で継続してサービス利用料をお支払いいただきます。
メリットとしては契約をしていただく限り、利用料が売上としてみなされるため、目標数値の計算が立ちやすい点があります。また、活用促進をすることで追加オプションやより多くの契約金をお支払いいただけるチャンスがあります。
SaaSであれば基本的に年間契約を結ぶサービスが多いですが、その場合、1年間は売上高の見込みが保証されます。ただし、毎年毎年契約を更新していただき、サービスを継続利用していただくことが大きな目標となります。
大口のお客様であればカスタマーサクセスと呼ばれる、契約後のお客様のフォローを行う専任メンバーが担当に付くケースもあります。定期的に訪問し、活用促進やQ&A対応を行い利用状況を確認し、サービスへの不満や要望があれば開発部門に繋いだり、マネジメント層でリレーションを強化するような場を設け、使い続けていただくために価値を提供し、関係を強化していきます。
仮に100の売上のうち、50を1社の大口の顧客の契約が占めている場合、無事サービスを更新していただけるかは死活問題になります。そのようなリスクを避けるため、重点顧客とそうでない顧客を分けることは重要でありつつも、小さく契約した顧客も大きく育てていきながら、安定したマネジメントを意識しましょう。
SaaS営業マネージャーは正しいKPIを設定し数字で考える
本記事ではSaaS営業マネージャーに必要なKPIの立て方、注意点、評価項目について触れました。マネージャーになったらまずはSaaSのビジネスモデルの特徴を踏まえ、KGIに対する正しいKPIを定量的に設定をすることを意識するべきでしょうか。
その後、KPIを立てたらその達成度合いを可視化し、担当メンバーの意識改善や行動改善をする機会と捉え、チーム力を高めていくことが重要です。
KPIの達成が見えてくるとKGI達成にもつながりますので、活動量を維持しつつ、SaaS営業のマネージャーとして結果を出すことができるようになります。常に基本を意識しながら、チームメンバーを盛り立て、KGI達成に突き進んでいってください。
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>SaaS系企業と営業に関する記事
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SaaS企業とSIerの営業職の違い【仕事内容から求められるスキルまで】
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