数あるフレームワークの中でもとりわけ知名度が高いSWOT分析。自社の状況と外部環境の情報を整理したうえで経営戦略を策定する際に活用されます。
商学系の大学の講義でも扱われるなど、ビジネスにおける基本的なフレームワークの一種です。もちろんコンサルタントとして働くうえでも押さえておく必要があります。
今回の記事では、SWOT分析の基本や活用のポイント、分析の実例などをご紹介します。
【目次】
SWOT分析の基本
SWOT分析では、自社の情報や外部環境をビジネスにおけるプラス要因、マイナス要因として整理したうえで、経営戦略の策定までつなげることができる分析手法です。
SWOT分析の四つの分析軸
SWOT分析は次の四つの軸で情報を整理します。それぞれの軸の頭文字をとって「SWOT分析」と呼ばれているのです。
内部要因では次のような自社の特性を分析します。
- 経営リソース(ヒト・モノ・カネ)
- 知的財産
- 商品の特性
- ブランド力
- 財務
- 知名度
- 立地や商圏
以上はほんの一例のため、自社の様々な点に対して、強み・弱みをさらに洗い出していきましょう。
つづいて、外部要因については例えば次のような要素を分析します。
◆マクロ要因
- 人口動態や経済
- 技術的な変化
- 政治・法律
- 社会・文化
など
◆ミクロ環境要因(市場および市場を取り巻く環境)
- 顧客
- 競合他社
- 流通業者
- 供給業者
など
以上のような項目を自社のビジネス拡大に役立つ「機会」と衰退するリスク要因となる「脅威」に整理していきましょう。
クロスSWOT分析
SWOT分析は要素を書き出した後、追加の分析をおこなうのが有効です。最も一般的なのは、次のように二つの分析軸を組み合わせておこなう「クロスSWOT分析」です。
強み×機会:自社の強みを活かして市場の機会を最大限とらえる
弱み×機会:市場の機会をとらえるために克服すべき自社の弱み
強み×脅威:強みを活かして脅威に対抗する、もしくは衰退する競合に対して優位に立つ
弱み×脅威:弱みを克服して環境に打ち勝てるか検討。無理なら撤退戦略も
クロスSWOT分析をおこなうことで、単に情報を整理するだけにとどまらず、自社の経営戦略の策定まで至ることが可能です。
SWOT分析の位置づけ
マーケティングにおけるプロジェクトの場合は、下記のように環境分析の後に実施されることが多い分析手法です。
また、SWOT分析の後は策定した戦略をより具体的な施策=マーケティングミックスに落とし込むため、4P分析や7P分析に進みます。より広範な経営戦略策定の場合も、SWOT分析の後は、具体的な施策の検討を進めます。
マーケティングプロジェクトにおける一般的な分析プロセス
SWOT分析のメリットと注意点
SWOT分析は大学生でも活用できる、扱いやすさが特徴のフレームワークです。そのほかにもいくつかメリットがあり、より高度な分析が要求されるコンサルなども盛んに利用します。一方で、応用するうえで注意すべきポイントもあるため、それぞれを解説していきます。
SWOT分析のメリット
SWOT分析のメリットは次の三点です。
- 取り入れれば簡単にMECEな状態で内外の状況を整理できる
- プラス要因・マイナス要因に整理することで現状理解が深まる
- 内部要因・外部要因を重ね合わせて戦略策定ができる
SWOT分析の大きな特徴はその応用のしやすさにあります。ただ応用しやすいだけでなく、フレームワークを導入するだけで内外の環境がMECEな状態でまとまるのもメリットです。分析する対象について漏れ・ダブりなく的確な分析が進められるのです。
また、内外の状況をプラス要因・マイナス要因で整理できるのもポイント。環境分析では環境を構成する要素を軸に分類することが多いため、自社のビジネスにとってプラスかマイナスかを整理できるSWOT分析の有効性は高いといえます。
最後に、環境分析を通じて整理した自社の状況、マクロ環境、ミクロ環境の情報を組み合わせて戦略策定につなげられるのも特徴です。環境分析は情報を分類・整理して終わってしまいがちですが、SWOT分析を実践すると有効な戦略の策定に進めます。
SWOT分析の注意点
次のポイントを念頭においてSWOT分析をおこなうことで、より的確な戦略策定につなげることができるでしょう。
- プラス・マイナスの二元に分けることのリスク
- 弱み×脅威のポイントの取り扱いに対するリスク
SWOT分析は、シンプルな一方で、物事をプラス・マイナスの二元論で分けてしまうところにリスクが存在します。
プラスの要素の中でも唯一無二といえるほど際立つもの、どちらかといえばややプラスという程度のものなど、プラス・マイナスの中でも本来は序列があるはず。しかし、SWOT分析はその差を考慮しません。
また、環境に応じてプラスにもマイナスにもなる要素もあります。こうした要素の分類はその時の分析者の恣意性に任されてしまいます。
クロスSWOT分析をおこなったときに、弱み×脅威から見出される要素は、現実的には撤退や縮小という選択肢が取られがち。内外においてマイナス要因となっている以上、それをポジティブな要素に改善させるのは困難と想定されるためです。
しかし、クロスSWOT分析ではそれぞれのプラス・マイナス要素を掛け合わせて分類されることから、もし各象限が同程度のボリュームがある場合は、全体の1/4が撤退候補にあがることになります。
実際には見えないシナジーの逸失や顧客の取りこぼしなど、ビジネスや市場を撤退するのにもリスクが伴います。弱み×脅威ゾーンの要素の判断は特に慎重におこなう必要があるのです。
SWOT分析をうまくおこなうポイント
SWOT分析をうまく活用し、戦略策定に役立てていくためには、次に紹介する三つのポイントを踏まえて分析をおこなうとよいでしょう。
分析の目的を明確にする
まず大前提として、SWOT分析は「環境分析から戦略策定につなげるためのフレームワーク」であることを忘れてはいけません。漫然と情報を集めているだけでは、時間をかけて情報を整理しただけで終わってしまいます。戦略策定までもっていくことが何より重要です。
そして、うまく戦略策定につなげていくうえでは、目的を明確にして分析を進めることが大切です。現状どのような課題意識があって、経営全体、マーケティング、製品などどのような領域の戦略策定を検討しているのかを見定めたうえで分析を進めましょう。
目的によって整理されるべき情報も、そこから導き出される戦略も変わってくるためです。
豊富なアイデアが出るように分析者を工夫する
特定の分野に明るいメンバーだけを集めてしまったり、ごく少数のみで分析をおこなったりすると、分析の土台となる各領域における要点がわからず、アイデアに偏りが生じる可能性があります。
せっかくフレームワークがMECEでも、これでは着眼点に漏れが出てくるリスクがあります。
人がおこなう以上、完全に過不足なく要素を洗い出すのは困難です。それでも可能な限り豊富なアイデアを出せるよう、戦略に関連する様々な分野の人材をメンバーに入れて分析をおこなうことをおすすめします。
様々ななフレームワークを柔軟に組み合わせる
SWOT分析で必要な情報を整理するために、ほかのフレームワークを用いるのが有効なケースは少なくありません。特に紹介した通り、環境分析をおこなったうえで進めるのがスムーズであるため、環境分析系フレームワークとは相性がよいといえます。
例えば、次のようなフレームワークも理解しておき、柔軟に応用できるようにしておきましょう。
- 3C分析:外部分析と内部分析の融合
- 5フォース(ファイブフォース)分析:競合環境の理解
- PEST分析:マクロ環境分析
- VRIO分析:企業の付加価値を把握
SWOT分析の導入事例|焼き肉店の事例
最後に、架空の焼き肉店を題材に、SWOT分析とその後にクロスSWOT分析をおこなってみました。実際にSWOT分析を応用する際の参考にしてください。
この焼き肉店独自の特徴
- 駅からは遠い住宅地に立地
- 周辺の住宅地からのリピーターは多い
- ランチセットが人気
- 一人前の量が少なく、客単価は高め
- ファミリーや団体客向けの半個室が多い
以上の特徴と一般的なマクロ環境などを踏まえてSWOTに要素を分けると次のようになります。(一部は仮定を置いて要素を作成しています)
このような焼き肉店について、さらにクロスSWOT分析から、戦略候補を洗い出してみましょう。
◆強み×機会→客単価が高い×低糖質・肉ブーム到来
糖質を意識する人は脂質の少ない赤身や鶏肉などの肉を好む傾向にありますが、こうした肉は質の高いものでなければ味が落ちやすいうえ、甘辛いソースなどを多用することもできません。
しかしその点、このお店はすでに「高単価」であることが浸透しているため、低糖質に応える赤身や鳥についても、質にこだわった高級肉をスムーズに導入できます。「健康なのにおいしい」焼き肉を売りにする戦略が有効となりそうです。
◆弱み×機会→駅利用の新規顧客は取り込みづらい×駅前再開発で人口が増えそう
駅前周辺人口が増加するこのタイミングを活かして、駅周辺の顧客取り込みを積極化させましょう。駅前でのクーポン配布や、再開発による入居者向けのチラシ配布などの販促活動の実施。駅前周辺でのランチメニューをアレンジしたデリバリーサービスなどの展開も一案です。
◆強み×脅威→客単価が高く利益率がよい×コロナによる自粛ムード
幸いにしてこの店は客単価が高く利益率がよいため、損益分岐点まで余裕があるという特徴を持っています。ライバルの飲食店が不況に陥る中で、余った材料を、質を落とすことなく安く仕入れる工夫をしながら、損益分岐点をさらに下げる努力をします。
一方で、安易な安売りはこれまでの高単価=高級志向のイメージを損なう可能性があるため避けて、あえて質にこだわった肉を提供しつづけることで、客単価を維持するかさらに高める努力をすることで、客数の減少との相殺を図ります。
◆弱み×脅威→一人で入りづらい×一人焼肉ブームの到来とコロナによる自粛ムード
コロナによって席の間隔をあけなければならないため、これまで同様の人数を入店させることができなくなりました。二人掛けだった席を一人専用の席にして、このタイミングで「一人で入りづらい」という弱みを克服し、一人での来客を取り込むとよいでしょう。
コロナによる客数減を緩和しながら、一人客という新たな層を取り込むことが可能です。
SWOT分析が環境分析の効果を最大化させる
環境分析につかうフレームワークは便利である一方で、現状の確認に終始してしまう可能性があります。そこにSWOT分析を導入して視点を変えることで、本来の目的であるはずの課題の洗い出しや戦略の策定に進むことができます。
SWOT分析は商学系や経済学系の大学生であれば卒業時点で身につけておk基本的なフレームワークです。コンサル選考時に「知らない」ということがないように、しっかりと基本を押さえておきましょう。
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