SIerやコンサルティングファームでSEやPM、ITコンサルを経験され、事業会社の情報システム部門などIT企画職への転職を目指される方から、「入社後年収1,000万円の壁を超えることは可能なのか」「超えるためには入社前後でどのようなスキル・経験を身に付ければよいのか」とご質問いただく機会も多いです。
そこで今回は、SEやPM経験者から、事業会社の情シス部門や業務推進部の部長職クラスを目指す場合、どのようなスキル・経験を身に付けるべきかを、実際に大手事業会社の情シス・業務推進部門長の方々からお聞きした情報なども参考にお伝えします。
【目次】
- 副部長レベルでは年収アラウンド1000万付近か手前、部長ポジションではコンスタントに1000万超か
- 情シス部門の部長クラスに向けて経験を積んでおきたい領域のマスト度合い(5領域)
- SCM ★★★☆☆
- ロジスティックス ★★★☆☆
- 基幹系 ★★★★★
- DCM ★★★★☆
- バックオフィス系 ★★☆☆☆
- システム基盤・インフラ ★☆☆☆☆
副部長レベルでは年収アラウンド1000万付近か手前、部長ポジションではコンスタントに1000万超か
前提として、それなりの規模感の大手事業会社(東証一部、年商1,000億以上クラス)の場合、スタッフ部門の課長級で年収1000万まで到達するのは少し難しいかもしれませんが、副部長レベルではアラウンド1000万付近か手前、部長ポジションではコンスタントに1000万超という感じでしょうか。
担当部門のミッションや責任の大きさによっては、準執行役員レベルの待遇も場合によってはあり得ます。会社の業績によっての振れ幅はあるかと思いますが、このような大手事業会社の組織の中で、どのようにキャリアを積み上げていくか、というナビケーションをさせて頂きたいと思います。
部長級を目指すのであれば、ゼネラリストとしての一般的なマネジメントスキルも必要でしょう。しかしながら、そのような漠然とした内容は他のキャリア志向向けの他記事に任せるとします。
ここでは、SEやPMとして忙しく過ごすなかで、DX推進を担うような業務推進部や情シス部門の各セクションの部長クラスという将来へ向けた準備をどう効率よく進めるか、どう上手くプロジェクトに参加する機会を選択し評価ポイントとなるキャリアや経験値、知見や知識を積み上げていくか、にスポットをあてて具体的に事業会社の中で活躍していくイメージを描いていきたいと思います。経験すべきキャリアパス、その中で経験しておきたいこと等々をご紹介していきます。
情シス部門の部長クラスに向けて経験を積んでおきたい領域のマスト度合い(5領域)
デジタル時代を本格的に迎えた今、IT活用は事業会社のどんな部門のどんな仕事の業務であっても、切っても切り離せない普遍的なモノになってきました。ここでは、一般的な事業会社の業務領域を区切り、そこで活用されているITシステムを具体的に挙げてみました。
各領域別に、部長クラスを目指すに当たって経験を積んでおきたい領域、経験があると良い領域のマスト度合いレベルを星の個数を5段階で評価してみました。見出しと星の数も記載していますので、必要な部分だけ読み進めていただいても大丈夫かと思います。
【情シス部門の部長クラスに向けて経験を積んでおきたい領域のマスト度合い】
①SCM ★★★☆☆
②ロジスティックス ★★★☆☆
③基幹系 ★★★★★
④DCM ★★★★☆
⑤バックオフィス系 ★★☆☆☆
⑥システム基盤・インフラ ★☆☆☆☆
モノづくり系の事業会社か、流通系により近い事業会社かでSCMとDCMの星の数が別れそうなところですが、昨今のIT業界事情を考えますとGAFAが席巻する現状からもエンドユーザーへの接点が多い領域であるDCMに★をひとつ多く載せておきました。
では情シス部門の部長クラスに向けて経験を積んでおきたい領域のマスト度合いのそれぞれの詳細について解説を進めていきます。
SCM ★★★☆☆
モノの作り場である工場やその生産管理する部門には製造工程の可視化による工程管理や納期管理、工場自体のキャパシティ管理など製造のコスト管理にITシステムが存在します。
製品の製造には、原材料や部品の調達が必要ですのでその在庫管理や購買管理のシステムも必要でしょう。設計図も必要ですので、ヘッドクォーターとなる本社の企画部門での設計ツールやCADとの連携もマストです。
このような、いわゆるSCM(サプライチェーンマネジメント)の領域の経験も欲しいところです。マストではないですが、ベターではあります。
ロジスティックス ★★★☆☆
工場で仕上げられた製品に、個別包装やタグ付け、一定数量での梱包といった流通加工を行うことで実際に企業活動として販売できる商品となります。またこれらの商品を販売するまで工場においておくこともできませんので、倉庫に保管することになります。注文があれば、注文に従って商品を出荷することも必要です。たまには返品を受け取りこともあるでしょう。
このような倉庫の現場管理システム(WMS: Warehouse Management System)の存在を知っておく必要があります。直接WMSを構築することに携わることも物流業界の事業会社へ入社した場合にはあるかと思いますが、はるかに多い機会としてはWMSと基幹系システムを連携させたり、運送系配送系システムからの情報の受け渡しなどI/F構築するといったことがあるでしょう。在庫の入庫出庫、倉庫での受払いや作業指示完了の倉庫管理システムの内容に精通していることは情シス部門で大きな強みとなります。
またグローバル調達が当たり前となった今では、輸出入のITシステムにも知見が欲しいところです。専門用語も多い世界でもあり、一連の流れを経験して知っておくかどうかでちょっと差がついてしまう領域でもあります。
DHLやUPSなどのメジャーな国際物流ひとつでシステム含めてカバーされてしまうような時はもう意識することもないかもしれませんが、通関手続きに必要なインボイスやパッキングリスト、そもそもフォワーダーって何?みたいな部分は押さえておきたい用語です。
基幹系 ★★★★★
ビジネス活動を行う上で企業の根幹となるシステムである基幹系に携わっておくことはある意味マストかもしれません。製品を仕入れて商品として付加価値を付け在庫とし、在庫管理を行い、その在庫を販売して納品伝票を発行し売上を計上する、会計システムへデータを連携する、請求書を発行して入金してもらう、といった一連の流れは基本のキです。システム部門の責任者としては避けて通れないコアな領域です。
B2BだろうがB2Cだろうが、商品やサービスを販売して売上を作り、売上金を回収するということに変わりはありません。今の時代、世の中のプラットフォームを組み合わせて簡単に素早く軽い仕組みで出来ることも多くはなって来ました。しかしながら、一定の規模の限界がありますし、大手事業会社ともなればそんな脆弱な業務システムを基幹システムとしてセンターに据えることは難しいです。
昨今、Web系技術者経験者でのアジャイル開発ということばがよく取り沙汰され、ウォータフォール的な開発手法はレガシーっぽいように受け取られることも多くなったような変なイメージ定着があるように感じます。しかしながら、ここはバランスよく経験を積んで置くべきところです。ウォータフォールでの開発がマストな基幹系システムの経験値は、情シス部門の責任者として必ず通っておきましょう。
EC系出身者にたまに見られますが、基幹系の経験や知識が浅い、ほとんどない、IT人材がいます。日頃のECサイトのフロントのメンテ更新などには非常に長けていてUIやUXにも造詣が深い一方で、いざ大規模なECサイトの再構築や入れ替え刷新の際に未経験領域の基幹システム連携ではお手上げ、ちんぷんかんぷんということに出くわすことも実際あります。
在庫情報はAPIで受け取ればOK、の世界でECのフロントは構築できますが、そのAPIそのものやその先を構築できてナンボの世界が基幹系の世界です。やはり部長級となれば、1本で数億単位、十億単位のプロジェクトを動かすこともあるでしょう。でもそのようなプロジェクトは、基幹系の構築や大改修を含むものでしょう。また部分的なモジュール開発にはアジャイル的な部分も含まれることはあるかと思いますが、全体としては綿密に練ったウォータフォール型の開発でプロジェクトを進めることが必至です。億円以上の大プロジェクトをマネジメント出来るかどうか、実質的に任せられる人材であるかどうかが部長クラスに到達する要件であることは間違いありません。
DCM ★★★★☆
リアル店舗での売上管理、在庫管理といったPOSレジを含む販売情報管理システムとその派生の業務システムの経験も非常に役立ちます。小売流通系システムの経験はEコマース全盛の今でも十分役立つ経験とスキルをもたらしてくれることでしょう。基幹系やロジスティク系と連携し、店舗チェーンを含む全体で在庫管理や売上管理を軸としたある意味、広い意味での基幹系という捉え方が良いかもしれません。
最終消費者との接点を含む、デマンドチェーンマネジメント(DCM:Demand Chain Management)の領域のコアの業務システムやその周辺も日々進化していますし、IT技術が応用されやすい部分です。具体的な導入マネジメントが出来ることや経営層への活用提案などが部長級のミッションとなります。
エンドユーザーとの接点が多いDCM系の領域では、スマホ活用した業務アプリケーション開発がカギとなって来ています。アプリ化もWebアプリケーションのどちらにも経験値が欲しいところです。iOSとAndroidの双方の強み弱み、デバイスとしての業務への活用の可能性、頻繁に行われるOSアップデートやそのアプリ対応とアプリ配布対応、多数のモバイル端末を管理を行うMDM(Mobile Device Management)といった側面からも実運用含めて理解しておきたいところです。電子マネーやポイント対応といったところも知見やスキルが必要です。
また広い意味でのDCMでは、ECサイト構築やその運用、またCRMといった部分も含まれます。各SNSのサービス自体もどんどん広がりを見せています。例えばなど融合した領域のサービスであるライブコマースなど、その仕組みも理解しておきましょう。
EC周りに加えて、最近では販促プロモーション系のIT活用も多くなって来ました。IT業者と広告代理店が融合したような企業がモーレツに事業会社の宣伝販促担当にアプローチをかけて来ます。ARでこんなことが出来るだとか、QRコードでなんちゃらかんちゃらとIT素人はコロッと騙されるような仕掛けがたくさん潜んでいます。言い値に近い形で大したことない仕組みのシステムを法外な値段で売り付けて来ます。こんなところも事業会社の情シス部門の部長級となれば判断できること素養が必要です。
バックオフィス系 ★★☆☆☆
情シス部門の重要な領域にバックオフィスの管理部門でのシステム環境整備があります。財務会計・管理会計、人事給与・人事管理などがあたります。事業会社にとってやらねばならない必須の業務ではありますが、コストセンターであってプロフィットセンターではない管理部門は極小の人員配置の為に究極に省人化可能なシステムが求められますし、またシステム自体のコストも究極にコスト抑制が求められます。
利益を産む事業の業務システムはスクラッチ開発も選択肢に入りますが、管理部門のシステム導入は基本パッケージ導入となるでしょう。コスト面での経済合理性ファーストが理由です。グループウェアやオフィス系ソフトの選定も同様でコストファーストが現実です。情シス部門の部長クラスには、それぞれのパッケージの良し悪しと自社の業務とのフィット&ギャップが出来ることが求められます。
現場業務とのフィットギャップも重要ですが、意外にクセモノなのは経営トップや経営層のニーズです。あれが見たい、これが見たい、どうして出来ないんだ、かつなぜこんなに高いんだ、と納得腹落ちに持っていくことの難易度は決して低くありません。
事業現場での業務システムであれば、現場のキーマンや実際のユーザの声がこうですから、とか事業部長がこういうビジネス視点でこれだけ利益出せると言ってますから、と折り合いをつける方策がありますが、経営トップが要件オーナーを直接兼ねる場合は落とし所の設計もかなりタフな仕事となることは必至です。
このように、情シス部門の部長クラスには、経営トップ層、社長・会長・管掌執行役員との距離感、コミュニケーション力はもちろんのことベースとなる信頼関係の構築力が必要です。個人のパーソナリティにも影響されますので万人に当てはまる方策はありませんが、人間力を鍛えることしかありません。事業会社の事業サイドのメンバーに比べて、情シス部門の管理職、スタッフ部門の管理職は経営トップとの直接的なコミュニケーション機会は多いかもしれません。
システム基盤・インフラ ★☆☆☆☆
情シス部門のある意味、専権事項です。一定のサービス品質を担保しつつ、どれだけ管理コストを圧縮できるかの手腕が問われます。過剰サービスでは運用コストが高騰し、経営層から無能扱いをされ、値切りすぎたり格安サービスに傾倒するとサービス品質でユーザーに責め立てらるという状態です。
またあって当たり前、稼働していて当たり前なので、落ちたり障害発生した時には目も当てられない状態です。リスク満載の領域と言っても過言ではないでしょう。業者の選定力とコスト交渉力、値切りと押し込みのチカラが求められる領域です。情シス部門の部長が交渉下手というのはいただけません。アーキテクチャーの構想力も求められるかとは思いますが、現実は商談での値切りの方が求められますし、評価されます。コールセンターやシステムサポートの運用も同じ領域です。
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>情シスのキャリアに関する記事
【事例】よくあるRPA導入の課題と、情シスへの入社間もない転職者が担当する際のケアすべきポイント
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/rpa_casestudy
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今回は、SEやPM経験者から、事業会社の情シス部門や業務推進部の部長職クラスを目指す場合、どのようなスキル・経験を身に付けるべきかをご紹介しました。
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