近年、聞くことが多くなっている「SaaS(Software as a Service)」。国内SaaS業界の市場規模は、2023年には8,200億円に達するとの予測も出ています。
一方、IT業界で基幹産業として認知されているSIer(システムインテグレーター)も、恒常的に求人が多い産業となります。
ITが色濃く絡むということでは、どちらも同じですが、営業職としての働き方や得られるものには違いがあります。そこで、今回は、SaaS営業と、SIer営業の違いについて、業務内容や得られる経験について、比較しながら見ていきます。
【目次】
- SaaS企業の営業の仕事内容とSIerの営業の仕事内容の違い
- SIerの営業経験者がSaaSの営業に転職して「活かせるスキル・経験」と「ありがちな失敗」
- SaaS企業の営業経験者がSIerの営業に転職して活かせるスキル・経験と感じるギャップ
- まとめ-営業のスタイルによって身につく能力-
SaaS企業の営業の仕事内容とSIerの営業の仕事内容の違い
ビジネスモデルの違いから、成果を出すポイントはそれぞれ異なります。
SaaS営業の「営業スタイル/業務内容」
■SaaS企業の特徴
まずはSaaS企業そのものの特徴について解説します。
近年スタートアップも多く、企業数がどんどん増えていて、資金調達が盛んに行われていることからみても、まさにこれから伸びる、あるいは伸ばしたい企業が多く、事業成長を積極的に行っている業態であるといえます。
既に世間で浸透しているところしては、Googleの「G suite」、Amazonの「AWS」、ビデオ会議システムの「Zoom」、microsoftの「Office365」、営業支援システムの「Salesforce」などです。
SaaSとは、その名の通り、ソフトウェアを、サブスクリプション(継続課金モデル)として、提供する形態となります。
■「売るだけ」ではなく顧客満足度の追求
次に、営業スタイルと業務内容について確認していきます。
まず、そのビジネスモデルから「売るだけ」を考えて営業活動をしていては、パフォーマンスを上げることは難しいという点です。
具体的に述べますと、サービスを解約されると、売り上げが消滅するので、いかに継続して使用してもらうかが重要なのです。そのため、使用していただいてからの顧客満足度を高めることが、とても重要になります。
■「顧客の声」を開発サイドに
営業としては、顧客の使用を確認しながら、適切な使用を促すための対応、場合によってはクレームに対する対応を行います。
SaaS企業での営業は、プロダクトそのものの価値を高める働きかけを行うことが重要です。企業のサイズにもよりますが、スタートアップに近い状態であれば、プロダクトを一緒に開発する、という感覚も得られます。
■売り上げ拡大への道
営業として、成果を上げるためには、金額(単価)を上げる、販売数量を増やす、という道がありますが、SaaS営業に限って言えば、大型案件で受注金額を大幅に上げる、ということは不可能に近いです。逆に言えば、いきなり大きな予算が降りかかってくる、ということもありません。
また、個々の顧客に合わせて、大きくカスタマイズすることも、基本的には無いと言えるでしょう。
そのため、自社サービスにおいて、解決が可能な顧客へのニーズに対して、いかに営業するか、が重要であると言えます。
■SaaS企業のバイブル「ザ・モデル」
SaaSの営業部門やマーケティング部門、カスタマーサクセス部門において、「ザ・モデル」という書籍が広く読まれており、その書籍に書かれているフレームワークや業務の進め方を参考にしていることが多いので、確認しておくとイメージがつきます。
詳細は書籍を確認いただきたいのですが、ポイントは下記となります。
1.商談フェーズの明確化による営業生産性の高水準平準化
2.営業リソースを効果的・効率的に活用するための分業制
3マーケティングとの連動性を高め、受注確立を上げるためのリードマネジメント
4.顧客満足度を高め解約率を下げるためのカスタマーサクセス業務
既に、インサイドセールス部隊の組成、B to Bマーケティング体制の構築、カスタマーサクセス部隊の組成などを行っているSaaS企業も多いのが現状で、これらの取り組みはすべて、「ザ・モデル」という書籍の考え方を中心に、急速に広まっています。
上記のことから、SaaS企業においては、営業職もよりオペレーショナルな動き方が求められることになるでしょうか。
SIer営業の「営業スタイル/業務内容」
■SIerとは
一口にSIer(システムインテグレーター)と言っても、顧客に提供する業務は上流から下流にわたるまで多岐にわたります。
すなわち、顧客の経営・事業的観点からの課題を、ITを使って解決するために、ありとあらゆる顧客への価値提供を行っていると言えるでしょう。
顧客の複雑、かつ複層的な課題ありきの営業といっても過言ではないでしょう。
■2つのSIer営業
SIerには大きく分けて「アカウント営業」と「ソリューション営業」があります。
「アカウント営業」は、特定の大口顧客を担当し、その顧客の経営や事業の課題に対して自社のありとあらゆる商材を使って、提案を課題解決を主導します。提案数や顧客数というより、プロジェクト規模を追いかけます。
常時、顧客にコンタクトをしつつ、コンタクトを広げ、課題提起を行っていき、本格的に提案の段階になると、SE等を含めてプロジェクトチームを組成し、提案内容を詰め、プレゼンテーションを行います。プロジェクト稼働後は、状況を確認しつつ、各調整を行い、納品までフォローします。
「ソリューション営業」とは、顧客問わず、特定のソリューションを広く提案し、当該ソリューションの受注数を伸ばします。SIerの営業でも「アカウント営業」に比べ、SaaS営業と近いところがあります。
このように、SIerでの営業は、大きく2種類存在し、目標や業務内容に違いがあります。
SIerの営業経験者がSaaSの営業に転職して「活かせるスキル・経験」と「ありがちな失敗」
SIer企業の営業経験者が、SaaS企業の営業に転職する場合の、いかせるスキルと留意点をお伝えします。
SIerからSaaS企業への転職(パターン別)
■SIerのアカウント営業からSaaS営業へ
特定大口顧客の関係構築から課題提起を主任務にしていたSIerのアカウント営業が、SaaS営業に転職すると、戸惑いを感じるでしょう。
スコアリングされたリード、あるいは商談にアサインされ、KPIも管理され、スピードが求められるからです。
SIerでは、引き継がれた顧客、あるいはプロジェクトから参画し、そのマネジメントを行うことで、業績が確保できていたかもしれませんが、SaaSでは小さな金額を安定的に積み重ねるために、「効率」を追いかけることが求められるからです。
■SIerのソリューション営業からSaaS営業へ
SIerのアカウント営業からSaaS営業に比べ、SIerのソリューション営業からSaaS営業への転職は、経験としていかせる内容が多いはずです。
一方、SaaS企業の方が、営業活動のスピード感が速い場合があり、その点は注意が必要です。
■SIerからSaaSの転職において感じるギャップ
顧客ごとのPDCAを求められるのがSIerであり、マーケットに対してのPDCAを求められるのがSaaSと言えます。
例えば、SIerからSaaSに転職して、もっと顧客単価を上げたいと思って、顧客内のあらゆる課題を掘り起こしても、ほとんど解決の手段が無い場合があります。
SaaS企業の営業経験者がSIerの営業に転職して「活かせるスキル・経験」と「感じるギャップ」
SaaS企業の営業経験者が、SIerの営業に転職する場合の、いかせるスキルと留意点をお伝えします。
SaaS企業からSIerへの転職(パターン別)
■SaaS営業からSIerのアカウント営業へ
SaaS企業でインサイドセールス等、リード(案件)の前工程に集中して経験を積んだ方は、SIer企業での「アカウント営業」に着任すると戸惑いを感じるでしょう。
商談になるものを見極め、商談量をこなすというSaaS企業での営業スタイルは、1顧客内で常に人脈を形成し、課題提起を行うことになる「アカウント営業」と大きなギャップがある、といえます。
もし、そのようなパターンでの転職をお考えの方は、求められる役割の違いと、SIerでの必要要素(関係構築力と課題形成力)を意識しておいた方がいいでしょう。
■SaaS営業からSIerのソリューション営業へ
SaaS企業での営業経験は、SIerでの「ソリューション営業」と親和性が高いでしょう。特定のソリューションに対して、拡販を行うということは、SaaS企業も同じだからです。
また、SIerも、大口案件に頼るのではなく、安定的な収益を持っておきたい、という傾向があり、そのような企業に転職する場合は、SaaSでの経験をいかすことができます。
■SaaSからSIerの転職において感じるギャップ
SaaS企業とSIer企業の、顧客へのサービスの大きな違いは、カスタマイズができるかどうか、カスタマイズ自体がフィーとして転換できるかどうかになります。
カスタマイズ前提のSIer企業では、ひとつのプロジェクトにかかる工数や期間は大きなものになります。そのため、その行為自体にフィーが発生することが前提になります。
SaaS企業では、原則、サービスの導入自体に工数はかけずに、継続使用を促す、ということになります。
特にSIerのアカウント営業では、長期化する営業プロセス、営業以外のプロジェクトフォロー業務に工数が割かれる可能性があります。プロジェクトのフォロー業務等で、できるだけ次の案件に仕掛けを行うスタイルです。
このような営業業務はSaaS企業で分業体制で業務を行っていた方にとっては、かなりギャップに感じるでしょう。スタイルの違いを理解せず、SIer企業で、SaaS企業での営業の進め方に固執するのは賢明ではありません。
まとめ-営業のスタイルによって身につく能力-
課題重視型営業
課題重視型営業とは、顧客の「大きな課題」を扱う、大型案件の獲得営業ということができます。SIerの「アカウント営業」がまさにそれに該当します。
このスタイルの営業によって身につく能力・スキルは、まさに課題形成力とソリューション展開力です。大きな課題をまとめ、解決策に展開する力が問われますので、大型案件を受注し続ける営業というのは、このような能力に長けています。
一方、行動量を発揮して面でマーケットを手広く当たる、という経験やスキルは身に付かないことが多いのです。
行動重視型営業
行動重視型営業とは、マーケットに対する面での拡販を狙い、取引社数の増加を主に目標とする営業です。SaaS営業は、まさにこのスタイルです。
当然、顧客課題の理解は求められますが、自社のソリューションに関連する課題理解力のみ、限定的に発達します。商談数、受注数といった基本的なKPI管理能力も求められるので、マネジメント能力も身に付きやすいと言えるでしょう。
一方、大型案件の受注プロセスをコントロールする経験は無いので、課題重視型営業のようなスキルは見劣りすることが多いでしょう。
自分の強味を把握し、キャリアを検討する
自分の強味はどういうスタイルなのか、経験上の強味について、整理することが望ましいでしょう。今既に発揮できている能力は、課題重視型営業で発揮される能力か、行動重視型営業で発揮される能力か、今後めざすべき営業スタイルの実現を考えた際、いかせる能力は何で、身に着けるべき能力は何かを整理することが、営業としてキャリアを考えるうえで、とても重要なことです。ぜひ一度考えてみてください。
参考:
「今スタートアップに転職するなら、カスタマーサクセスが面白い」アペルザ取締役 田中大介様インタビュー
https://www.axc.ne.jp/media/companyinterview/Aperza
SaaS系企業の営業職に求められるスキル【企業規模別】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/saas_sales_skill
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今回の記事では、SaaS企業とSIerの営業職の違いについてご紹介しました。
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