総合商社はいまだに「花形」職場といわれています。高給、質の高い福利厚生、社会的ステータス、グローバルな活躍、仕事のやりがい、を考えると当然の評価といえます。
ただ、その総合商社社員という地位を捨てて、次のステージに進む人もいます。彼らはどのようなときに退職を決意して、どのような転職をするのでしょうか。
総合商社というエリート街道を自らの意思で外れ、その後キャリアとして成功された方の実例をご紹介します。
【目次】
- 花形職場である”総合商社”から退職する理由とは?
- 三菱商事→証券会社→メルカリと移ったCFO(最高財務責任者)長澤啓氏の実例
- 能力が高いだけに、成功のコツは「想い」。伊藤忠→ユニクロ→コンサル会社→ファミマCEO 澤田貴司氏の実例
- 「チャレンジできればリスクを恐れない」それが総合商社出身の成功者の共通項
花形職場である”総合商社”から退職する理由とは
総合商社を去る理由は、もちろん人それぞれですが、ただ、退職後に成功した人たちのコメントを読むと次のような傾向があることがわかります。
・総合商社の枠にとどまることができなくなった
総合商社の社員になることは、日本の会社員の頂点の1つといえますが、エリートや天才や野心家たちは、総合商社ですら階段の1段にすぎないと考えるようです。
しかし、大学を卒業してすぐに独立して成功するのは難しいので、総合商社で鍛え、ビジネスマンとしての基礎体力をつけ、好機をみつけてより大きなステージを目指します。最近の総合商社は、資源やインフラといった伝統的なビジネスだけでなく、コンビニやITや情報といった非伝統的なビジネスにも積極的に乗り出しています。総合商社で大きな仕事をしているうちに、より大きなビジョンがみえてきて外の世界に飛び出したくなる、というパターンが多い印象です。
非伝統的なビジネスの現場では、次々とイノベーションが生まれています。それを間近でみている総合商社の社員が「自分も」と思うのは自然な流れともいえるでしょう。
三菱商事→証券会社→メルカリCFO(最高財務責任者)長澤啓氏の実例
フリマアプリ・メルカリを運営している株式会社メルカリ(本社・東京都港区)のCFO(最高財務責任者)長澤啓氏は、総合商社・三菱商事の出身です。
長澤氏は慶応義塾大学を卒業した年の1999年に三菱商事に入社して、資源やエネルギー分野の投資やM&Aを担当し、2005年に退職しました。
シカゴ大学でMBAを取得してから2007年にゴールドマン・サックス証券に入社。M&A、IPO、資金調達を担当したのち、2015年に退職して、同じ年にメルカリに入社しています。
「企業を育てる」点で一貫している
長澤氏は「総合商社→証券→ネットビジネス(メルカリ)」と移っています。このように並べると一貫性のない転職のようにみえます。
しかし、長澤氏が三菱商事で担当していた投資やM&Aの業務、そしてゴールドマン・サックス証券でもM&Aに携わり、金融という軸が実は通っています。
また、総合商社と証券会社は、外からみるとまったくジャンルが異なる会社ですが、長澤氏が両社で携わった仕事は、企業を育てるという点で共通しています。
では、なぜ「総合商社・証券会社」からネットビジネスを手掛けるメルカリにキャリアを移したのでしょうか。
「間接的に育てる」から「直接育てる」に
長澤氏は「総合商社の枠にとどまることができなくなった」タイプの総合商社パーソンといえるでしょうか。長澤氏は経済誌のインタビューに「僕は三菱商事やゴールドマン・サックス証券にいたころ、もっと面白い仕事を探していた」と答えています。
では、長澤氏にとって、メルカリのビジネスのどこが「面白かった」のでしょうか。
ゴールドマン・サックス証券のサンフランシスコ・オフィスにいた長澤氏は、そこでユニコーン企業が次々誕生する様子を目の当たりにしました。そして「日本でもベンチャーが大きく育つ時代が来るのだろう」と予感したようです。
そのとき、メルカリ会長の小泉文明氏と出会い、誘われる形で入社しました。
長澤氏がメルカリに入社したのは2015年で、同社の設立(2013年)から2年しか経っていません。しかも長澤氏はメルカリで92番目の社員だったようです。この時点で、メルカリはまだ「100人企業」にすらなっていなかったのです。
長澤氏にとって「総合商社・証券会社」での仕事は、企業を間接的に育てることでした。一方で、メルカリでの仕事は、企業を直接的に育てることであり、間接的から直接的にビジネスの成長に関与することが長澤氏のキャリアチェンジの軸だったことが伺えます。
メルカリに入社した長澤氏は、その後2016年に早速、84億円の資金を調達を果たしました。メルカリは2018年6月に東証マザーズに上場を果たし、2020年8月5日現在の時価総額は7,402億円となっています。
能力が高いだけに、成功のコツは「想い」。伊藤忠→ユニクロ→コンサル会社→ファミマCEO 澤田貴司氏の実例
総合商社にてご活躍される方が転職先に困ることは少ないでしょう。銀行、証券、投資ファンド、コンサルタント、シンクタンク、公務員、研究者など、どの企業からも高い評価を受ける傾向にあります。
また、総合商社パーソンほどの能力があれば、退職しても次のステージで成功する確率は高いでしょう。ただ、そこに強い「想い」がなければ、総合商社での仕事は魅力が詰まっているので、転職後に後悔することになるかもしれません。
メルカリの長澤氏も「想いの人」ですが、もう1人、強い想いで総合商社を辞めて、確実にキャリアを積んで成功した方をご紹介します。伊藤忠商事出身の、株式会社ファミリーマート社長、澤田貴司氏です。
澤田氏の略歴を確認しておきます。
1981年、伊藤忠商事入社
1998年、ユニクロのファーストリテイリング、副社長
2003年、株式会社キアコン設立、社長
2005年、株式会社リヴァンプ設立、社長
2016年、旧ファミリーマート入社、社長(※)
2019年、現職(新ファミリーマート社長)(※)
※ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社は、2019年に、完全子会社の株式会社ファミリーマート(旧ファミリーマート)を吸収合併して、社名を株式会社ファミリーマートに変更しました(新ファミリーマート)
キアコンは企業再生を手掛ける会社で、リヴァンプはコンサルタント会社です。澤田氏の転職の歩みも、このように並べてみると「バラバラ」にみえます。
しかし、澤田氏の想いに耳を傾けると、すべての転職に「哲学」があることがわかります。
澤田氏は2016年に旧ファミリーマートの社長に就任したとき、日経ビジネスの取材に「セブンイレブンに劣っていたら何の意味もない」と話しています。
コンビニ大手の社長であれば、セブンイレブンを目標にすることは珍しいことではないかもしれませんが、澤田氏にはもう少し深い想いがあります。
澤田氏は伊藤忠時代に、日本のセブンイレブンの母体であった、アメリカの会社の買収案件に関わりました。その縁で澤田氏は、日本のセブンイレブンの経営を学ぶ機会を得ます。
セブンイレブンでは、社長が現場に入って従業員に話を聞き、それを丁寧にメモしていました。澤田氏は、経営者の、従業員や客から学ぶ姿勢に衝撃を受けます。
それと比べると、総合商社にいる自分の仕事が「右から左に仲介するだけ」のように思えてきてしまいました。
そこで澤田氏は、伊藤忠の当時の社長に手紙を書き「伊藤忠がやるべきは、絶対に小売だ」という想いをぶつけました。
そして、伊藤忠では小売に携わることができないとわかり、総合商社パーソンの肩書を捨て、ファストファッションのユニクロを展開するファーストリテイリングに転職しました。
澤田氏は5年間(1998~2003年)、ファーストリテイリングに籍を置き、その間同社の売上高は10倍になりました。
澤田氏は、ファーストリテイリングの創業者である柳井正氏から、社長就任を打診されますが、オーナー会社の社長になることを受け入れることができず、企業再生を手掛けるキアコンを設立して独立しました(ちなみにキアコンは「気合と根性」の略です)。
そして、ファミリーマートの経営に関わることになった伊藤忠が、澤田氏に社長就任を要請しました。澤田氏が伊藤忠に「小売をやるべきだ」と直訴してから20年が経過していました。
伊藤忠は今、ファミリーマートの株式を41.5%保有しています。したがって澤田氏は「雇われ社長」の身です。ファーストリテイリングの社長に就任する要請は、オーナーがいるという理由で蹴っているので、整合性が取れないような気がします。
しかし澤田氏はこのように述べています。
「古巣から声がかかったことはうれしかった。雇われ(社長)じゃないか、と思われるかもしれませんけど、これは特別です。伊藤忠からの話じゃなかったら、絶対に受けていない。本当に天命だと感じてオファーをお受けしたんです」
「古巣」「天命」という言葉に、澤田氏の伊藤忠への愛着を感じます。
小売ビジネスの魅力を発見したコンビニ業界で働くことができ、なおかつ古巣と再び関わることができる――澤田氏にとって最高のシチュエーションでした。
「チャレンジできればリスクを恐れない」それが総合商社出身の成功者の共通項
2人の総合商社パーソンの転職ストーリーをみてきました。
成功した結果だけをフォーカスしてしまうと「総合商社パーソンほどの能力の持ち主なら、どこにいってもやっていける」と感じてしまうかもしれません。
しかし、長澤氏が入社した当時、メルカリは普通の勢いのあるネット企業に過ぎませんでした。そして、澤田氏が選んだファミリーマートは、王者セブンイレブンに挑むチャレンジャーです。
この2人は、チャレンジできる環境が与えられるなら、多少のリスクは恐れないようです。これこそ成功する要因であり、転職後に後悔しない心構えといえるでしょうか。
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今回の記事では、総合商社からのキャリアパスについてご紹介しました。
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