プライベートエクイティファンド(PEファンド)では基本的に戦略コンサル出身者、または投資銀行のM&Aアドバイザリー出身者が採用の候補になりますが、総合商社の事業投資部出身者が採用されるケースもあります。
今回は総合商社の事業投資部からプライベートエクイティファンドへ転職した後に、スキルで活かせるものや、入社後につまずきやすい点、キャッチアップが必要な点を紹介していきます。
【目次】
- 総合商社の事業投資部出身者のスキルで活かせるもの
- キャッチアップが必要なもの①財務モデリング
- キャッチアップが必要なもの②提案資料の作成
- キャッチアップが必要なもの③投資委員会向けの資料作成
- キャッチアップが必要なもの④ストラクチャーの検討
- キャッチアップが必要なもの⑤オリジネーション
- キャッチアップが必要なもの⑥デューデリジェンス
- キャッチアップが必要なもの⑦投資仮説の作成
総合商社の事業投資部出身者のスキルで活かせるもの
総合商社の事業投資部出身の方は、自社内で投資実務を経験していますし、自己資金を利用して投資先の業績向上に資するようにバリューアップの業務を行うPEファンドと似通った業務経験はあると言えます。
そのため、総合商社の事業投資部出身の方は、基礎的なビジネススキルに加え、投資先の経営陣とのコミュニケーション、投資先の目利きなどのPEファンドでシニアに昇進していくのに必須ともいえるスキルや素地はあると思われます。
一方で下記に記載するように、総合商社の事業投資部出身の方でもある程度のキャッチアップが必要なスキルセットはあります。
キャッチアップが必要なもの①財務モデリング
まず、プライベートエクイティファンドにおいて非常に重要なスキルセットの一つである財務モデリングについては、商社出身者は投資銀行出身者に比して、やや見劣りする可能性があるのでキャッチアップが必要と言えるでしょう。
投資銀行の出身者は、PEファンドに入社したあとにすぐに活かせるスキルセットですが、総合商社出身の方も同様に、PEファンドでは即戦力としてレバレッジドバイアウトモデル(LBOモデル)を作成できるかどうかが重要です。
投資銀行時代にLBOモデルの作成経験や、PEファンドをクライアントにしたアドバイザリー業務の経験があれば、入社後も投資対象企業の財務分析と併せて、投資して儲かるかどうかを分析する際にLBOモデリングのスキルが必須になりすぐに活かすことができますが、これらは投資銀行出身者に限るもので、商社出身者は入社時に行われるであろうLBOモデルのテストにパスできるように、自身で入社前を含めてトレーニングする必要があります。
キャッチアップが必要なもの②提案資料の作成
PEファンドでは、投資銀行などのアドバイザーから紹介される案件を検討するほかに、自らピッチ資料を作成して提案することもあります。
資料作成の点では、PEファンドにおいても投資銀行同様に提案書(ピッチブック)を作成しますので、バンカー時代にピッチブックやプレゼンテーション資料を作成した経験がある方は入社後もすぐに活かすことができますが、総合商社の事業投資部出身の方は、そのような業務やプロフェッショナルファームらしい資料作成の作法が慣れていない場合は若干苦労する可能性があります。
投資銀行のように沢山のクレデンシャルを載せるということはありませんが、投資候補先にファンドの投資アングルや、過去の投資実績などを説得力のある内容でまとめる必要があります。
案件に応じてカスタマイズしたピッチブックを作成する際はフォーマットの統一性、メッセージなども含めて工夫して作成する必要がありますので、商社の事業投資部出身の方はキャッチアップする必要があるでしょう。
キャッチアップが必要なもの③投資委員会向けの資料作成
こちらも上記と同様に総合商社の事業投資部出身の方が、キャッチアップが必要な点になりますが、PEファンドでは各案件において投資委員会の承認を得るために、投資委員会向けの稟議資料のようなものをパワポ資料で作成します。
此方の資料では、投資銀行がセルサイド案件で作成するインフォメーションメモランダムのようにインベストメントハイライトの作成、業界におけるポジショニング、成長性、財務分析、LBOモデルによる分析の結果を記載する必要があります。比較的タイトな時間軸で仕上げる必要がありますし、外資系のプライベートエクイティファンドでは英語で資料作成と説明が必須になりますのでそのあたりの適性は重要です。
総合商社の事業投資部出身の方であれば英語力はそこまで問題ないと思われますので、後は実際の資料作成のスタイルに慣れることがポイントです。
キャッチアップが必要なもの④ストラクチャーの検討
買収時のストラクチャー、基礎的な組織再編税制の知識、会社法や金商法、証券規制の知識もPEファンドが買収や出資を検討する際に活かせるスキルになります。
PEファンドでは、投資銀行出身の方がストラクチャーに詳しく、即戦力として期待されることになりますが、総合商社の事業投資部出身の方も入社後に慣れる必要があります。
ほかにも提案時に作成するピッチブックにおいて、検討している案件の想定ストラクチャーやTOBを利用した買収案件の場合はTOBスキーム、スケジュールが頭に入っている投資銀行出身者であれば、潜在的な投資候補先に対して説得力のある提案書を作成できる点でバリューを発揮していると言えますが、商社出身の方も投資銀行出身の方ほどではないにせよ、基本的な事項は座学などで、頭に入れておく必要はあります。
ただし、日系や外資系のミッドキャップのサイズ感の投資を行うファンドであれば、ストラクチャーは一般的には株式譲渡であることが多いと思われますし、その点で言えばストラクチャーは比較的シンプルです。
キャッチアップが必要なもの⑤オリジネーション
PEファンドに入社した際には、まずはアソシエイト(ファンドによってはアナリスト)からスタートになりますので、いきなりソーシングに忙殺されることはないでしょうが、ただし徐々に案件獲得のためのオリジネーションは重要になってくるので、総合商社の事業投資部出身の方でもなれていく必要はあります。
基本的にPEファンドは潜在的な案件を投資銀行などから紹介してもらうことが多いですが、総合商社出身の方は、前職での人脈を使いながらソーシングなどの営業活動に活かせるという点でもバリューを発揮することはできるでしょう。
実際に投資を実行する際や、投資先を売却するなどのエグジットの段階になってもどこのファイナンシャルアドバイザ―を起用するか、アドバイザーとのコミュニケーションをどのようにするかということは投資銀行出身の人に比して経験値が少ないと思われますので、業務を経験するうちにFAとのリレーションを作っていく必要があります。
キャッチアップが必要なもの⑥デューデリジェンス
PEファンドの入社において、アソシエイトがかかわる重要な業務の一つにデューデリジェンスがあります。
PEファンドに入社した場合は、デューデリジェンスをリードし検出事項をどのように財務モデルに反映させるか、投資実行にあたって事業面で問題になる点はないかということを慎重に検討するので、今まで手を動かしていた人は、より大局的にデューデリジェンスをとらえて分析や投資仮説に反映させる必要があります。
この意味では、総合商社の投資事業部出身の方は、いままで外部の会計事務所や法律事務所を起用して、自社が行う投資案件の財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンスを行い、検出事項の把握や投資実行するために必要な論点の理解をすることが多かったと思われますので、キャッチアップはそこまで必要ないでしょう。
ただし、PEファンドでは投資委員会向けの資料作成時にデューデリジェンスの検出事項や問題点を説明する必要があります。また、財務モデルに反映するべき論点の理解、ディールプロセスを理解しながらデューデリジェンスを仕切ってQ&A対応やディール実行上重要な論点は何かを肌感覚で理解できる人の方が、PEファンドに入社しても違和感なく業務を進めていくことができるでしょう。
デューデリジェンスで検出された事項は、財務モデルのみならず、SPAなどの契約交渉において論点になるポイントや、価格交渉で運転資本やネットデットのクロージング日までの変動でどのように有利・不利に働くかなど、ディール全体を通じて重要なプロセスになりますので入社後からすぐになれることが肝要です。
キャッチアップが必要なもの⑦投資仮説の作成
総合商社においても、事業投資を行う上での定性面でのメリットや、定量的な分析を財務モデルなどを使用して行うことが多いと思いますが、プライベートエクイティファンドでは投資仮説はエントリー時点から非常に重要なポイントであり、投資委員会のみならずシニアのメンバー(パートナーなど)を説得しうるものをチームで構築していく必要があります。
その点では、各ファンドにおいて、時には戦略コンサルティングファーム出身の同僚と一緒に働きながら投資仮説を構築するプロセスを学んでいくことが重要かと思います。
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>PEファンドへのキャリアに関する記事
コンサルから投資ファンドの転職で求められるスキルとは?
https://www.axc.ne.jp/media/column-career-change-case/investmentfund
PEファンド入社1年目で身に付けておくべきスキル・経験【コンサル・投資銀行の方向け】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/privateequityfundfirstyear
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総合商社の事業投資部出身の方は、商社で事業に主体的に関与してきた経験があるので、プライベートエクイティファンドに転職した後にも即戦力として活かせるスキルセットを備えています。一方でコーポレートファイナンスと、証券市場の規制、会社法・金商法・M&Aにおけるストラクチャーの基礎の理解は多少のキャッチアップが必要なので、バリューを発揮できるように日々努力は必要となってきます。
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