今回は、KPMGコンサルティング株式会社のNCS(National Cyber Security)チームへのインタビュー。国家安全保障に関わる機密性の高い「宇宙」「防衛」等の領域において、政策立案、IT戦略、サイバーセキュリティ対策等のサービスを提供する組織です。2019年に立ち上げ、2020年からサービス提供を開始しました。
今回は、同組織を率いる涌井聡一郎様(アソシエイトパートナー)、七森泰之様(シニアマネジャー)に、ご経歴や、NCSチームの特徴、マーケット状況や、求める人物像などについてお聞きしました。
KPMGコンサルティング NCSチーム 涌井様、七森様のご経歴
井内
まずは、涌井様のご経歴からお聞きしてもよろしいでしょうか。
涌井様
私は大学院修了後、銀行系のシンクタンクに就職しました。そこではサイバーセキュリティ関連の調査研究やコンサルティング、セキュリティ監査、脆弱性診断、コモンクライテリアの評価など幅広く業務を担当し、それ以外にもシステムコンサルティング、金融犯罪対策、マネーロンダリング対策等に携わってきました。
その後、ナショナルセキュリティ(防衛、国家安全保障)に興味を持ち、商社系のセキュリティ会社に転職し、そこで防衛分野や宇宙分野のコンサルティング業務に従事した後に、KPMGコンサルティングに入社しました。
入社の決め手は、KPMGのグローバルネットワークと、バリエーション豊かなプロフェッショナルを擁する総合コンサルティングファームに魅力を感じたためです。自分だけではカバーできない領域にもチャレンジできると考え入社を決意しました。
井内
KPMGに入社されてからの業務内容を教えてください。
涌井様
現在はアソシエイトパートナーとして防衛分野、宇宙分野を担当しています。具体的には宇宙・防衛分野におけるIT戦略の立案、運用構想の検討、情報システムの整備及び管理に関する技術支援、情報システムの要件定義、プロジェクト管理など多岐に渡ります。立場上、管理監督や営業活動も実施していますが、クライアント先で業務を行うことも多いです。
井内
入社前に抱いていたKPMGのイメージにギャップはありましたか。
涌井様
入社前から様々なコンサルティングファームの方と交流があったのでギャップはありませんでした。KPMGは、メンバー同士フレンドリーであり、かつ会社自体も社員一人ひとりを尊重し教育にも熱心です。一般的なコンサルティングファームのイメージと異なり、社員が長く働ける組織づくりをされているなというのが、良い意味でのギャップですね。
井内
続いて、七森様のご経歴についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
七森様
私は大学院で宇宙システム工学、特に人工衛星の姿勢制御を研究テーマとしておりました。その後、新卒で民間のシンクタンクに入社し、リスクマネジメントや産業機械・ロボット・電力システムなどの技術・政策・市場動向に関する調査、事業戦略策定支援などに携わりました。
前職ではシンクタンク系コンサルタントとして、電力分野、ロボット分野などを起点にコンサルティングを行っていましたが、もともとの専門である宇宙分野や防衛技術にも興味を持っていました。そうした中、KPMGで私が志望している分野での募集があり、お声がけいただいたのをきっかけに入社しました。
井内
現在の業務内容を教えてください。
七森様
国内の宇宙関係の機関、特に宇宙開発利用に関係する官公庁や研究機関のお客様に対して、衛星等の宇宙システムにおける技術やサイバーセキュリティ領域における各種最新動向などの様々な調査やコンサルティングを行っております。
井内
入社前に抱いていたKPMGのイメージにギャップはありましたか。
七森様
入社前は、KPMGに対して会計系のコンサルティングファームというくくりで見ていたので、監査や税務といった分野に特化した強みがある会社だと思っていました。しかし実際はそれらの分野以外にも多様なバックグラウンドを持つ方が多く、我々がテーマとしている宇宙についても造詣の深い方が多くいます。当初私がイメージしていたよりも、技術や産業を含め多様なナレッジを持つ総合的なコンサルティングファームとしての強さを感じました。
「防衛」と「宇宙」の2領域を支援するNCS(宇宙・防衛)チーム
井内
続きまして、NCS(宇宙・防衛)チームの役割やミッション、ビジネスをお伺いしてもよろしいでしょうか。
涌井様
NCS(宇宙・防衛)チームは、防衛分野を対象とする防衛チームと、宇宙分野を対象とする宇宙チームの2つの領域にわかれています。
防衛チームでは、米国国防省(DoD)や航空宇宙局(NASA)、連邦航空局(FAA)などで導入している民間活力を利用したSETA(Systems Engineering and Technical Assistance)を日本版にアレンジした技術支援のほか、国家安全保障にかかる政策立案、運用構想の検討、プロジェクトマネジメント、情報システムの要件定義、サイバーセキュリティ対策、調査研究などのサービスを提供しています。
一方、宇宙チームでは、宇宙分野における専門メンバー及びKPMGグローバルネットワークの知見を活用した実効性の高い調査・分析サービスなどを提供しています。クライアントの新たな政策テーマ設定や市場開拓など、実効性を高める日本有数の先進的なサービスとなっています。
もともとKPMGコンサルティングは、リスクコンサルティングやサイバーセキュリティに強みを持っています。防衛や宇宙安全保障という分野でもプレゼンスを高めることで、ナショナルセキュリティという観点からもKPMG全体で存在感のあるチームにしていきたいと考えています。
井内
防衛チームで働くことの面白さについてはどのようにお考えでしょうか。
涌井様
防衛分野、サイバーセキュリティ、IT技術などのスペシャリストが多くいる中で、防衛分野では指揮統制、調達、医療、物流(ロジスティクス)などの幅広い業務はもちろん、AIやドローンなどの先端技術を使った様々な領域にチャレンジできることです。延いては国を守る防衛事業は社会貢献につながるため、責任感も大きいと考えております。
井内
ありがとうございます。続いて宇宙チームの役割やミッション、ビジネスをお伺いしてもよろしいでしょうか。
七森様
我々は、国内外の最新の宇宙空間の動向を踏まえてお客様にソリューションを提供していくことがミッションです。今、宇宙空間の民営化・商用化が非常に進んでいます。というのも、これまで米国やロシアなど限られた大国が国家事業として人工衛星を作ったり、ロケットを打ち上げたりという時代が長く続いていました。しかし昨今は、米国の民間企業であるスペースXが宇宙空間に進出するなど、参入障壁が下がり宇宙空間はますますオープンになっています。
しかしオープンな空間になったことで、宇宙におけるスペースデブリの問題やサイバー攻撃のリスクなど、新たな課題も増えています。そういった課題に対してリスクを低減するため、お客様に対して最新動向に関するレポーティングやソリューションの提案をしていくことが我々の役目です。
井内
宇宙チームで働く面白さについてはどのようにお考えでしょうか。
七森様
我々は、宇宙開発に情熱を傾けて取り組むお客様に寄り添い支援をしていますので、お客様の課題解決へ向けた提言ができた瞬間は非常にやりがいを感じます。そのためには当然、我々も宇宙分野に関する工学的な知識や商習慣等を理解した上で、お客様と同じ目線で会話ができる知見や専門性が必要です。
例えば情報システムに対するサイバー攻撃は宇宙分野においても大きな脅威ですが、それ以外にも放射線環境や人工衛星の軌道など宇宙特有の技術的要素を理解していなければなりません。そういった意味では、我々はトータルな知見を有し宇宙関連のお客様に価値を提供できることが強みになります。
また知見や専門性に加え、KPMGのグローバルネットワークなどを掛け合わせて、新たな価値提供ができる存在としてお客様に貢献していきたいと思っています。
スペシャリスト集団かつ、グローバルとの連携により、一段上のサービス提供が可能
井内
他のコンサルティングファームと比べた際の「強み・特徴」はどこにあるとお考えでしょうか。涌井様からお願いいたします。
涌井様
防衛チームには大きく2つの強みがあります。まず1つ目が、経験豊富なスペシャリスト集団であることです。我々は国家安全保障政策や業務、デジタル技術、サイバーセキュリティなど多岐に渡る専門家で構成されているため、その強みを活かしてクオリティの高いサービス提供が可能です。
例えば、サイバーセキュリティでは、米軍との相互運用性を踏まえた上でクライアントにマッチした対応を検討していくことができます。 また、上流の運用構想の検討や指揮統制、ロジスティクスなどの専門家がいるため上流から深く入り込んで、オペレーションまで幅広く対応できます。
2つ目が、グローバルを活用して幅広いナレッジにアクセスができることです。KPMGは総合コンサルティングファームのため、グローバルネットワークで様々な専門家と連携できることが強みだと思います。
井内
宇宙チームはいかがでしょうか。
七森様
お客様の宇宙事業に関する経営課題やリスクに対し、最新の知見やソリューションを提案できるところが強みです。
例えばお客様がサイバー攻撃に対して悩みを抱えている場合、サイバー攻撃の専門家に依頼をするのが一般的です。しかし我々は、お客様の1つのリスクにフォーカスするだけではなく、外部環境や様々な他のリスクも踏まえた上でお客様の中長期的な経営課題を一緒に考えていく必要があると考えています。
そしてサイバーリスクに留まらず、先ほども挙げた宇宙におけるスペースデブリの問題や、太陽フレアなどによって地球上のインフラストラクチャに様々な影響を及ぼすと言われている宇宙天気など、ホットなトピックも踏まえ、お客様の経営課題にアプローチができることが我々の強みだと考えています。
また、KPMGはグローバルでも宇宙領域のプレゼンスが高く、保有する情報に関しては質・量とも充実しています。
井内
NCSチームの現状での課題についても教えていただけますか。
涌井様
NCSチームは、2020年にサービス提供を開始し、現在はクライアントに対して地道に認知を広げている段階です。これからより一層プレゼンスを上げていくことが課題ですが、一方で引き合いも多くリソースが足りていません。若くて優秀な方や経験豊富な方に入っていただきたいと思っています。
七森様
防衛分野や宇宙分野のコンサルティングニーズが非常に高まっているため、そこにアプローチができる体制を整えることが課題です。また宇宙分野では、リスクに限らずあらゆる課題にお答えするために、お客様の事業拡大に関する支援など、攻めの分野にもお応えできる体制を作っていきたいと思っています。
「激変する防衛・宇宙領域」KPMGが持つノウハウ・知見のニーズが高まっている
井内
防衛チームが直面しているマーケットや案件について教えていただけますか。
涌井様
防衛分野に関しては、例えばウクライナ情勢によるサプライチェーンの影響や取引規制に関する問題、半導体不足、米国のリスクマネジメントフレームワークへの対応など、最新のトピックを幅広く収集したものや、ヒアリングをしてまとめたものをクライアントに情報提供しています。
井内
世界情勢など様々な要因が絡み合っているかと思いますが、マーケットやクライアントから防衛チームはどのような期待をされているのでしょうか。
涌井様
昨今の世界情勢により、安全保障上の課題が顕在化しているため、民間企業が持つ知見やノウハウのニーズが非常に高くなっていると感じています。例えば従来、陸・海・空というフィールドは自衛隊の範囲でしたが、宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域が生まれました。そうした領域に関する情報提供などのニーズが増しています。
また、AIや超音速技術を使ったミサイルなどが開発されたことで戦闘の様相が激変しました。テクノロジー技術が進化をしたことで安全保障にも大きな変化が及んでいると思います。そういった変化に対して、安全保障を取り巻く課題を解決できるチームを作り、日本の防衛分野に貢献していきたいと考えています。
井内
続いて、宇宙チームが直面しているマーケットや案件について教えていただけますか。
七森様
宇宙分野では、目まぐるしく変わる宇宙空間において、例えばお客様が持つ衛星や地上局などの宇宙資産をどう守っていくかといったリスク対策。あるいはリスクを逆にチャンスと捉えて、新たなサービスや研究開発テーマの可能性を検証し将来の事業拡大に向けたコンサルティングの相談などがあります。
また前述した宇宙におけるスペースデブリの問題に対して、どのように対処していくかといったものも大きな課題です。
さらに、民間のスタートアップ企業が衛星を打ち上げて新しいサービス提供を始めるようになってきたため、政府側の機関もそういった新しい民間のサービスを積極的に導入していく動きが活発化しています。そのような官民連携の支援についてもニーズがあります。
井内
宇宙分野ではマーケットやクライアントからどのような期待をされていますか。
七森様
2つあります。1つは、宇宙関連に関わらず国内外の民間のスタートアップ企業が展開している新しいサービスを利用したいと思っているクライアントへの支援です。宇宙分野とそれ以外の分野との垣根は、この10年間で急激に下がり敷居がなくなりつつあると考えています。今、AIやIoT、データ解析、ビッグデータといった技術に加え、衛星画像や宇宙分野の技術で取得された情報をデータソースの1つとして活用し、新しい価値を生み出したいというクライアントが増えています。
もう1つは、リスク対策です。宇宙分野と一般的なITシステムとの垣根はあまりなく、衛星管制や受信データの保存・解析も民間のクラウドサービスを使うような動きが広がっており、そういった新しいサービスの導入支援・リスク評価に関する相談も増えていますね。
我々は、国内外の外部環境や海外の政策動向、規制動向も含めてトータルに知見を有し、的確なアドバイスやコンサルティングの提供ができることが強みです。ただ「海外動向はこうなっています」と伝えるのではなく、KPMGのグローバルネットワークを活かして、リアルタイムな情報や我々からみた見立てや示唆もお客様に提供していきたいと思っています。
「防衛・宇宙領域の発展に貢献したい」という人を求めている
井内
防衛チームに在籍されるメンバーのバックグラウンドを教えていただけますか。
涌井様
シンクタンクやコンサルティングファーム出身者、SIer出身のシステムエンジニア、また防衛関連機関の出身者など、様々な方たちが活躍しています。防衛経験のある方が多いですが、若手やメンバーの一部には領域未経験の方もいます。
井内
防衛チームでは、どういった人材を求めていますか。
涌井様
例えばコンサルティングファームやシンクタンク出身者は、調査研究やコンサルティング業務の実務経験、SIer出身者は、ITインフラや業務系システム企画、要件定義、設計・構築、PMOなどの経験ですね。他にも論理的思考力やコミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキル、リーダーシップなどが必要です。
またマインド面では、防衛分野に対して興味があり、この分野を通じて社会貢献を実現したいという強い気持ちを持って前向きに仕事ができる方を求めています。
井内
宇宙チームにいるメンバーのバックグラウンドを教えてください。
七森様
私のような民間シンクタンク出身者もいれば、衛星開発に携わっていたような技術的なことに詳しい人材もいます。とはいえ、必ずしも技術の専門家を求めているのではありません。コンサルタントとして働く上では、自ら培ってきた分野の専門性に加え、それにかけ合わせて持つ様々な能力が求められると思っています。
井内
宇宙チームでは、どういった人材を求めていますか。
七森様
自ら動いてお客様へ期待以上の価値を提供したり、新しいコンサルティングサービスの分野を開拓できたりする人です。宇宙の仕事をしたいという人は多いですが、与えられる仕事をただ待つのではなく、自ら成果を出していける人を求めています。我々は出る杭を伸ばしていきたいと思っています。自分が好きな業界に対してコンサルティングサービスで貢献したいという方をお待ちしています。
井内
ありがとうございます。では最後に、候補者の方へメッセージをお願いします。
涌井様
防衛分野ではいろいろなテーマを取り扱っています。防衛や宇宙に対して熱い志を持ち、ITに限らず様々な分野のスペシャリストの方に来ていただきたいです。また我々は始まったばかりの若いチームなので、組織を作っていくことに興味のある方もぜひお待ちしております。
七森様
日本で宇宙開発をされている方が課題に直面した時に、「まずはKPMGに相談してみよう」と初めに思いつくような組織になっていきたいと思っています。我々がコンサルティングサービスを提供することでお客様の宇宙関連の資産を守り、宇宙産業を推進し、それを通じて宇宙産業の競争力強化に繋がればいいですね。