今回は、デザインシンキングをソリューションとして扱う「デザインファーム」に注目し、株式会社bridgeの代表取締役 大長伸行様、取締役 鈴木郁斗様に、デザインファームの具体的なプロジェクト事例、サービスが参加者や企業に与える影響力、そしてデザインファームが抱える今後の課題・テーマについてアクシスコンサルティングの伊藤がお聞きしました。この記事は2019年4月時点のものです。
前編「未来の事業づくりを支援するデザインファームbridgeの考える『デザインシンキングの本質』とは」と合わせてお読みください。
https://www.axc.ne.jp/media/companyinterview/bridge1
ファームも「クライアントの期待値を超えるための方法」としてデザインファームを利用
伊藤
コンサルティングファームがコンサルワークの中で、デザインシンキングを最近取り入れるようになっていると聞いています。実際に他のコンサル会社のプロジェクトの中で一緒に進めることもありますか?
大長様
あります。ファームが使う場合は、ワークショップに引き込むケースが多いですが、方法的には合気道に似ています。相手の力を使って遠くに投げたい時にデザインシンキングのワークショップを使うパターンです。
真正面から「僕たちはこう思う」というよりは、ワークショップで相手がアイディアや想い、課題を出して、相手の期待値を一度可視化したうえで、その外側で提案を行う。すると「あ、考えてくれている」となるツールとして使われているのではないでしょうか。
伊藤
特にR&Dやニューテクノロジー近辺ではPoC(概念実証・コンセプト実証)を経て本プロジェクトに入るケースが増えていると思いますが、そういった時にデザインシンキング使っているイメージもありますね。
大長様
それもあります。共同ワーク・共創、ともに作っていくと。正解がないので、クライアントのアセットや願望・エネルギーを思いっきり引き出したい際のワークとしてデザインシンキングを一緒に行います。そうしてチームを作ってからPOCを進める方が、「プロセスを受託します」というスタンスよりも良いですよね。
PJにより当事者意識を持った参加者が自ら会社を活性化していく姿に、デザインファームのサービスの本質を見た
伊藤
貴社のプロジェクト事例や、成功例を具体的に教えていただけますでしょうか。
鈴木様
電機メーカーの海外新規事業開発プロジェクトの例がわかりやすいと思います。全事業所の全社員の中からプロジェクトに参加したい社員を募って選考を行い、最終的に残った6名で、実際にデザインシンキングのフレームワークを踏襲して、海外現地でリサーチや専門家へのインタビューを英語で実践しました。
社員はイノベーションのイの字も知らないような状態から始まります。1からデザインシンキングを勉強して、現地に足を運び、色々な方にインタビューをして、そこから当事者に対して共感していきます。
参加希望者には最初に「あなたはどういう価値観を持っていて、この会社でそれをどう実現したいですか?どのように仕事をしていきたいですか?どういう価値観を貫いてどういう人生を歩みたいですか?」といった議論をしっかり固めていただきます。現地でリサーチをしてアイディアを出し、プロトタイプを作る頃には、完全に当事者意識が芽生えています。
帰国後に参加者が有志で「自分たちでこの活動を続けていきたいので、必要な予算をつけて欲しい」と直談判されている光景を見た時に効果を実感しました。また、同社では社内SNSでアイディアの共有をしたり、参加者たちが主導になって新しい取り組みを全社に広める活動を始めています。
何より「仕事が楽しくなった」と言ってくださった方もいて、それは本質的にとても良かったと思っています。誰にやらされるわけでもなく、参加者が自分から動いて活性化していくのが、デザインファームのサービスの本質であり、理想的な流れだと感じますね。
デザインシンキングをクライアント組織全体の文化として根付かせていくことが今後のテーマ
伊藤
お話をお伺いしていると、デザインシンキングはむしろマネジメントラインに効果的ではないかと感じます。ボトムアップ的に浸透させていくのは、組織上、時間も掛かりますし。
鈴木様
上と下からの挟み撃ち、両方が必要だと思います。
大長様
下からの1プロジェクトでデザインシンキングをしても、プロジェクトが終わってしまえば、そのカルチャーがなくなっていきます。仕組みとしてどう持つか、やはり人と組織の問題に移っていきます。
鈴木様
デザインシンキングは実は組織の改革・リデザインとすごく相性がいいということは私たち自身も最近分かってきました。ただ、若い人たちを研修でシリコンバレーに連れて行き、自社の現状との差に落胆し、「ウチの会社では駄目だから辞めよう」となってしまえば本末転倒です。
そこで若い研修生たちによく「反発して辞めてしまったら、負けだ」と伝えています。「いかに良い組織を社内でつくれるか?」という問いのもとに、どのように自分たちが立ち回っていくか、上の人たちを巻き込んで良い組織をつくっていくか、を考えて行動していくことが重要だと話しています。
それがボトムアップとトップダウン両面で上手くいけば、すごく良い文化ができていくだろうと見えてきたところですね。