今回は、2004年創業以来、日本におけるデータビジネスのパイオニアとして確固たる地位を築いてきた株式会社ブレインパッドへのインタビュー。大手総合コンサルティングファーム出身で現在ブレインパッドのAIビジネスプロデューサーとして大手企業をはじめ多数の企業を支援する 韮原祐介様に、入社の背景から、コンサルティングファームやベンダー、他AIベンチャーと比較した際のブレインパッドの強み・特徴・魅力などについてお聞きしました。
大手コンサルティングファームからブレインパッドへ、韮原様のご経歴と入社の背景
黒沼
韮原様のご経歴を教えてください。
韮原様
新卒で大手外資系コンサルティングファームに入社し、戦略策定、組織・人事改革、システム改革などに従事していました。また2012年~2014年にかけてシンガポールに駐在し、ASEAN地域における日本企業の海外進出支援などを行っていました。当時から組織や人事におけるデータ利活用の重要性を認識していましたので、講演会などでお話をしたりもしていました。
黒沼
コンサルティングファームからブレインパッドに入社された理由を教えてください。
韮原様
リーマンショックが起きた際、コンサルティングファームは企業の抱える課題に対して、「経営のアドバイザーです」「経営を導きます」と謳いながらも、不況でお客様が経営危機に陥ると仕事が減少する傾向に矛盾を感じました。
勿論、不況だからこそ伸びる領域やファームもあるのでしょうが、多くの場合、クライアント企業がコンサルティングファームに仕事を依頼するのは、経営危機だからではなく、経営成績が良いからなのであり、そもそも発注のロジックが逆転しているのです。
事業の行く末まで責任を持てる仕事に就きたい、ピンチだからこそ頼られる立場で仕事がしたい、と感じたことが転職を意識したきっかけですね。
加えて、今の日本企業及び日本経済のビジネスモデルは、半世紀以上前の先人たちが作り上げたもので、今の時代においても新たに大企業となるようなベンチャーが生まれていかなければ、これからの日本企業及び日本経済はもっと深刻な状況になるのではないかと、危機感を持つようになりました。
当時は勢いのあるベンチャー企業といえば、ネット広告やゲーム会社などでしたが、私の場合はこれらの業界以外のもう少し朴訥としたベンチャー企業で今後の日本の成長を支えるような会社があったら行きたいなとなんとなく思っていました。その中で、ブレインパッド会長の佐藤と社長の草野と出会い、両者の経営者としての考え方やビジョンに共感し、そしてお互いに意気投合したこともあり入社を決めました。
韮原祐介様
「AIやビッグデータが日本でブームになる前からブレインパッドはデータを活用したビジネスを進めてきた」
黒沼
コンサルティングファームと比較した際の、ブレインパッドの魅力を教えてください。
韮原様
コンサルティングファームは、基本的に顧客の持つ情報・知識を借りて、ビジネスを具現化したり、問題解決のためのストーリーを作り上げていきます。
一方、ブレインパッドは2004年創業来、分析力とエンジニアリング力を併せ持つビッグデータカンパニーとして、「自分たちの技術を使って顧客に独自のソリューションを提案できること」が、コンサルティングファームとの大きな違いだと感じています。
2015年に、東大松尾教授の著書『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』という本の中で、「ディープラーニング」「機械学習」「人工知能」という言葉が使われていました。しかし、それ以前からブレインパッドではこれらの技術を使っていました。
2012年に画像認識コンペ(ILSVRC)で、トロント大学のジェフリー・ヒントン教授率いるチームがディープラーニングを用いた手法で勝ち、その後2014年や2015年頃にはクライアントから「ディープラーニングでこういうことができないか」という相談がすでに来ていましたし、クライアントの現場での実戦経験を積んできていました。
黒沼
自分たちの技術を使って独自の提案ができる点が強みになるのですね。
韮原様
そうですね。2018年頃に、コンサルティングファームやSIerなどが本格的に参入してきたときには、すでにブレインパッドでは機械学習のプロジェクトを多数進めていましたし、同時期には私自身も機械学習の方法論を出版(*)して、こうした新しい技術をどのように経営の現場に生かしたらよいかをまとめました。
(*)『いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本 人気講師が教える仕事にAIを導入する方法「いちばんやさしい教本」シリーズ』
コンサルティングファームでもデジタル部門や新会社を立ち上げるケースが増えてきましたが、ブレインパッドには現在150人超のデータサイエンティストがいます。また、AIやビッグデータなどがブームになる前からブレインパッドはデータを活用してきたので、戦略ファームに頼んだ案件をブレインパッドでやり直したいという相談をうけてはじまる案件もあれば、戦略ファーム側がデジタル組織を持っていてもお客様の要求に応えきれないという場面で、ブレインパッドに相談いただき一緒にプロジェクトを進めるケースもあります。どんなケースでもお客様を支援できる点が、ブレインパッドの強みです。
黒沼
他社のAIベンチャーとの違いという観点ではいかがでしょうか。
韮原様
ここ2~3年の間にAIベンチャーが増えてきた中で何が違うのかと言うと、老舗感だと思っています。2015年頃、ディープラーニングで儲かるのかチャレンジしてみたいと考えたときに競合はいなかったですし、むしろAIをビジネスに適用するという領域については、本国アメリカのGoogleから「クライアントの相談に乗ってくれ」と言われたこともあります。
AIベンチャーという枠の中で競合と戦っているわけではなく、我々はマーケットづくりや、クライアントに新しい仕事をつくるところで勝負しているので、同じことをやろうとしている競合はほとんど見当たらないように思います。その辺りがブレインパッドの特徴でありAIベンチャーとの違いではないでしょうか。
「SIerでも、コンサルでも、ツールベンダーでもなく、そのすべてを組み合わせたフルケイパビリティを提供している」
黒沼
コンサルティングファームからの転職を目指される方には、「企業の経営課題に対し提案をして終わりになることが多い」という悩みを持つ方も多い印象なのですが、ブレインパッドの場合はいかがですか。
韮原様
お客様と一緒に課題解決に取り組むため、提案して終わりというプロジェクトはあまりありません。機械学習のモデルを作り、お客様のシステムに入れて、日々の業務で継続して使っていただくというビジネスモデルですので、レポートを納品しておしまいとはならないですね。
我々の場合、構想フェーズで試す価値のあるものなのか、技術的にも実現可能なのかを試した上で、実装フェーズに入り、実装後はモデルが劣化する可能性もあるのでメンテナンスをしていくなど、ビジネスモデル的に私たちはSIerでもなく、コンサルでもなく、ツールベンダーでもなく、そのすべてを組み合わせたフルケイパビリティのサービスが提供可能です。
黒沼
具体的なプロジェクトを教えてください。
韮原様
実際に私が今プロジェクトでチャレンジしているのが、システム開発の新たな手法の構築です。日本企業においては、ソフトウェアやシステム開発を外部のSIerに依頼をするケースがほとんどですが、開発サイクルが数カ月から数年にも及び、改修にも時間を要します。
一方、Amazonなどは、年間3,000万回システムの改修をしていると言われ、1日に数万回のペースで顧客の反応や市場環境、競合に合わせてシステムを改修しています。同じく世界のテックジャイアントたちは、自分たちでシステムを開発し、自分たちで改善をする。今はそのサイクルを高速回転することが非常に大事なテーマになっており、それをベンダーにシステム開発を頼り切っている典型的な日本の企業でも同じようなことができないかチャレンジしています。
また一昔前は、日本はあまりサイバー攻撃の被害も重要視されていませんでしたが、これからは、よりデジタルなサービスで顧客の心をつかみ、モノを売り、サービスを届けることが求められる時代になってきているので、最近では新サービスがサイバー攻撃に狙われることも増えてきました。その際、外部にシステム開発を任せておくと、社内ではスピーディーに対応ができません。ブレインパッドでは、高速開発と改善を繰り返す開発手法「DevOps」に、セキュリティを強化した「DevSecOps」導入にも力を入れていて、メンバーがカンファレンスに登壇したりと最新の知見をディベロッパー・コミュニティに共有しています。
「空き時間に研究することを歓迎する文化」が、メンバーと会社の技術的成長を促し続けている
黒沼
ブレインパッドが先見の明を持って動ける要因はどこにあるとお考えですか。
韮原様
大きく2つあります。まず創業時の理念やマーケットによるポジショニングがよかったこと、そして現場のデータサイエンティストやエンジニアたちがそれぞれ興味のあるテーマを空き時間などに研究することが推奨されていることだと思います。
ですから、例えばオープンソースを使って趣味で麻雀の点数の自動計算機を作る新入社員がいたり、新しい技術やツールを使いこなせる人がブレインパッドでは育ちやすいのです。こういう話をすると、技術好きや、技術のバックグラウンドが必要なのではないかと思われるかもしれませんが、コンサルティングファームでも知識のないところからプロジェクトで経験を積んで専門家になっていくわけですから同じです。データ活用に興味があれば技術に詳しくなくても、AIビジネスプロデューサーとして活躍している人は多数存在しています。
ブレインパッドでデータを活用した複数のプロジェクトを経験すれば、業界的に専門家になれます。すると必然的に、事業会社のデジタル部門の責任者やコンサルティングファームのデジタル部門で圧倒的に成果を出せるようにもなると思います。またブレインパッドの卒業生には、名前を言えばわかるようなウェブサービス企業のデータサイエンス部門の要職に就いている人や、テクノロジーとマーケティングスキルを活用して起業した人などもいます。ブレインパッドで一流に仕事ができれば、外に出てもぶっちぎりの一流になれると思います。
アスピレーションがあり「仕掛けていける人」を求めている
黒沼
プレインパッドが求める人材について教えてください。
韮原様
「仕掛けていける人」ですね。ケイパビリティは後から付いてきますので、自分の中に強い渇望や野心つまりアスピレーションがあるなど、マインド面が大事です。ブレインパッドという場をフルに生かして、自分を成長させたいとかクライアントの役に立ちたい、業界初のことに挑戦したいと思える人がいいと思います。
私自身のアスピレーションは何か言うと、少し前までは機械学習が健全に市場で伸びてほしいという思いがあり本を執筆したのですが、今は先述のデータ活用に必要なシステム開発方法や、そこに蓄積されたデータをもとにサービスの改善を迅速に回すことでサービスの評価が高まるという好循環サイクルを回していくことを、お客様側自身でできるようになることが大事だという思いがあります。結局は人材育成であり組織のカルチャー変革に行きつくのですが、そうした自分のやりたいことを、取り組んでいるクライアントにぶつけて、プロジェクトを進めていたりします。こうした意味で、型にとらわれない、自分のスタイルで仕事していきたい人には楽しい環境だと思います。
ブレインパッドは個が尊重される会社なので、「私はこう思う」「こういう挑戦をしたい」という意志に対し、そこに共鳴し合う仲間が多数おり、量子コンピューターがおもしろいという人もいれば、TensorFlowを広めるコミュニティを作ってオーガナイザーとして活動している人などもいます。活動の幅は本当に広いです。
黒沼
まさに個人のアスピレーションを実行に移せるというのがブレインパッドの魅力なんですね。
韮原様
そうですね。ただ一方で、これまでは各サービスの独立性が強かったので、「一連の流れとしてデータ利活用を支援してほしい」という顧客の声にまだまだこたえきれていない実態もあります。事業ごとの専門家はいるので、各事業を横断的に理解し「仕掛けていける人」にジョイン頂き、総合的にデータ利活用コンサルティングサービスを顧客に提供していきたいと思います。それを推進する役割を担うのが、AIビジネスプロデューサーなのです。
黒沼
ブレインパッドで活躍できる人物像についても教えてください。
韮原様
お客様に対し、構想を策定して終わりではなく、技術を理解した上で中身のある提案をしたい、という気持ちの人は向いていると思いますね。コンサルティングファーム出身者も多数在籍しています。活躍している人達の共通点はそこだと思います。