「人間の思考を補強するためのデータ活用」の実現に向け、戦略コンサルティング・アナリティクス・テクノロジーの3つのケイパビリティを用いた経営課題解決を実践する株式会社ギックス。今回は、同社を創業された代表取締役CEO 網野知博様、そして執行役員/Design&Science Div. Leader 山田洋様に、同社のビジネスモデルの特徴や、実際の事業内容、求める人物像などについてお聞きしました。
クライアントの“勘・経験”にデータを組み合わせて、”日常業務の判断精度”をアップデート
安形
ギックスを立ち上げた経緯についてあらためて教えていただけますでしょうか。
網野様
私の経歴からお伝えすると、新卒でCSK(現SCSK)に入社し、約6年半、経営企画を務めた後、アクセンチュアの戦略グループに転職しました。2008年に来日した『分析力を武器とする企業』の著者、トーマス・H・ダベンポート氏との対談をきっかけに、アナリティクスに可能性を感じるようになりました。
そして2011年、IBMが日本でアナリティクス組織を立ち上げたのを機に、コンサルティング部門の責任者として日本IBMに転職しました。しかし、大規模な組織になるとどうしてもシステム開発に2年以上かかるような長期的なコンサルティングしか提供できず、「データを分析して、すぐ意思決定に活用するビジネスモデルを確立したい」という想いから2013年にギックスを立ち上げました。
安形
ギックスが提供しているビジネスモデルの特徴を教えていただけますでしょうか。
網野様
3つあります。
まず、我々は「データインフォームドを宣言する唯一のコンサルティングファーム」です。そして、「日常業務の判断をデータでアップグレードさせていくこと」にフォーカスしています。最後に、クライアントの「自走化」を目指した支援を行っていることが挙げられます。
まず一つ目の「データインフォームド」とは、単にデータに駆動された“データドリブン”の意思決定ではなく、人の“勘・経験”にデータを組み合わせて、日々の“判断”の精度を上げることをいいます。
判断に用いるデータ(分析して産出されたデータ)は、網羅的・体系的に過去や現在のビジネス構造を理解するためのデータであり、何かしらの法則やメカニズムを理解する予測モデルや予測値などのデータであり、最適系を求めるシミュレーション的なデータになります。
どのようなデータを用いると判断業務が高度化されるのか?をインタラクティブにやり取りしながら利活用の方向性を検討していきます。
二つ目に、我々は、現場業務における「日常業務の判断」にドメインを置いて、そこに関わる人たちが主体となってデータに基づいた判断で業務がupgradeできるよう支援しています。
ビッグデータの時代において、多くの企業では、経営の大きな意思決定を中心にデータを活用してきました。しかし、多くの社員がかかわる、もしくは多くの顧客(消費者)にかかわる社員の、一つ一つの小さな日常業務の判断を高速化し効率化する事で、ちりも積もれば山となるで、結果的に大きなビジネスインパクトにつながると考えています。
三つ目の「自走化」ですが、我々は「業界・業務のプロはクライアント企業である」という前提に立っています。当社の分析したデータはもちろん、ノウハウや知見も積極的に提供し、「業務のプロであるクライアントの知見や能力を最大限引き出すことで、データインフォームドな判断が定着化していくこと」を狙いにコンサルティングを実施しています。
クライアントが自走して成果を出し続けることで、社内の別の部署でも「データインフォームドを推進したい」という声が上がります。当然ながら、別の部署では取り扱うデータや取組みテーマが変わりますので、データインフォームドの適用領域が広がっていくことになります。結果的に、我々のビジネスも大きくなり、クライアントとWin-Winの関係を築きながら成長していけることが我々の特徴であると考えています。
安形
他のコンサルティングファームとコンペでバッティングした際、最終的にギックスが選ばれる理由は何だと思いますか。
網野様
コンペになることはほとんどありません。我々がお付き合いする大手企業では、ほとんどの場合、BIG4をはじめとする大手コンサルティングファームが既にプロジェクトを実施しています。しかし、経営戦略や企画などを手がける大手コンサルティングファームと、我々のデータインフォームドの活動ドメインがそもそも違うためバッティングしないんです。
あるいは、データを扱う企業、AI関連企業を競合として挙げていただくことも多いのですが、当社とはビジネスモデルが異なります。当社のビジネスモデルは、常駐型の分析代行でもなければ、システム構築特化型でもなく、アルゴリズムやソフトウェアをSaaS型で提供するモデルでもありません。当社がパーパスとして掲げる「あらゆる判断をデータインフォームドに。」を、クライアント企業の中で実現して頂くことを目的に活動している会社です。どちらかが優れていると言いたいわけではなく、同じデータ分析の会社でも役割が違うため、うまくすみ分けができていると思います。
安形
御社は、2022年3月30日に東証マザーズに上場されています。今後はどのようなビジネスを展開していくのでしょうか。
網野様
IPOをした一番の理由は、知名度・認知度の向上です。ギックスという会社名はもちろん、世の中にもっと“データインフォームド”という言葉を広めていきたいと思います。またIPOによって資金調達がしやすくなったおかげで、M&Aの実行性が広がっています。
データインフォームドのコンサルティングやプラットフォームの構築に必要なケイパビリティを持つ企業やIoTやセンシングデバイスを作るメーカーの買収を視野に入れています。当社のデータ利活用のケイパビリティとデータ発生側のデバイスの組み合わせで、データインフォームドの更なる推進が可能と考えています。今後はそういった成長戦略を描いています。
クライアントのデータ活用を後押しする自社プロダクト事業も展開
安形
実際にはどのように事業を進めていくのでしょうか。
網野様
まず、目利き的なプロジェクトとして、約4週間でクライアント企業内に蓄積しているデータをあらゆる手法で分析し、その結果をベースにクライアントと議論を行います。その後、詳細検討の価値が見いだせれば、詳細検討フェーズでクライアントの課題解決を実現していきます。
安形
実際にデータ分析を活用した事例があれば教えてください。
網野様
JR西日本様では、鉄道のメンテナンス業務に当社のデータ分析結果を活用いただいています。これまで同社では、機器や設備に対して定期的に点検や補修を実施していたため、その都度メンテナンスにコストが発生していました。
そこで、観測データを検知して補修が必要と判断された時のみメンテナンスを実施する「CBM(コンディション・ベースト・メンテナンス)」の手法を取り入れた結果、適切なタイミングでメンテナンスを行えるようになりました。また当社では、ダッシュボードで分析したデータを常に可視化できる仕組みなども作っています。
安形
御社では、コンサルティングに加えて自社でプロダクト事業を展開されているのも特徴ですね。
網野様
はい。我々は、個客選択型スタンプラリー『マイグル』というサービスを提供しています。これは、商業施設や観光エリアの来客者一人ひとりに対して、買い周りたくなるようなスタンプラリーを提供するスマホアプリです。
通常のスタンプラリーと違って、自社のレコメンドエンジンを活用して、消費者の購買行動や選択結果をもとに選択肢を提案していきます。それによって消費者が実際に「どこの店や場所を選択し、実際に買った/行った」といった行動データを分析し、次の一手につなげていく、まさにデータインフォームドな活動を実現しています。
実際にJR西日本様では、同社のアプリ『WESTER』内に『マイグル』を組み込んでさまざまなキャンペーンを展開し、そのデータをもとに次の施策へとつなげています。
参考:ギックスとJR西日本、個客選択型スタンプラリー「マイグル」とMaaSアプリ「WESTER」を活用し「大津駅100周年記念デジタルスタンプラリー」を開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000080464.html
安形
なぜ、こちらのサービスを始めようと思われたのですか。
網野様
我々は、これまで多くの顧客データを分析してきたので、「消費者に対して、こういった施策をすれば優良顧客になりそうだ」というように、ある程度の成功法則が見えていました。しかし、クライアントが消費者に対して態度変容させようとした場合、その打ち手としての実効策がメールやDMしかないことが多く、効果的とは言えませんでした。
一方、『マイグル』であれば、顧客データが蓄積でき、かつレコメンド機能を活用したスタンプラリー形式なので、消費者に対して商品やスポットを押しつけることなくお勧めできます。データ分析で解明した答えを実現する手段として『マイグル』というサービスを始めました。
「戦略」と「アナリティクス」の双方において高い専門性を身に着けることが可能
安形
コンサルタントとして御社で働く面白さや魅力について教えてください。
山田様
「戦略」と「アナリティクス」の双方において高い専門性を身に着けることが可能です。 大手ファームでは、戦略領域はストラテジーチーム、データ分析はアナリティクスチームや提携SIerが担うので身につく専門性がどちらかの軸に偏ってしまうケースが多いです。
弊社では、「戦略」×「アナリティクス」双方の領域に関わることができます。
また、データを活用してさまざまなクライアントビジネスの変革に携われます。
一般的に、コンサルタントは、1つの業界・業種の専門知識を勉強しスキルを身に付けることが多く、業界を横断しながら案件に取り組む機会はそう多くありません。
一方、当社ではデータを基にしたコンサルティングが軸になっているため、いろいろな業界の案件に関われるのが特徴です。
また、同じクライアントに対し、業務改善やマーケティングというようにテーマを広げて関わることもできます。もちろんデータ分析自体は高度な専門知識を要しますが、データを汎用的に活用できるというのが当社の事業の魅力だと思います。
さらに、マトリクス型組織であることから、社内の様々な事業に携われるのも特徴です。
DIコンサルティング、DIプラットフォーム、DIプロダクトという3つの事業内容があり、それとは別にData-Informed事業本部は、「Design & Science Division」「Technology Division」「Business Planning Division」の3つの部署に分かれています。
当社では、マトリクス型組織のような形で、メンバーがいろいろなプロジェクトに関わることができる仕組みになっています。
例えば、「Design & Science Division」に所属するデータアナリストが、DIコンサルタント事業以外にも、DIプロダクト事業の『マイグル』や、DIプラットフォーム事業の“企画”からプロジェクトに関わることができます。
安形
コンサルティングを行いながら、一方で『マイグル』の分析を行ったりと、複数のプロジェクトに携わっている方が多いのでしょうか。
山田様
そうですね。仕事に慣れてきたら2つのプロジェクトを行ったり、マネジメント層になれば5つのプロジェクトを同時並行しているメンバーもいます。一方で、「1つのプロジェクトに集中したい」という方に対しても、個人の意思を尊重しています。
「研究活動とデータ分析では領域は異なりますが、“近い分野”だと思っている」
安形
今、ギックスではどのような人材を求めていますか。
山田様
マインド面では好奇心が強い方を求めています。未知の領域でも楽しんでチャレンジできる方は、業務のキャッチアップも早いと思います。また、我々はデータ分析が基本ですが、クライアントのビジネスや業務を理解することも大事です。「クライアントは、どうしていきたいか」「なぜ、このビジネスを行っているのか」と興味を持って相手を知ろうという姿勢も重要なケイパビリティだと思います。
安形
最終的に何が決め手となって御社に入社されるケースが多いのでしょうか。
山田様
当社の雰囲気や価値観に理解をして判断される方が多いと思います。当社では、組織が小さいため一人ひとりの裁量が大きく働き方も自由です。しかし、当然ながら自由には責任も伴います。自ら考えて行動し、成長できる環境に魅力を感じていただいているのだと思います。
安形
山田様自身はどのような経緯でギックスに入社されたのですか。
山田様
私は、大学で化学を専攻し、博士課程修了後、化学メーカーの研究員として従事しました。研究そのものはやりがいを感じていましたが、営業部門との間に壁があり、自分の研究が本当にお客様に役立っているのかわからずモヤモヤしていたんです。もちろん社内でキャリアチェンジという選択肢もありましたが、最終的に戦略コンサルティングファームへの転職を決めました。
実は転職先で出会ったのが、現在ギックスの執行役員を務める加部東(かぶと)です。お互いに意気投合し、「自分たちで起業しよう」と事業を立ち上げていた中、加部東を通じて代表の網野からギックスを紹介されて。当時はまだ社員数が1名ぐらいの規模でしたが、データ分析のコンサルティングに興味を覚え2015年に入社しました。
安形
ギックスに参画されてから今に至るまで担当されてきた業務内容を教えてください。
山田様
入社当時は、いわゆるデータサイエンティストという役割で、AWSのRedShiftを使って、大量のデータから業務に活かせる気づき・解釈を得るということを主に行っていました。現在は事業のディレクションや各プロジェクトのマネジメントも担当しています。
安形
研究活動の経験が、データ分析に活かせていると思いますか。
山田様
それはありますね。研究活動とデータ分析では領域は異なりますが、“近い分野”だと思っています。例えば研究活動では、実験からデータを取得して、それを分析しながら得た知見を論文にしていきます。一方、データ分析では、どのような視点で集計するか、そして分析した結果からどのように活用できるかを試行錯誤しながら思考していく。そういった意味では研究活動の経験はデータ分析に活かせていると思います。
実際に、大学時代や業務で研究活動をした経験をお持ちの方は、採用においてはポジティブに評価させていただいています。