一口にCTO(最高技術責任者・Chief Technology OfficerまたはChief Technical Officer)といっても事業内容、会社規模、人員構成によっても業務内容は変わります。
大企業であれば人員配置、サーバ・ネットワークなどの構成や予算配分、セキュリティ関連の業務がメインで直接ソースコードを触ったり、サーバ構築といった作業を行うことはほぼないでしょうか。
一方で、中小企業、とりわけスタートアップの現場ではCTOがメイン事業となるサービスを作る担当となることは多く、開発エンジニアのまとめ役の人がそのままCTOであるケースも少なくありません。
今回の記事では、スタートアップ・ベンチャーのCTOを目指す方向けに、スタートアップ(立ち上げ~シリーズA,B)においてCTOが行うべき業務についてご紹介します。
【目次】
- とにかく不格好でも「計測」ができるプロダクトを作る
- ピボットの意思決定をサポートし、素早くMVPの作り変えを行う
- 事業成長や目標に関わるあらゆるイベントに関与し、成功のためにどんな細かい作業でも協力する
- (まとめ)スタートアップCTOのやるべきことリスト
とにかく不格好でも「計測」ができるプロダクトを作る
まず一つ目に、とにかく不格好でも「計測」ができるプロダクトを作るという点が挙げられます。
スタートアップ企業は短期間での成長や急成長を狙った新興企業のことを一般的には指すでしょうか。
新興企業というとベンチャー企業も同様の意味となりますが、スタートアップ企業の特徴として株式を発行して、外部の第三者に購入してもらうことで資金を得るいわゆるエクイティがあります。自己資金だけ、もしくは銀行などの借り入れだけでやりくりするというスタートアップ企業はほぼ存在しません。なぜならこのエクイティで調達しつつ、企業価値を高めて株価をあげていくことがスタートアップの本質的な経済活動になります。
スタートアップ企業は「EXIT」を短い期間で設定しているのも特徴です。出口という意味のEXITはビジネスでは「投資回収」のことを指していて、投資を行った者(出資者)が出資先の企業から資金を回収することを指します。このEXITで出資者が株式を売ることで価値の上がった分を返す、すなわち利益(リターン)を出すというのが一つのゴールになります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けた会社は必ず利益(リターン)を返さなくてはいけません。このEXITを短期間で定めているのがスタートアップの大きな特徴といえます。
これを実現するために技術で支えるのがCTOと言えそうです。
もっと具体的には事業の成否はプロダクトマーケットフィットをいかにして達成するかに他なりません。プロダクトマーケットフィット(PMF)とは顧客の課題を満足させる製品(プロダクト、サービス)を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態のことをいいます。
どのようにしてPMFを達成するかに、正解はありません。しかし、よく知られた手法としてリーンスタートアップというコンセプトがあります。
リーンスタートアップは以下の4つの流れを繰り返し行うことで、市場に受け入れられるプロダクトを作っていくという考え方です。
「仮説」:まず顧客ニーズの「仮説」を立てる
「構築」:そのニーズを満たすアイディアを「構築」し、MVP(Minimum Viable Product)といわれる実用最小限の製品を、コストをかけずに開発する。
「計測」:流行に敏感な消費者に提供して反応をみる「計測」を行う。
「学習」:そして、その反応の結果を製品に反映させる「学習」を行う
LinkedIn創業者のリード・ホフマンは、「MVPを世に出したときに恥ずかしい気持ちが湧いてこなければ、そのローンチのタイミングは遅すぎたと考えるべき」という言葉を残しています。つまり、何より重要なのはMVPをとにかく早く作り、市場に投入することだと言えそうです、そのため不格好でも「計測」ができるプロダクトをとにかく早くつくることが第一にCTOのやるべきこととなります。
ピボットの意思決定をサポートし、素早くMVPの作り変えを行う
また、途中、仮説に大きなギャップが発生したり、MVPの受け入れ性が低い時には、「ピボット」と呼ばれる大きな方向転換を行います。ピボットを行い市場や顧客のニーズに合わせて軌道修正することで成功確率が高まります。このピボットの意思決定をサポートし、素早くMVPの作り変えを行うのもCTOの仕事でしょうか。
仮説の最初は思いつきかもしれません。しかし筋の良い仮説にしていくためには「計測」「学習」のスピードとテクニカルな情報分析は必須になります。ここにもCTOの重要性が出てきます。技術者でありながら経営メンバーの一員として(中には役員でないCTOもいますが、その場合でも経営者の意図を最大限汲み取れる能力は必要です)意思決定のサポートを行うようにします。
ご存じの方も多いかと思いますが、AirBnBの例を挙げて説明します。
創業者のブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアは最初サンフランシスコでの国際イベントで来場者向けのホテルが不足しているという現象を見て、人が自分の部屋を他の人に貸し出すというサービスを思いつきました。ちょうど自分たちが借りているロフトの家賃が払えなかったことから、エアベッドと朝食を自分たちで作って提供するというのをWEBで広告に出したところすぐに借り手が見つかったそうです。
このことから民泊のアイデアはあったものの、最初はそこまで確信がなかったのでルームメイトのマッチングサービスからはじめました。しかしこのアイデアはうまくヒットしませんでした。何度かアイデアの書き直しをした結果、民泊のアイデアにたどり着きます。
しかし、このアイデアを持って資金調達のためベンチャーキャピタルやエンジェルを回りますがほとんど相手にされませんでした。他人を自宅に泊めるというアイデアが荒唐無稽と思われたことが原因と、ブライアンとジョーがどちらもデザイナー(二人はアメリカのロードアイランド州の美術大学、RISDで出会った)でエンジニアがチームにいなかったことが原因でした。
この直後ハーバード出身のエンジニア、ネイサン・ブレチャジックが3人目の共同創業者として加わります。このネイサンがAirBnBのCTOになります。ネイサン加入後、民泊のマッチングサービスであるAirbedandbreakfast.comというサイトを2008年8月に立ち上げることに成功します。
その後、有名ベンチャーキャピタルのYCombinatorの当時のCEOポール・グラハムを大いにひきつけて3ヶ月間のプログラムへの参加権を獲得します。ここで初めてYCombinatorから投資金額の2万ドル(200万円)を手にします。YCombinatorは出資金額はそこまで多くなくとも、3ヶ月のプログラムの最終日に行うデモデーには多くの投資家が集まります。デモデーで注目を集めたサービスは更に多くの投資に至るケースが有り、スタートアップにとっては外せないイベントです。
そこで3ヶ月間のプログラムで黒字にするという目標でプロダクトの磨き込みを始めます。
Airbedandbreakfast.comという名前はやがてairbnb.comに短縮され、サイトが検索エンジンで上位表示されるような仕組みづくりやユーザーの本人認証といったサービス改善を次々に行っていきます。驚くのはかなりのサイト規模になるまでネイサンがすべて一人で開発していたということです。
技術力で解決するための施策を考え出して次々短時間に実行することもスタートアップ時期におけるCTOの仕事に含まれるでしょうか。また、実際には、エンジニアが主要メンバーの中にいなければMVPを作れないことが多いため、成功確率が下がるとみなされて投資に至らないケースが多いようです。
事業成長や目標に関わるあらゆるイベントに関与し、成功のためにどんな細かい作業でも協力する
Airbedandbreakfast.comというサイトを立ち上げた当初、資金繰りに非常に苦労していたため、当時大統領選で人気のあったバラク・オバマとジョン・マケインから“Obama O’s”や“Cap’n McCains”という特製朝食シリアルを作って売っていたのは有名な話でしょうか(初期のAirBnBという会社はシリアル屋と思っていた方もいたという話です)。
ちなみに、ネイサンもエンジニアでありながらもこのプロジェクトには関わっていました(シリアルで得たお金はすぐに使い果たしてしまったようですが)。実は、この「何が何でも死なないしぶとさ」がCEOポール・グラハムを惹きつけた大きな要因だったそうです。
AirBnBの例は極端ではありますが、端的にCTOの役割を示していると言えるでしょうか。杓子定規にエンジニアだから営業はやらないとかPRとかユーザインタビューはやらないという考えではなく、事業成長や目標に関わるあらゆるイベントに関与して、成功のためにはどんな細かい作業でも協力していくこともCTOの大事な業務になります。
(まとめ)スタートアップCTOのやるべきことリスト
上記の事例等を踏まえ、一般的に初期のスタートアップから中堅(シリーズA,Bあたり)になるまでにCTOの仕事はこのように列挙できるでしょうか。
①事業アイデアの確からしさの検証用のMVPを作る
②MVPを効率的に作るための技術選定とスケジュールとリソース配分を行う
③競合他社で使われている技術的なバックグラウンドの検証
④ピボットするための技術検討
⑤エンジニア人材の採用
⑥(場合による)エンジニアだけでなくデザイナー・UIデザイナー・コーダー・プロジェクトマネージャーなど開発制作に関わる人材の採用
⑦サーバなどシステムにかかる費用の管理
⑧ベンチャーキャピタル・エンジェルへの技術バックグラウンド説明のプレゼン
⑨(場合による)データ解析ツールを使ったKPIの定点観測サポートと分析サポート
⑩エンジニアメンバーの評価
⑪チーム内開発ルールや開発フローの管理
ただし、当然ながらこういった仕事のすべてを一人で行うことができない、もしくは専門家の手を借りたほうが早いこともあります。
最近では、副業やフリーランス人材を利用し、ウェブ解析やデザイン、ライティングなどを低予算で依頼できる機会も増えてきました。そういった外部リソースを上手に利用し、事業成功に最短で繋がる方法を考えていく、これこそスタートアップCTOの醍醐味でしょうか。
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今回の記事では、スタートアップ・ベンチャーのCTOを目指す方向けに、スタートアップ(立ち上げ~シリーズA,B)においてCTOが行うべき業務についてご紹介しました。
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