システムアーキテクト資格取得の「転職・キャリア」上のメリット&デメリット

システムエンジニアにとって、資格試験は免許ではないため、取得しないと業務が行えないということはありません。また、業務として仕事中に資格試験の勉強させてくれる会社は珍しく、ご自身のプライベート時間を使って勉強し、試験を受けられるケースが多い印象です。

取得しなくても仕事に支障がないにも関わらず、自分の時間を使って勉強するのですから、自分のキャリアにとってそれなりのメリットがあってほしいと思われるのも当然でしょうか。そのため、よくエンジニアの方からは「どの資格がキャリアや転職において有用性があるのか」というご質問もいただきます。

中でも、システムエンジニアにとって、「システムアーキテクト試験」は論文系試験の登竜門だとされています。選択式や記述式の試験である基本情報処理技術者や応用情報処理技術者と違い、高度情報処理技術者試験になると難易度は上がります。勉強する時間も今までより増やす必要があるでしょう。

しかし難易度が高いだけあって、システムアーキテクトの取得には多くのメリットがあります。そこで、今回は、システムアーキテクト取得がキャリアや転職上どのようなメリット・デメリットがあるのかお伝えします。

【目次】

  1. 「システムアーキテクトとしての実務能力」もある程度証明できる
  2. 稼働単価が上がるため、システムアーキテクト取得後は年収アップする可能性が高い
  3. どの企業もアーキテクト人材は不足、AWSやAzureに関する資格も同時取得するとさらに転職では有利
  4. システムアーキテクトは上級SEやPM、ITコンサルへのキャリアを歩む際にも役立つ
  5. ユーザー企業など、システムアーキテクト資格が活かせないケースもある

「システムアーキテクトとしての実務能力」もある程度証明できる

ご存じの通り、システムアーキテクト試験は、論文系試験です。論文系試験は選択式や記述式の試験とは異なり、設問に対して自分の経験から文章を考え、論理的に記述しなければできません。

もちろん自分が経験したことのあるシステムとまったく同じ問題に当たることはまれですが、過去の経験を元に「自分だったらこうする」という発想で設問に答えていくことができます。

例えば、システム開発の現場で「こういうシステムを構築する時に気をつけた方がいいことは何?」などと聞かれることは日常的にありますが、試験の問題に答えるのも同じようなことです。

上位の資格になればなるほど、実際の業務内容と、試験で要求される内容は近くなっていきます。

逆に言えば、ある程度SEとしての業務経験がないと合格するのは難しい試験であるとも言えます。論文としてアウトプットをする以上、それを裏付けるだけの業務経験やインプットが必要になるからです。

SEとして上流工程に参加すればするほど、知っていなければいけないIT用語は増えていきます。プログラミングだけを知っていればいいのではなく、システム全体を把握する必要があるので、それに合わせて多くの知識が必要です。システムアーキテクト試験でも、システム全体を理解できるだけの知識がなければ合格できません。

そのため、試験に合格することで、IT用語の正確な理解や、ネットワークやサーバ基盤などのインフラストラクチャに関する知識まで含め、システム全体を考慮した構築を行う能力の証明になります。

必ずしも資格を持っていれば仕事ができるとは限りませんが、システムアーキテクト試験のことを知っている人(同僚や上司、面接官等)に対して「SEとして一定の能力がある」と認識されるでしょうか。

稼働単価が上がるため、システムアーキテクト取得後は年収アップする可能性が高い

官公庁案件などで見られる光景ですが、入札の参加資格として「○○資格保有者△名以上がプロジェクトに参画できること」などの指定されていることがあります。もしくは、入札申し込みの際、従業員の資格保有者数を記述させるケースなどもあります。

その対象となる資格保有者には、プロジェクトマネージャやシステムアーキテクトなど、情報処理技術者の上位資格が指定されていることが多いです。

冒頭でも述べた通り、IT業界における資格は免許ではないため取得してなくとも仕事はできます。ただし、案件によっては資格を持っていないことで受注できる仕事が減ってしまうということもあり得ます。

官公庁案件は大規模な仕事であることも多いため、受注できるか否かは会社にとって死活問題です。

資格取得に際して報奨金や手当の増額など、何らかのアドバンテージを設けている会社も多いと思われます。それは、社員のスキルアップという理由以外に、資格保有者数が会社の売り上げに直結してしまうケースもあるからです。

プロジェクトマネージャはひとつのプロジェクトに何人も必要ありませんが、システムアーキテクトは開発業務では幅広い守備範囲を担当できますから、その人数が多いほど安定的にプロジェクトを進めることができます。会社としてもシステムアーキテクト資格保有者を優遇するのには十分な理由があります。

また、システムアーキテクト資格保持者は上級SEとしてプロジェクトに参画することが多いため、必然的に単価は高くなります。プロジェクト参加者の単価があがるということは会社の売り上げも上がりますので、あなたの昇給や昇格といった年収面に直結する可能性も高いと言えるでしょう。

入札参加資格や単価の件は、Slerなど受注してソフトウェア開発を行う企業に限った話で、サービス提供企業やユーザ系企業ではあまり関係ありませんが、IT業界の構造上、資格が必要とされている場面があるということも認識しておくと良いでしょう。

どの企業もアーキテクト人材は不足、AWSやAzureに関する資格も同時取得するとさらに転職では有利

単にプログラムが書けるというだけではなく、システム全体を把握してアーキテクチャ設計・構築まで行えるSEはどこの企業でも求められています。

当たり前の話ですが、資格を持っているだけで転職がスムーズに進むことはありません。転職の際に一番重要視されるのは実務経験の有無とその内容です。少なくとも、資格が第一条件ではありません。

しかし、アーキテクチャ設計・構築の経験があった上で、システムアーキテクト資格を保有していれば、その実務経験の説得力は増します。

例えば、採用の場面で、実力や経験が同程度の候補が何名かいた場合、最終的には資格の有無で判断されることもあります。システムアーキテクトほどの資格であれば、あなたの採用を左右することもあり得ます。

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進める企業も増え、アーキテクチャから構築し直す新規案件も増えています。そのため、システムアーキテクトを必要とする大規模案件が増えているのは紛れもない事実です。近頃よく言われているIT技術者不足の中でも、システムアーキテクト不足については特に顕著です。

最近では、企業のクラウド利用も進んでいるため、AWSやAzureなど、クラウドサービス業者に関連する資格も合わせて取得しておくと、年収アップの可能性も高くなります。

ただし、システムアーキテクト資格を取得できたからといって、アーキテクチャ設計・構築に関する経験が不足しているのであれば、すぐに転職を考えるのは時期尚早でしょうか。

システムアーキテクト資格の取得をきっかけとして、現在の現場で技術力とやる気をアピールし、上流工程への参加などの新たな役割を担い、その経験を持って転職などステップアップしていくというのが一番確実な道でしょう。あくまで資格はシステム開発経験を補完するもの、という認識をしておくのが良いでしょうか。

システムアーキテクトは上級SEやPM、ITコンサルへのキャリアを歩む際にも役立つ

システムアーキテクト資格は、「SEになりたての人というよりも、SE経験が3〜5年以上の中級SE・上級SEが保有するような資格」という声をよくお聞きします。

そのため、まず考えられるのは、

・SEから上級SEへのステップアップを目指す人

におすすめの資格でしょうか。具体的には、開発業務において、要件定義やアーキテクチャ設計などの上流工程を経験している、もしくは経験したい人が目指すべき資格と言えそうです。

通常、上流工程への参加は一定の経験年数があるSEが担当していくことになります。経験年数が浅くとも、システムアーキテクト資格を取得することによって、上流工程に参加できるタイミングが早まる可能性も出てきます。自身のキャリアを考えたときに、有効なアピール手段として使えそうであれば、ぜひ取得を検討していきましょう。

また、システムアーキテクト資格は、プロジェクトマネージャを目指す人にもおすすめです。

ソフトウェア開発業務に関連する情報処理資格試験といえば、基本情報処理技術者、応用情報処理技術者が基本です。

その後、専門性を磨くためにネットワークやセキュリティ、DBなどそれぞれの分野に特化したテクニカルエンジニアを取得するか、そのままソフトウェア開発業務のキャリアを磨くためにシステムアーキテクトを取得するか、というのがエンジニアのキャリアでよく見かける分岐点です。

もちろん人によるとは思いますが、システムアーキテクトを取得した後にプロジェクトマネージャ資格を取得するケースが非常に多いです。

一概には言えませんが、業務的にもPGからSE、SEからPMとキャリアチェンジしていく人は珍しくありません。会社のキャリアパスがそのようになっているケースが多いからかもしれません。

どのような過程を経てシステムが構築されていくのか正確に理解できていないと、プロジェクト管理業務にも支障があります。システムアーキテクトとしての知識を得ておくのは、プロジェクトマネージャになるための前提条件でしょうか。

さらに、システムアーキテクト資格は、ITコンサルタントを目指す人にもおすすめできます。コンサルタント業務に関連する資格といえば、ITストラテジストが定石ですが、コンサルタントを目指すならば、システム構築に関する幅広い知識が必要になります。プロジェクトマネージャと同様、システムアーキテクトとしての知識は、ITストラテジストになるための前提知識にもなってきます。

業務の面からはSE・PM・ITコンサルタント、資格試験の面からはプロジェクトマネージャ・ITストラテジストの土台になるのがシステムアーキテクト資格です。汎用的で様々な分野の土台になるため、後のキャリアに必ず役立ってくるおすすめの資格です。

ユーザー企業など、システムアーキテクト資格が活かせないケースもある

システムアーキテクト資格を取得したものの、あまり活かすところがないというケースも考えられます。

例えば、ユーザ企業のSEの場合。日本のユーザ系企業では、システム開発はSlerに依頼し、納品されたシステムを保守開発・運用していく場合が多いです。小規模なプログラムの改修やバグ修正などは行うものの、アーキテクチャを変更する機会にはなかなか恵まれません。もちろん業務でシステム保守を行っているのであれば、アーキテクチャに関する知識を持っておくことは重要です。何かの役に立つこともあるかもしれません。

ただ、キャリア形成という意味では、ユーザ系企業でシステムアーキテクト資格が役立つ場面は多くないでしょうか。

他にも、アーキテクチャ設計に関係ない職種の場合が挙げられます。システムアーキテクトはシステム開発における上流工程に関する資格です。

テスターやインフラエンジニアなど、担当している工程によっては、生かす場面がまったくないケースも考えられます。いずれ開発の上流工程を担当したいというアピールにはなるのでしょうが、それならばPG, SEとなってから資格を取得し、アピールすべきでしょうか。

テスターであればJSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board)、インフラエンジニアであればネットワークスペシャリストやオラクルマスターなど、それぞれの職種に応じて役立てられる資格・知識は存在します。せっかく資格を取得するならば、業務にすぐに役立てられるか、キャリアアップに役立つ資格を取得するべきでしょうか。

また、既に上級SEとして十分な経験を積んでいる場合も挙げられます。システムアーキテクト試験の難易度は高いと書いてきましたが、もともと業務でアーキテクチャ設計・構築を行なっている経験者にとっては、実はさほど難しい試験ではありません。

数ある試験の中でも、上流工程を担当するSEにとっては、普段業務でやっていることに近い試験内容だからです。そのため、取ったはいいけれどキャリアには何の影響もない、ということはあり得ます。

もちろんこの場合は、技術力を裏付けるための資格取得ということになりますので、まったく役に立たないということはありませんが、現状を変えるための資格取得という意味では使えない、ということになります。

前項でも記述した通り、IT技術者のキャリアにとって一番効果があるのは実務経験です。資格を持っているからといって、それだけで仕事ができるような気になってはいけません。あまり資格を持っていることをアピールしすぎるのもマイナスです。

苦労して資格を取ったのに、周りからの反応もなく、活かせる場面もなければ、モチベーションも下がってしまいます。せっかくなら、資格が生かせる場面を考えて取得したいものです。

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<エンジニアのキャリアに関するコラム>

AWSソリューションアーキテクト資格を取得したエンジニアのキャリアパス【転職事例含む】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/awscareerpath

SE・PMのキャリア形成に人気の資格とその実情
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/qualification_sepm

ITアーキテクトの仕事に役立つ書籍一覧【保存版】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/itarchitect_books

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技術の変化が激しいIT業界で働いていく以上、勉強する習慣をつけることはエンジニアの必須条件です。資格試験を通じて勉強する習慣をつけられれば、身につけた習慣は5年後10年後に必ずあなたの役に立ちます。苦労して資格を取得したら、すぐに成果が欲しくなってしまうかもしれませんが、長い目で見た時に必ず役に立ってきますので、焦らず業務経験を重ねていきましょう。

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