大手外資系コンサルティングファームから独立を経て、2016年にアペルザ社を現代表の石原様と共同創業された取締役の田中大介様より、同社の魅力およびカスタマーサクセスの魅力についてアクシスコンサルティングの庄村がお伺いしました。
大手外資系コンサルティング会社から4年で独立。3社目でアペルザ社を設立
庄村
まず田中様のご経歴およびアペルザの概要からお伺いしてもよろしいでしょうか。
田中様
新卒でIBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現日本アイ・ビー・エム株式会社)に入社し、コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。
入社直後は1年に及ぶ研修を経て、製造業の生産ライン開発案件など実際のシステム開発を1年ほど経験しました。その後は、営業〜マーケティング〜納品など一連の業務に関わるオペレーション改革のコンサルタントとして活動してきました。その過程で製造業からITや通信の領域に携わるようになりました。
その後退職し独立するのですが、実はIBMに就職する前から「3年か4年で辞めて起業する」と会社に宣言していました。若かったこともあり生意気でしたが、会社からは「3~4年で起業するほど成長できるなら、その過程で会社に貢献もできるだろうしいいんじゃない」と言われていました。今思えば、本当に懐が深い良い会社でした。実際に4年務めたところで会社を退職したのですが、コンサルタントとして学んだことがなければ今の自分はなかったと思います。
退社後はフリーのコンサルタントとして資金を貯めて、2009年にアフィリエイト広告の領域で起業しました。起業のプロセスはすごく面白かったのですが、自分を含めた数名が経済的に問題ないレベルにはできてもそれ以上に事業を成長させたり社会の役に立てたりするのは難しいと感じ、2010年から市場規模も大きく、まだまだレガシーでチャンスも大きい製造業の領域で起業することにしました。創業当初はインターネットサービスを手がけていたのですが、なかなかお客様に受け入れてもらうことができず、セールスやマーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら市場の理解を深めてきました。
会社の売上が数億円後半になり、今一度インターネットサービスに投資をしてチャレンジをしたいと思った時に現アペルザ代表の石原誠と出会いました。長年キーエンスに在籍し子会社でインターネットサービスの立ち上げも経験していたので、石原には当初は事業の相談にのってもらっていました。そして議論を深めていくうちに、その構想を実現しようということで2016年にアペルザを共に創業するに至りました。
庄村
アペルザ社の事業内容や設立の思いについて詳しく教えていただけますでしょうか。
田中様
アペルザは、日本の基幹産業である製造業に特化したインターネットサービスを提供しています。日本の製造業には中小企業をはじめとして技術力が高い会社が数多くありますが、その良さを買い手にきちんと伝える、高い技術を活かしながらも買い手のニーズに合わせた商品・サービスを開発するという点で改善の余地が沢山あると思っています。またそうした取り組みをするにも、従事者の平均年齢が高くなっていたり、新たな人が採用できなかったり、働き方改革があったりで空前の人手不足に悩んでいる状況だと考えています。
アペルザは、テクノロジーやデータのチカラを活用することで、製造業のグローバルな取引プラットフォームを提供し、日本のものづくりの良さが国内外の買い手にきちんと伝わり売れること、我々のプラットフォームを通じて得た情報を活用してより良い製品やサービスが作られていくこと、同時にそれを高い業務効率で実現できることを目指しています。
そして、今はそのプラットフォームをSaaSというかたちで提供しています。2019年7月にはEight roads ventures japanやジャフコ、GMO Venture Partnersより約12億円の資金調達を実施し、これまで累計23億円に及ぶ資金調達を実施しています。
アペルザで特に大切にしているのは、事業の社会性そして事業をやる意義です。何と言っても製造業は日本が世界に誇る産業ですし、今この業界はビジネスの仕方が変わりつつあるタイミングに来ていると考えています。そこに貢献するのは日本の経済にとっても重要だと考えていますし、弊社にもそういう気持ちで入社してきている社員がとても多いですね。
庄村
田中様ご自身のキャリアを振り返って、なぜ製造業にフォーカスにしたのか、その理由について教えていただけますでしょうか。
田中様
IBMを退職し独立した後、とにかくがむしゃらに走りましたが、ビジネスが回りだしてから「あと30年この仕事ができるのか」と立ち止まりました。このままで社会の役に立つと言えるのか、と思ったのです。
そこで自分がこれまで見てきたことを振り返ると、IBM時代に担当した製造業が日本をどれだけ支えているかということに改めて実感がわいてきました。同様にどれだけ歴史がある産業かということも身をもって感じていたのでかなり大変そうだというのは容易に想像がつきましたが、これなら30~40年をかけてもいいテーマだと思えたので飛び込む決意をしました。
ビジネスモデルで言えば、起業2社目でセールスとマーケティングのコンサルタントとして一部上場企業に多く触れるうちに、本来もっと困っている中小企業がたくさんあるのではないかと感じたことは大きく影響していると思います。
それならば中小企業にフォーカスしようと考えたことは今のアペルザの構想に少なからず影響を与えていると思います。小さいけれど技術力があって魅力があるにも関わらず中小規模でとどまっている会社を支えていくほうが、業界全体が活性化するためにも良いのではないかという思いが事業に組み込まれています。
「今、スタートアップに転職するなら、カスタマーサクセスが面白い」
庄村
現在、カスタマーサクセス(CS)の責任者ポジションの採用を強化されているとのことですが、CSの業務やミッションについて教えていただけませんでしょうか。
田中様
CSは単純にお客様に継続してサービスを使っていただくだけではなく、当社のサービスを通じてお客様のビジネスに貢献し、その結果として当社の収益を最大化させる責任を担っています。つまり、契約の継続やアップセルによってお客様のライフタイムバリューをあげていくことがミッションとなります。
そのためには、単純なサービス利用サポートだけではなく、お客様の状況に合わせて的確にソリューションを提案できなければなりません。また、お客様とのコミュニケーションを通じて得た情報をプロダクトや事業企画、営業にフィードバックすることも重要な役割になってきます。特にアペルザのように業界を絞って事業を展開している場合、お客様の数は限られてきますので1社1社のお客様のビジネスにどれだけ深く入り込み、ライフタイムバリューを上げられるかがとても重要です。まさにCSは事業の生命線になるのです。
庄村
コンサル出身の方々にとって、アペルザのCSの責任者ポジションの魅力はどこにあるのでしょうか。今後のキャリアパスを含めてお聞かせください。
田中様
CSの責任者として結果を残していければ、事業責任者になりうると考えています。その理由をいくつかお話ししたいと思います。
まず、CSはお客様と日頃から深く向き合うチームです。ですから、お客様の情報が一挙に集まってきます。そうした情報を活かして、プロダクトの企画にも積極的に関わって欲しいと思っています。CSの責任者はこれ以外にも重要な業務がいくつもあるため、プロダクトの企画を練り上げていく責任は事業企画というチームが持つことになりますが、CSが持っている情報なくして企画はできないと思います。
次に、CSはオペレーション設計を担うチームです。私は「プロダクトさえあればお客様に価値を届けられる」とは思っていません。良いプロダクトとお客様を支える良いオペレーション、この2つがあって初めてお客様に価値を届けられると考えています。また、極端に言えばプロダクトは真似をすることができても、オペレーションを真似することは難しいと考えています。ですから、CSは重要です。そのオペレーションを作り上げる過程でお客様には見えないプロダクトの開発をリードいただく可能性もあると思います。例えば、社内で使うダッシュボードやCSの活動を支えるプロダクトなどはお客様には見えませんが重要ですし、CSの責任者がリードしていく必要があると思います。その他にもCSが作るオペレーションは営業のあり方や経理をはじめとした管理のあり方にも影響します。CSはそれほど重要なのです。
さらに、CSの責任者は良い人を採用し、良いチームを作るという役割も持っています。今後、事業責任者となる方にはチームマネジメントも求められてくると思いますので、やはりCSは良き登竜門となり得るのです。
最後に、BtoBのSaaSのCSはまだセオリーや知見が蓄積されきっていない領域なので、自ら考えて実践し、PDCAを高速に回しながら解を見出していかなければならず、道なき道を行く大きなチャレンジになると思っています。このチャレンジを楽しめる人にとっては、とても楽しい仕事になると思います。
今後、スタートアップでCSとして実績を残された方の市場におけるバリューは、かなり高くなっていくと思います。それは、事業開発や事業企画に比べて全く劣らないどころか、むしろCSのほうが高くなる可能性すらあると思っています。ここまでお伝えした内容で、今スタートアップで転職するならカスタマーサクセスが面白いと申し上げたのも納得していただけるかなと思います。
庄村
他のSaaSスタートアップに比べたときに、アペルザの特長はどこにありますか。
田中様
アペルザには製造業に特化したVertical SaaSだからこその良さがあると思っています。基本的な構造としてVertical SaaSは、全ての産業を対象としたHorizontal SaaSに比べて、ターゲット企業数が限られます。場合によっては、10分の1くらいのターゲット企業数しかないかもしれません。そのため、1つのプロダクトで広めるという戦略ではどうしても収益を伸ばすのに限界が生じます。我々のようなVertical SaaSはあるプロダクトを入り口としつつ、お客様のバリューチェーンを意識して、プロダクトの幅を広げていくような戦略を取ることが多いように思います。ですから、プロダクトが広がるたびに新しい事業企画やCSの設計がテーマになり、チャレンジが尽きないと思います。
また、Horizontal SaaSはアメリカを中心として資金調達力に勝り、言語の優位性に勝る企業が世界中に沢山あります。一方で製造業は日本が元来世界的に見ても優位性がある領域で、世界中の人が日本の技術力のある製品を探しています。当社はまだ日本語サイトしか提供していませんが、それでも世界中から問い合わせが来ているのです。つまり、アペルザのビジネスは、日本発のスタートアップとして取り組む意義がある、優位性があるアプローチだと思っていて、世界にチャレンジできる可能性を秘めているのが良さだと思っています。
コンサルティングファーム出身者はCSをリードしていける可能性が高い
庄村
特定の分野でのコンサルタント経験がある方を求めていらっしゃいますか。
田中様
恐らく今までやってきた業務の経験がそのまま活きるということは少ないと思うので、コンサルティング経験について厳密な条件を考えているわけではありませんが、オペレーションを設計してきた経験があればとてもプラスだと思っています。
また、マネジメントという意味では事業会社での経験も活きるので、コンサルタント一筋という方だけでなく一度コンサルティング業界を離れ事業会社での経験をお持ちの方にも興味を持っていただけると嬉しいです。
製造業の経験はゼロでいい、大事なのはゼロベースで学び直す姿勢
庄村
現在CSで活躍する方の共通点について教えていただけますでしょうか。
田中様
目標は明確だけれどやり方は曖昧で自由度が高いという状態で、自分で道筋を設計して着実に実行できるというタイプは活躍できるという印象を持っています。こいうタイプの人材は、学ぶのも速い印象を持っています。
庄村
日ごろコンサル出身の方にアドバイスされていること、またこれからCSチームにジョインするコンサル出身の方にアドバイスしたいことなどありますでしょうか。
田中様
今までの当然が当然ではない、ゼロベースで学び直す姿勢が大事だと考えています。例えば、コンサルタントとしては当たり前だったような人との接し方が時としてストレートすぎてチームの仲間たちが動いてくれないケースもあるかもしれません。
また、上流を生業とする一部のコンサルティング会社ではあまり経験しないかもしれませんが、弊社は事業会社なので時として実践しながら考える姿勢も大事かもしれません。自ら現場へ出ていく、情報を収集するといった動き方ができないと苦労するポジションかと思います。
庄村
「業界知見が必要か」という観点での質問です。製造業というインダストリーでの経験がない方も採用対象に入るのでしょうか。
田中様
よく聞かれますが、面白いことに入社前に製造業界の経験や知識は全く必要ありません。我々が扱っている領域には3500カテゴリー/800垓(がい)という種類の商品があると言われています。そうなると、あるカテゴリーと数十種類の商品に詳しい人はいても残りの商品分野は無知という人がほとんどです。つまり、どんな経歴の人でも入社後に学ぶことの方が多いわけなので、大切なのは製造業の知識ではありません。むしろ我々はインターネットやITの企業であり、スタートアップなのでそうした経験の方が活きることが多いかもしれないと思っています。
今後は海外展開に注力
庄村
今後注力して取り組もうとされているポイントはありますか。
田中様
海外展開です。海外には「日本の製造業に詳しい」というだけで、門戸を開けてくれる企業が多くあります。つまり、日本の製造業のことをもっと知りたい人たちが沢山いるのです。
通常、プラットフォーマーとして海外展開する場合、売り手も買い手も現地で集客しないといけないことが多く、あえて日本人が挑むアドバンテージとは何なのか考えさせられるケースが多いと思います。その点、製造業に特化した我々であれば、日本の商品をそのまま海外に持ち込める利点があります。そういう点からも日本人が海外へ展開する意義が高い業界であると実感できますね。当社には海外への挑戦を視野に転職してくる方もいます。今は国内でやらなければいけないことがいくつかありますが、早い段階で挑戦したいですね。
庄村
どのように海外に展開する考えなのでしょうか。
田中様
製造業はグローバル化が進んでいるので、実は中小企業であっても海外展開をしていたりします。そのため、日本のお客様からは国内の本社と海外の支社の間の取引に弊社の仕組みを使いたいというご要望を頂戴することもあります。まずはこうしたニーズから捉え、徐々にローカル企業に浸透していくのではと考えています。他の産業では同様の展開をしていくのはかなり難しいので、製造業って本当に面白いですよね。歴史があり、巨大な産業なだけに大変なところも沢山ありますが、30~40年かけて挑戦する意義があるビジネスだと思っています。