SIerでご活躍されるSEやPMの方から、「将来的には、事業会社の情シスや業務推進部、DX推進部といったIT×企画職へのキャリアパスを目指したい」といったご相談をいただく機会が増えてきました。
実際、事業会社の重要な経営課題にDX(デジタルトランスフォーメーション)がど真ん中に置かれ、実行できる体制作りが急務となっています。菅政権でのデジタル相、デジタル庁新設への動きにも加速され、まだ体制整備が不十分と考える経営トップにとっては、人材確保への焦りも一段と増す環境となって来ました。
DXは早く進めたいが、それを実行できる人材がいない、確保できていないというのが多く事業会社の実態です。経営トップからの最優先ミッションで、DXに親和性の高いSEやPMのご経験のあるご人材を社内外から集めるなど、ニーズは高まる一方です。しかし、人材ニーズ急増の陰で、ドロップアウトされる方が一定数いることも確かでしょうか。
そこで今回は、そのような状況を避けるためにも、事業会社の情シスやDX推進部、業務推進部といった企画系部門へ転職直後に、SIer出身のSEやPMの方がつまずきがちな理由や対策を、実際に事業会社のマネージャークラスの方からお聞きした事例をもとにお伝えします。
【目次】
「中途入社直後」のよくある事例:システムの社内説明会にて
「入社直後のがんばり:情シス部門への配属」
Hさんは、事業会社への転職がめでたく成功し、DX推進を担う情シス部門の部署のひとつにも配属されました。しかしながら、まだ着任したばかりで社内のシステムにはどんなものがあるかも右も左も分からず、いったい何が問題なのか、老朽化対応すべき優先順位なども全く分かりません。
着任した部門の統括部長も多忙を極めていて、雑談程度の会話以外に配属以来、特に業務について話はしていない状態が続いていました。とりあえずは、先輩担当者Tさんについて同じ会議に同席する程度の日々が続いていました。
仕方ないとはいえ、DX推進をシステム変革を通じて、この事業会社のビジネスモデルを改革するぞ、と勢いよく入社した思いに焦りも募ります。そこでHさんは、アクセス権限の許す限りのドキュメントを読み漁り、積極的に社内システムの構造を学習して自分なりに課題も見えて来たと感じていました。
セキュリティの脆弱性やマルチベンダーで開発運用していく際のITに関するガバナンスが明文化されていなかったり、と未整備な領域も見え始め、開発ベンダー各社と情報システム部門での週次の合同会議でも発言し、なるほどそういった点も課題だね、と情シス部門の上位の統括責任者からも相槌をもらい、直属のシステム部長に確認の指示がいくなどして心の中で少しガッツポーズをするなど実感も出て来た頃のことでした。
「社内システム説明会の講師の代役に抜擢」
そんな時に、入社以来ついて回っていた先輩担当者のTさんが他のスケジュールとのダブルブッキングでどうしても出れないTさんが講師の社内システムの説明会があり、Hさんが代役を務める流れになりました。その説明会自体には、Hさんは何度もTさんについて出席していて、周囲からも何度も一緒についていってもらっているし大丈夫でしょ、との安心もあり、またHさん自身も何度も聞いている内容で、自分だったらこう話すのに、など思っていたこともあって、よし自分なりのアレンジも加えてみよう、とちょっとした野心もあり、張り切って引き受けて当日の説明会に臨みました。
Hさん自体それほど人前で話すことは不得意でもなく、どちらかといえば自信もあった方でした。先輩担当者のTさんが作成したマニュアルをベースにしつつも、このシステムはデータベースを切り分け、内部保持するものと外部参照用に切り分けた改修で表示スピードが上がったことや、セキュリティの脆弱性がどのように克服されたなども熱く語り、新システムの良さを伝え切りました。
自信のほどとは裏腹に、当日の聞き手の現場社員たちムードは今一つで、熱く喋った分、オーバしてしまった時間についてのクレームが逆に来てしまいました。それ以上に、分かりにくかった、との事後アンケート集計結果も出てしまいました。一番気まずかったのは、説明後の質疑応答でした。
説明会を聞いていた社員の中から、
「前のシステムでは、登録がマストではなかった詳細なマスタ情報の入力が必須になっているが、これは任意にできないのか?」
の質問に対し、
「この新システムの仕様では必須入力となっています。」
「経営ニーズによる機能追加で、マネジメント側での見える化の粒度が改善されます。また私自身このシステム開発の要件定義には参加していないので、詳細は後ほどのご返答とさせて下さい。はい、次のご質問の方。」
システムの現場導入で一番大切なことが忘れられていました。
まとめ:SIer出身のSEやPMが事業会社でつまずきやすいポイント①業務現場への理解
業務の現場にとって、システムによる業務負荷の増については一番丁寧に話すべき理解を求めることですが、HさんはSE時代の経験から自身の責任範疇を明確に線引きするクセがついていて、スパッと切ったような物言いをしてしまいました。
SE時代にはクライアントとの不要な議論やモメごとを避けることが出来る有効な切り分け手段として、要件に盛り込まれていないことを明示してリマインドすれば今まではよかったのですが、事業会社での社内情シス部門の一員としては、そのシステムの担当であろうがなかろうが、社内のどのようなシステムでも情シス部門が常に責任を負わねばなりません。説明会の社内講師は、その情シス部門の代表としての役割をその場では果たすことを求められます。
ではHさんは、どう行動すべきだったのでしょうか。
この講師代役を務めた説明会では、まずこのシステム導入における業務現場のメリットをしっかり伝えるべきでした。そのメリット実現の裏側で、一部の詳細入力が必須になって業務負荷になってしまうことに理解を求めるべきでした。また詳細に入力した内容で、経営マネジメント上だけではなく、現場での業務進捗も可視化され、現場にもメリットがもたらされる事に先輩担当者のTさんが触れていたことを同じように説明すべきでした。
入社後の活動としては、現在の事業会社のシステム構成やシステム課題をデューデリジェンスするがごとく精査するよりは、バランスよく事業会社の業務を習得していくことにも時間を使うべきでした。
事業会社でのシステム推進は、現場業務への理解とともに、現場に寄り添ったスタンスが大切でしょうか。
「入社経過半年後」のよくある事例:小規模プロジェクト
「現場の業務に寄り添って、要件整理」
事業会社の情シスへ入社後半年を過ぎたMさんは、ようやく下積み研修的な期間も過ぎつつあり、小規模な新システム構築プロジェクトをサブポジションではありますが、実質的には任せてもらえることになりました。
同じくアサインされた業務現場側のプロジェクトメンバーの担当者Yさんと、時間をかけて要件整理を綿密に進めて来ました。Mさんとしては、十分に業務現場のヒアリングも行い、あるべき業務のTo-be像を描き切れたと少し自慢にも思っています。現場に寄り添った業務システムの構築を初の実績として残せそうです。
情シス責任者から指定された開発ベンダーの担当者とも、概算見積も得て、しっかりと工数精査も行い、妥当な金額に着地できたと、SE時代の経験を活かせたことにも満足しています。
開発着手への承認を受ける社内の検討会の場面がやって来ました。業務現場側の担当者Yさんの所属する事業部門の責任者も、企画部門とIT部門を管掌する常務執行役員も参加します。
「業務現場と進める、あるべき要件整理のカタチを問われる」
社内検討会にも綿密な準備を行い、検討会のフォーマットにも必要事項を記入し、分からない部分もなんとか上長や周囲のアドバイスを貰って完成させました。中には、そこは空欄でもいいよ、とアドバイスを受けた部分もありました。
さて迎えた当日、Mさん自身のデビューの場も兼ねて、検討会での案件のプレゼンは一任されました。事実上のPMと張り切って臨みました。しかしながら、自身の期待した評価は得られませんでした。プロジェクトについても差し戻しの判断となってしまいました。
フォーマットの記入漏れ、大事な部分を空欄にしていたこともありましたが、差し戻しの最大の理由は「システム導入後の業務がTo-Beになり切れていない」と企画とITを管掌する常務からの指摘でした。かなりな論調の指摘に、現場の事業部長も気圧され、あるべき姿が描き切れていない、とのその場でのある意味裏切りめいた同調もあり、差し戻しとなってしまいました。
さて、SIer出身の元SEのMさんは、どうプロジェクトを進めるべきだったのでしょうか。
まとめ:SIer出身者が事業会社でつまずきやすいポイント②As-isの域を脱しないTo-beはNG、事業現場とのコミット力が重要
業務現場の担当者Yさんと作り上げて来たTo-be像での要件整理でしたが惨敗してしまいました。これは、業務現場に寄り過ぎた為に、現場の業務負荷改善のレベルでの機能や、業務現場特有のマニアックな機能要望のみに要件整理が終始してしまったことを、その道のスペシャリストである企画部門とIT部門を管掌する常務執行役員に看破されてしまった、ということに尽きます。
システムを新規構築し導入することで、その業務プロセス自体が短縮化されることや、場合によっては部署機能が不要になるようなBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:Business Process Re-engineering)の視点が求められているからです。
「自分はSIer出身だが、ITコンサルタント的なことは経験が少ない」と言っても後の祭り、と言っても過言ではないでしょう。開発ベンダーが、開発を取りまとめることは出来ますが、業務視点でのBPRは事業会社の担当者でしか出来ません。
またパラドックス的な事象として、そのようなBPRが出来るDX推進が出来る人材が既にいたならば、SIer出身者を情シス部門で中途採用することもないでしょう。企画部門や業務推進部のメンバーで、IT技術やDX推進に明るいメンバーと強いネットワークを築くことが重要です。
また、事業側とコミットできる人的ネットワーク構築も入社後に取り組むべき急務のひとつです。事業会社の事業部長自身や、事業部長にコミットできる事業側の幹部層と関係性を構築することが成功への近道です。ここも、情シス部門の現場部長や課長の中には不得意なメンバーも多いのが実情でしょうか。
事業会社で、SIer出身のSEやPMは何を期待されているか
SIer出身のSEやPMの方は、事業会社でどのような活躍を期待されているのでしょうか。ここにボタンのかけ違いがあると不幸なことになってしまいます。失敗例から、具体的に求められる行動やミッションが見えて来たのではないでしょうか。
社内SEとして情シスに配置し、社員のパソコン管理や基幹システムの維持管理を担当させたいと経営トップが躍起になって人材獲得を命じることはまずありません。そもそも、そのような仕事を自社で人材を雇い入れて内製化する経営上のメリットや、情シスでのコストメリットを享受できる事業会社はIT関連以外では実際少ないものです。外部ベンダーへの委託、外部からの常駐SEを整備する方が提供される役務の安定性や自前でのIT教育コスト含めて外部委託することのメリットの方が大きいと判断されます。
元々のビジネス自体の生い立ちや成り立ちがIT技術の基づくもの、Web上でのサービス提供やEコマースのようなIT産業であったり、ビジネスモデルがIT基盤上に既に展開され移管が完了している事業会社、すなわちほぼデジタルトランスフォーメーションが完了している事業会社ではメリットがコスト負担を上回ることも想定されます。IT基盤上に構築された業務プラットフォームを日々進化させたりする開発のスピードや、メンテナンスを行う際の規模のコストメリットなど、ITの内製化チームを自前で持つメリットがあり、この業務を担う人材として、いざとなれば手も動かせる社内SEのニーズがあります。
しかしながら、DX(デジタルトランスフォーメーション)が完了している事業会社が少ない為に、DXが声高らかに謳われている事実があるわけですから、事業会社の経営者のニーズは、DXを推進できる人材候補を社内外から集めたい、ということに尽きます。
自社の既存のビジネスモデルに対し、データ分析やデジタル技術を活用することで市場シェアを維持したり、競争優位性を更に伸ばすことであったり、はたまた様々なデジタル化の波に既にさらされていて、デジタル経由での異業種の参入を許し競争力がなくなりつつある自社の製品やサービスをDXで復活させる、もしくは延命させたい、ということを一緒に実現してくれる人材です。このような経営トップが直面する課題に対し、同じ目線で解決に向けて取り組んでくれる即戦力人材に対して、処遇待遇に糸目をつけないような争奪戦が人材市場で繰り広げられているということです。
SIer出身のSEやPMとして、進化するIT技術への知見やそのビジネス応用例に対し精通していることはもちろんのこと、事業会社にとっての自社の製品やサービス、その付加価値を生み出す競争優位性の源泉、自社のビジネスモデルの強みやそれを支える業務について深く理解し、どのような具体的なデジタルトランスフォーメーションが有効かを見極め、実際に実行に移し具現化してくれる人材が求められていると言えそうです。
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今回の記事では、SIerのSE・PMから情シスやDX推進部、業務推進部など事業会社の企画職への「転職失敗事例」と「対策」についてご紹介しました。
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