SAP社が提供するERP製品の導入検討・要件定義・構築等に携わるSAPコンサルタント。その役割は、企業が経営・業務上で抱える課題を分析しSAPという手段を用いて解決することであり、実務においては高度なコンサルテーションスキル、経営・業務およびSAP製品の専門知識が求められます。そんなSAPコンサルタントとしての専門性を証明する、SAP社公認の資格が「SAP認定コンサルタント資格」です。
SAP認定コンサルタント資格は、転職やフリーランスの案件探しでSAPの専門知識を有していることをアピールできるため、SAPでのキャリア形成を考えられている方には取得を推奨します。しかしながら、SAP認定コンサルタント資格試験はSAPに関する高度な専門知識が問われるため、未経験者が簡単に合格できるようなものではありません。
そこで今回の記事では、SAP認定コンサルタント資格取得を目指されている方向けに、実際にSAPコンサルタントとして働かれている方々から伺った、「資格取得で役立った本」について複数ご紹介いたします。
【目次】
SAP認定コンサルタント資格取得のために必要な要素
SAP認定コンサルタント資格の試験では、SAPの共通的知識や、各モジュールのカスタマイズ知識(どんなパラメータ設定をした時、どういうシステムの動きになるか)、標準で想定している動作シナリオを把握しているか、といった内容が問われます。こういった試験問題は、SAP仕様のベースとなるIT知識やユーザの業務知識がなければそもそも何を問われているのかがわからないといった事態に陥りかねませんので、SAPのことを勉強する前にまずは前提となるITや業務の知識を固めることから始められる方が多い印象です。
次章以降、SAP認定コンサルタント資格取得にあたってお勧めとなる書籍を、IT知識編、業務知識編、SAP知識編の3つに分けてご紹介いたします。
資格取得の勉強の中でどういった観点で役に立ったかについても併せてご紹介します。
SAP資格取得向けお勧め書籍:IT知識編
本章では、SAPのデザインを理解するうえで前提となるITの基礎知識を固めるにあたって役に立つ書籍をご紹介します。
キタミ式イラストIT塾 基本情報技術者:きたみりゅうじ著
そもそもSAP製品をはじめとしたERPパッケージを理解するためにはベースとなるIT知識が必須となります。IT知識の基礎固めとしては基本情報技術者試験の参考書が難易度や網羅性の観点で適切であるとの声が多い印象です。そのような中、ITの基礎固めの観点では本書をお勧めに挙げる方が多く、情報系以外の学部から新卒入社された方や、IT専門職以外からSAPコンサルタントに転身された方にとっては非常に役に立つものではないでしょうか。
なお、基本情報技術者試験とは、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が主催する、ITコンサルタントやSEとしての登竜門となる資格試験であり、ITの広く全般的な基礎知識が問われるものとなります。実際、SAP導入を取り扱うコンサルティングファームやSIerでは当資格の取得が必須となっているところも多いとのことです。
しかし、ITの世界では和製英語や独特な言い回しが多く、IT自体が目に見えない概念となりますので、基礎知識と言えど初心者にとってはかなりとっつき辛く基礎の習得に至るまでのハードルが非常に高いとの声もよく聞きます。
本書はあくまで試験対策のための参考書にはなりますが、難解なIT技術をマンガや例えを用いたイラストを用いてわかりやすく解説されており、IT未経験者にとっても理解しやすい良書とのことです。使い方としては、すべてを一通りおさえることに越したことはありませんが、SAP認定コンサルタント資格取得の観点で言うならば、アルゴリズムとプログラミング、システム構成(特に3層クライアントサーバシステム関連)、ソフトウェア、データベース、ストラテジ系全般(システム戦略、経営戦略、企業と法務)あたりだけでも最低限おさえておけば基礎知識としては十分足りるとのことです。
SAP資格取得向けお勧め書籍:業務知識編
本節では、SAPのデザインを理解するうえで前提となる、業務知識を習得するうえで役に立つ書籍をご紹介します。
図解でよくわかるSEのための業務知識:克元亮著
SAPが取り扱う、会計・SCM(購買・販売・製造)・人事といった基幹業務の概要をおさえるうえでは本書をお勧めに挙げる方が多いです。ユーザの実務を経験したことがないSAPコンサルタントにとっては、業務理解の足掛かりとなる書籍と言えるでしょう。
SAPの機能やカスタマイズは、ユーザ業務を実現させるためのものであることから、何のために存在する機能で何故そのような処理の流れになるのか、どういった目的でそのパラメータが必要かを理解するためには、会計・SCM・人事といったユーザ業務を理解している必要があります。
しかし、多くのSAPコンサルタントは新卒からコンサルティングファームに入社されていたり、SEやプログラマーから転身されていたりする方となるので、ユーザの実務を経験したことがなく、なかなかイメージしづらいとの声が多い印象です。本書ではそんなユーザ業務をIT技術者目線で簡潔に解説されていることから、ユーザ実務を経験したことがないコンサルタントにとっては理解しやすい良書と言えるでしょう。使い方としては、まずはこの本を足掛かりにしたうえで、SAP認定コンサルタント資格の勉強を進め、その中でコンサルタント自身が理解を深めたい業務領域があれば、専門書でさらに知識を深めていくという使い方が望ましいとのことです。(例えば、SCMで輸出入に苦手意識があると感じたら貿易実務の解説書に広げていくなど)
グロービスMBAアカウンティング:グロービス大学院著
SAPコンサルタントにとって会計の知識は、会計モジュールはもちろんのこと、SCMや人事モジュールを扱うコンサルタントにとっても必須の知識となります。実際、SAP導入を扱うコンサルティングファームの中には、担当モジュール関係なく全コンサルタントに日商簿記2級の取得が義務付けられているところもあるとのことですので、やはり重要視されていると言えます。しかしながら、SAP導入においては簿記の細かい手続きというよりはむしろ経営目線で会計業務をとらえることが重要となります。全てのSAPコンサルタントが基本的な会計知識を経営目線で習得するうえでは、本書をお勧めされる方が多いようです。
そもそもERPパッケージの目的は、基幹業務を1つのシステムに統合し、企業内で発生する経営資源すなわち「ヒト・モノ・カネ」に関わるあらゆるデータを一元管理することで、業務効率化、ガバナンス強化、経営・事業における投資判断の最適化につなげることとなります。こういったことから、SCMや人事といった他のモジュールで発生したデータは必ずと言っていいほど最終的には会計モジュールにつながり、制度決算や売上・コスト分析のためのインプットとして活用されるものとなりますので、他モジュールの各機能もこのために最適化されたデザインとなっております。従って、仕訳や原価計算を理解しておくことは、会計以外のモジュールにおいても各機能がなぜそのようにデザインされているか、連携先の後続処理で何を重視したデータベース構造となっているかといった側面から理解を深めることができるようになります。
従って、SAPコンサルタントにとっての会計知識は、経営目線から各種財務データの意味合いをとらえ、SCM・人事領域からのデータのつながりを理解することの方が重要となりますが、その一方で簿記の勉強は仕訳や原価計算の細かい手続きの暗記にフォーカスしがちです。そこで多くの方がお勧めされるのが本書となります。本書は経営や投資の判断を行う方が会計知識を大局的にとらえることを目的としております。手続きにフォーカスされがちな会計処理を、実際の企業の財務諸表や経営指標の実例を用いて、各財務データがそもそもどのような経営判断のために使われているか、どのように分析されているのかといった観点で説明されており、経営目線から会計の大枠をとらえるにあたっては非常にわかりやすい良書と言えるでしょう。
SAP認定コンサルタント資格取得においても、モジュールに関わらず経営管理の視点からSAPのそもそもの目的やデザインの背景を理解するためにも、一通り目を通しておくのが良いと言えるでしょう。
SAP資格取得向けお勧め書籍:SAP知識編
SAP認定コンサルタント資格取得レベルの知識を市販の書籍で習得するのはかなり難しいです。市販で出回っているものはあくまで入門レベルであり、その先のレベルとなるとSAP社やベンダ各社が提供するトレーニングを受けるなり、SAP導入プロジェクトで実務を経験することが必要となります。SAPを動作できる環境があるならば、実際に自分でエンティティ(=会社)を設定し一連の業務処理を流してみるのも良いでしょう。こういったことを踏まえ、SAP認定コンサルタント取得に役立つ書籍をいくつかご紹介します。
図解入門 よくわかる最新SAPの導入と運用:村上均 他著
これからSAPについて勉強される方向けにモジュール問わずSAPの全体像を理解するうえで役に立つ書籍としては、本書をお勧めとして挙げられる方が多いです。本書では一通りのモジュールについて触れられておりますし、トランザクションコードやメニュー、権限、組織構造、自動仕訳など、SAPの特徴を理解するうえで重要となるコンセプトやデザインについて、あくまで入門レベルではありますが一通り触れられているとのことです。
この書籍を足掛かりとして、SAPのトレーニングを受講したり、実際に環境を操作してみることでよりSAPの知識を深めていくことが有効かと思われます。
First Steps in SAP S/4HANA シリーズ:Espresso Tutorials GmbH版
SAPの最新バージョンであるS/4 HANAの業務モジュールごとの知識を体系的に習得できる書籍はなかなか少ないのですが、強いて言うならば本書が該当するとのことです。
First Steps in SAP S/4 HANAシリーズは、業務モジュールやテクノロジーごとにシリーズとしてわかれており、「4.1節」で説明した入門書よりは深く突っ込んだ内容が解説されております。実際の画面のスクリーンショットも掲載されており、なるべくわかりやすく理解できるよう工夫がこらされているとのことです。
しかしながら、最新バージョンであるS/4 HANA用の解説書は英語版しか存在しません。英語が苦手な方は、旧バージョンであるR/3用のものであれば日本語のものも出回っておりますため、そちらを参考として使用することも可能かと思います。
とは言え、この書籍に書かれている内容だけではSAP認定コンサルタント資格取得に必要な知識レベルに到達することは難しいとのことですので、やはりトレーニングや実務経験、サンドボックスでの実機操作を通じて理解を深めていくことの方がお勧めと言えます。
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>SAPに関する記事
【20代・30代・40代別】SAPコンサルは今、キャリアチェンジすべきか否か?
https://www.axc.ne.jp/media/change-jobs-knowhow/sapcareer
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今回の記事では、SAP認定コンサルタント資格取得において役立つ書籍を紹介してきました。資格試験を突破するために一番重要視すべきなのは、やはり過去問演習となります。しかしながら、過去問で問われる内容を理解するためにはそもそものSAPの基礎知識を固める必要がありますし、それは机上の勉強だけでなく、トレーニングやプロジェクト実務などで実機に触れることが、理解を深めるうえで最も近道となると思われます。
また、SAPの勉強を始める前に、そもそものITや業務領域(特に会計)の基礎知識が備わっていなければ、SAPのデザインやパラメータ設定を行った結果の動作が全く理解できないといった事態に陥りかねません。これについては、ここまでで解説してきた書籍を通じて、個々人のバックグラウンドに応じて不足している知識をキャッチアップいただくことが最優先事項になるかと思われます。
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