大手外資系コンサルティングファームで活躍された赤羽陽一郎様、輪島総介様が2021年に立ち上げたグロービング株式会社。「日本の産業に対してEnd to Endでインパクトを出せるサービスを提供する」ことを目的として創業された独立系コンサルティングファームです
今回は、お二人より、創業に至る背景や目的、ビジネスモデルの特徴、実際の案件内容や、今後目指す姿などについてお聞きしました。
グロービング代表取締役 赤羽様、輪島様のご経歴
井内
まずは、お二方のご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
赤羽様
大学卒業後、銀行に入行しましたが、その2~3年後にバブルが崩壊して銀行が倒産してしまい、それを機に中国やアメリカへ留学しました。そして、ワシントンD.Cにあるジョンズ・ホプキンス大学院 SAISを経て、1999年にアンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)に入社しました。
アクセンチュア時代は、アクセンチュアストラテジーなどを経験し、インダストリー側では自動車や産業機械などの部署を担当。他にもサプライチェーンのジャパンリードなどを務めました。そして、アクセンチュアに22年間在籍したのち、2021年にグロービングを立ち上げました。
輪島様
私は大学卒業後、日系の自動車メーカーに就職し、約7年間勤めたのち、2000年にアンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)に転職しました。そこでは、製造業を中心にサプライチェーン改革、ERP導入、調達改革などをリードし、2011年からはアクセンチュアストラテジーチームの立ち上げ(リブランディング)をドライブしつつ、総合電機や自動車業界における次世代事業戦略の立案・実行など、IoTやCASEなど社会変革テーマに直結するさまざまな戦略を担当しました。
その後、2016年にPwCコンサルティングへ転職し、トランスフォーメーションストラテジーチーム(TS)を立ち上げ、約4年間でゼロから50人ほどのチームへと成長させましたが、さらに、新しいコンサルティングサービスを実現したいという思いから2021年にグロービングを立ち上げました。
日本経済の輝きをもう一度取り戻すため、「コンサル業界を本気で変えたい」
井内
グロービングを立ち上げた背景について教えていただけますか。
赤羽様
長年コンサルティング業界を経験するなかで感じた疑問や課題に真正面から切り込み、日本の産業に対してEnd to Endでインパクトを出せるサービスを提供するためにグロービングを立ち上げました。
そもそもコンサルティング業界はこれまで大きく成長を遂げてきましたが、その裏で、日本経済は1995年〜97年をピークにグローバルでの競争力を失ってきたという現実に疑問を持ったことが始まりです。「自分たちは何のためにコンサルティングをしているのか」「そもそも社会にとってコンサルティングファームは必要なのか」と。
輪島様
そうですね。例えば、“総合系ファーム”は、“総合”と付いていますが実際はファンクションカットになっており、クライアントのビジネスにEnd to Endでインパクトが出せる体制にはなっていません。また、各コンサルティングファームは領域によって得意、不得意があるなかで1社完結でクライアントにベストなサービスを提供すること自体、難しいのではないかと考えるようになったのです。
そこで、私の場合は、別の総合系コンサルティングファームに転職し、1つのビジネス戦略を実行するためのハブとなり、各サプライチェーンやファンクションを融合する組織を立ち上げました。そして、実際にラージスケールのDXプロジェクトを受注し、外部からプロ経営者にあたるCDO(最高デジタル責任者)をハイヤリングして、CEOと共にクライアントビジネスをEnd to Endで変えていくという、まさに私が理想とした形でプロジェクトが始まったのですが、そこで予期していなかった別の壁にぶつかったのです。
というのも、End to Endでいろいろなチームを巻き込みながらやっていくのですが、当然、会社内のリソースには限りがあるため、「人員が割けない」「スキルにバラつきがある」といった課題が生じました。つまり、本当にクライアントファーストで考えた時に、「1社だけですべての改革を担うポジションを取りに行くこと自体が、そもそも間違っているのではないか」という確信に至ったのです。
そこで、我々がコンサルティング業界のハブとなり、クライアント側に入って、各コンサルティングファームの強みを適材適所に集めていかなければならない。そういったポジションを担い、クライアントにとって本当に役立つサービスを提供し、日本の産業の競争力をもう一度取り戻したい、という強い想いで赤羽と共にグロービングを立ち上げました。
“外部の視点を持った内部” CxOパートナーとして期待される独立ファーム
井内
続いて、御社の特徴や強み、他社との違いについて教えていただけますか。
赤羽様
我々の強みは、CxOのパートナーや参謀としてのポジションでクライアント内部に関わり、サービスを提供できることです。
例えば、数百億円規模のDX案件があったとしましょう。そうすると大手コンサルティングファームやSIerは、案件獲得のためCDOのところに売り込みに来るんですね。しかしどの企業も当然、「私たちがナンバー1です」とアピールするため、CDO側はどの企業を選んだらいいのかわからない。そうした際に、我々がCDO側について「この会社のこの人はいいです」「この会社のこの人は実はあまりよくありません」などの目利きをするのが我々の特徴であり、強みだと思います。
井内
ベンチャーファームでありながら、なぜ、CxOのパートナーとしてポジショニングが取れるのでしょうか。
赤羽様
我々が独立系のファームであり、かつCxO側から求められているサービスだからです。現在、コンサルティング産業が巨大化し、それぞれが組織立って営業をするようになると、CxO側では、どのコンサルティングファームが自分たちにとって最適なのか判断ができません。そのため、我々がCxOパートナーというポジションで支援をさせていただくというサービスを、クライアントに紹介した時点で興味を示していただくことが多いです。
また、私や輪島をはじめ、他のメンバーも長くコンサルティング業界におりますので、CxO層とのリレーションが構築できているというのも1つの要因です。
井内
現在の組織体制を教えていただけますか。
赤羽様
まだ小規模ですので、ゆるやかにストラテジーコンサルティング、データサイエンス、デジタルコンサルティングなど、得意領域に基づいたインタレストグループが形成されておりますが、現時点(2022年4月時点で50名在籍)ではまだ正式な部署を作る規模ではありません。案件ごとにチームを組み合わせているため、実質は一体となっておこなっています。
井内
好調にビジネスをできている背景を伺ってもよろしいですか。
赤羽様
経験豊富な方やアントレプレナーシップのある方など、人材の質にこだわって採用しています。アクセンチュアやPwCなどの戦略部隊はもちろん、デロイトや経営共創基盤、シグマクシスなど、さまざまなコンサルティングファーム出身のプロフェッショナルなメンバーが集まっています。
それがクライアントに対して高い品質やサービスにつながっているのは間違いないですね。
また、私の経験上、戦略コンサルティングが組織の規模を数百人単位で拡大していくと、1人のパートナーの下に数十人の部下がつくケースが増えるため、組織としての質が薄まってしまいます。我々、戦略コンサルティングの規模としては、200人程度を目指しており、今後も「組織の質は薄めない」ということを意識しています。
大手ファームよりも一段、二段上のアジェンダを手掛けている
井内
グロービングが手がける案件においては、先ほど赤羽様より「一流企業が多い」というお話をいただきました。輪島様はどのような特徴があるとお考えですか。
輪島様
極めてハイレベルなお客様が多いですね。特にCxOパートナーとしては、BIG4など大手コンサルティングファームと比べて、一段、二段上のテーマやアジェンダが多いです。我々パートナー陣が持っている良質なリレーションによって、マッキンゼーやBCGが抑えているようなポジションにグロービングが入っている形になります。
井内
クライアントの規模感についても教えていただけますか。
赤羽様
一流企業と呼ばれる大企業で、かつ1〜2兆円以上の売上規模があるクライアントが多いです。もともと製造業が多かったのですが、最近では小売、消費財、電力業界などにも広がっており、今後は、金融業界にもビジネス領域を伸ばしていきたいと考えています。
井内
赤羽様の担当領域、業務内容についてもお聞きしてよろしいでしょうか。
赤羽様
直近でお話をすると、先日発表をしたCCCマーケティングとのアライアンスです。将来的には、CCCマーケティングが有する膨大なデータを活用し、小売や消費財、金融、エネルギーなどBtoC領域でコンサルティングサービスを提供するジョイントベンチャーを立ち上げたいと考えています。
また、成長領域と言われている「エデュケーション」と「エアモビリティ」の2つの領域においては、スタートアップとのビジネス連携も強化しています。
井内
輪島様が担当されている領域を教えていただけますか。
輪島様
1つは、産業構造改革がテーマの戦略案件です。現在、デジタル化やEV化、新しいエネルギー、カーボンニュートラルなど社会変革が進むなか、産業構造を根本的に変えていく必要があり、経産省や企業と連携し、その中核を担いドライブするような産業界の歴史に残るようなハイインパクトな取り組みもあります。企業にとって最重要課題である一方、いち企業では対応できないスケールのため、国や複数の企業を巻き込んでいくような戦略テーマを担当しています。
もう1つは、デジタルを使った経営の在り方や経営モデルの変革ですね。また新たに赴任されたCEOのスパーリングパートナーとして、今後何に着目してチャレンジをしていくべきか、どのようなことを考えて会社の舵取りをしていくべきか、そういった啓蒙活動をおこなっています。
井内
やりがいも大きそうですね。
赤羽様
大企業のCxOがクライアントになるため、彼らの難題に向き合うことができます。
例えば、今取り組んでいるのは地方創生の課題です。高齢化に伴い若い世代が減っている一方で、地域の活性化のため新たな地場産業が注目されています。しかし、地方で地場産業の仕組みを作ることは簡単ではありません。こういった長年解決できていない社会課題に対して、クライアントと共に真剣に向き合い変革していけることにやりがいを感じていただけると思います。
井内
御社では、給与水準が高いのも特徴の1つですね。
輪島様
そうですね。やはり我々のクライアントのコンタクトレベルは、他の大手コンサルティングファームと比べて一、二段高く、本来は戦略系コンサルティングファームが相手にするようなレイヤーばかりです。結果的に戦略系コンサルティングファームに準じた給与体系が組めるというのが特徴ですね。
「コンサルティング」×「SaaS型プロダクト」を持つ事業会社という側面も
井内
今後、御社として手がけていきたいテーマを教えていただけますか。
赤羽様
コンサルティング領域としては大きく2つ。1つが、環境問題ですね。カーボンニュートラルやSDGsなど、経産省が発表をした脱炭素を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)をテーマとした領域を強化していきたいと考えています。特に、このカーボンニュートラルを実現するにあたっては、エンジンや発電機などすべてを作り変えなければならないため、産業革命レベルのインパクトがある事業になります。
そしてもう1つは、エデュケーションです。従来は大学などの教育機関を卒業し、その後、就職をして定年退職を迎えるのが一般的でした。しかし、現代は人間の健康度が上がり、多くの人たちが70代、80代まで働く時代になっています。そのため社会人が再び学び直す“再教育”がキーワードになっておりますので、そういった社会課題にも対応していきたいです。
井内
輪島様はいかがですか。
輪島様
お客様にとって本当に役立つコンサルティング業界を目指していきます。そのためには、これまでコンサルティング業界で当たり前だった常識を破壊していく、そういった覚悟を持って、社会に対して価値のある産業を生み出す会社になりたいと考えています。
その1つが、コンサルティングサービスのソフトウェア化(つまりインダストリアライズ)です。つまり、再現性の高いテーマに対しては、毎回、コンサルタントが一から考えて高額な費用を請求するのではなく、デジタルツールを活用して低料金でサービス提供できる仕組みです。2025年までのサービス開始を目指し、現在SaaS型のプラットフォームの開発を進めています。こういった事業は、既存のコンサルティングファームではまずできないと思いますね。
赤羽様
我々はコンサルティングがメインですが、今お話をしたSaaS型の自社事業にも力を入れていきたいと考えています。経営インテリジェンス、サプライチェーン、マーケティング領域、データサイエンスなどコンサルティングノウハウをデジタル化していきます。
グロービングが求める人材は「アントレプレナー精神」のある人
井内
続いて、御社が求める人物像についてお聞かせください。
輪島様
コンサル経験者であれば、各コンサルティングファームのリーダークラスの方を採用しています。そもそも我々自体が改革をリードするポジションにあるため、リーダーシップを取るための知見・経験が欠かせません。
また、コンサル経験と事業会社の両方の経験を持っている方、もしくはコンサル未経験であっても、事業会社で事業や経営の改革をリードされた方も採用しています。
また今の時代は、戦略を語る上でデジタル&ITの知見が欠かせません。現在在籍しているメンバーの半数は、総合系コンサルティングファームの戦略チーム出身ということもあり、我々戦略組織では、戦略ファームやチーム出身でデジタル&ITに強みがある方を積極的に採用しています。
さらに、クライアントをEnd to Endでサポートするために、会計のスペシャリストやサプライチェーンのスペシャリストなど各領域の専門家も採用しています。
加えて、昨今企業の変革テーマで必ず出てくるのがSAPです。我々は戦略コンサルティングが軸の会社であり、「SAPの導入、すなわちSIプロジェクト」はやりませんが、SAP導入というクライアントにとって巨額の投資が絡む戦略アジェンダを円滑に進めるためのプロフェッショナルサービスのためにSAPのエキスパティーズを持った専門家も採用しております。SAP導入の際に、必ずと言っていいほど発生する炎上や失敗(追加投資、予算超過)を“あらかじめ回避・予防”するコンサルティングをおこなっております。
井内
パーソナル面ではいかがですか。
輪島様
「社会変革をしたい」「新規事業を起こしたい」といったアントレプレナー精神のある方を求めています。というのも、CxOが立ち向かう変革アジェンダは、必ずしも前例があるものではありません。不確実性の高いこの時代において、CxOの方たちのスパーリング相手、壁打ち相手にならければならないのです。当然、コンサルタントとしてロジカルシンキングやファクトベースなどのスキルを持っている方がベターですが、それよりも自分の言葉で、自分の意見が語れるオーナーシップのある方に来ていただきたいです。
ロケーションフリー、自分たちの発案でワークスタイルを作っていく
井内
組織作りで意識していることはありますか。
赤羽様
組織を運営する上で大切にしていることは、価値観の共有です。組織として我々が向かうべき方向性や、コンサルタントとしてどうあるべきかといった価値観は、メンバー全員が共有し納得しておくことが大事だと思います。
また、社会的意義があることや現代のニーズに合う仕事は、積極的におこなうようにしています。これから入っていただく方も「これしかできない」というのではなく、自分から社会意義を見つけて「こういうことをやっていきたい」という視座の高い人がいいですね。
井内
輪島様は、組織作りで意識されていることはありますか。
輪島様
我々はベンチャーファームです。長い歴史のなかで慣習化された仕事の進め方やルールがあるわけではありません。つまり、これまでの常識に捉われる必要がないんです。実は今、メンバーたちがワークスタイル研究会を立ち上げて、より高いパフォーマンスが発揮できる職場の在り方や、仕事の在り方などを考えているんです。自分たちの発案でワークスタイルを作っていけるというのが大きな特徴だと思います。
赤羽様
この1年でメンバーが50人以上となり、さらに新しいメンバーが絶えず入ってきますので、まさに急成長を遂げています。組織内には一定の規律はありますが、働き方は、今の時流に合わせて時間や場所を問わず自由です。私自身時間や場所に拘束される働き方が苦手で、実際に軽井沢や大阪で働いているメンバーもいます。