今回は、PHC株式会社(以下、PHC)が、2020年9月に医療・ヘルスケア業界のDXを目指し、ヘルスケアソリューション事業を担うメディコム事業部内に立ち上げたビジネストランスフォーメーション(BX)センターへのインタビュー。
同組織を率いる池田孝史様に、コンサルやファンド経験後PHCへ入社された背景、BXセンター立ち上げの狙い、具体的なプロダクト事例、メンバーの構成、求める人物像などについてお聞きしました。
PHCなら、トップシェアを守りながら、企業・ビジネスモデルを変革していく難しさ・面白さを味わえる
庄村
まずは池田様のご経歴を聞かせていただけますか?
池田様
私は大学卒業後、外資系のコンサルティング会社に入社しました。その後ベンチャーを立ち上げ、次は投資とITコンサルティングが重なったような会社に転職しました。次は大手メーカー、それからITの事業会社で事業開発の仕事をして、中堅のメーカーで、香港に駐在した時期もありました。その後、官民ファンドを経て、8社目としてPHCに入社したのが2019年10月です。(※記事掲載時点では入社後1年半経過)
庄村
御社を選ばれたのはなぜですか?
池田様
2つあります。1つ目は、松下寿電子工業株式会社を前身とするPHCは、2014年にパナソニックからカーブアウトした後、積極的なM&Aや事業再編を推し進めるなど、目まぐるしく変わりつつあります。そのPHCの中でも、メディコム事業部は変革に対して最も積極的な事業部であり、また、変革の余地がかなり残っていると思い、どんどん変革をドライブさせていきたいと考えたからです。
2つ目は、今後の日本は、高齢化が一層進み、社会保障費が膨れ上がり、莫大なコストがかかっていくという状況において、医療・ヘルスケアとITを結びつけることで、何か社会に貢献できるのではないかと考えたからです。
庄村
池田様の前職はファンドですが、そこでマーケットを見ていく中で、ヘルスケアに着目したのでしょうか?
池田様
私の前職は官民ファンドでしたが、病院の再生を、同じ社内でたくさん手掛けていました。ですからニーズの高さは肌で感じていました。ただ、私が転職した理由としては、先ほどの1つ目の変革の支援をしたいという方が大きいですね。
庄村
社内変革という側面で、御社を選択したのはなぜでしょうか?
池田様
PHCが独特な理由の1つは、外資のファンドが株主だということです。ファンドの人たちは、外資のファンドがPHCに投資して、今後バリューアップしてEXITできるかどうかに注目しています。社内・社外からも強く会社の変革が求められている状況に飛び込み、当事者として変革していくのは、面白そうだなと感じたのです。
庄村
ここ数年、ヘルスケア×ITの分野に取り組まれている企業は増えていますが、ヘルステックベンチャーとPHCとを比較した際に、PHCが魅力的だと感じた点はどのような部分でしょうか?
池田様
一番大きいのは「キャッシュがあり、顧客がいる」という点です。例えばPHCのメディコム事業部は、レセコンや電子カルテのオンプレミスのサービス市場でトップシェアを持っています。
トップシェアを持っているということは、安泰な企業というイメージがありますよね?
しかし、実際にはそうではなく、高い危機感を持っています。なぜかというと、仰るように、優れたヘルステックベンチャーが続々と台頭してきている中で、トップシェアを守るだけではなく、将来の事業成長に向けた新しい事業開発を進めるという、攻めの活動が求められるからです。
私もベンチャーを経験しているので分かるのですが、スタートアップ・ベンチャーは基本的に新しいマーケットを生み出すため、市場を変革し、新しいことを創造することが重視されている。一方で、PHCのようなトップシェアのヘルスケアサービス事業を持つ企業は、今ある事業を守りつつ、新しいことを始めるという、バランスを保ちながら両輪を回していくことが必要です。
例えば、当初Adobeはパッケージソフトを中心に売っていましたが、今は、サービスをクラウド化して、さらに成長しています。
Adobeの社内には「パッケージソフトを売る」ことをやめることで、売上が一旦下がるという危険があったはずですよね。それでも、彼らは両輪を回しながらうまく企業を変革させていったと思うのですが、当社にも、そういうことをやる時がまさに今来ていると思います。
そのためには、トップシェアを守りながら、昔からあった組織文化やビジネスを変革するという攻めも求められ、なかなか味わえないビジネスの難しさ、楽しさがあります。
庄村
ベンチャーは主に攻める要素、事業会社は、守りつつ、コスト削減しながらバリューアップする。PHCでは、その両方を同じ会社で体験できるということですね。
池田様
そのとおりです。クラウド化を進めるには特にビジネスのあり方を変える必要があり、難易度は高くなります。トップシェアを守りながら企業変革していく両輪の中心にいるのがビジネストランスフォーメーション(BX)センターですね。
オンプレミスからクラウド化へ、新規事業開発も手掛けるビジネストランスフォーメーション(BX)センター
田中
あらためて、池田様はPHCでどのような業務に取り組んでいるのでしょうか?
池田様
入社後、最初は新橋のオフィスにいましたが、その後開発とオペレーションの拠点がある群馬で約半年間勤務し、販売業務の変革を行いました。変革を進める中で、渋谷に新オフィスを立ち上げる話が出てきたので、そこに手を挙げました。
田中
渋谷オフィスの立ち上げも、かなりのスピード感を持って進められていますね。
池田様
そうですね。2020年3月に開催された事業部内のリーダーシップ会議で私が手を挙げ、2020年4月からプロジェクトが始まり、9月にビジネストランスフォーメーション(BX)センターを立ち上げたというスピード感でした。現在はチームビルディングをして、新しくプロジェクトを始めつつあるところです。
田中
BXセンターの取り組みについて、もう少し詳しくお話を聞かせてください。まずはこの組織の成り立ちについてお聞かせ願えますか。
池田様
シンプルに「新しいサービス・新しい製品を作りたい」という思いが、この組織を立ち上げることになったベースにあります。ナンバーワンのシェアを持つ会社が、新しいことを始めるのは困難です。また、既存のビジネスを守ることが正しいという価値観もあります。既存のビジネスがあるのに、なぜリスクを背負ってまで、新規事業をやらなければならないのかという声もあるでしょう。そのような状況を配慮して、BXセンターは、メディコム事業部の既存ビジネスのリソースを活かしながらも、独立して新規事業を手掛ける組織という位置づけになっています。
田中
今現在、どのような領域を扱っているのですか?
池田様
新製品の開発です。特にクラウドのサービスに力を入れています。もともとPHCはオンプレミスのサービスを、クリニックや調剤薬局向けに提供しています。それをクラウド化していこうというのが根底にあります。クラウドサービスをやっているところと、シーズを見つけて新規事業開発をやっているところがあります。割合は8:2でクラウドサービスが多いですね。
田中
既存のプロダクトをクラウド化していくというお話でしたが、この取組みを達成したあとに得られる会社のインパクト、マーケットのインパクトはどのようなものになるとお考えでしょうか?
池田様
1つ実績ができるだけで、全然インパクトが違うと思っています。当社のお客様は医療従事者や調剤薬局などで、セキュリティには非常に厳しい方々です。業界トップのPHCがクラウドサービス事業に参入するというのは、マーケット的にも非常にインパクトが大きい。医療従事者や調剤薬局の中には「クラウドが欲しい」という方も多いので、そのニーズに応えて、オンプレミスと両輪でやっていくことが重要です。
田中
オンプレミスでシェアを取り、お客様から認められてきたPHCだからこそ、IT化、デジタル化も率先してほしいという期待があるのですね。
池田様
お客様のニーズは多様で、サービスをクラウド化してほしいというお客様と、クラウド化してほしくないというお客様の、両方いらっしゃいますね。お客様のために最良のサービスを提供するのがトップ企業の責務。オンプレミスを求めるお客様の期待だけではなく、クラウド化のニーズにもぜひ応えたいと思っています。
田中
何か一つ、特徴的なBXセンターのプロジェクトを紹介していただけますか?
池田様
調剤薬局のビジネストランスフォーメーションを推進しています。調剤薬局には本部と店舗があって、行っている業務は、それぞれ異なります。本部の方々は、より経営的な視点のサービスを必要とされています。しかし、実際には、たくさんのExcelを時間をかけて集め、分析し、マネジメントへの報告としてプレゼンを行っていらっしゃるのが実情です。この一連のプロセスを、SaaSの導入によって効率化したいと考えています。みんながExcelで個々にデータをまとめるのではなく、システムに入力するだけで自動的にデータが集計され、売上管理や在庫管理、発注管理がもっと楽にできるサービスを提供する。これをプロジェクトのミッションとして、現在、進めています。 システムの開発はこれからですが、既にお話しているお客様と一緒に作り上げていく計画です。
ベンチャーでいう「アジャイル開発」を、既存のお客様と一緒に作り上げるのがポイントですね。
田中
失礼ながら販売管理、ERPでも同じようなことができそうという印象ですが、PHCならではの強みは何でしょうか?
池田様
調剤薬局では、市販薬とは異なり患者様の処方せんに合わせて薬を調剤します。複数の薬を処方することも珍しくありません。当社はその調剤業務の理解に強みがあります。市販薬の管理については、大手メーカーでも製品を出していますが、調剤業務は、参入が難しい市場なのです。当社は長年に渡り蓄積してきた、薬局会計のノウハウがあるのが大きいですね。
また調剤のシステムは、法令の改正に合わせて、アップグレードしていく必要があります。既存のERPでは対応が難しいですし、その変化をずっと蓄積していく必要があるので、ベンチャーが新規参入しようとしても、追いつくのはなかなか難しいと考えています。PHCのシステムには、20年以上にわたって集めたお客様の声が反映されており、長年培った知見の蓄積が当社の強みです。
SaaS系ベンチャーCMOから、CTO、海外CMIO経験者まで、様々なバックグランドを持つ人材が集まっている
庄村
池田様の部署で求めているのは、やはり変革を「面白い」ととらえられる人ということでしょうか?
池田様
そうですね。ポジションによりますが、私に近い立場であればあるほど、困難にチャレンジすることが好きな人でないと辛いでしょうね。「誰からもこれをやれと指示されたわけではないけど、自分がやりたいのはこれだから」というくらいの人でないとね。
庄村
スキル面ではいかがでしょうか?
池田様
プロダクトマネージャー、事業推進、テックリード、エンジニア、QA……正直に言って、欲しい人はたくさんいます。階層でいうと、マネージャークラスもスタッフも揃えていきたい。社内外からプロジェクトの話をいただいても、応えきれていないのが現実です。
庄村
いろいろなスキルを持つ人材を集めていきたいというわけですね。
池田様
そうです。
庄村
今、チームで活躍されているのはどのようなバックグラウンドを持つ方ですか?
池田様
クラウド系では、直近でSaaS系ベンチャーのCMOをやっていた人がいます。既に一つのサービスの立ち上げからグロースまでを経験した人がプロダクトマネージャーをしています。また、テックのヘッドをしている人はもともと大手のシステムインテグレータにいて、ベンチャーのCTOやVPoEを経験した後でPHCに入社されました。Web系はやったことないけどチャレンジしたいと言って入社されたエンジニアもいます。新規事業開発では、海外の営業経験者や、医療系のフィールドエンジニアなどが集まっています。
庄村
チームにコンサル業界出身の人はいるのでしょうか?
池田様
今はいませんが、今後プロダクトマネージャーとして入社予定です。その方は、戦略コンサルの前に会社のWebサービスを立ち上げて運営されていました。つまり戦略コンサルとプロダクトマネージャーの両方ができる人材です。プロダクトマネージャーとしての任務を任せるには、戦略コンサルタントの経験だけだと、少し物足りないかもしれません。
ただ、事業推進担当など、ビジネスを究めたい、いろいろなことを吸収したいという方であれば事業会社未経験の方でも歓迎しているポジションもあります。コンサルタントの中には、現場に足を運ぶことを嫌う人もいます。そこを厭わないで素直にできる人なら、キャッチアップも早いし、いろいろなことができるはずです。
庄村
いろいろなスキルを持つ方がBXセンターを選ばれていますが、皆様は入社の決め手としてどのようなものを挙げていますか? 何か共通したものがあるのでしょうか?
池田様
複雑なことを面白がれること、ですね。ベンチャーの場合、一見、自由なようで、実はやることが決まっている場合が多い。社長の方針があって、それに沿ってどんどん進んでいきます。PHCのような大企業の場合は、既存のビジネスもあるので、そこを守りつつ、うまく新ビジネスを立ち上げなければなりません。日本の場合、業界ナンバーワンの企業が社内でベンチャー的な組織を立ち上げるケースはまだまだ少数です。そこに面白さを感じたという声をよく聞きますね。既存のお客様がいて、資金もある、その上で何をやっていこうかと考える上で、変数が多く、つまり、考慮しないといけない前提条件が多くて複雑であればあるほど面白いと感じる人達です。
また、当社はコミュニケーションにおいて、「大企業の顔」と「ベンチャーの顔」の両方を持つ必要があります。大企業のコミュニケーションと、ベンチャーのコミュニケーションは、やはり違いますので。大企業はどういうルートで、いかに根回しをして、問題を解決するかを考える必要がありますから。一方で、ベンチャーの「どんどん行こう!」というスピード感も必要です。
庄村
そこでも「両輪」が求められるというわけですね。
池田様
そうですね。
庄村
採用の募集要件には、英語必須とも書かれていますね。
池田様
最近、アメリカ出身の方を採用しました。アメリカの大手ベンチャーのプロダクトマネージャーや、日本では珍しいCMIO(チーフ・メディカル・インフォメーション・オフィサー)を務めていた人です。オンプレミスのサービスをクラウド化するという話をしていますが、この領域で一歩先を行くためには、海外、特にアメリカの先進事例を取り入れていく必要があります。若干R&Dに近いところがありますね。
事業開発のスピードアップを目指し、組織立上げ初期は管理職をおかず、全員同一のタイトルへ
田中
今後入社する人には、どのような業務を担当してほしいと考えていますか?
池田様
オンプレミスのサービスのクラウド化です。電子カルテ、レセコンもありますし、調剤薬局用のレセコン、調剤会計の本部システムもあります。薬歴システムという、クリニックでいう電子カルテに相当するものもあり、そういったもののクラウド化をお願いしたいです。
田中
具体的にはどの部分のタスクをお任せする予定ですか?
池田様
ゼロからグロースするまで、全部ですね。お客様に出向いてヒアリングして、ニーズを汲んで「こうですか」と提案するところから、どんどんやっていただきたいですね。
田中
実際に作ったものを顧客に提示して、フィードバックをもらいつつブラッシュアップする、といったところまで、お任せしたいということですね。
池田様
はい。優秀な方に来ていただいて、どんどんプロジェクトを立ち上げて進める、私はそのための環境を作ろうと思っています。
田中
今は池田様がトップで、その下にチームの他のメンバー全員がいるという組織構成なのですね。
池田様
そうです。PHCの他の組織は部長、課長、主任がいますが、BXセンターは私以外、全員が同じタイトルです。もちろん役割に応じて等級が分けられ、プロジェクト上のリーダーやヘッドはいますが。
田中
なぜそのようにしたのでしょうか?
池田様
勤怠管理や請求書管理といった管理的な業務を、省きたかったからです。社外から来た人がPHCの管理業務を理解するには時間がかかります。それは全部私の方でやっています。サービスの立ち上げに専念できるような組織にしたかったのです。役職が上がれば上がるほど、管理業務は増えていくので。もちろん、組織の構成人数が30人、50人と増えてきたら、今のようにはいかなくなりますが、立ち上げ期はこのままで行きたいと考えています。(※2021年3月時点)
田中
組織のスピードアップですね。
池田様
はい。メンバーにはどんどん自由に動いてほしい。今のメンバーは、積極的に他の部署に対して「こんなことやりませんか」と提案しています。PHCグループには、PHCの他に、エプレディア、アセンシア、LSIメディエンスといったグループ会社があります。まずはBXセンターで成功事例を作ることによって、「デジタル化でこんなことができるんだ」「自分たちにもできそう」という流れが、PHCグループ全体に広がっていけばよいと考えています。
田中
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
池田様
今のPHCのような会社は、なかなかありません。ターンアラウンドを経て、会社はどんどん変わろうとしています。また、医療・ヘルスケア業界も変革のタイミングにあり、その中でやれることは、まだまだたくさんあります。ぜひ、当社に興味を持っていただければと思います。