今回は、宇宙に関連した事業開発からコンサルティング、メディア事業まで、日本宇宙ビジネスのプラットフォーマーとして業界をリードする株式会社デジタルブラストへのインタビュー。
同社を創業した代表取締役CEOの堀口真吾様に、創業の背景や、サービスの特徴・強みなどについてお聞きしました。
コンサル・新規事業・メディア3つの軸で事業展開
安形
堀口様のご経歴を教えてください。
堀口様
私は新卒で野村総合研究所に入社し、金融系システムのエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。その後、日本総合研究所(以下、日本総研)、ベイカレント・コンサルティング等を経て2018年12月にデジタルブラストを創業しました。
安形
デジタルブラストを設立した背景を教えてください。
堀口様
日本総研に転職して以降、主にハイテク領域や官公庁宇宙産業を担当してきたのですが、これまで宇宙産業は、国の事業として行われてきたためアカデミックなイメージが強く、民間企業が参入しにくい雰囲気がありました。
しかし、当時米国では民間企業の宇宙事業への参入が相次いでおり、今後、日本の宇宙産業にも民間企業の参入が進めば大きなビジネスチャンスにつながるのではないかと考え、これまでの経験やネットワークを活かして宇宙事業を立ち上げました。
安形
現在デジタルブラストで行っている事業の概要を伺ってもよろしいですか。
堀口様
デジタルブラストでは、主に3つの軸で事業を展開しています。
1つ目が、ビジネスコンサルティング事業です。クライアント企業に対して、事業戦略の立案やプロジェクト推進支援、DX推進支援など、宇宙領域に留まらず幅広く手がけています。また、宇宙のノウハウを地上に転用し、デジタル事業と組み合わせたサービス提供も行っています。
2つ目が、新規事業開発です。宇宙に関わる新規ビジネスやエコシステムを自社で開発し、民間宇宙ビジネス市場の拡大に貢献しています。その一例として当社では、国際宇宙ステーション(ISS)での利用を目指した重力発生装置の開発を進めています。これは、遠心力で“月面の重力”と“地球環境の重力”を同時に発生させて、植物の遺伝子にどのような変化が生じるかモニタリングができる実験装置です。現時点では、そこで抽出される植物の遺伝子から、植物の成長剤への活用を構想しています。
3つ目が、メディア・広告事業です。コミュニケーション事業部では、宇宙情報発信メディア『SPACE Media』を運営しています。宇宙の知見や知識を広めることで、より多くの民間企業が宇宙ビジネスに参画できるよう、記事執筆や動画制作などのコンテンツ作りにも力を入れています。
事業戦略やDX支援から、宇宙環境や衛星データを活用したコンサルティングサービスまで
安形
続いて、コンサルティング事業についてお聞きします。宇宙領域のコンサルティングの具体的な案件を教えていただけますか。
堀口様
例えば、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のテーマを挙げると大きく2つあります。1つ目は、宇宙環境利用系のコンサルティングです。現在、JAXAでは、国際宇宙ステーションの日本実験棟である「きぼう」の民間開放を進めています。それに伴い、我々は民間の事業者に向けたプロモーション支援や、各機関のアライアンス支援などを手がけています。
2つ目は、衛星データの活用です。同じくJAXAでは、保有している地球観測データを広く民間でも活用していきたいという意向があるため、我々はそれに向けたリサーチや政策提言などを行っています。
例えば、損害保険会社では、衛星データを活用することで、住宅の損害や災害状況が一目で判断でき調査に必要なリードタイムを短縮することができます。また、東南アジアを中心に衛星から人口を面で捉えて不動産価値を算出したり、また衛星データとGDP(国内総生産)や経済指標をマッピングさせて今後の経済予測に活用したりするケースもあります。
他にも、スペースXの通信衛星である「スターリンク」を活用して、例えばアフリカなどまだ通信が整備されていない地域に、基地局を最小限に抑えて通信環境を整える取り組みをしています。これは今、世界中で注目されている衛星データの活用です。
安形
ちなみに、全体のコンサルティング案件の中で、DX推進など非宇宙領域のコンサルティングはどのくらいの割合ですか。
堀口様
宇宙に関連しないものが6割、宇宙に関連するものが4割です。今は、DX推進などの非宇宙領域のコンサルティングを切り口にクライアントの課題解決を行っていますが、中長期的にはクライアントが宇宙領域で事業を検討される際に1番に想起される会社でありたいと思います。
宇宙専門家×コンサルタントで技術的な側面から支援できるのが強み
安形
他のコンサルティングファームにおいても宇宙領域のビジネスを展開されているユニットやセクターがありますが、その中でも御社の強みは何だと思いますか。
堀口様
宇宙領域に特化した専門家とコンサルタントがタッグを組んでサービスを提供できる点が強みだと思います。特に宇宙領域は、専門家の協力がなければ進められません。その点、当社ではもともとJAXAと仕事をしてきたメンバーが在籍しています。ですから、宇宙領域においては技術的なところまで踏み込んで論点や課題を出していけるというのが当社の強みですね。
また、実際に自社事業を行っている点も特徴です。当然、他社でも自社事業を取り入れているところは多いのですが、当社では自社事業でマネタイズできるところが強みですね。具体的には、自社で宇宙開発装置を作り、各機関とアライアンスを組みながら民間企業を巻き込んで事業を行っています。
安形
一般的に自社事業を軌道に乗せてマネタイズするのはとても難しいと思いますが、御社ではどのようにマネタイズしているのですか。
堀口様
まず、宇宙実験装置自体の利用料です。その中には、実験装置を使用するために必要な技術的サポート料なども含まれています。また、実験によって蓄積したデータをクライアント側がデータビジネスとして活用するために、コンサルティング事業へとつなげていくのが一連の流れですね。
安形
ちなみに、これまで御社だからこそ「できた」という案件があれば、教えていただけますか。
堀口様
宇宙に関する事業デューデリジェンス(以下DD)でしょうか。財務DDや法務DDの業務であれば、会計事務所や弁護士事務所でできますが、戦略や事業シナジーのDDでは宇宙領域の知見がなければできません。一般的なDDのスキームに加え、宇宙領域の事業DDができたというのが当社特有の面白い案件だったと思います。
安形
大手メーカーなどでも宇宙事業に取り組まれておりますが、御社で宇宙領域に携わるメリットを教えてください。
堀口様
大手メーカーでは、専門領域が細分化されているため、例えばロケット製造では、ロケットの燃焼部分、制御部分と分かれてしまいます。一方、当社では企画立案から事業化まで一気通貫で自社の事業化に関われるため、幅広い経験が積めるのがメリットですね。
宇宙データを活用したDX推進を切り口に、宇宙探索領域にも市場を拡大したい
安形
今後、御社のビジネスの展望について伺ってもよろしいでしょうか。
堀口様
今年日本の宇宙関連予算は5,000億円となり、世界各国でも宇宙関連の予算は上がっているものの、宇宙産業市場はまだまだ伸びしろがあると思うんです。例えば、月面などを目指す宇宙探査の領域では、今なお国が主体となって市場を形成しており、民間企業の間で動きはほぼありません。
一方で、宇宙産業はただ宇宙を目指すだけの市場ではないんですね。宇宙データを地上に転用すれば、DXでビジネスを成長軌道に乗せることができる。すると、自然と宇宙に参画する企業も増えて宇宙がもっと身近になってくるはずです。我々は、今まで国が主体となっていた宇宙探索の領域にも、民間企業が参画できる土壌を作っていけるように今後も事業を進めていきたいと考えています。
安形
御社のビジネスの中で特に伸ばしていかれたい領域はありますか。
堀口様
全部の領域を伸ばしていきます。特に現在は、自社事業で開発を進めている“重力発生装置”や、衛星データ×地上データの“衛星データプラットフォーム”などの商品化を目指して注力しています。もちろんコンサルティング事業においても、より高度なコンサルティングテーマにチャレンジして、お客様の課題解決を導いていきたいと考えています。
日常的に“宇宙”を意識しながらコンサル経験が積める
安形
御社のコンサルタントにとって事業の面白さや魅力は何でしょうか。
堀口様
宇宙を意識しながらコンサルティングができることです。たとえ宇宙領域に関わらない業務に取り組んでいても、どこかのタイミングで宇宙が出てくるというのは、他のコンサルティングファームではほとんどありませんよね。社内に目を向ければ、日常的に宇宙のテーマが動いていますし、全員参加型ミーティングで宇宙領域に関われるという点ではかなり魅力的だと思います。
安形
メンバーをプロジェクトにアサインする際に、気をつけていることはありますか。
堀口様
基本的にコンサルタントは1人1案件になります。もちろん「宇宙領域をやりたい」という希望があればなるべくアサインをしますが、宇宙だけだとその領域だけで考えてしまうため面白い示唆が出ないんです。他の業界に携わりながら宇宙領域に入る方が、宇宙領域だけに携わるよりもシナジー効果が期待できます。
安形
御社の組織に対しては、今後どのような組織作りをお考えですか。
堀口様
経営者を生み出していける組織を目指しています。例えば、自ら「事業を作りたい」と手を挙げたメンバーには、そこに積極的に出資をして子会社化するなど。サイバーエージェントのような組織体となって、経営人材をどんどん生み出していきたいですね。
安形
経営者を輩出するためのプラットフォームのような会社を目指しているのですね。それに対してすでに何か取り組みをされていますか。
堀口様
社内で「デジタルブラストベンチャーズ」というビジネスコンテストを行っています。これは宇宙領域に関わらず、役員陣に新規事業案のプレゼンを行い、優勝者には新規事業に見合った出資が受けられるという企画です。先に述べた“衛星データプラットフォーム”は、実際にビジネスコンテストから生まれたもので、現在事業化に向けて取り組んでいます。
デジタルブラストが求める人物は、情報感度が高く視野の広い人材
安形
御社が求める人物像を教えてください。
堀口様
情報感度の高い方ですね。宇宙はさまざまなことが組み合わさって初めて価値が出る領域です。ですから、多くのことに興味関心を持っている方に応募していただきたいと思っています。「私は宇宙領域だけしか興味がありません」という方ではなく、その領域を活かしつつどう転用していくか、もしくは足りないところはどうやってスキルを身に付けていくか、そういった思考ができる方がいいですね。
安形
エンジニア出身の方で、コンサルティングファーム未経験の方でも御社で活躍できますか。
堀口様
問題ありません。エンジニアからコンサルタントへ、もしくは事業開発側へ行くことも可能です。
安形
現在働かれている方たちが、御社に入社した決め手は何だと思いますか。
堀口様
やはり自社事業ができる、宇宙領域のビジネスに関われるという理由だと思います。また、我々はベンチャー企業なので、大手のコンサルティングファームと比べると人数が少なく領域も細分化されていないんですね。そのため1人が担当する領域が広いのも特徴です。組織の中で裁量を持って働きたいという方にも選ばれる環境だと思います。