デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)において気候変動や再生可能エネルギー、生物多様性、人権、サーキュラーエコノミー、資源問題など多様な社会問題の解決を目指すSustainabilityユニット(以下、SUS)。2022年にユニットが立ち上がり、持続可能な社会をつくるために官民双方へのコンサルティングを行っております。
今回は、同ユニットの丹羽様(パートナー)、加藤様(パートナー)、川村様(マネジャー)、澤田様(シニアコンサルタント)に、ユニットにジョインされた経緯、SUSのミッションやサービス内容、具体的な官民双方からのニーズやマーケットの状況、今後目指す組織の姿などについてお聞きしました。
デロイト トーマツ コンサルティング SUS 丹羽様、加藤様、川村様、澤田様のご経歴
梅本
まずは丹羽様から、ご経歴をお聞かせいただけますでしょうか。
丹羽様
私は、これまで製造業向けのコンサルティングや環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て、DTCに参画しました。
入社当時はまだ、気候変動の領域を扱うコンサルティングファームはほとんどありませんでした。そういった中でもDTCは、サステナビリティ領域を自社の強みにしようと取り組んでおり、その姿勢に共感し入社を決意しました。現在はDTCのパートナー、かつSUSユニットのリーダーを務めています。
加藤様
私はシンクタンク、戦略コンサルティングファーム、再生可能エネルギーの事業会社を経てDTCにジョインし、現在はDTCのパートナーを務めています。SUSユニットでは、GX領域のチームをリードしており、官公庁向け、民間企業向け半々の割合で事業をおこなっています。
川村様
私は現在、SUSユニットでマネジャーを務めています。前職はシンクタンクに在籍し、シミュレーションモデルを用いた長期ビジョンの策定やカーボンプライシング等の官公庁支援、運輸部門の脱炭素化を中心とした民間支援をメインに従事していました。新たな環境でチャレンジしたいと考え始めた矢先、エージェントからDTCの紹介を受けました。以前から、SUSユニットが有する先進的なシミュレーションモデルを用いた官公庁の審議会での発表資料は拝見しており、前職ではDTCと共同で事業を実施する機会もあったため、ある程度事業を理解した上で入社しました。
澤田様
私は、1社目が政府系機関の独立行政法人で日本企業の海外展開のための支援を行っており、その後、ベンチャー企業であるリサイクル製品のメーカーで海外営業を担当しておりました。その中で、干ばつや廃棄物といった問題を目の当たりにしたことを機に、環境分野における専門家になりたいと考えるようになりました。
DTCを選んだ理由は、行政から国民の行動変容までアプローチできる幅の広さとテーマの広さです。また、私自身コンサルタントは未経験でしたが、DTCでは人材育成が他のコンサルティングファームよりも充実していると思い入社しました。現在はシニアコンサルタントとして、官公庁と民間企業それぞれ50%の割合で担当しています。官公庁向けは脱炭素、ダイバーシティ&インクルージョンを含めたサステナビリティな都市づくりに向けた戦略提案を。企業向けは主に廃棄物の削減やリサイクル向上に向けた取り組みを提案しています。
最先端ソリューションへの積極的な投資や、官民双方の意識改革を通して持続可能な社会をつくる
梅本
改めて、SUSユニットの概要や特徴を教えていただけますか。
丹羽様
SUSユニットは立ち上げから10年ほどを経て2022年にユニット化しました。現在、他社と比較しても大きな陣容となっています。その中で主に次の2つ、次世代エネルギーやカーボンニュートラルなどを専門とするチームと、サステナビリティ全般を取り扱うチームで構成されています。
特徴は、気候変動や再生可能エネルギー、水素、エネルギーインフラ改革、生物多様性、人権、サーキュラーエコノミー、資源問題に加えて、環境教育、人口減少による雇用問題までサステナビリティ課題を全般とした幅広い社会課題のテーマを扱っている点です。
日本企業が気候変動と経営とが結びついていない初期の段階から、社会問題となると考え、官公庁と連携して日本TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の初期府普及を図っていました。その後民間企業への実装を支援する取り組みを実施います。さらに、経済産業省の委員会でも取り扱っている『エネルギーシミュレーションツール』や『GHG可視化プラットフォーム』、他にもAIを使ったシナリオ分析ツール『Climate Metrics』を開発するなど最先端なソリューション提供をおこなっています。
加藤様
『エネルギーシミュレーションツール』というのは、2050年のカーボンニュートラルに向けてどのようにエネルギー技術が導入されていくのか、電源構成や電力コストなどをシミュレーションできるツールです。
また『GHG可視化プラットフォーム』とは、企業自身が排出するGHG(Scope1、Scope2)だけでなく、サプライチェーン全体で排出されるScope3でのGHG排出量を算出して、それをどのように削減するかシミュレーションできるツールです。
コンサルティングをする上で、クライアントに対し知恵を出したり、専門性を提供したりすることは必要不可欠です。とはいえ、それだけでは他社との差別化にはなりません。
このように我々は専門性を提供するだけでなく最先端のソリューションやアセットの開発にも積極的に投資をおこなっています。
梅本
10年以上にわたって官民双方を支援していらっしゃるとのことですが、もう少し詳しく教えていただけますか。
丹羽様
我々は官公庁向けに政策提言を行い、ルールを策定して、その後、民間企業に推進させていく一方で、民間企業から必要なニーズを引き出し、それを政策に反映していきます。そういった双方向のフィードバックをループさせながら、それを原動力として事業に取り組んでいます。
直近の事例を挙げると、環境省主催のネイチャーポジティブ経済研究会において、生物多様性の研究会の運営に携わりました。ちなみに生物多様性は、気候変動に続く問題であり、気候変動の上位にある課題です。自然を回復させるために生物多様性の損失をくい止めていくには、単に自然保護という観点だけではなく、気候変動対策やサーキュラーエコノミー(循環経済)と統合的に捉える必要があります。そういった視点を踏まえ、民間企業では「どのように経済活動まで落とし込んでいくか」まで議論し取り組んでいきます。
我々は持続可能な社会をつくるために官民双方の意識変革を目指していくこと。そして、他のコンサルティングファームにはできない新たな領域にチャレンジしていくことがコンセプトになります。
「環境と経済の両立」を支援するのが我々の役目
梅本
改めてですが、サステナビリティという文脈において、官公庁や民間企業では具体的にどのような課題意識を抱えていますか。
丹羽様
そもそも多くの民間企業がサステナビリティを推進する上で、「企業の経営体力は向上するのか」「企業価値にどう結び付くのか」が分からず曖昧になりがちです。とはいえ、少子高齢化が進む日本においては、企業はコストを最適化し、かつ脱炭素化に取り組みながら効率的に社会インフラを維持していくことは今後、絶対に必要になります。
サステナビリティの取り組みは短期的な利益には繋がらないことも多いため、民間企業は政府に対して必要な方向性、資金、支援、推進する政策を求めていく。一方、政府側は企業側の要望を汲み取った上でロードマップをつくり政策に落とし込んでいく。そうした初期の段階では外部不経済である「環境」問題に対して、「環境」と「経済」の両立を支援するのが我々の役目になります。
企業としては短期的な収益に目がいきがちになるのも事実です。それに対して、我々は海外の戦略や世界全体の潮流といった視点も含めて民間企業の方にお話することで経営層のマインドチェンジも同時に図っていきます。このように企業、政府の両輪から支援していくところが鍵となります。
梅本
とてもチャレンジングなテーマだと感じます。
加藤様
そうですね。一方、官公庁側は「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指していますが、具体的にどういった世界観になるのかまだ誰にも分かりません。そういった状況の中では、先ほどシミュレーションモデルの話にもあったように、我々は定量的な裏付けを持って政策のプランニングができるということが強みになります。
また、気候変動をはじめとした取り組みは、政府の方針によって決まるため、民間企業よりも政府や世界の動きが5年、ないし10年先行している場合があります。そういった意味においては、最新動向の知見を有している点で他社と比べて優位性があると思います。
また、DTCではコラボレーションのカルチャーが根付いています。例えば我々が政策をつくり戦略に落とし込んだ後に、M&Aやテクノロジーの導入など専門のユニットに繋げていくことができる。DTCでサステナビリティに取り組む上では、我々の強みを活かすことができることも大きいですね。
梅本
サステナビリティ領域において幅広いテーマに携わりながら、他のユニットとも連携して取り組むことができるということですね。他にも現場ではどういった課題がありますか。
川村様
クライアントの課題感として、くり返しになりますが「2050年」という長いスパンでカーボンニュートラル実現を考えたときに、短中期的なビジネスモデルの構築を含めて「先が見えない」という声が多いですね。将来像の具体化にあたっては、例えばシミュレーションモデルを用いて、物事の関係性を詳らかにした上で、カーボンニュートラルに向けたトランジション期を含めた社会構造の変化を見せつつ、国内外の政策動向を踏まえてどういった取り組みをしていけばいいかを一緒に考えていくケースが多いです。
梅本
クライアントの課題について、澤田さんはいかがですか。
澤田様
ヨーロッパの企業や政府では、サステナビリティに関する取り組みが進んでいると言われていますが、まだ課題もあり完璧な制度があるわけではありません。そのためクライアントの官公庁や企業は、どの事例をモデルケースにすべきか模索されている印象を受けます。
また、我々のクライアントは、サステナビリティ専門の部署が多いのですが、サステナビリティと経済性を両立させることが困難なため、社内で稟議を通すことが難しいケースが少なくありません。そうした際は、我々としても「こうあるべき」と理想論を語るのではなく、社内で意思決定を通すために「こういう説明がいいのでは」「こういった指摘を受けるかもしれない」と一緒に考えながらサポートをおこなっています。
梅本
社内で意思決定を通すことが難しいという背景においては、日本企業でサステナビリティの意識があまり進んでいないということでしょうか。
澤田様
いえ、日本の民間企業が遅れているということではありません。例えばリサイクルや廃棄物の削減など環境に配慮した取り組みなどは、海外と比べて日本は進んでいると思います。一方で、CO2の排出量の削減を促す手段としてのカーボンプライシングといった新しい概念に対しては、既存の制度やガバナンスの変更や、ビジネスとの兼ね合いから抵抗を感じてしまうケースもあります。今後、日本が海外で競争優位性を維持するためには、そうした新たな概念にも対応し事業に取り組んでいく必要があるかと思います。
「アジアパシフィックの中で気候変動・エネルギーの分野においてリーダーシップを発揮していきたい」
梅本
御社では、業界の中でも先駆けて気候変動の取り組みをされてきましたが、今後さらに注力していきたい領域やテーマはありますか。
丹羽様
まずは、サーキュラーエコノミー、いわゆる循環型経済です。例えば、人口の多い地域では資源の取り合いが起きる可能性や、政治的な状況や自然災害が原因で調達が困難になるリスクがあります。そうした状況において資源の循環を促進することで資源の枯渇を防ぎ、地政学リスクを軽減することができます。さらに、CO2排出量に関してはサプライチェーン全体の管理が必要となり、それにはGHG(温室効果ガス)の可視化が重要になります。そうしたGHGの排出削減の先には自然資本や生物多様性の保全にもつながります。
また、他にも先ほどデータドリブンの話がありましたが、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)つまり証拠に基づいた政策立案でDXとSXの両方に注力していきたいと思います。
梅本
加藤様は、今後さらに注力していきたいことはありますか。
加藤様
海外のメンバーファーム間とのコラボレーションをより積極的に取り組んでいきたいと思っています。というのも、アジアパシフィック地域において、日本は気候変動やエネルギーに関する専門性が高いのですね。例えば、再生可能エネルギーとして最近注目されている水素は、これまで日本とオーストラリアで取り組んでいましたが、東南アジアや台湾、韓国などでも水素をテーマとしたプロジェクトを進めています。しかし、専門家がいないため「ぜひ、プロジェクトに入ってほしい」「専門的な知識を教えてほしい」といった依頼が徐々に増えているんです。これまで我々のチームは国内向けの仕事が多かったのですが、これからはアジアパシフィックの中で気候変動・エネルギーの分野においてリーダーシップを発揮していきたいです。
また、我々が持っているエネルギーのシミュレーションツールに対してアメリカやヨーロッパ、オーストラリアから「アセットを使わせてほしい」といった依頼や、ある国の政府から「一緒に仕事をしないか」といったお誘いも増えています。
梅本
日本に閉じずにグローバルな視点で活動を広げられていかれるということですね。改めてサステナビリティ領域は、現在のトレンドであり、今後も安定した需要が見込まれるのではないかと思うのですが。そうした中、DTCのSUSユニットでキャリアを築いていくことに対してどのように思いますか。
川村様
サステナビリティは、確かに現在のトレンドではありますが、目まぐるしく変化する領域でもあると思っています。ですから、1つの分野だけに固執すると将来通用しなくなる可能性も否定できません。そのため、時代のニーズを速やかにキャッチアップできる柔軟性と、その胆力のある組織が生き残っていくだろうと私は感じています。DTCのSUSユニットは、ここ数年で生物多様性や人権といった新しいテーマを取り入れ、さらに官公庁の案件で実績を残してきました。そういった意味では、常に世の中に何が必要なのか考え続け、キャッチアップを意識している組織だと思います。
また、SUSユニットでは、デリバリーを担うトラディショナル職だけでなく、高度なシミュレーション技術等の特定領域に特化したスペシャリスト職としてのキャリアパスも用意されています。専門性を磨いていきたい方にとっても非常によい環境ではないでしょうか。
丹羽様
働き方の多様性としては、今の話に加えて、仕事と家庭のバランスを保ちながらキャリアアップを目指せる制度なども整備しています。またなるべく自分の時間を設けられるように、隔週の金曜日の午後はなるべく打ち合わせを入れない、21時以降はメールをしないといった動きもありますね。
「働き方の改善」について常に社内でディスカッションし、組織づくりへと生かす
梅本
「働き方の多様性」という話も出ましたが、キャリア形成という観点で、女性の立場として澤田様はどのようにお考えでしょうか。
澤田様
まず、SUSユニットは女性メンバーの比率が高いです。以前、私が担当していたプロジェクトでは、8人中7人が女性でした。女性だからキャリア形成がしづらいという雰囲気はありません。組織的にも女性の働きやすさを推進しているため、産前の講座や復帰したあとのフォローアップ制度も充実しています。一方、SUSユニットはでき上がって間もないため上層部の女性比率はまだ多くないのですが、スタッフ層も提案しやすい環境になっています。前述の「21時以降はメールをしない」というユニット内のルールも、ある女性スタッフからの提案が採用されました。
梅本
ボトムアップで提案が採択されたという事例ですね。
丹羽様
基本的に「やってみたい」という想いに対して我々は反対しません。たとえ失敗したとしてもやり直せばいいわけですから。チャレンジするスタンスを大事にしております。
加藤様
また、ワーキングプログラムにおいては女性だけでなく男性も育児や介護と両立できるようになっています。例えば、男性でも積極的に育休や産後の就業時間の短縮などが取れるように進めています。
梅本
組織づくりにおいて心がけていることはありますか。
丹羽様
私のチームでは、「社内でどうしたら働き方を改善できるか」などテーマを掲げ、それに対してメンバーがディスカッションできる場を設けています。また、自主的な勉強会では誰でも発言しやすい雰囲気を心がけたり、バーベキュー大会を開催してメンバー同士交流できる場をつくったり。メンバーから提案を受けていろいろ手探りで進めています。
梅本
では最後に、チームに興味をお持ちの方にメッセージをお願いします。
澤田様
サステナビリティに関心があり、自分のアイデアで世の中を変えていきたいという心意気のある方にはとても合っている環境だと思います。前述の通り、スタッフ層でも提案すれば「それで動いてみよう」というカルチャーがあります。やりがいでもあり、当然プレッシャーもありますが、自分のランクや年齢にかかわらず意見を出していくこと。それがゆくゆくは企業や行政の活動を変えることに繋がっていくと思います。またSUSユニットには、コンサル未経験で入社する方も多く、様々なバックグランドを有しているメンバーが多いため、常識に囚われないアイデアを生み、企業目線に立った提案をおこなうことができると思います。
川村様
先ほども申したように、サステナビリティという領域は常に変化し続けています。そのため最新情報を追いかけながら、一方で解がないところを常に模索し考え抜ける人が向いていると思いますね。また、ユニットの垣根を超えていろんな人たちとコラボレーションしながらプロジェクトを進めていくことも重要です。そうしたコミュニケーション能力があるとより活躍できると思います。
加藤様
一般的にコンサルタントは、クライアントから報酬を受け取り、その範囲内でアドバイスをおこなう仕事、リスクを取らない仕事だと言われています。しかし、DTCでは特にシニアマネジャー以上の立場になれば新規事業やサービスを生み出すことを奨励されます。そのためリスクを取ってでも新しい領域に踏み出し、場合によっては自社以外ともアライアンスを結んだり、アセットに投資をおこなったりとエネルギッシュで面白い立ち居振る舞いができる環境だと思います。
コンサルタントは、専門家としてクライアントに対しバリューを出すことが必要です。その上で「コンサルティングビジネスを拡大していきたい」「コンサルタントの事業が社会的により評価されるように貢献したい」。そういう志のある方と一緒に仕事ができればと思います。
丹羽様
くり返しになりますが、サステナビリティに興味のある方は歓迎です。その中で、世の中を良くするためのチャレンジャーとして、我々が目指す姿に共感し、トライしてみようという意志のある方。もちろん、自分の周りの環境を良くしたいという純粋な想いでも構いません。2050年までに達成したい社会的、経済的なビジョンまで幅広く考えていけることが我々の強みであり、面白さでもあります。その実現に向けてチャレンジしたい方はぜひお待ちしています。