株式会社Gran Manibusは、SCSKグループの一員として新規事業などを担うビジネス創出型のコンサルティングファームです。
今回は、同社の代表取締役社長であるミゲル アンヘル エステベス アベ様に、同社設立までの経緯、ビジネスモデルやミゲル様が目指す社会の理想像、実際のプロジェクト内容から求める人物像までお聞きしました。
代表取締役社長 ミゲル アンヘル エステベス アベ様のご経歴【大手コンサルから事業立ち上げに至るまで】
原田
現職設立に至るまでのお話をお聞かせください。
ミゲル様
私は、父がスペイン人で国籍もスペインですが、日本生まれ日本育ちです。学生時代から父が経営する会社を手伝ってきました。就職活動では、外資系の金融会社かコンサルティングファームかのどちらかに進もうと考え、新卒でアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社しました。
その後、海外でも経験を積みたいという思いからアンダーセン東京オフィスを退職し、スペインのマドリードオフィスにある金融グループへ転職して、その1年半後には産業部品の輸出入を手がける父の会社に専務取締役として入社しました。
しかし父が経営する会社は、父の作ったビジネスで回っているため、自分が努力しなくても生活していける。そのことに危機感を覚え、「このままでは人間として成長できない、もう1度大企業の中で揉まれたい」と。そこで当時IT企業や外資企業から多くのオファーをいただく中、以前お世話になっていたアクセンチュアのパートナーからのお誘いでもう1度金融グループ専属で復帰しました。マネージャーになる前の若かった頃の話です。
その後、独立を視野に東南アジアを含めたビジネスをやろうと考えて、アジアに地の利があるヘッドストロング(現在ジェンパクトコンサルティング)へ転職し、シニアディレクターとして香港、シンガポール、マニラ、日本の金融コンサルティングを統括する中、2007年に株式会社Asian Frontierを創業しました。
原田
どのような事業を始めたのですか。
ミゲル様
アジアを中心とした貿易事業と経営・ITコンサルティング事業です。
その後AIブームが到来し、株式会社Preferred Networksと協業で事業を行ったり、AIを活用した先端技術ソリューションサービス部門をスピンアウトさせて株式会社Ridge-iを設立したりと、コンサルを基軸にAI領域に力を入れてきました。
「自由な発想で好きにやってほしい」SCSKグループ内で期待されるグランマニブスのポジション
原田
2017年に住友商事グループのSCSKと資本提携をされています。その背景を教えていただけますか。
ミゲル様
住友商事グループ内のIT領域を専門とするSCSKとは、創業以来PMO案件などを請け負う取引関係がありました。そこからのご縁で住友商事ともお付き合いが始まりました。
今から5、6年前に、住友商事側から「これからデジタルの波が来る。ジョイント・ベンチャーとして会社を作って一緒にDX事業をやらないか」というお話をいただいたのがきっかけで。つまりデジタル改革や新規事業を創出するために、AI領域の目利き力が必要とのことでした。
そこで我々は、「ジョイント・ベンチャーではなく、我々のコンサル会社に出資をして一緒にやりませんか」とお誘いしたのです。その後、取引関係のあるSCSKから資本を入れた方がグループ内でも親和性が高いということで、SCSKと資本関係を結びました。
原田
一方で、SCSKのグループ会社だと事業運営の自由度がなくなる、という懸念はありませんでしたか。
ミゲル様
もともと長く独立企業であった強みを期待されているので自由度は高いです。 また、SCSKでは、中期経営計画の中で、社会価値を生み出すネクストコア事業の取り組みを実行しています。そのネクストコア実現のために事業を創出するのがグランマニブスのビジネスデザイン部門なんですね。
グループに貢献することは大前提としても、「グランマニブスには自由な発想で好きにやってほしい」という姿勢で、戦略的に我々を自由な環境に置いています。 大手ファームになると1つの事業を立ち上げるのに「いつ頃、何億の売上になるのか」「それは100億円規模のビジネスになるのか」と大きなプレッシャーが課せられます。しかし弊社は、収支がとんとんでも、新しいものは社会に価値があるもの、雇用を生み出すものとして捉えていますね。
原田
つまり、新しいことに取り組みやすい環境なんですね。
ミゲル様
そうです。弊社のビジネスデザインチームでは、今SCSKと共に4つのテーマに注力して新しい事業をつくっています。どのテーマが最終的に価値ある事業になるかは、ある程度数をやらないとわかりません。しかしこの中から生まれた新しい会社を、コンサル力を生かしながらビジネス・インキュベーションしていく。もともとアイデアを事業化し、企業成長させていくことが好きなんです。
SCSKのノウハウとリソースを活用しながら、住友商事グループの顧客基盤に対してテクノロジービジネスを創出する機会が多いのも、我々のポジショニングとして圧倒的な強みになると思いますね。
原田
数兆円の顧客が身内にいるということですね。
ミゲル様
国内外にリソースからコンシューマー・マーケットまでが揃っています。
原田
グループ内と外では、今事業はどれくらいの割合ですか。
ミゲル様
グループ内のビジネスは半分、残り半分は外部のプロジェクトです。現時点では要員拡大中なので、もう少しグループ内のビジネスに注力する必要があります。
原田
御社の組織・体制についても簡単に教えていただけますでしょうか。
ミゲル様
弊社はビジネスデザインとコンサルティングの2つの組織から構成されています。
ビジネスデザインチームでは、テーマごとに、SCSKから出向してきたメンバーと弊社のコンサルメンバーがチームとなり新規事業、新規サービスをつくっています。
基本的にビジネスデザインは、新規事業・サービスの創出なので事業化されてから利益が発生します。そこまではグループとしての投資という位置づけです。
コンサルティングチームは、クライアントベースの従来のコンサルサービスです。リテール(流通・小売り)、プロダクト(製造)、コミュニケーション・メディア、リソース(素材・エネルギー)、ファイナンス(金融サービス)の5つのインダストリーラインを整備している途中です。
業務はコンサルだけでなくビジネスデザインのテーマにも柔軟に連携していくのが特徴です。いずれかのビジネス領域に専門性を持ったメンバーが、ビジネスクリエイターとしてビジネスデザインチームにおける事業モデルや収益化構造の立案にも貢献できる体制です。
「社会価値、環境価値、経済価値の3つをテーマに新たな事業価値を創出していく」
原田
御社はBizValue Transformation(BVX)と銘打ち、「デジタルテクノロジーも駆使して変革を起こし、新たな事業価値を創出していく」ことを掲げていますが、このメッセージに込められた思いを教えていただけますか。
ミゲル様
我々は、社会価値、環境価値、経済価値の3つをテーマにテクノロジーを駆使して新たな事業価値を創出していくことを意図しております。
社会価値とは、社会的に意義のある取り組みであること。どんな事業でも社会的な価値があるから存在しています。同時に世界人口が80億人に迫る今、我々が生きていくためには食物連鎖も地球のエネルギー環境も含めてサスティナブルでなければなりません。
そのためすべての事業体が環境価値をミッションとして併せ持たなければならないでしょう。これらはボランティアではないため、持続するためには経済価値が必要です。つまり企業そのものがサスティナブルでなければ新たな事業価値を創造することができないのです。
この3つを総称してビジネスバリューと我々は呼んでします。弊社ではコンサルティングサービスとビジネスデザインサービスという2つのアプローチを通してBVXの実現を目指しています。
原田
社会課題や環境課題などをビジネスを通して成し遂げたいと思われる何かきっかけはあったのでしょうか。
ミゲル様
ものすごくベタな言葉かもしれませんが、人が幸せに生きていくために、ビジネスの切り口から新たな価値を生み出したいと思っているからです。
もともと地学や地球科学が好きで天文少年だった私は、大学の卒業論文で「持続可能な成長」をテーマにするなど、学生時代から環境問題に対して関心がありビジネスの力で改善できないかと考えていました。
今、世の中にSDGsの認知が広がり、環境問題とビジネスの話をしても誰にも馬鹿にされなくなりました。それまでにどれほど多くの時間を費やしたかわかりませんが、ようやく大手を振ってできるようになってきたかと思います。
ですから、ビジネスバリュートランスフォーメーションに環境価値を取り入れるのは決して流行りではなく、以前からあった問題です。人間が80億人もいれば食料が足りなくなる。エネルギーも80億人の人間が同じように使っていったら偏ります。それをどういう風に食物連鎖や環境循環サイクルの中に収めていくか。それを私はビジネスの力でやりたい。そして資本主義社会である以上、持続可能な形にするためには経済価値に結びつかなければなりません。
変革の先にある新たな価値の創出を、我々は事業を通して成し遂げたいと思っています。
今後の成長に際し、チーミングと組織化が急務
原田
今後の事業の方向性について教えていただけますか。
ミゲル様
2つの方向性があります。まず1つ目は、ビジネスデザインのインキュベーションを加速していくこと。社会価値・環境価値・経済価値、この3つのビジネステーマを軸にテクノロジーを駆使して世の中に新たなサービスを生み出して、次の世代に価値を紡いでいきたいと考えています。
もう1つは、住友商事やSCSKのバックグラウンドとしてグループに貢献するサイズの事業体をつくること。事業を創出するだけであれば少人数でもできますが、SCSKの知恵袋というポジションを担い、かつ今後「グループのコンサル会社」であると言えるようにするには一定の人数規模は必要です。
この2つは異なる目標ですが、コンサル側が大きくなればその知見をビジネスデザイン側で活かすことができる。この2つはものすごく密接に関連しています。
原田
人数を拡大されていくとのことですが、どれくらいの体制を考えていますか。
ミゲル様
まずは50名、その後適切なサイズまでとしか現時点では言えません。人数規模が多くなればいいというものではありません。ビジネスデザインで新規事業を創出していくために、グループ内できちんとプロフェッショナルチームになれるサイズのコンサルティング集団を考えています。そのためにもチーミングや組織化が大きな課題になっています。
原田
今後どういった人材に入って欲しいとお考えですか。
ミゲル様
人生経験の豊富な人ですね。長いという意味ではありません。当然、インダストリーや戦略系、プロセス系の経験があればいいですが、若くても旅をしたり多趣味でいろんなものを見てきている方がいいですね。
とくにコンサルティングは、クライアントの課題をどう解決するかというときに、視点の移動がすごく大事になります。いろんな経験をしている人は自然と客観的に見る、主観的に見る、立場を変えて見るなど視点の移動ができます。そういった意味では多様な視点のある人、多趣味な人がいいですね。