「未来のソフトウエアを形にする」をミッションに掲げ、研究開発から社会実装まで3層構造で一貫体制を築くことで、AIの可能性を確かな価値へと転換する株式会社PKSHA Technology。エンジニアとビジネスサイドが一体となって課題解決に取り組むことにより、机上の理論を超えた実践的なソリューションを生み出しています。
今回は、コンサルティングファームから転職された執行役員 兼 AI Solution事業本部長 森田航二郎様、AI Solution事業本部 副事業責任者 南正人様に、コンサルとは異なる課題解決アプローチや、技術を通じた社会変革への思い、そして目指す未来についてお話を伺いました。
※内容は2024年11月時点のものです
BCG、アクセンチュアからPKSHAへ、2人が見いだした「技術×社会変革」の可能性
中村
お2人の経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
森田様
私は大学卒業後、アクセンチュアに入社し、その後BCG(ボストン コンサルティング グループ)を経て、2018年にPKSHAに参画しました。
コンサルタント時代は、主にデジタルやテクノロジー領域のご支援に携わっていましたが、その中で個別の課題解決だけでなく、技術を通じて業界や産業全体を変えていきたいという思いが強くなっていったのです。
折しもデジタルイノベーションやDXという言葉が世の中で広まり始め、技術による社会変革の波が確実に来ると感じていました。そんな時に出会った「未来のソフトウエアを形にする」というPKSHAのミッションに共感し、社会の変革の中核となる企業で挑戦したいと考えて参画を決意しました。
南様
私は大学卒業後、CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)・アクセンチュアを経て、PKSHAに入社しました。アクセンチュアでは、基幹システムの導入やデータ分析系プロジェクトに従事し、コンサルタントとしてさまざまな経験を積むことができましたが、徐々にそれだけではなく、自社の事業成長にも目を向け、試行錯誤する経験を積みたいと思うようになりました。
そんな時、エージェントからPKSHAを紹介され、AIを社会実装するという事業モデルに強く惹かれました。PKSHAには非常に優秀なエンジニアメンバーが揃っていますが、私自身、前職までで得たテクノロジー知見を生かしつつも、そういった社内のスペシャリストと連携することで、自分の個の能力・スペシャリティだけでは実現できない未来を創造していくことに強い関心を持ち、参画を決意しました。
顧客志向でクライアントが真に求める価値を提供する
中村
御社の組織の構造や、お2人が所属されるAI Solution事業本部のミッションについて教えていただけますか。
森田様
PKSHAでは、研究開発から社会実装まで3つのLayer(Layer0、1、2)で一貫して取り組んでいます。
Layer0はR&D部門です。ここでは基礎研究をはじめ、短中期的なビジネスに直結する開発や既存プロジェクトで使用する技術のモジュール化まで、多岐にわたる研究開発を担当しています。そして、Layer1は私どもが所属するAI Solution事業本部、そしてLayer2がAI SaaSなどのプロダクトを展開する部門です。
私どもAI Solution事業本部の特徴は、R&Dとプロダクトの橋渡しを担っていることです。具体的には、大手企業のお客様と新規性の高いAIプロジェクトを共同で推進し、そこで得られた知見やノウハウを活用してAI SaaSに汎用化したり、新しいプロダクトの開発へとつなげたりしています。
また、特定の企業向けのソリューションだけでなく、業界共通で使える汎用的なソリューションも積極的に横展開を図り、業界シェアを広げていくことにも注力しています。たとえば、クレジットカード不正検知のAIソリューションは業界大手20社のうち約半数に導入され、事実上の業界標準となっています。
中村
コンサルティングファームやSIerとの違いは何でしょうか。
森田様
最大の違いは、Layer1(AI Solution事業本部)とLayer2(AI SaaS事業本部)を組み合わせた価値提供ができることです。一般的に、コンサルティングファームは開発面の実装が課題になり、SIerは自社プロダクトを持っていません。私どもは両方の強みを持っているからこそ、AIの精度やコスト効率面でも明確な差別化ができています。
この強みの背景には、創業者の強い信念があります。彼はコンサル経験者でありながら、単純な人的リソースの積み上げによるビジネスにアンチテーゼを持っていました。人を増やして売り上げを拡大するという従来型の成長では、最終的に組織が空洞化し、優秀な人材が流出していくリスクがある。そのため、ソフトウエアを通じて価値を提供することにこだわってきたのです。
多くのAIソリューション企業がコンサルタント中心の組織となる中、私どもはソフトウエアエンジニアの採用と育成に注力し、技術力で競争優位を築いてきました。だからこそ、より本質的な価値提供ができているのだと思います。
中村
この領域は非常に難度が高いと感じています。プロジェクトの立ち上げからデリバリーに加え、事業開発視点でプロダクト化を進める必要があり、さらに研究開発の動きもキャッチアップする必要があります。テクノロジーと社会課題の間を行き来しながら、この複雑な環境の中で事業ができる強み、その背景は何でしょうか。
森田様
当社には「未来のソフトウエアを形にする」というミッションがあり、これがメンバーの行動指針となっているからですね。たとえば、規模の大きなプロジェクトがあったとしても、単に「面白そうだからやってみよう」という理由だけでは判断しません。その代わりに、「このプロジェクトは社会にどのような影響を与えられるのか」「自分たちの事業にどういう影響を与えるのか」、そして「そのためのベストな提供の仕方は何か」を常に考えます。
この方法論は、私の以前の経験からも特徴的だと感じています。一般的なコンサルティングファームでは、ビジネスサイドが方向性を決め、エンジニアがそれに従って実装するという流れが多いのですが、当社ではエンジニアも含めた全員で議論を重ねます。技術的な実現性や将来の拡張性まで考慮した上で、最適な解決策を導き出すのです。
そのため、個人の意見を押し通すのではなく、さまざまな立場のメンバーが意見を出し合い、より良い解決策を見つけていく。この文化が、複雑な課題に取り組める強みになっていると感じますね。
エンジニアが営業提案から参画、技術とビジネスの分断なき成功モデル
中村
プロジェクトの進め方について具体的に教えていただけますか。お客様への提案からデリバリーまでの流れを知りたいです。
南様
プロジェクトの起点は多様です。お客様からのお問い合わせ、プロダクト事業と連携した業界・顧客アプローチ、最近ではSIerなどの外部パートナーとの協業など、さまざまなケースがあります。その後、打ち合わせ等を通じてお客様のビジネスや業務を深く理解し、テクノロジーで実現できる未来の姿を構想し、提案します。ここで特徴的なのが、提案の初期段階からエンジニアが参画することです。多くの企業では、ビジネスサイドが案件を獲得してからエンジニアに任せる形が一般的ですが、当社では最初から技術的な実現性とビジネスインパクトの両面から検討を行います。このアプローチにより、実証実験(PoC)で終わらず、本番実装まで確実に進められるケースが多くなっています。
中村
御社の特徴として「未来志向」で技術を組み合わせていく点がありますが、プロジェクトの進め方という点から一般的なコンサルティングファームとの違いを教えていただけますか。
森田様
未来志向を実現するには技術への深い理解が不可欠です。チャットボット1つ取っても、裏側でどうボットを制御するのか、どんな機能を組み込むのかで、最終的なサービスの形が大きく変わります。一般的なコンサルタントは戦略立案や業務改革の知見は豊富ですが、日々進化する技術領域すべてに精通することは構造的に難しいと考えています。そのため「本当にこれをやるべき」「これがベストな選択肢です」とは言い切れず、抽象的な提案にとどまる傾向があります。
私どもはR&D部門での実証実験があるからこそ、他社が「理論上できそう」というケースでも、「ここまでは確実にできるが、ビジネスインパクトを出すにはこういった課題がある」と具体的に説明できます。象徴的なのがコンペの際などに、お客様から「他社が実現可能と断言する提案をPKSHAは否定し、逆に他社が不可能と判断する課題にPKSHAは解決策を示してくださる」という形で我々の実績や知見を評価いただき案件を依頼されるようなケースも増えてきています。そして、もう1つ重要な点が「出口」を知っているということです。私どもはさまざまな技術オプションを持ち、それぞれの可能性と限界を理解しているため、状況に応じて最も適切なアプローチを提案できます。
南様
当社の提案の解像度が高い理由が2つあります。1つ目は、森田の述べたように常にリアルな出口を見据えて事業活動をし、すべての物事を考えていることです。一般的なコンサルティングでは、現状分析から課題抽出、施策立案を机上の理論で組み立てていき、最終的な出口は紙(クライアントへの報告資料)であることが多いと思います。しかし私どもは、AIが実装されたリアルな未来を提供価値とし、最終的な出口と定めています。
2つ目は、ビジネスサイドとエンジニアサイドの密な連携です。私どもはこれを「共進化」と呼んでいます。共進化の本来の定義は、「密接な関係を持つ複数の種が、互いに影響し合いながら進化すること」を指しますが、社会・お客様のリアルな課題に対して、ビジネスインパクト創出に熱意を持つエンジニアと徹底的に対話を重ね、出口を具体化していくことも、仲間との「共進化」だと考えています。
この過程で業務理解と技術理解の両方が深まっていくからこそ、お客様との商談でも即座に具体的な提案ができます。お客様には商談・提案の時間をわざわざ頂いているわけですので、私たちはお客様に「PKSHAとの打ち合わせは最高の1時間だった」と思っていただけるように、常に心がけています。そのためには、話が具体化しそうなタイミングで「持ち帰って確認します」ではなく、その場であらゆる出口や技術的な実現可能性までを見据えた解像度の高い議論ができることが非常に重要だと考えており、それをビジネスサイドとエンジニアサイドの「共進化」で実現しているわけです。
中村
ビジネスサイドとエンジニアの「共進化」について、もう少し詳しく伺えますか。
南様
当社の場合、エンジニアもビジネス視点を強く持っています。時には「本当にそれで十分なインパクトが出せるのか」と、エンジニアから積極的な提案が出ることもあります。一般的なテック企業では、ビジネスサイドは顧客志向、エンジニアは技術志向と分かれる傾向にあります。
しかし当社には、そういった分断は存在しません。ビジネスサイドもしっかりエンジニアの意見・見解をリスペクトしており、エンジニアサイドも事業インパクトを重視しています。そのため、両者で見ている方向が常に一致しており、故にアウトプットの質やそれを創出する事業生産性も非常に高くなります。
中村
こうしたカルチャーはどのように実現できているのでしょうか。
森田様
採用段階での判断が重要です。「手段は問わないから課題解決したい」という方より、「デジタルやAIで世の中を変えたい」という強い志を持った人を採用しています。一般的なコンサルタントとして十分な能力をお持ちの方でも、技術への強い関心やパッションがない場合はお断りすることもあります。プロジェクトのリーダーには技術的な観点も含めてチームを引っ張る力が必要だからです。社員から「これくらいでいいのでは」という妥協案を聞いたことがないことも、当社の特徴となっています。最適な解決策を見つけるまで徹底的に考え抜くことが、大きな強みとなっているのです。
金融機関DXで実証、汎用SaaSと個別解決の両輪で市場開拓へ
中村
続いてAI業界全体のトレンドについて伺います。現在、AI業界は2つの軸があると感じます。1つは、AIが社会実装のフェーズに入り、現実のビジネスや社会で利用される段階に進んでいること。もう1つは、LLM(大規模言語モデル)のブームによってAI技術がさらに注目を集めていることです。こうした状況の中で、御社は日本のマーケットをどのように捉え、今後どのように対応していくのでしょうか。
森田様
私どもはこれまで、不正検知領域やコールセンターのAI化など、特定領域で大きなシェアを獲得するなど、着実に社会実装の経験を重ねてきています。
そして今、生成AIの登場により、あらゆる業務やシーンでAIが活用される可能性が広がっていますが、これは間違いなくディスラプティブな技術。誰でも簡単に使える反面、それだけに差別化が容易ではありません。ただし、生成AI単体で解決できる課題は限定的ですが、むしろ他の技術と組み合わせることで大きなインパクトを生む領域が多いと考えています。
そこで重要になるのが、私どもがこれまで培ってきた技術やアセットとの組み合わせです。たとえば、最近実施した金融機関のコールセンターDXプロジェクトでは、私どものSaaSを活用することで、0から作ると膨大な投資額が必要となるところをかなりリーズナブルにご支援できています。これは、私どもが持つトップシェアのSaaSを活用できたからこそ。さらに、個社特有の深い課題に対してはカスタマイズされたアルゴリズムで細かく対応していく。このように汎用的なSaaSによる効率化と、個別解決の両方を組み合わせて高いレベルでサービスを提供できる企業はおそらく私どもだけではないでしょうか。
「与えられた課題の解決」から「自ら定義」へ、受け身の姿勢の脱却が求められる
中村
お2人はコンサルティングファームから転職されていますが、コンサルティングファームと御社で必要な思考法や課題の解き方という観点ではどのような違いを感じていますか。
森田様
課題解決へのアプローチ方法が違いますね。そもそも課題解決には大きく2つの方向性があります。1つは技術起点のアプローチで、新しい技術を社会に実装することで世の中を変えていく方法です。もう1つは課題起点のアプローチとして、既存の技術を組み合わせて最適な解決策を見いだしていく方法です。
コンサルティングファームは主に後者で、既存技術の中から最適なものを選んで当てはめていくという「最適化」が中心になります。一方、当社ではR&D部隊が1年後、2年後の技術動向を見据えながら開発を行っているため、新しい技術を起点に「こういう社会課題が解決できるのではないか」という発想が可能です。これは、優れた技術者がいるPKSHAだからこそできることです。
中村
コンサルタントの方が御社に入社される際は、マインド面の切り替えも必要になりそうですね。
森田様
おっしゃる通りです。コンサルタントの仕事は、与えられたテーマをいかに解ききるかが重要です。どんなに難しい課題でも「死ぬほど頑張って解きます」という非常にコミットメントが高いマインドセットが必要ですが、見方によっては与えられているという意味で受け身の姿勢になりがちです。
しかし、PKSHAに入って特に重要だと感じたのは、「この業界でこういうことをやりたい」「5年、10年かけてこういうふうに社会を変えていきたい」という、個人の強い思いです。コンサルティングファームは徒弟制的な面があり、「上司について頑張れば出世できる」というカルチャーが一般的ですが、当社では自分で課題を定義し、解決策を見いだして自らチャレンジしていく姿勢が求められる。私も初めはそうでしたが、コンサルティングファーム出身の方は、このマインドの転換に初めは苦労される方も見られますね。
中村
南さんは思考法やマインドという観点でのコンサルティングファームとの違いについてどのように感じていらっしゃいますか。
南様
森田と同感ですね。コンサルティングファームでは、クライアントのお題を解き続けることを重ね、経験とキャリアを積んでいくのが一般的かと思います。一方、当社では、自分で領域を見定め、「世の中に働きかける」という姿勢が求められます。
プロジェクトだけを見ていると、目の前の「やるべきこと」をこなすだけになりがちですが、当社では既存の枠組みにとらわれない新しい取り組みを自ら考え、実行することが必要になります。
森田様
さらに付け加えると、コンサルティングファームでは「コンサルティング力」という抽象的なスキルがアセットになりますが、当社の場合は違います。たとえば、Kaggle(データサイエンティストと機械学習の世界的な競技プラットホーム)で金メダルを獲得しているようなエンジニアがいて、そういった具体的な技術力が価値の源泉になっています。
私どもは、そうした技術的な強みを生かしながら、より良い社会への変革を起こしていく。このような思考への転換が必要で、これはコンサルティングファームにいては得られない視点だと感じています。
技術理解×実装経験で差別化、これからのDX人材に必要なスキルを習得できる
中村
AI Solution事業本部が求める人物像について教えていただけますか。
森田様
たとえば、SIerで6〜7年程度の経験を積み、AI分野でさらなるキャリアを築きたいと考えている方や、戦略コンサルティングファームでマネジャー昇進が見えているものの、事業会社で新しい挑戦をしたいと考えている方。また、大企業のDX部門で、より積極的にDXやAIの実装に取り組みたい方ですね。
南様
他にも、テクノロジーで世の中を変えたいという思いを持ちつつも技術力が不足している環境に歯がゆさを感じている方や、コンサルティングファーム等で特定のプロジェクトへの従事(およびそれが連続して続く状況)で視野が広がらないことに漠然とした不安を抱いている方には、PKSHAで新しい視点や挑戦機会が得られるのではないでしょうか。
中村
ありがとうございます。「マネジャー昇進が見えているものの、事業会社で新しい挑戦をしたいと考えている方」という話がありましたが、コンサルティングファームでマネジャー昇進を目指すか、それとも転職して新たな挑戦をするかで迷う方も多いと思います。森田様の視点でアドバイスはありますか。
森田様
率直に申し上げますと、コンサルティングファームでのマネジャー昇進も確かに魅力的な選択肢の1つです。ただし、昇進して待遇がよくなればなるほど、それが逆に足かせとなって転職が難しくなる面もあると思います。そうすると外で新たな経験を積む機会を逃してしまい、「本当は別のことに挑戦したいのに動けない」という状況に陥るパターンも少なくありません。
こうしたジレンマを認識してか、最近では若手コンサルタントの間で新しい動きが出てきています。3〜5年のスパンで外に出て新しい経験を積み、その後さらに上位ポジションで戻る方も増えているのです。これは時代に即した賢明な選択だと思いますね。
コンサルティングファームでは確かに優れた問題解決力が身につきますが、それだけでは個人としての差別化が今の時代では難しくなってきており、事業に真の価値を生み出すには、問題解決スキルなど単一の汎用的なスキルセットに加え、特定分野での専門性や実践的な経験が不可欠です。コンサルティングファームの外に出ることでそうした専門性と経験を積めるのです。
そのため、コンサルタントは早い段階からキャリアの本質的な価値を考えて、外の視点を持つことは非常に有益だと思いますね。
中村
納得感のあるお話です。
森田様
はい、シニアマネジャーやディレクターになるとコンサルティングファームを離れづらくなる傾向がありますので、だからこそ、「学び直したい」と考えているなら今がチャンスです。私自身、コンサルティングファームを辞める際、キャリアの広がりなどのリターンとコンサルを離れることで失う選択肢などのリスクを入念に比較した上で転職を決めました。PKSHAでは、こうした将来に対する危機感を持ち、自分の思いを生かして新たな挑戦をしたいという方を心から歓迎しています。