今回は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社で企業の戦略的構造改革を推進するトランスフォーメーションデザイン&デリバリー(TDD)を取材。
さまざまな業界において社会課題へのコミットが無視できない経営課題となりつつある今、戦略立案から実行・定着化までを見据えた長期スパンのトランスフォーメーションはどうあるべきか。ソリューションだけに偏らない全社戦略起点の利益構造改革を提唱する中村宏様に、チームの強みと魅力、求める人材像などについてアクシスコンサルティング 堀場が伺いました。
中村様の経歴——戦略系から総合系への移籍
堀場
中村さんが入社されたのは昨年(2021年)3月ですね。それまでのご経歴についてお聞かせください。
中村様
キャリアのスタート地点はメガバンクでした。大学を出てから5年ほど勤めた後、経営戦略や営業改革などのプロジェクトを手掛ける、いわゆる戦略系コンサルティングファームに転職しました。約18年間をそこで過ごした後、EYに参画しました。
堀場
御社の場合、戦略立案などの上流案件も含めて、クライアント企業全体の経営課題に対して幅広いサービスを提供しておられます。そうした総合系のコンサルティングファームへ、戦略系ファームから移られたのはなぜですか。
中村様
前職では全社的な業務改革や組織改革といった、大規模なトランスフォーメーション(構造改革)の案件を中心に担当していました。例えば、2、3年をかけて、全社横断的にあらゆるコストや業務のありかたをゼロベースで見直しながら、その企業の利益構造を10億円レベルで改善していくようなミッションです。その過程で、クライアントが目に見えて変わっていく現場に立ち合うことができる、やりがいのある仕事でした。
ですが、本気でその変革を成し遂げようとするなら、ただ戦略を描くだけで終わらせるわけにはいきません。分析や設計の先にある、実行と定着化までも支援する必要があります。また、多くの場合、構造的な課題は単一ではなく複数の要因が絡んでいますので、ソリューションも当然1つではありません。営業改革にしても、人事制度や評価システムに切り込み、デジタルへの投資も検討するといった、多面的なアプローチが求められるのです。
戦略系ファームという枠組みの中で、どこまで十分にそれらに応えられるのか。個々のソリューションや実行力の面でやや物足りなさを抱きつつ、私は次第にもどかしさを感じるようになりました。そのときに出合ったのが、EYSC(EYストラテジー・アンド・コンサルティング)です。
EYの専門力、連携力、総合力、そして若さに惹かれて
堀場
総合系ファームの中でもEYを選択されたポイントは何でしょう?
中村様
まず総合系を選んだ理由を1つ挙げるとすれば、描いた戦略を実行するための幅広い分野の専門家がそろっているからです。そのうえで、EYには他社と比べて3つの違いがありました。
1つは、その多様な専門家同士の関係が際立ってコラボレイティブであること。どんなに専門家の幅が広くても、領域ごとに孤立してしまい、情報共有や連携がうまく図れない状態、いわゆるサイロ化した組織では意味がありません。
2つめに、戦略から実行・定着化まで一気通貫で全うしたいと私が願っている企業のトランスフォーメーションを、EYが最重要領域の1つに掲げていること。そしてEY自身が成長していくために、その牽引役になることができたなら、と思いました。
そして最後に、伸び盛りの比較的新しい会社だということです。自分たちが活動することで、この会社の新しい価値や仕組み、カルチャーを自ら創造していくことができる。これほど魅力的でやりがいのある仕事は、すでに出来上がった組織には望めないでしょう。
堀場
実際に入社されてみて、その印象と実態は合致していましたか。
中村様
はい、まさに。入社して真っ先に驚いたのは、経済安全保障の専門家までいるというカバー領域の広さで、前職では想像もできないレベルでした。そういう方々とすぐにでもコラボレーションを始められる。これは魅力的です。
メンバー同士が連携できるというのは、つまりユニット間の連携が根づいている証です。互いの垣根が低く、絶え間なく協働が行われ、EYの総合力を遺憾なく発揮できる。加えて、世界4大ファームの一角をなすグローバル性の高さをも享受できる環境は、コンサルタント個人にとっても非常に刺激に満ちたものといえます。世界中から毎日のように、多種多様なインプットが得られますから。
社会アジェンダを見据えた「正の循環」を企業経営に
堀場
御社のそうした強みを背景として、中村さんが所属するトランスフォーメーションデザイン&デリバリー(TDD)ではどのようなミッションを遂行していますか。
中村様
Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)。EYはこれを世界共通のパーパス(存在意義)として掲げています。また同時に、EY Japanのコンサルティング部門ではこのパーパスを実現するため、「経済で社会平和を、日本から。」を独自のビジョンに定めています。企業活動におけるトランスフォーメーション・プログラムの設計・実行・定着化を一貫してご支援するという我々のミッションも、これらの大原則に拠って立つことを特長とするものです。
そうした起点で考えると、より良い社会や平和を築くための課題の下に、さまざまな企業の経営課題があり、業界の課題が存在するという構図が明確に見えてきます。すなわち、企業活動とは何らかの社会課題に対して一定の責任を果たしながら利益を出すことであり、その利益をまた社会に還元し、自らの成長にも投資するという、正の循環の確立が極めて重要であることがわかります。
ところが、現代の多くの企業は、少子高齢化に伴う国内市場のシュリンクと成長鈍化、同質化による競争激化、高度成長期から続く仕組みの維持コストの負担増、部門ごとの個別最適化の結果としての連携欠如など、さまざまな要因が複雑に絡み合い、なかなか利益を伸ばしにくい構造に陥っています。
その中で正の循環を生み出すことは容易ではありません。従来型の戦略やオペレーションの延長線上ではもう、まともな利益さえ出せないかもしれない。したがって、単に○○コストの削減とか、△△システムの導入とかいった断片的ソリューションでは事足りず、先ほど申し上げたように、もっと多面的で総合的なアプローチが必要になるわけです。
我々が提供する大規模トランスフォーメーションとは、そうした複数の課題に同時に対処する利益構造改革を実現するものです。
縦横無尽に結びつくコラボレイティブなプロジェクト編成
堀場
利益構造改革のプロジェクトはどのようなスキームで進めているのですか。
中村様
多面的アプローチのすべてを、TDDチームだけでこなすことは不可能です。クライアントの課題に応じたユニット横断的な連携で、複数チームからなるプロジェクトを組織することが基本です。EYのコンサルティング部門は、自動車やエネルギーといった業界ごとに専門家が集うセクター別のチームと、人事や危機管理、ファイナンスなどのサービスごとに編成されるコンピテンシー別のチームに大別されていますので、それらを自在に掛け合わせることで全方位的な連携が成立します。
順を追って流れを説明しましょう。まず、顧客企業との窓口となるセクターの担当者が、全社戦略の観点から構造改革を要すると思われる課題を見いだしたとします。この段階でTDDチームも情報を共有し、課題に基づく仮説を立て、顧客とセクターを交えたディスカッションの場に参加します。具体的なプロジェクトを組み立てる前の、比較的早い段階からコミットすることが1つのポイントです。
その後、議論をもとに方向性を定め、TDDが中心となって提案を行いますが、この前後から他のコンピテンシーも巻き込んで、さまざまな知見を織り込んだグランドデザインの策定に入っていきます。この段階における我々の役回りは、多様なメンバーの連携をつなぐハブに相当します。セクターだけでは個別のソリューションが希薄になり、コンピテンシーだけでも業界事情に鼻が効かず、他の解決策との掛け合わせが弱くなる。そこの経路をTDDが結びます。
ソリューションは多岐にわたりますから、優先順位とロードマップを定め、プロジェクトの最初のステップへと歩み出す。すなわち、実行です。繰り返しになりますが、戦略を絵に描いた餅に終わらせないために、実行することが極めて重要なミッションです。
また、この手のプロジェクトは長丁場です。1年や2年は普通に費やすため、小さくても素早く確実に成果が見込めるクイック・ウィンの施策を打ち、成功体験を通じてモメンタム(勢い)をつくることも大事です。
こうしていよいよ施策実行の全面展開へ。こうなるとある意味で主役は個々のソリューションを受け持つ専門家となりますので、我々は全体の円滑な遂行を支えるPMO(プロジェクト・マネージメント・オフィス)に徹しながら、成果の刈り取りと定着化を見守ることになります。
堀場
スポーツチームでいえば司令塔のような役割なのですね。具体的な案件として、特に最近のトレンドはありますか。
中村様
基本的には、売上や利益の減少を改善したいといった、財務的な課題を起点とするトランスフォーメーションが中心です。今後もその重要性は変わらないでしょう。ただ足下では、先ほどの話とも関係しますが、社会アジェンダ起点の構造改革、例えばカーボンニュートラルや経済安全保障への対応などが増えてきている印象が強いですね。
社会課題への対応が避けられなくなっているのは、ここ数年で顕著になった経営者の共通認識です。社会課題に対して守りの姿勢から攻めに転じて、それを自社の強みにまで昇華しようと考えるなら、通り一遍の対応策では埒があきません。全社的なトランスフォーメーションが必要になるでしょう。
このような新しいテーマの改革は難度も高くなりますが、EYの場合、ストラテジック・インパクトという社会アジェンダ専門のチームもあり、他のコンピテンシーやセクターとの連携に加わる体制を敷いているのが強みといえます。
構造改革の難題を一気通貫でやりきる人材が集う場所
堀場
御社には多様な人材がいらっしゃるとのことですが、TDDにはどんなメンバーがおられますか。
中村様
キャリアパスはさまざまですが、コンサルティングファームで何らかの構造改革案件を経験してきた人が多いですね。総合系ファーム出身者であれば、ここ最近の受注傾向としてBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をはじめとする業務委託系のウェイトが高まる中で、もっと本質的なトランスフォーメーションを追求したいとEYに転職してきたケースが目立ちます。BPOやデジタライズは改革の手段であって、ソリューションの1つに過ぎません。そこから入るのではなく、あくまで全社的戦略を起点に手段を講じたい。そういうジレンマを知っている人たちです。
戦略系ファーム出身のメンバーは私と同様、絵を描くだけでなく、実行して成果を出し、最後までプロジェクトを見届けたいと願ってここに来ています。どちらも、トランスフォーメーションをやりきりたいという思いは共通しています。
もちろん、事業会社の出身者も大勢います。企業の中で、社長直下の経営企画室や全社プロジェクトの一員として自社の改革案件に携わったりしてきた人たちです。例えば、事業の再生や人事制度改革、部門横断的な収益改善など、痛みを伴う改革を最後までやり切ったり、変われない会社を変えるために当事者として悩み抜いたりというような、現場の生々しさを身をもって知った経験が、コンサルタントとしての強みになるのです。
堀場
そうしたチームだからこその魅力、仕事のやりがいについてはいかがでしょう。
中村様
1つ確実にいえるのは、我々はクライアントの社運を賭けたプロジェクトにかかわっているということです。当然、クライアント側も真剣勝負。絶対に気の抜けない緊張感は得がたい経験ですし、そのままやりがいにもつながるものだと思います。経営企画のメンバーや役員クラスなど、戦略策定の上流に位置する方々とのセッションは刺激的で、我々コンサルタント自身の成長にもつながっているはずです。
社内環境の面でも、カウンセラーによるサポートやユニットを超えたアサインなど、個々の成長を後押しする体制が整っています。全員がコラボレイティブであることを求められ、チームで勝負する気風が根づいているからこそ、個々の成長が大切なんですね。そのプロジェクトのメンバーであろうとなかろうと、自分の意見があれば臆さず口に出す。会社の制度とは関係なく、必要があればサポートの手を差し伸べる。そんなフラットでオープンなカルチャーがあると思ってください。
堀場
では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中村様
この仕事はビジネスとしてはもちろん、社会的価値としても意義あるものだと自負しています。冒頭でも申し上げたように、日本のコンサルティングファームの中ではEYは比較的新しい存在で、今がまさに成長段階にあります。その中でもさらに新しいTDDという組織の未来を、自分たちの手で築いていく醍醐味。もっといえば、EYが掲げるパーパスの世界観を先頭に立って実現するダイナミズムをぜひ味わっていただきたい。高い志を持つみなさんの参加をお待ちしています。