システム企画業務は、例えばウォーターフォール開発のように工程別に何をやるべきかということが決まっているわけではないことも多く、「何から手をつけて良いのか分からず、敷居が高い」と感じられる方も多い印象です。
とにかくシステムを導入しなければならない状況に迫られて、手当たり次第にSIerから提案を受けたり見積もりを出してもらう中で、段々とシステム企画のやり方がわかってくるというケースもよくあるでしょうか。
当然ながら、経験を積むことにより、自分なりのシステム企画の「型」が出来上がってくるものではありますが、それではスムーズに業務を行えるようになるまで、何年もかかってしまいます。
もちろん業務経験に勝ることはありませんが、システム企画の「型」を身につけるという意味でも、業務に役に立つ資格というものがあれば、取得しておきたいものでしょうか。
そこで、今回の記事では、システム企画に活かせる資格とその具体的な使い方についてお伝えします。
【目次】
- ITストラテジスト資格:バランススコアカード(BSC)を習得する
- ITストラテジスト資格:論述式試験でアウトプットの練習を積む
- UMLモデリング技能認定試験:RFPの作成にUMLを使う
- UMLモデリング技能認定試験:UMLの表記法を身につける
- ITコーディネータ:経営戦略寄りの知識を得る
- ITコーディネータ:コミュニティで仕事のつながりや人脈を得る
ITストラテジスト資格:バランススコアカード(BSC)を習得する
システム企画業務に関連する資格として、まず第一に挙がるのは情報処理技術者試験のITストラテジスト資格でしょうか。プロジェクトマネージャ資格と並んで高度情報処理技術者試験の中では人気がある資格であり、その難易度から情報処理技術者試験の中で最後にたどり着く資格として知られています。
さて、そんなITストラテジスト資格ですが、「難易度のわりに業務で役に立つ場面が少ない」という声もお聞きします。実際には、次のような点から業務に役立てることを想定すれば、上手く活かせるケースが多いです。
まず、システム企画業務の中でも重要な項目として、「システム投資効果を経営層に説明する」というものがあります。システム導入により、なぜ業務改善が可能なのか、なぜ売り上げが向上するのか、論理立てて説明できなければいけません。
論理立てて説明するためのフレームワークとして、バランススコアカード(BSC:Balanced Score Card)と呼ばれるものがあります。
バランススコアカードは、1992年にイギリスのロバート・キャプラン氏とデビット・ノートン氏が論文で提唱した戦略的経営管理方法で、戦略・ビジョンを
・財務の視点
・顧客の視点
・業務プロセスの視点
・学習と成長の視点
という4つの視点に分類し、その企業の持つ戦略やビジョンと連鎖された財務的指標、及び非財務的指標を設定していくフレームワークです。
ITストラテジスト試験は「情報技術を活用した事業戦略の策定」の知識・スキルを持っていることを証明するためのものですので、バランススコアカードの知識も当然問われます。どのようなプロセスを経てシステム導入が有用だと判断しているのか、経営層などステークホルダに説明するツールとして、試験合格後も役に立つフレームワークではないでしょうか。
もちろんITストラテジスト試験の中で業務に役に立つ知識はバランススコアカードだけではありませんが、比較的実務でも生かしやすい考え方かと思われます。
ITストラテジスト資格:論述式試験でアウトプットの練習を積む
さらに、ITストラテジスト試験には、午後Ⅱにて論述式試験があるという特徴があります。
他の論述式の情報処理技術者試験と同様、3問中1問を選択しますが、ITストラテジスト試験では例外なく
・事業課題の解決
・ITを活用したビジネスモデルの策定
・事業目標の達成に向けたIT戦略の策定
などを論述することを求められます。これらにどのような対応を行なっていったか記述しますが、別に実際に企画した内容を書く必要はありません。実際の経験がなくとも、「もしそのような状況になったら、私ならこうする」を書いてもまったく問題はないのです。
実際に業務で使ったことがなくとも、先に述べたバランススコアカードによる分析内容を記述してもかまいません。
試験では文章だけで説明し、業務ではパワーポイントなどで図を含んで説明できるという違いはありますが、それらの思考のプロセスは、システム企画業務で実際に行うのとまったく同じことです。
論述式試験は大変だというイメージがありますが、システム企画に関連する試験で論述式のものはITストラテジストだけです。論述式試験という形で自分の考え(企画)をアウトプットし、採点してもらうという意味では、システム企画業務の良い練習になるのではないでしょうか。
UMLモデリング技能認定試験:RFPの作成にUMLを使う
システム企画業務は、事業会社の情報システム部門のシステム企画担当者が行うのが最も一般的です。自社の経営課題の解決や業務改善などのためにシステムを導入する、というところが企画業務のはじまりだからです。もちろん、スキルや人員の不足などでうまく企画業務が行えない場合は、ITコンサルティングファームやSIerのITストラテジストに依頼することもありますが、依頼を受けた側も「事業会社側の立場」からシステム企画を行なっていくのが基本です。
ご存じの通り、そのために「どんなシステムを作りたいのか」ということを開発担当者(情報システム部門の開発担当者や外部のSIer)に伝え、システム構築イメージや見積もり費用、概要スケジュールを提示してもらう必要があります。
それら提案を受けるために、事業会社側から提示するのがRFP(Request for proposal)です。
RFPとは提案依頼書と呼ばれ、事業会社などの発注側がSIerなどシステム開発会社に提案書を提出してもらうためのドキュメントです。
開発の目的、目標、希望の予算やスケジュール、提案の要件を記載します。文章だけで記載をしても良いのですが、図表なども含んでいた方が齟齬なく要件を伝えることができます。
特に、業務とシステムの関係性を表現するのに役に立つのがユースケース図です。ユースケース図はUML(Unified Modeling Language)の中の表記法のひとつで、利用者目線からシステムで行うこと(行いたいことを)表現するのに適しています。UMLといえば、オブジェクト指向設計で利用するイメージがあるかもしれませんが、ユースケース図はユーザから見たシステムを表現するのに適している表記法ですので、システム企画業務でも使えます。
システム企画の段階からUMLを積極的に使うことで、企画から開発プロジェクトへの速やかな引継ぎができるというメリットがあります。
最近ではオフショア開発なども頻繁に行われるため、UMLのように標準化された表記法を使うことで、言語の壁を越えてコミュニケーションの円滑化が可能になります。
また、UMLから設計書やプログラムのスケルトンを自動生成できるツールもありますので、適切にUMLを記述できれば、システム開発業務にシームレスに引き継ぎができ、効率的な開発ができます。
UMLは特定のプログラミング言語や製品に依存することがないスキルですので、陳腐化の心配もありません。開発業務に携わる人はもちろんのこと、システム企画業務においても役に立つスキルと言えるでしょう。
UMLモデリング技能認定試験:UMLの表記法を身につける
そして、UMLの記述法に特化した資格試験というものが存在します。特定非営利活動法人UMLモデリング推進協議会が主催するUMLモデリング技能検定試験です。
ユースケース図だけではなく、シーケンス図やクラス図、アクティビティ図など、システム開発業務で使う表記法も試験に出題されますが、ITに関わる仕事をしているのであれば、身につけておいて損はないスキルです。
UMLモデリング技能認定試験は、L1~L4の4段階のレベルに分けられています。
L1は他人が描いたUMLを読めるレベル、L2では自分でもUMLを描けるレベルという目安です。L3以上はプロフェッショナルレベルとなりますが、システム企画業務で使うという観点では、そこまでは必要ないでしょう。しかし、取得するならばL2までは欲しいところです。
UMLモデリング技能認定試験では、実体を抽象化する能力、対象や対象間の関連を把握・整理する能力などが問われます。UMLモデリングは、要求仕様とソフトウェア実装仕様の間を繋ぐために必須の技術ですので、業務の流れや業務の中でシステムが果たしている役割を図示し、システム開発工程にスムーズに連携させるためにはうってつけです。
L3以上になると難易度がグンと上がりますが、L2までであればさほど難易度は高くありませんので、システム企画業務に携わる人は取得を検討してみてはいかがでしょうか。
ITコーディネータ:経営戦略寄りの知識を得る
システム企画業務の重要な役割として、ITと経営の双方を理解し、経営層とシステム開発側の意思疎通を助けることが挙げられます。
経営層などのビジネス部門は、業務やビジネスのことに詳しくともITのことはよく分からないという人も多いでしょうし、情報システム部門やSIerはその逆で、IT技術に詳しくとも業務やビジネスのことはよく分からないというのもよくある話です。
元々、業務でシステム企画を担当する人であれば、IT技術がまったく分からないというケースはそれほど多くはなく、どちらかといえば経営・ビジネス寄りの知識が足りないという人の方が多いのではないのでしょうか。
経営寄りの資格としては、中小企業診断士やMBAなどがありますが、取得の難易度は段違いに高くなりますし、「システム企画業務」に役立つ資格という観点からは少し外れてしまいます。
様々なIT系資格の中でも、システム企画業務で求められる「ITと経営の橋渡し」をキャッチフレーズにしている資格があります。
ご存じの方も大勢いると思いますが、「ITコーディネータ」と呼ばれる資格です。IT知識と経営知識の両方の習得を目指し、将来的にCIOを目指す人の取得を想定しているイメージでしょうか。
企業の経営戦略からはじまり、IT戦略、IT資源調達、IT導入、さらに活用からモニタリングまでの知識を問う試験です。まさにシステム企画業務を行う人をターゲットとしている資格です。
まず、ITコーディネータは情報処理技術者資格と同じく経済産業省の推進資格ですが、国家資格ではなくITコーディネータ協会が認定する民間資格となっています。
IT系の資格の中では珍しく、試験申し込み時に「経営系」か「情報系」かを選択します。
ITコーディネータ試験は必須問題60問、選択問題40問の合計100問で構成されています。
「経営系」と「情報系」が分けられているのは、選択問題40問の部分だけですので、経営とIT両方の勉強が必要になることには変わりありませんが、足りない知識を補うという意味で「経営系」問題を選択してみるというのはいかがでしょうか。
ITコーディネータ:コミュニティで仕事のつながりや人脈を得る
ITコーディネータ試験に合格すると、ITコーディネータ協会のデータベース(Webサイト)に連絡先が登録されます。
ITコーディネータ協会では、中小企業に対するIT化の相談窓口を設けており、企業とITコーディネータを結ぶ役割も果たしています。相談の内容を受けて、ITコーディネータ協会が適任と思われるITコーディネータを紹介する、企業とITコーディネータのマッチングを行なっています。
もちろん、企業に所属するITコーディネータが個人で仕事を受けるということは難しいでしょうが、会社としての受注につなげられるということも考えられますので、仕事の幅を広げるのに有効な仕組みではないでしょうか。
また、ITコーディネータ協会には、各地域のITコーディネータで組む「届出組織(コミュニティ)」が形成されています。各コミュニティにおいて、情報交換、勉強会、セミナーやカンファレンスの開催などが行われており、自社以外の人材や知識者との交流ができますので、人脈形成に大きなメリットがあります。
ITコーディネータ資格の維持には、フォローアップ研修に加え、ITコーディネータとしての活動や勉強会などで3年移動平均で30ポイントの資格更新ポイント獲得することが求められます。
しかし、コミュニティの勉強会への参加でも資格更新ポイントとして認められますので、人脈形成だけではなく資格維持の面でもコミュニティへの参加は有効と言えそうです。
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>システム企画のキャリアに関する記事
ITストラテジスト資格は「役に立たない」は本当か?取得後の「実情」と「メリット・デメリット」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/itstrategistexamination
AWSソリューションアーキテクト資格を取得したエンジニアのキャリアパス【転職事例含む】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/awscareerpath
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今回は、システム企画に活かせる資格とその具体的な使い方についてご紹介しました。
ITエンジニアが資格や知識・スキルの勉強をしようとすると、どうしてもIT技術の習得に偏りがちです。もちろんIT技術の知識やスキルも重要な要素ですが、それ以上にシステム企画業務では経営や業務の観点からシステムの立ち位置を正確に判定する、全体最適の視点が必要になってきます。
資格を取得することよりも業務経験を積むことが重要であることは言うまでもありませんが、経験を積むにはそれなりの年月が必要になります。資格取得を通じて、システム企画業務にフィードバックできる知識やスキルを習得できれば、少ない業務経験であっても大きな成果をあげる手助けになるのではないでしょうか。
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