スタートアップベンチャーCTOの役割・必要なスキルとは【現役CTOの生の声】

ご存じの通り、CTO(Chief Technical Officer/Chief Technology Officer)は、企業を技術的側面から支える立場で、何かを開発するときや研究を進めていくとき技術が適切に利用されるように、関わる社員たちを監督したり、技術的な意思決定を最終的に行う際の大きな役割の一つです。

一般的に、CTOとは

・技術やテクノロジーに関する物事の検討・決定
・企業戦略と技術面の擦り合わせ
・技術の運用やプロジェクトの管理などのPM職的役割
・技術スタッフの採用計画・運用状況

について決定していく存在と言われることが多いでしょうか。エンジニアの組織が確立している場合は、決定後各メンバーをアサインして実行してもらい、CTOは監督する立場になります。個々のタスクに関してCTO自らコーディングといった作業をすることは基本的にありませんが、結果責任は伴うので逐一状況は把握していないといけません。

これに対して、スタートアップ(特にここではスモールベンチャー、シリーズA,Bまでを指す)のCTOは、役割に関しては基本的に同じものの、仕事を振る対象(部下)が少なく、自ら作業も行わないといけない、といったケースも多いのが実情です。

そこで、今回の記事では、実際に上場企業・スタートアップ両方のCTO経験がある方などの声も参考に、スタートアップとそれ以降のフェーズの企業におけるCTOポジションを比較し、スタートアップのCTOに求められるスキル・役割についてお伝えします。

【目次】

  1. 最悪プロダクトを自分で作り直せるレベルの「エンジニアリング」スキル
  2. 「BS、PL」を読み解くスキル
  3. 「経営者視点」でのプロジェクトマネジメントやIT投資判断
  4. 「部門の運営方法」の引き出し、採用力
  5. 「情報システム」としての視点
  6. (参考1)自社でできない経験を、「業務委託」で他社で補うといった努力をされるCTOも
  7. (参考2)CTOの業務が多岐に渡るため、VPoX(VPoT/VPoE/VPoP)を設ける企業も多い
  8. (参考3)Amazon/AWS CTOが語る「CTOの4つの仕事」

最悪プロダクトを自分で作り直せるレベルの「エンジニアリング」スキル

CTOと聞くとエンジニアの中でも権威あるポジションのように捉えられがちですが、スタートアップにおいては多くの開発メンバーを抱えていないケースも多く、エンジニアリングの仕事は自給自足で行う必要があります。

泥臭く手を動かさないと事業が進展しないので、必然的にCTO兼プログラマー兼ネットワークエンジニア兼(他の役割)という状況になります。

上記に関連していますが、コードの保守など障害があってもCTO自ら手を動かして修正を行わなければいけないこともあります。中身を熟知していないと改修・改善はできないのですが、最悪他のメンバーがいなくても最後の一人になることを想定してコードの中身を熟知する必要があります。プロダクトを自ら作り直せるレベルにはなっていることが重要です。

また、2人目、3人目がジョインしてきた際にもCTOに聞けばなんとかできるという空気を作っておくことがチームビルディング上も大切になります。小さい組織では他のメンバーのコードレビューもCTOがやらないといけないこともあります。その際にもソースコードの全体像を知っていることは重要になるでしょう。

さらに、スタートアップは常にMVPを作っては検証の繰り返しです。そのため思いついたアイデアに対してすぐにプロトタイプが作れるレベルのスキルも求められます。

実際に、スタートアップから上場するまで同じ企業でCTOやVPoEとしてご活躍された方にお聞きしたところ、

『「スタートアップのCTOに求められるもの」としては、「イマココ」の技術的課題をあらゆる手段を講じて解決するスピード感、やりきり力(GRID)が挙げられます。事業を拡大させるための仮説検証を高速に行うため、特に初期段階では先進的な技術の導入や堅牢なシステムの構築よりもプロダクトを世に出すことを優先する必要があります。いくら先進的でも、美しい設計でも、ビジネス価値が創出されなければその事業は継続できないのですから。」とのことでした。

そして、CTOは対外的な発信も技術広報として求められるケースがあります。自分の組織、プロダクトについてはいつでもPRできるように準備しておく必要があります。仮に営業同行したらセールスエンジニア的にプロダクトやチームの魅力を語れるくらいのレベルと考えていいでしょう。

「BS、PL」を読み解くスキル

技術面で企業の戦略決定を行うという点でCTOは非常に重要な役割を果たします。特に技術に関して詳しくない他の幹部に説明するケースです。ときには枝葉末節を省き、重要な技術的ポイントとコストにどう影響するのかを他の役員にプレゼンしなくてはいけません。

スタートアップにおいてはこうしたプランと実行がCTO自ら行うケースも多いため、プランの解像度を上げる重要性はあります。計画の時点で曖昧にしていることで、あとから余計なコストや人員が必要になることもあり、大企業では許される多少の誤差もスタートアップでは命取りになることもあるため、全体像と詳細部分の両方を把握する必要があります。

ちなみに、上場企業・スタートアップ両方でのCTO経験を持つ方に、スコープの違いについてお聞きしたところ、「スタートアップの規模にもよるし、CEOがエンジニアかどうかにもよりますが、仕事のスコープはスタートアップが足元で計画の実現することに全力を注ぐのに対し、大手は非連続的な変化を起こすための仕事を行う事が多いですね」とのことでした。

「経営者視点」でのプロジェクトマネジメントやIT投資判断

スタートアップ企業のCTOは、人員リソースや必要なツールを適切に調達し、スケジュールに当てはめて会社のミッション達成のための計画を策定します。また、進捗も管理して遅延なく進められるように計らいます。

また、自分たちがやりたい技術ではなく、会社のビジョン・ミッション達成のために最短・最速・低コストで最適なソリューションを選択できるのも大事なスキルです。大企業においてはコアなサービスについてだけ決めていけばいいのに対し、スモールベンチャーでは細かいツールの選定までCTOが決めるというシーンもかなりあります。

一方で、ある程度事業が成功し拡大していくタイミングにおいては、R&Dへの投資や堅牢なソフトウェア基盤の構築に対する比重を大きくするフェーズになりますが、現役CTOの方からは、いつこのシフトチェンジを行うかという見極めも、CTOの大切な役割のひとつではないでしょうか。また、事業が拡大するにつれて組織も大きくなっていきます。コンウェイの法則にあるように、肥大化した組織はともすると硬直化を招くリスクをはらんでいます。弊社の事例ですと、2012年に多角的な事業の運営とスピーディなソフトウェア開発の両立を目指し、組織のフラット化を推進していきました。』」という声をいただきました。

また、エンジニアリングには技術負債がつきもので、これを返済するにもコストが掛かりますが、非エンジニアの役員には理解してもらえないことがあります。技術部門を代表して説得するのもCTOの役割となります。

「部門の運営方法」の引き出し、採用力

システム部門の業務は保守、開発、セキュリティ管理など多岐にわたります。それぞれの状況を適切に把握し次のアクションを決めて実行するのですが、メンバーの維持管理も重要な仕事です。システム部門の業務がスムーズに進行するための人員管理、会議体、開発プロセスについて複数の選択肢から最適解を選んでいきます。

例えば開発プロセスにも色々あり、ウォーターフォール型、プロトタイプ型、アジャイルなど、メンバーやプロダクトに合わせて柔軟に変えることが大事です。

また、メンバーへの評価もCTOの役割ですが、実際に上場企業・スタートアップ両方のCTO経験がある方にお聞きしたところ、「大手だと給与制度や評価制度が整っているため納得感のある評価がしやすい」一方で、「メンバーの評価もスタートアップには給与制度・評価テーブルなどがないので、評価が属人的になりがち」「CTO一人で見ている場合は良いが複数人数で評価するようになるとキャリブレーションに時間がかかる」といった苦労も多いようです。

また、「採用」において候補者のレベルを見抜くスキルも求められます。

一般に採用に置いては組織の平均レベルより上の人材を採用しないとその組織は成長しないと言われております。特に初期のスタートアップに置いて即戦力人材は絶対必要になるためその実力を見抜く力は必要になります。場合によっては採用しない、条件付きで採用するなどの使い分けはできるようにしておきましょう。

「情報システム」としての視点

大企業ではヘルプデスクは専任がついているものですが(総務が兼任のケースもある)、スタートアップでは情報システムもCTOが行うケースもあります。PCなど備品の管理、インストールするツールや非エンジニアのフォローもCTOが行うケースは多いです。このスキルがスタートアップのCTOに必須というわけではありませんが、役割的に担当となることが多くなります。

実際に、「自身の経験だとJ-SOXの監査対応やISMSの維持や社内へのセキュリティ浸透の難しさに苦労したことがあり、これってスタートアップのCTOだとなかなか経験しないところだと思います」という意見もありました。

(参考1)自社でできない経験を、「業務委託」で他社で補うといった努力をされるCTOも

このように、スタートアップ企業ではCTOの業務は多岐に渡り、また役割を変え、違う問題に取り組む必要があります。しかし、自社でできる経験だけでは太刀打ちできなケースも多いでしょうか。

そこで、現役スタートアップ企業のCTOに、どうCTO未経験からキャッチアップしたのかをお聞きしたのでご紹介します。

「CTOになったばかりのころは、専任でなかったこともあって、とにかく他の会社のいろんな現場で経験を積むことを考えました。業務委託エンジニアとして開発からリーダー業務、採用などあらゆる仕事をしました。それまでリーダー経験や開発経験はあったし、ビジネススクールで経営戦略学んだりしたこともありました。

実践の場で企業がどういう戦略を実現したいのか、末端のエンジニアとしてやるべきことは何か、そのためのノウハウはどうやっているのか。こういったことはものづくりの現場からしか学べません。

現場によってはインセプションデッキ(プロジェクトの全体像を端的に伝えるためのドキュメント)自体を見せてくれて、その中の自分の役割を説明してくれるところもありました。

現場の責任者との会話量を増やすことと、間違いを恐れず質問や逆提案、どんな仕事も他の人より引き受けることで成長速度を上げることができたと思います。」

自社でできる経験は限られるため、このように他社に業務委託として入り、様々な経験を同時並行で積んでいくといった方法で、キャッチアップされる方もいます。

(参考2)CTOの業務が多岐に渡るため、VPoX(VPoT/VPoE/VPoP)を設ける企業も多い

このようにCTOの役割も多様化して一人で担うには難しい側面も出てきたことから、VPoXという別のポジションを設ける企業も増えていきました。

以下のような形で分類されてきつつあります。

1)VPoT(Technical)・・・アーキテクトということもある

「システム責任者」
自らがプロダクト開発・運用を実践し、コードレビュー、アーキテクチャ選定、DevOpsなどの方針を示し、メンテナンス性に優れたシステムを作る人

2)VPoE(Engineering)

「組織マネジメント責任者」
クリエイティブの文化を創り、エンジニア・デザイナーが働きやすく生産性が高い状態を作り出す人

3)VPoP(Product)

「プロダクト責任者」
ユーザヒアリングしながら、MVPを決め、最適なタイミングでプロダクトをレベルアップする人。プロダクト品質の責任者

スタートアップのCTOは、上記の1〜3すべてを担当することが多いのですが、求められる役割・ケイパビリティが異なるため、なかなかバランス良く仕事ができる方は珍しいようです。

よくあるのは、1はすごいけど、2が苦手でメンバーに尊敬されにくいといったケースや、3が苦手で事業スピードと合わないといったケースでしょうか。

(参考3)Amazon/AWS CTOが語る「CTOの4つの仕事」

Amazon/AWS CTOのWerner Vogelsが2007年にCTOの役割についてブログに記載しているのでご紹介します。
https://www.allthingsdistributed.com/2007/07/the_different_cto_roles.html

それによると

①Infrastructure Manager
ITインフラやセキュリティ、アプリ開発や保守に対して責任を持ちます。一般企業の情シスの統括のような役割です。

②Technology Visionary and Operations Manager
ビジネス戦略を元に技術ビジョンを持って組み立てて実装します。アーキテクトに近い役割になりますが、小さいチームの場合は自分で手を動かすこともあります。

③External Facing Technologist
エヴァンジェリストの様に、顧客やパートナーなど外部に対して自社の技術を伝え、そこで得た情報を内部の開発者に伝えます。会社の技術の顔として橋渡しをするのが役割です。

④Big Thinker
技術が既存・新規事業やプロダクトに対してどういう風に貢献するのか・競合優位性を作るのかということを考えるのが役割です。

上記を挙げています。ここでは、人材採用などの話は出てきませんが、実際の現場ではこれもCTOの仕事として行っているケースが多い印象です。

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>エンジニアのキャリアに関する記事

【保存版】エンジニア(SE)からコンサルタントに転職・活躍するまでのAtoZ
https://www.axc.ne.jp/column/axis-column/2018/0227/se_cous.html

「SEとITコンサルが言う『上流工程』の違いと特色」
https://www.axc.ne.jp/column/axis-column/se_cous/02.html

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今回は、実際に上場企業・スタートアップ両方のCTO経験がある方などの声も参考に、スタートアップとそれ以降の企業のCTOポジションを比較し、スタートアップのCTOに求められるスキル・役割についてご紹介しました。

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