今回は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービス(Financial Services Organization、以下「FSO」)へのインタビュー。
金融業界向けサービスを提供する同組織では、戦略・オペレーション、リスク、DXといった専門家がワンチームとなっているのが特徴です。
リードパートナーの青木計憲様、佐々木惠美子様に、組織体制の特徴や、金融業界内で目指す立ち位置、サービスを通して描く世界観などについてお聞きしました。
パートナー青木様、佐々木様のご経歴
堀場
お二方のこれまでのご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
青木様
私は大学卒業後、IBMに入社し、金融系SEとして銀行・証券・保険などの業務システム企画・開発を担当してきました。その後、大手総合コンサルティングファームに転職し、日系および外資系保険会社向けのコンサルティングサービスを長く手がけコンサルティング部門の金融統括リーダーおよびクロスビジネスの保険セクターも7年間務めました。そんな折、EYが圧倒的な成長力をもって業界内で踊り出ようとしている話を耳にしたのです。当時、私自身も次のステージを模索していた時でしたので、今までの成功や失敗で学んだLessons-Learned(教訓)をベースにさらに飛躍していきたいと考え2019年にEYに参画しました。
佐々木様
私は新卒で大手都市銀行のIT部門に就職し、勘定系・決済系システムの企画・開発に従事しました。仕事は面白くやりがいを感じつつも長く銀行に在籍していたため、次は違う世界を見てみたいと思うようになり、そこでたまたま紹介されたのがアカウンティング(会計、経理、会計報告)系のコンサルティングファームでした。銀行のITスキルを活かして最初はIT監査に携わり、その後、5年ほど前にEYが組織再編を推し進めるなかで、EYストラテジー・アンド・コンサルティングに参画しました。
リスク、戦略、デジタルまであらゆる金融業界の専門家がFSO内に集結
堀場
あらためて、FSOの役割やミッションについて教えていただけますか。
青木様
FSOは、銀行や証券会社などの金融機関に対してコンサルティングサービスを提供しています。
組織として大きく次の5つの部門に分かれています。
①Sector(金融業界全般の課題に対するインサイトの提供、金融機関リーダーとのリレーションを持つマーケットチーム)
②Strategy & Transformation(金融機関の経営アジェンダを支えるための、「戦略、イノベーション、ビジネスモデル変革、オペレーション変革、M&A」を集約したチーム)
③Risk(グローバルネットワーク、テクノロジーを活用し、金融機関の経営の基盤となる実効的なガバナンス・リスク・コンプライアンスを支援するチーム)
④Technology (次世代金融デジタルプラットフォーム、データアナリティクス、デジタル・エマージング・テクノロジーにフォーカスし、金融機関の新たな未来図の作成を支援するチーム)
⑤金融リサーチャー(金融業界が抱える課題を適切に捉え、市場のデータや情報をの収集、分析を実施するチーム)
この5つの部門がシームレスにつながってサービスを提供しています。
堀場
FSOの特徴や強みを教えてください。
青木様
FSOの特徴は大きく2つです。1つ目は、金融に特化したコンピテンシーチームがFSO組織内に集結していることです。全体として現在約500名を超えるメンバーが所属する大所帯となっています。一般的に業界特化型のセクターチームと、業務特化型のコンピテンシーチームは別々に分かれているファームが多いなか、我々はFSO内に、金融に特化したリスクの専門家をはじめ、テクノロジーやストラテジーオペレーションなどあらゆる金融の専門家が集結しています。特に金融リスクやアクチュアリー部門は、監査法人が業務を担当するケースが多いのですが、当社では1つの組織として構成されているため、部門間同士でシームレスに連携できるのが強みです。
もう1つは、グローバル連携の強さです。一般的にグローバルなコンサルティングファームは、アメリカ、ヨーロッパ、アジアと3つのエリアに分かれてオペレーションをしているところが多いのですが、EYのFSOはエリアの壁をなくした1つのグローバルネットワークとなっています。なぜなら主要な金融機関は世界中でサービスを提供しているため、コンサル側が地域ごとに分断されているとクライアントに対してバリューを発揮できないと考えるからです。これにより、クロスボーダーなサービス提供をよりスムーズに行うことが可能です。
佐々木様
私は現在、FSOのリスク部門をリードしていますが、この立場から見てもこれらのメリットを強く感じています。というのも、最近の経営アジェンダは以前よりも複雑性が増し、ビジネスコンサルタントだけ、また、リスクの専門家の知識だけでは解決できなくなっています。FSOのコンサルティング部門に専任のリスク部門があることで、シームレスに連携でき、クライアントに対してより幅広いサービスが提供できるようになっていると実感しています。
「100年に一度の変革期」を迎えた金融業界における一番の”相談役”に
堀場
今、金融業界は「100年に一度の変革期」を迎えています。まずはマーケット感から教えていただけますか。
青木様
金融機関は今、10年先、20年先を見据えて誰にどのような価値を創出していくのかを今一度見直すことが求められています。
どのような企業でも外部環境が変われば、ビジネスのやり方を変えるのは当然です。しかし、金融機関は長い間ビジネスモデルを変えず、保険会社においてはかつて日本の人口が増加していた当時のままの保険商品を長く販売していました。
しかし、今や日本の人口は減少し、一人ひとりのライフスタイルも大きく変化しています。時代と共に消費者の価値観が多様化するなか、従来の価値観で作られた商品と現在の消費者のニーズが徐々に合わなくなっています。
またテクノロジーの進化によってスマホ1つで世の中の情報が瞬時に手に入るようになり、消費者のITリテラシーは向上しています。カスタマーエクスペリエンスのオーナーシップは、いまやオンラインマーケットや検索エンジンの世界的大手プラットフォーマーに移っていると言っても過言ではありません。
世界に目を向けると、欧米では金融機関が次々と買収され、中国に至ってはECサービスを展開するグローバル企業が金融機関を買収しています。多くの顧客データを持つプラットフォーマーが本気で金融事業をおこなった場合、既存の金融機関は立ち行かなくなる可能性があります。そういった背景から金融機関は、自分たちの存在意義をもう一度問い直さなければならない時代になっています。
保険事業に関して言えば今はメーカーが参入してきています。例えば電気自動車の保険であれば、電気自動車を一番熟知しているメーカーが自動車保険を手がけるようになっています。
これまでの保険会社は、自分たちでデータを取得する仕組みを構築できていませんでした。そのため全員が同じ条件を前提に保険料が算出されてきました。しかし、一人ひとりの遺伝子やライフサイクルにより、ガンの原因やリスク等も変わってきます。
保険会社は、今後の生き残りをかけた戦略として顧客データを持つプラットフォーマーと組むのか、あるいは保険会社自身がプラットフォーマーとなっていくのかといった岐路に立たされています。我々はそのような金融機関にとって一番の相談役となり支援を提供していけるチームでありたいと思っています。
堀場
金融機関の変革が問われるなかで、具体的にどのような案件がありますか。
青木様
ひとつは新規事業の立ち上げ支援ですね。銀行や保険会社では、自社のメインの事業に関しては収益の向上をめざし、一方新しい収益エンジンとしての新規事業構築の動きが増えています。例えば、新規事業として社会貢献につながるカーボンニュートラルの事業を始めようとする保険会社に、CO2を出さないためにどうすればいいのかといったアシストを行う、などの支援をしています。他社のコンサルティングファームとの差別化をはかる上でも、これまで金融機関にはなかった商品やサービスなどの新規事業立ち上げの支援を積極的に取りにいくようにしています。
とはいえ、金融機関の本業の収益力を高めるためのCXの向上や、営業生産性の向上、守オペレーションの業務改革や自動化などをデータアナリテイクスやAI、などのニューテクノロジーを使って推進するなどの案件は常時行っています。
堀場
本業に加えて、新規事業の案件を進めているということですね。
青木様
そうですね。EYが掲げる‟より良い社会の構築”を目指し、我々は金融機関の10年後、20年後に向けて期待に応えていくことが大事だと考えています。
「より良い社会の構築」の実現に向けて
堀場
今後、FSOが目指す方向性についてお聞かせください。
青木様
EY全体が掲げるパーパス「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」の実現に向けて我々FSOも事業を推進しています。
パンデミックなど予期せぬリスクが起こる一方で、個人の幸せの定義はますます多様化しています。そういった先行きが不透明な今の世の中において、銀行、保険、証券といった金融機関が社会のインフラとしてどうあるべきかが問われています。
また、テクノロジーが進化したことで、保険会社は病気や天災被害などのリスクをデータ分析し、その情報を消費者に提供できるようになってきました。私たちは、金融機関の課題を解決していくことがより良い社会の構築に繋がると考えています。
佐々木様
そのためには、メンバー一人ひとりの能力を最大限に活かせるダイバーシティな職場づくりが大事だと感じています。
多様性を受け入れるカルチャーゆえに、‟認められる”居心地の良さがある
堀場
続きまして、チームの雰囲気についての質問です。現在、FSOに所属するメンバーのバックグラウンドを教えていただけますか。
佐々木様
現状ですと、コンサルティングファームの出身者が約2割、それ以外は金融機関出身や、IT業界出身の方が多いです。最近はバックグラウンドも多様になっており、総じてEYのパーパスに共感して入ってくださる方が多く嬉しいです。
「単にクライアントが儲かるためのビジネスを提供するのではなく、クライアントの先にいる顧客やその先の社会に対してより良いサービスを提供していきたい」という我々の想いに共感してくださっていますね。
堀場
御社は、多様性を受け入れる組織作りにも力を入れられています。
佐々木様
今は様々な価値観を理解し対応していくスキルがなければ、幅広いクライアントの課題を解決することができません。私が担当するリスク部門においても、ここ数年、リスクの多様性や複雑度が増していることにより、規制やコンプライアンスにかかる対応コストが増加し、それらをブロックチェーンやAI、ビッグデータ解析などの先端技術を活用することで解決していこうという動きが加速しています。
このようなリスクマネジメントをサポートしていくために、多様な経験・スキルセットを持った人材が必要と感じています。特に、リスクマネジメントにおいては必要とする情報の範囲や粒度が高まっていて、クライアントが保有する様々なデータや外部から入手するデータをどのように取り扱うか、それらデータの信頼性は十分であるかなどの検討も以前に比べて難易度が高まっています。それらを解決するために、金融業務の専門家のみならず、システムソリューションやデータマネジメントの専門家等、様々なスキルを持ったメンバーがプロジェクトに関わることが多くなってきています。
多様なメンバーが自身のスキルを発揮し活躍できるカルチャーや風土が醸成されているからこそ、クライアントの真の課題に対応し得る環境であると強く確信していますね。
青木様
例えばグローバルのミーティングでは、相手の国民性や性別、生まれ育った環境など、それぞれの違いを理解した上でコミュニケーションを形成していこうとする姿勢が根付いています。
多様性を受け入れるカルチャーは、EY全体で長い歴史の中で育まれてきたものです。