今回は、KPMGコンサルティング株式会社の戦略部門 Sector Strategyへのインタビュー。同部門では、事業価値を向上させるための全社方針の策定から、新規事業立ち上げに向けた事業ポートフォリオ定義など、企業のクリティカルな命題に紐づく案件の支援を行っております。
今回は、同組織を率いるパートナー 青木聡明様、井島裕昭様より、同社へ入社された背景、入社後のギャップ、組織のビジョンや実際の案件内容、求める人物像までお聞きしました。
青木様、井島様のご経歴:KPMG入社の決め手は「自由度の高さ」
井内
まずは、青木様のご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
青木様
新卒で大手生命保険会社に入社し、3年目から本社勤務となり給与や昇進、資格制度作りを担当しました。4年が経過し、ある程度レールに沿った将来の姿が見えてきたことで、キャリアを変えてみたいという気持ちが強くなり、外資系戦略コンサルティングファームへ転職しました。そちらに約7年間在籍し、その後別の戦略ファームへ転職しました。
その後、KPMGコンサルティングで戦略チームを立ち上げるという話を聞き、「新たな環境で1から自由にできる」という環境に惹かれ、2016年KPMGコンサルティングへジョインしました。
井内
続いて、井島様のご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
井島様
新卒で外資系大手ITベンダーに入社し、SEとしてキャリアをスタートしました。その後、元同僚の誘いを受けて米国のERPソフトウェアベンダーに転職し、日本法人立ち上げに携わりました。そのベンチャー企業に3年半従事したあと、そこでのビジネスパートナーであった総合系コンサルティングファームに誘われて2002年にジョインし、9年間でパートナーに就任しました。
そちらでデジタル部門を立ち上げてから5年弱が経ち、ヘッドハンティングを受けて別の総合系コンサルティングファームへ移りました。こちらでは、インタラクティブのデリバリー組織のリーダーやインタラクティブ領域のデリバリー日本統括やBPOセンターのトップを務め、2020年9月末で退職しました。
次の選択肢として事業会社か、フリーランスかで迷う中、Big4系コンサルティングファーム時代の知人からKPMGコンサルティングを勧められ、周りからも「KPMGは人がいい」「居心地がいい」という評判を耳にしました。実際にKPMGの社長にお会いしてみると、とにかく「人を大事にする」会社だというのがわかり、考え方に深く共感しました。
またKPMGコンサルティングにはまだまだホワイトスペースが多く、「やりたいことが好きにできる」という自由な環境に惹かれて入社を決めました。
「大事なのは数字よりも人」が浸透したマネジメントスタイル
井内
実際にKPMGコンサルティングへ入社されてから、入社前のイメージや、前職コンサルティングファームとのギャップを感じることはありませんでしたか。
青木様
自由度の高さに魅力を感じて入社しましたが、5年以上経った今でもそこは担保されております。もちろん仕事は待っていても来るものではありませんから、自らネットワークを広げていく必要があります。
例えばセクター部門の人たちに「ディスカッションをしましょう」と自ら働きかけたり、わからないことがあればKPMGグループのFASやあずさ監査法人の方から教わったり、逆に「一緒にやりましょう」と声をかけられたり。その際、グループ内での壁を感じることはありません。
前職の戦略コンサルティングファームとのギャップを挙げるとすれば、そういったTAXや財務などの専門家の方にもプロジェクトにジョインしてもらい、知見を活かしてお客様にサービス提供ができる点が大きいです。
井内
井島様はいかがでしょう。
井島様
他のコンサルティングファームとのギャップにおいては、大きく3つあります。 1つ目はくり返しになりますが、同じKPMGグループ内や他部門、他チームとのコラボレーションがすごく自然にできること。コンサルタント同士マウントを取り合ったり、業務を丸投げしたりといったことがなく、チームで助け合いながら動いており、それがいい意味で1番の驚きでした。
2つ目は、利益率だけを考えて仕事を取らないこと。相談を受けたら話を聞き、自分たちが役立つことができそうだと思えば提案をして案件の獲得へ動きます。そこからクライアントと良質な関係性が生まれたり、また面白いテーマに携われたりすることができます。
3つ目は、社員の人柄の良さです。やりたいことに手を挙げやすく、またわからないことは周りからアドバイスがもらえる。「自分の成績を上げるために他の者を蹴落とす」なんてこともありませんね。牧歌的な雰囲気を感じます。
井内
そういった風土が醸成されている背景は何だと思いますか。
井島様
人事評価制度の仕組みに理由があると思います。数字第一主義のコンサルティングファームが多い中、KPMGコンサルティングではパートナーレベルでも一部数字で評価されない仕組みになっています。
例えば、提案の段階で「この体制でこのぐらいの利益率が得られる」と計画をして、マネジメントするのがパートナーのミッションですが、途中で人が足りなくなったり、残業が増えたりと想定外のことが起きることは少なくありません。
KPMGでは何らかの避けられない事情によって当初の計画から利益率が下がった場合、評価に響きにくいため、メンバーに負担を強いることはありません。
「大事なのは数字よりも人だ」というスローガンは、決して掛け声だけではなく制度やマネジメントスタイルにも浸透しています。
Sector Strategyは「事業戦略の策定」から「デジタル技術の活用立案」まで企業のクリティカルな命題を支援している
井内
KPMGコンサルティング内でSector Strategyに求められているミッションや、強み・弱みについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
青木様
Sector Strategyは、事業戦略の策定から最新デジタル技術の活用立案、グローバルにおける顧客体験、従業員体験、および経営の中枢に関わる業務の抜本的見直しなど、企業にとってクリティカルな命題への支援をしております。
また、KPMGのグローバルネットワークである、グローバルストラテジーグループにも属し、プロジェクトの協業やナレッジ・ノウハウの活用が可能です。
Sector Strategyの組織構成をお伝えすると、Financial Services(金融業界、金融ビジネス)、Products(Auto、ライフサイエンス、製造業)、GIE(エネルギー、インフラ、公的機関)、Services(テレコム、メディア、通信、消費財)の4チームに分かれております。
井内
続いて、現在お二方が手がけている案件について具体的にお聞かせください。
青木様
Sector Strategyでも、私はFinancial Servicesをリードしております。当チームのミッションは、金融戦略の上流案件獲得です。その背景には、Sector Strategy内の他チームとは例外的に、セクター側にデリバリー専門の金融チームがあるからです。基本的にその金融チームが金融クライアントに対してITやガバナンス、リスクコンサルティングを支援します。
例えば、大手金融機関の新規事業の立ち上げにおいて事業会社と交渉して事業を作るプロジェクトの伴走支援や、他の金融機関が事業会社に対して支援事業を行う構想の議論などを行っています。
また、金融と言っても今は金融機関だけではなく、例えばAmazonが提供する融資サービス『Amazonレンディング』のように、事業会社が金融機能を組み込んでサービスを提供する「組み込み型金融」の案件も議論・支援しています。
殊に日本のマーケットでは、まだ金融の要素が各インダストリーや企業にインフラとして入れる余地があるため、Sector Strategyでは、そういった事業会社の金融案件に関するコンサルティングにも積極的に取り組んでいます。
金融機関以外のプロジェクトですと直近では、大手製造業の子会社の新規事業立ち上げに向けた構想策定が挙げられます。病院や公共施設向けにビジネスを展開する中、コロナ禍で特需的に伸びたものの、今後の安定的な成長を見据得たプラン策定を行っています。
別の素材系メーカーでは、中期経営計画を作るにあたり事業ポートフォリオを見直し、各事業の位置づけを明確にして試算を出すといったプロジェクトを行っています。
井内
井島様は現在、Sector StrategyのServicesチームをリードされていますが、どのような案件を手掛けていますか。
井島様
まず、Servicesは流通、消費財、食品飲料、ハイテク、メディア、通信、商社、サービス業などのお客様が対象となり、現在2本柱で事業を行っています。
1つ目は、新規事業立ち上げの支援です。一例として、BtoB向けにビジネスプロフェッショナルサービスを展開している企業が、新たにBtoC向けにSaaSビジネスを立ち上げることとなり、それに向けてサービスの設計やシステムと業務のインプリメンテーション、go-to-marketなど包括的な支援をしています。
2つ目が営業・マーケティング変革支援です。例えば、BtoB向けにサービスを提供している企業に対して、顧客との関係構築から提案、案件開始まで効率よく確度を上げて営業活動ができるよう、マーケティングと営業の変革をテーマに計画から実行支援までサポートをしています。
この2本柱に加えて、事業戦略の立案や中期経営計画策定の支援など、短期的な案件も同時に行っています。
利益率が低くても「価値があるプロジェクト」は進んで取りに行く
井内
現在Sector Strategyが直面しているマーケットの状況やトレンド案件について教えてください。
青木様
マーケットのトレンドとしては、世の中の情勢から自分たちが向かうべき社会課題を定義して、中期経営計画の策定につなげていこうとする動きがあり、さらにその中にCSRの観点(企業の社会的責任)を一体化させようとする流れがあります。
というのも、CSRとSRビジネスは一貫したストーリーとして語られなければ投資家に評価されにくくなっているからです。そのためKPMGグループ内のリスクコンサルティングやサステナビリティ部門(KPMGあずさサステナビリティ)と一緒に提案する機会も増えています。
井内
井島様はいかがでしょうか。
井島様
DX推進のトレンドを受けて「データを活用した事業化ができないか」といったテーマで相談を受けるケースが多いです。その戦略立案、すなわちマーケットの調査分析や当該会社の経営環境分析に基づくフィージビリティ評価をして、事業計画を策定する案件が増えています。
井内
「戦略」と一言にいっても、他戦略コンサルティングファームや戦略チームでは中々見られない多種多様な案件を抱えておりますが、Sector Strategyがこういった案件を獲得できる背景について教えていただけますか。
井島様
まず、クライアント企業から提出されるRFPのコンペティションは、我々の戦い方の主流ではありません。
我々は、たとえ小粒でも、支援する価値があると判断した案件は進んで取りに行きます。
そしてしっかり成果を上げてクライアントと信頼関係を築きながら大きなプロジェクトにつなげていく。そういった入り方をしています。
青木様
そうですね。井島が申し上げたように、KPMGコンサルティングでは企業からRFPが出てコンペになる前に顧客接点を持つよう心がけているからだと思います。
ですから、インダストリーのセクター部門の方に対し、まだ柔らかい議論の段階からサービスライン側に声をかえてもらうように伝えています。クライアント先に一緒に行くことで、関係が深まることもありますし、お客様の悩みがクリアになることもあります。
最近はセクター側から「とりあえず一緒に来てください」と呼ばれることが増えてきましたね。そうした関係性から勝ち筋が見えてくることもありますので、今後も続けていきたいと思います。
提案型アプローチには「未来を妄想できる人材」が欠かせない
井内
ビジネス領域や組織作りの観点から今後のチームの方針をお聞かせください。
青木様
Sector Strategyは今4つのチームにわかれています。組織においては、最低でも各チームに30人ほどのメンバーが必要になります。また私のチームでは、マネジャーがデリバリーをリードしている状態ですが、将来の構想や戦略を描きクライアントと議論していくところにまだまだ時間が割けていません。マネジャーにどんどんチャレンジしてもらいつつ、そこを担う方にもどんどんジョインしていただき、組織を作っていきたいですね。
ビジネス領域においては、先ほども申したように金融機関から事業会社へ金融機能をどのように持ち込んでいくのか、といったテーマは引き続き行っていきます。
また金融以外にも、個々の興味が赴く戦略プロジェクトにも積極的に取り組んでいきます。
井内
井島様はどのようにお考えですか。
井島様
現状多くの引き合いをいただいておりますが、人が足りずにお断りをすることが多くなっています。メンバーは今よりも2~3倍必要になりますが、基本的には規模を追うつもりはありません。
またKPMGコンサルティング自体が、2014年創立の若い組織です。下から人材が育っていないため、組織内のバランスが整っていないのが課題です。私としてもストラクチャーヒエラルキーで、パートナー、ディレクター、シニアマネージャー、マネジャー、スタッフという構成で組織内のバランスを整えていきたいと考えています。
ビジネス領域では、RFPをもらってから提案するのではなく、こちらからどんどん仕掛けていき、問題提起ができるような提言型のアプローチを強化してきたいと思っています。
青木様
そのような提案型のアプローチを行っていくためには、いろいろな情報をインプットした上で、「この先どうなり得るか」をいかに妄想できるかが重要です。もちろん最終的に妄想から地に足をつけたプロジェクトにしていく必要はありますが、提案やディスカッションの時点では何のリスクもありません。
実は今、コンサルタントの中で「未来はこうなる」と妄想できる人が意外と少ないんです。妄想ができれば面白い発想も生まれてきます。そうした妄想ができる人や、していきたい人にぜひ来ていただきたいです。
井内
求める要素としてコンサル経験は必須になりますか。
青木様
即戦力という観点では、コンサル経験のある人がいいですね。直近がコンサルティングファームではなく、事業会社出身でも構いません。もちろん未経験者や素養のある方も積極的に育成はしていきたいと思います。
井島様
私としてはコンサル経験の有無よりも、KPMGコンサルティングの風土や目指しているものに共感を持てるかどうかですね。このインタビューの中で何度も「KPMGは自由」という話があったかと思いますが、線路が引かれていないところに自分から踏み込んでいけるマインドのある方がいいですね。
井内
戦略領域の経験は必須ですか。
青木様
戦略の経験は問いません。私自身もBPRの経験を多くしてきた時期もありますので、テーマというよりは、そこで何を考えて業務を行ってきたのかが大事です。BPRでもお客様との関係の中で、クライアントの課題を洗い出して解決策を提示していくという観点では戦略プロジェクトに近い内容です。
お客様とのコミュニケーションを能動的に、かつ自律的に動き、自らチームをリードしたり、顧客を開拓したり、お客様に対して解を出したり、妄想つまり仮説を考えたりといった経験のある方を求めています。
井島様
まったく同感です。たとえシステム開発系の仕事をされていても、戦略的思考に基づいて動いてきた、答えがない中で意思決定をドライブするような動きをしてきた、そういった素養がある方を求めています。
私たちの仕事は戦略コンサルティングファームとは違います。ですから、いわゆるピュアな戦略コンサルタントのストラテジーしかできない人には逆にしんどいかもしれません。守備範囲を広くして戦うことが今のKPMGコンサルティングで求められていることだと思います。
「コンサルタントとしていかに面白いことをやれるかを重視している」
井内
メンバーのバックグラウンドや、チームの雰囲気についてはいかがですか。
青木様
Financial Servicesは、もともとチームを立ち上げた際に、金融のバックグラウンドのある人たちが配属されたため、現在はみな金融出身者です。しかしKPMG内には金融の知見を持つ専門家がたくさんいますので、金融の経験は全く問いませんし、金融機関以外の戦略案件も積極的にやっていますので戦略に興味ある方であれば是非チャレンジしてほしいですね。
チーム内はまだ組織が小さいこともありますが、顔がみえて意見が言い合える関係だと思います。
井島様
Servicesは、コンサルティングファーム出身者が中心ですが、戦略系の方だけではありませんね。また事業会社出身の中でも経営企画やカスタマー系、営業改革案件の経験がある方などさまざまです。
チーム内の雰囲気としては、堅苦しさはなくフラットで意見を交換しやすい雰囲気があります。
井内
最後に、候補者のみなさんにメッセージをお願いします。
青木様
KPMGコンサルティングでは、フォーマットに当てはめたり、決まったソリューションを売らなければいけない、といった制約はありません。自分で能動的に動きたい人にとってはうってつけの環境です。
候補者のみなさんは、転職に関していろいろと悩むこともあるかもしれません。しかし同じ後悔でも、動いて後悔する方が得るものが絶対にあります。もしも迷っているのであれば、ぜひ勇気を持って一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
井島様
我々はいかに数字を稼ぐかという観点ではなく、コンサルタントとしていかに面白いことをやれるかを重視しており、それを体現するにはKPMGコンサルティングはとてもいい土壌です。自由闊達にギスギスしていない雰囲気の中で、楽しいと思える仕事に没頭したいという方はぜひ我々の門を叩いてください。
※本インタビューは2022年7月時点での情報です