ベンチャー・スタートアップのCFOに期待される役割

今回は、ベンチャー企業のCFO(Chief Financial Officer)にはどのような役割が期待されるのかを解説します。

ベンチャー企業のCFOといえば、公認会計士や税理士の経験者、MBA取得者と思われがちですが、そのような経歴を持つ方はほんの一握りで、大半の方は経営企画出身であったり、財務経理部門出身であったりと、バックオフィス部門を中心に地道な経験を積んでいます。

また、専門的な資格の取得や学部の卒業も必須ではなく、実務経験や自己啓発の積み重ねがあれば、手が届く可能性がある職種です。

【目次】

  1. ベンチャー企業のCFOの位置づけ
  2. 資金調達とエクイティストーリーの検討
  3. エグジット手法の検討

ベンチャー企業のCFOの位置づけ

ベンチャー企業におけるCFOは、その名の通り、財務に関する最高責任者であるため、財務系業務全般に関わる必要があります。

経営戦略を実行するためには投資が必要であり、投資のためには現預金の充実が必要です。

そのため、現預金を戦略の実行のために調達し、必要な時に必要な額の投資の実行をするか判断する役割が期待されます。

CXOの右腕として

CEO、COOに対してはもとより、CTO、CIO、CMOなど、いわゆるCXOと言われる各専門分野の役員に対するサポート役として動くことも、CFOの重要な役割の一つです。

財務面はもとより、採用や法務面を含むバックオフィス分野全般において、各CXOの役割をサポートしながら、業務を推進していくことが期待されています。

経営戦略に紐づく財務戦略の計画と実行

経営戦略とリンクした形で、財務戦略を実行したり、全社予算を計画・実行したりするのもCFOとしての大きな役割の一つです。

細かな予算策定については別のスタッフが作成することがあっても、作成した財務戦略や、予算統制について実行責任を果たしていくことも、CFOの役割の一つとして考えられます。

管理部門担当役員

CFOは財務や経理を重視していると考える人は多いですが、実際の管理部門内には総務や採用・労務・法務・広報などの様々な機能が存在します。

急成長するベンチャー企業を支えていく際に重要な役割を担うこととなる管理部門全体を横断的に見ていくことも、CFOとしての非常に重要な役割です。

資金調達とエクイティストーリーの検討

ベンチャー企業のCFOの中でも、とりわけ重要な位置づけとなるのが、エクイティストーリーの検討と資金調達、そして後述するエグジット(出口戦略)の実行です。

最近では資金調達の手法も様々であり、ベンチャー企業の資金調達環境としては、柔軟に対応できるものも増えています。

エクイティストーリーの検討

いつ、どのタイミングで、どれぐらいのバリュエーション(株価)で資金調達をするのか、将来的なエグジットの段階でどれぐらいのバリュエーションを想定しているか、また株主の中にはどのような投資家がいて、どれぐらいの持分で出資するのが望ましいのかなど、オーナー経営者の持分を配慮しつつ、調達する資金額も加味しながら検討していく必要があります。

さらに優秀な人材を確保すべく、社員や関係者に付与するストックオプションはどのタイミングで、どれぐらい付与するのが望ましいのか、またストックオプションの発行を想定するにあたり、顕在株と潜在株がどれぐらいあり、ストックオプションを行使した時に、顕在株が増えて、持株比率にどれぐらい変動があるのかなど、当たりをつけておくことも重要です。

オーナーをはじめとする関係者の議決権をある程度担保する持分になっている状態で、新たな価格で新株を発行して、エグジットまで描けるのかどうか、バランスも考える必要があります。

エクイティによる資金調達

ベンチャー企業にとって一般的なのが、エクイティによる資金調達の検討です。

資金を入れてもらう代わりに、一定の経営権を新株発行という形で付与することとなります。

CFOとしては、どのような特性の投資家から資金を調達するのが望ましいのか、戦略や投資家の特徴から検討していくことが必要です。

さらに投資家は大きく分けて、出資を通じて自身のファンドを運用する目的であるVC(ベンチャーキャピタル)、自社事業との業務提携とともに出資を行うCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)、そして個人投資家であるエンジェルに区分されます。

VCからの出資の受入は、運用するファンドの期限があるため、上場もしくはM&Aの努力義務も要請され、VCの戦略を自社の戦略に合わせて検討する必要があります。

またVCからの取締役の受入により、自社の成長のためのアドバイザーとして、ハンズオンでの連携も考えられます。

さらにリード出資として、リスクを取って出資し経営の意思決定にも大きく影響する場合や、フォロー投資として少額で出資する場合もあり、金額の大小だけではなく、自社の経営に及ぼす影響を考えるのも、CFOの役割の一つです。

CVCについては、資本業務提携という取り組みが一般的ですが、事業上のインパクト(売上、利益など)がどの程度経営に影響していくのか、シミュレーションすることも重要な役割です。

また、個人のいわゆるエンジェルから出資を受ける選択肢もあります。事業的な連携はあまり考えられないのですが、経営面でのアドバイスや、事業連携先の紹介、他のエンジェル投資家の紹介などもしてもらえる可能性はあります。

最終的にはVC、CVC、エンジェルともに、出資額に加えてどのような発行条件で契約を締結するかを見て行く必要があります。まずはタームシートという契約の概要をまとめたものを締結し、そこから具体的な条件を投資契約書で詰めていくという流れです。

投資契約書の契約当事者間でのやり取りや、弁護士などの専門家のチェックが生じます。CFO自身が直接やることはなく事務方がやることになるかもしれませんが、投資家との関係はどの段階にあるのか、いつ投資額が着金するのか、取締役会や株主総会などの機関決定はいつ行う必要があるのか、全体の流れを把握しておくことは非常に重要です。

デットによる資金調達

新株を発行せず経営権も付与しない形として、デット(融資や社債)による資金調達も考えられます。

ただ銀行などの金融機関としては、デットは黒字化している企業に対して行うことが一般的。スタートアップなどのベンチャー企業にとっては創業赤字であることからデットによる調達は難しいのが実情です。

そのような観点から、デットはベンチャー企業には馴染まないものですが、赤字企業であっても制度融資などを使ったデット調達が可能な場合があります。

さらに、新株発行を伴わないため、オーナーをはじめとした既存株主のダイリューション(持株の希釈化)を防ぐ手段でもあります。

VCやCVCへの交渉とともに、金融機関との交渉はまさにCFOが得意とする分野。一方で、借入を行うと負債が増えるため、自己資本との適度なバランスに注意が必要です。

ダイリューションを促進しないためにどの程度にエクイティを抑えるのが望ましいのか、また足りない分はデットで調達できないかなどを検討していくのもCFOの役割です。

補助金や助成金の検討

国や自治体が出している研究開発や販売促進、さらに人材採用のための補助金や助成金の活用も、ベンチャー企業にとっては重要な資金調達手段の一つです。

さらに、目的となる補助金や助成金受領後に、報告義務を怠らなければ返済義務を伴わない資金調達となり、また経営権を付与する必要もないため、持っておきたい選択肢の一つともいえます。

自社にとって使える補助金にどのようなものがあるのかを常日頃からウオッチしておくこともCFOにとって重要な役割です。

エグジット手法の検討

VCをはじめ、CVCやエンジェルにとって、何のために出資するのかを考えると、将来的にある程度のリターンを求めるものになることが推測できます。

具体的には投資家が出資額を回収する機会として、IPO(株式上場)とM&Aが考えられますが、CFOはこれらの機会に向けて戦略を構築していくことが重要です。

IPO

IPOにより、投資家は市場で持株を譲渡でき、それにより投資資金を回収します。

また、ベンチャー企業が将来的に株式の上場を考える場合ですが、株式の上場までには様々な準備が必要となります。

内部体制の構築や規程類、議事録などの整備、決算管理体制、証券取引所や証券会社の審査部からの質疑応答、コンプライアンス遵守への対応、予算実績管理の整備など、対応箇所は膨大なものとなり、そこにコストと人的リソースを割かなければなりません。

そのような上場準備プロジェクトの旗振り役も、CFOとしての重要な業務ですが、上場後、継続的に内部管理体制を強固なものにしつつ、適時適切にIR開示を行っていくことや、株主に丁寧に説明していくことも、CFOとしての重要な役割です。

また、初値(上場時の株価)はVCが投資を回収する重要なタイミング。初値は市場環境に左右されやすいですが、どのタイミングで上場を実現すればいいか見極めるのも、上場を検討するうえで非常に重要となってきます。

M&A

IPOに対するエグジットのもう一つの手段として、M&Aがあります。大手企業に会社を買い取ってもらうことですが、これにより投資家は大手企業に持株を譲渡することで、投資資金を回収できます。

CFOにとってはIPO同様、会社の価値を上げるための譲渡価格の検討が重要ですが、M&Aの場合は事業を買い手側に引き継ぐことになるため、引き継ぐ社員の雇用の安定や、大手企業の傘下に入ることによるノウハウやリソースの確保が実現でき、メリットも大きいです。

またCFOは傘下に入ることに対するメリットを、経営陣として社員に訴求していく必要もあることを頭に入れておきましょう。

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>CFOのキャリアに関する記事

ベンチャー・中小企業のCFO就任後、長く活躍するために求められるスキル・経験
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/venture_cfo_skill

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ベンチャー企業のCFOに期待される役割を紹介しました。CFOの役割は直接売上に繋がらないものの、会社にとって非常に重要な裏方業務の責任者として、動いて行かなければなりません。

財務の責任者として資金調達を行うイメージが強いですが、それ以外でも得意分野によっては管理部門の責任者に近い役割や、CEOやCOOの代理として戦略を語ることが求められる場合もあるため、その責任範囲は非常に広くなります。

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