【2022年】日本のM&A 動向(トレンド)・予測<2021年との違い>

直近では、M&A領域でのキャリアパスを希望される方が増えてきました。
そこで、今回の記事は、2022年における日本のM&Aの動向、展望について考察し、お伝えします。
2022年は始まったばかりですが、プライベートエクイティファンド関連のディールも含めて既にいくつか大きな案件が観測されました。まずは2021年の日本企業関連のM&Aの振り返りと、直近2022年1月のM&Aを振り返りつつ、2022年の展望を考察していきたいと思います。

【目次】

  1. 2021年の日本の「M&A概況」
  2. 2021年の「主要なM&A」
  3. 2022年1月の「主要なM&A」
  4. 前年までと比べて、2022年は「件数」や「金額」においてどの程度変化するか
  5. 2022年はどういった「理由」でのM&Aが増えるか
  6. 2022年はどういった「業界」でのM&Aが増えるか

2021年の日本の「M&A概況」

2021年の日本のM&Aの概況について、概況を示すと下記の通りです。

MARRの調査によれば、件数は4280件で14.7%増、2年ぶりに最多更新。金額は16.4兆円で11.7%増となっています。IN-IN(国内企業同士のM&A)は3337件で13.3%増、過去最多。金額は3.0兆円で8.5%減となっています。
国内企業による海外企業の買収(クロスボーダー案件)IN-OUTは625件で12.2%増。金額は7.0兆円で59.1%増であり、海外企業による日本企業の買収(OUT-IN)は、318件で38.9%増、過去最多。金額は6.3兆円で8.9%減との結果でした。
2012年以降2020年まで9年間で、M&Aのディールバリューは増加してきていますが、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受けて減少していました。

しかし2020年は若干低調であったものの、2021年は引き続きM&A案件が多く行われ、過去最高レベルの水準に達しています。この背景としては、コロナをきっかけに事業会社が、自社の事業ポートフォリオを見直し、ノンコア事業の売却、そして売却に伴い得られたcashで、新規事業や成長事業への投資を行うようなバイサイドのM&Aがあったことが想定されます。

2021年の「主要なM&A」

2021年の主要なM&Aに関しては、①日系企業による海外企業の買収(IN―OUT)、②プライベートエクイティファンドによる日本企業の買収、③日本企業によるノンコア事業の売却で解説していきます。

①日系企業による海外企業の買収(IN―OUT)

①については、日立の米ITグローバルロジックの買収が有名です。グローバルロジックは2021年3月期の売上高が9億2800万米ドル(約1030億円)、調整後EBITDA(償却前営業利益)率が23.9%で、400社以上の顧客にデジタルエンジニアリングサービスを提供している企業です。本件買収により、2021年7月の買収によりグローバルロジックは、日立のITセクターの下で日立ヴァンタラを統括するHitachi Global Digital Holdingsの傘下になります。海外企業の買収(クロスボーダー案件)では、買収側のシナジーが見込めるものとしてハイライトされました。

②プライベートエクイティファンドによる日本企業の買収

②については、複数の案件が行われています。例えば、世界有数の投資会社であるKKRは、日本でケミカル・タンク・ターミナル事業を手掛けるセントラル・タンク・ターミナル株式会社(以下、CTT)を、マッコーリー・インフラストラクチャー・アンド・リアル・アセットの関連会社より買収することで合意しています(2021年11月)。また、同様に、CVCキャピタルパートナーズアジアV(以下、CVC)は、日本最大の1対1の家庭教師サービスプロバイダーであるTRYグループ(以下、TRY)への投資を完了しています。

他にも既にKKRの傘下であるパナソニックヘルスケア(PHC)について、コンシューマ業界に特化した世界最大級のプライベートエクイティ投資会社であるLキャタルトンは、糖尿病マネジメント、診断・ライフサイエンス、ヘルスケアサービスの各事業で市場をリードし、事業の多様化を図るグローバルヘルスケア企業であるPHCホールディングス株式会社(以下「PHCHD」)へ200億円を投資しました。

このように外資系PEファンドによる、日本企業への出資や投資は積極的に行われています。

③日本企業によるノンコア事業の売却

③については、昭和電工のような日系の大手化学メーカーによるノンコア事業のプライベートエクイティファンドの譲渡があります。

具体的には、株式会社アドバンテッジパートナーズがサービスを提供するファンド及び東京センチュリー株式会社は、両者が出資する特別目的会社を通じて、昭和電工株式会社の連結子会社である昭和電工マテリアルズ株式会社が営む蓄電デバイス・システム事業(以下、「対象事業」)の譲受けに関して売主と合意に達し、最終契約を締結しています(2021年7月)。

同事業は、1916年に新神戸電機株式会社の前身である日本蓄電池製造株式会社が蓄電池の製造・販売を開始したことに始まり、日立化成株式会社及び昭和電工グループの中で、高い技術力と強い顧客接点を持つことにより、日本の自動車向け・産業向け蓄電池の有力プレイヤーとして確固たる地位を築いています。その結果、タイ、台湾など、海外事業を拡大し、グローバルな事業体制を構築していますが、昭和電工は日立化成を買収して以降、自社の事業ポートフォリオの見直しを積極的に行っておりその中で行われたノンコア事業の譲渡でした。

他にも、CVC キャピタルパートナーズは、CVC キャピタル・パートナーズ・アジア・ファンド Vが、資生堂のパーソナルケア事業(以下、「新会社」)を譲渡することについて、資生堂株式会社との間で最終合意書を締結しています。これも資生堂がややノンコアとみなしていたパーソナルケア事業に関して外資系プライベートエクイティファンドのCVCが65%を取得することで合意に達した案件です。

これはノンコア事業を単に譲渡するのではなく、コンシューマーセクターにおいて高い知見のあるCVCと、資生堂がともにパーソナルケア事業の成長を企図しており、プライベートエクイティファンドが事業成長のパートナーとして活用されている案件となります。

2022年1月の「主要なM&A」

2022年1月の主要なM&Aに関しては、まずプライベートエクイティファンド関連で、ベインキャピタルが保有していた大江戸温泉物語が、米系の投資ファンドであるローンスターに売却された案件があります。同社は2015年にベインキャピタルが約500億円で買収したものの、直近のコロナウイルスによる打撃で業績が低迷しており、プライベートエクイティファンドの投資先の中でも、コロナウイルスのあおりを大きく受けたアセットになります。

事業会社関連では最も目立ったのが、丸紅が過去に買収した穀物および肥料事業を営むガビロンのViterraグループへの売却です。丸紅は、丸紅は2013年に、穀物取引の規模を拡大するため約27億ドル(現在のレートで約3074億円)でガビロンを買収したものの、買収以降、商品価格の下落や米中の貿易戦争などが重しとなり売却の検討をしていたところ、このような結果となりました。

他にも日立が、日立物流の持ち分の売却を検討するなどのニュースがあるなど、日系の大手事業会社が親子関係にある資本関係を見直したり、シナジーのない事業会社が売却やカーブアウトにより売却を進めるサインが徐々に出始めています。
このように日系の大手事業会社の中でも、迅速に経営上の判断を行うべくポートフォリオや自社事業のコア事業・ノンコア事業の見直しが進んでおり、2022年1月だけでも複数の大手企業によるノンコア事業の売却・売却の兆しのニュースがありますので、引き続き投資銀行や、プライベートエクイティファンドにとっては絶好のビジネスチャンスになっています。

前年までと比べて、2022年は「件数」や「金額」においてどの程度変化するか

これまでのコロナウイルスによる影響の有無を考慮しても、下記のような事業会社は2022年も積極的にM&Aを行うとのメッセージを出しています。
“旭化成:2022年以降の中期経営計画で、水素製造装置や電気自動車用電池材料などの事業を拡大し、ヘルスケア分野でのM&Aを推進するとのメッセージを発信(日経産業新聞)しています”
上記のメッセージは、他の上場企業の中期経営計画でも見られ、成長セクターに適切に資源を配分し、M&Aも含め積極的に検討する傾向があると想定されます。
従って、M&Aの件数についても、2021年に引き続き増加傾向があると見込まれます。

2022年はどういった「理由」でのM&Aが増えるか

今後増えると思われるM&Aのきっかけ、理由としては以下が挙げられます。

①:ノンコア事業の売却
②:アクティビストのプレッシャーを背景にした分社化やカーブアウトの推進
③:グローバルな株安を背景にしたバリュエーション低下により、大手事業会社による攻めのM&A

①に関しては、2020年のコロナ以降の傾向から引き続き、増えると想定されます。2020年にあった主なノンコア事業の売却案件では、オリンパスが2020年6月24日、デジタルカメラを中心とする映像事業を国内ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に売却したものや、2020年7月3日には外食チェーン大手のペッパーフードサービスが低価格帯の洋食事業、ペッパーランチを国内ファンドのJ‐STARに売却した案件があります。2022年においても、各プライベートエクイティファンドの投資余力は大きく、今後もノンコア事業、シナジーの低い事業を売り、獲得したcashで成長セクターにM&Aや設備投資を行うことで企業価値を上げていく流れは加速するとみられ、そのトレンドに沿って、ノンコア事業を売却する流れが加速しています。ディールサイズは1,000億円近くの大規模なものから100億円前後のやや小ぶりな案件も含めて多くなるでしょう。

②アクティビストのプレッシャーを背景にした分社化やカーブアウトの推進については、最近の大手事業会社による自社のノンコア事業売却にその傾向が顕著にみて取れます。たとえば、セブンアンドアイホールディングスに投資しているValue Act Capitalは、ノンコア事業の売却やコーポレートガバナンスの充実を求めて重ねて提案を行っており、その流れで、セブンアンドアイはフランフランのJGIAへの譲渡、その他西武そごう事業の売却を検討しており、コンビニ事業に集中するためのノンコア事業の売却・整理が加速しています。東芝に投資している、Artisan Investment Partnersなども東芝の分社化に賛成を入れるなど、コングロマリットディスカウントが認められる日系の大手事業会社には分社化ないしはノンコア事業の売却の重要性が高まるでしょう。

③此方に関しては、2022年冬に急に全面的な株安が進み、どのセクターでもバリュエーションの低下がみられます。この傾向が金利上昇のトレンド共に継続するのであれば、資金的に余裕のある事業会社は、海外事業の買収などを含めて積極的になることが想定されています。

2022年はどういった「業界」でのM&Aが増えるか

引き続き、特定のセクターに関して言えば、DXを推進する企業がM&Aにより成長を見込むなど、テクノロジーセクターでのM&Aが増えるものと思料されます。特にSaaSなどのセクターでは、積極的に買収が行われております。 また、事業会社が自社の事業ポートフォリオを見直すことで、株主にいるアクティビストの影響も含めてノンコア事業の売却や整理は、セクターを超えて進むでしょう。 プライベートエクイティファンドは、このような事業会社のノンコア事業整理の流れを逃がさず、積極的に投資をしていく必要があり、オークション形式でディールが行われた場合には、良質なアセットであれば、多くのプライベートエクイティファンドが買手候補として名をあげて、競争力のあるプロセスが行われます。

プライベートエクイティファンドによる投資先ポートフォリオのIPOは一定程度あると思われ、また投資期間が5年を超えたような長期保有のアセットはエグジットに苦戦している場合であれば、オークションプロセスを通じて市場に出る可能性があります。

=================

>PEファンド・M&A・FASに関する記事

コンサルから投資ファンドの転職で求められるスキルとは?
https://www.axc.ne.jp/media/column-career-change-case/investmentfund

FASから投資銀行M&Aアドバイザリーに転職して活かせるスキル・必要なキャッチアップとは
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/fas_bankmanda

PEファンド入社1年目で身に付けておくべきスキル・経験【コンサル・投資銀行の方向け】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/privateequityfundfirstyear

FASからPEファンドに転職して活かせるスキル・キャッチアップが必要なスキルとは
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/fas_pe

=================

このように、コロナをきっかけとしてM&A案件は増加傾向にあり、これまで渡航制限でアクションを起こしづらかったクロスボーダー案件も含めて、ニーズが出る可能性があります。またアクティビストが日本市場においてリターンを上げられるとみて積極的に参入していること、非効率な経営やコーポレートガバナンスの改善の余地がある企業が多いことから、アクティビストによるプレッシャーを背景にしたノンコア事業の売却や分社化の推進、成長事業への投資や買収が進むと思われます。

プライベートエクイティファンドも日系・外資系も含めて、引き続き投資余力がありドライパウダーも相当積みあがっていることから、人気のあるアセットの売却案件では、オークションプロセスにおける入札が過熱し高値での買収が行われると想定されます。
2022年においても引き続きM&Aがアグレッシブに行われるでしょう。


アクシスの求人のうち、
約77%は非公開。
平均サポート期間は3年です。

各ファームのパートナー、事業会社のCxOに定期的にご来社いただき、新組織立ち上げ等の情報交換を行なっています。中長期でのキャリアを含め、ぜひご相談ください。

新規会員登録はこちら(無料)

カテゴリー、タグで似た記事を探す

こちらの記事も合わせてご覧下さい

アクシスコンサルティングは、
プライバシーマーク使用許諾事業者として認定されています。


SSL/TLSとは?

キャリア形成、求人のご紹介など
お気軽にご相談ください

新規会員登録(無料)

×