今回は、M&Aや事業再生局面での組織人事支援に専門性を発揮するPwCアドバイザリー合同会社人事アドバイザリーチームへのインタビュー。
同チームのパートナー宮寺宏器様、シニアマネージャー野崎有里子様、シニアアソシエイト大口哲広様に、これまでのご経歴や、同チームの強み、手掛ける案件の特徴などについてお聞きしました。
人事アドバイザリーチーム 宮寺様、野崎様、大口様のご経歴
井内
これまでのご経歴についてそれぞれお聞かせください。まずは、宮寺様お願いいたします。
宮寺様
現在、人事アドバイザリーチームをリードしている宮寺です。新卒で総合商社に入社しまして、その後、米国へのMBA留学を経験。投資銀行、プライベートエクイティファンド、人事コンサルティングファームを経て2020年にPwCアドバイザリーに参画しました。
当初はここまで組織人事でキャリアを築いていこうとは思っていなかったんです。しかし、M&Aを経験する中で、組織を統制するためには、経営陣にどのようなインセンティブを与えるか、親会社としてどのようにガバナンスを効かせるかが重要だと実感し、組織人事の領域でもっと学んでみたいと思うようになりました。
PwCアドバイザリーのディールズに参画した理由は、M&Aの組織人事の強みを活かしながら、マネジメント目線でより広くクライアントに価値を提供していきたいと思ったからです。
井内
野崎様お願いいたします。
野崎様
もともと新卒で事業会社に入社したのですが1年で退職し、大学院へ進学してからコンサルティング業界に入りました。その後、3年目から人事領域に携わるようになり、総合ファームや人事コンサルティング専門のファームを数社経験しています。
これまで人事制度の設計や導入支援、研修プログラムの開発、組織診断などさまざまな業務に携わってきましたが、その中でもM&Aの人事には、デューデリジェンスや、新人事制度設計、変革を推進するコミュニケーション、各種手続きなどあらゆる要素が含まれます。そういった背景からM&Aを軸に組織変革の支援経験をより深めていきたいと思い、2021年2月にPwCアドバイザリーに入社しました。
井内
大口様お願いいたします。
大口様
私は2009年に新卒で総合電気メーカーに入社し、約12年半、人事業務全般を経験してきました。前半は国内の人事業務に従事し、残り4年半はシンガポールに駐在し、4ヶ国5拠点を統括するシンガポール法人の人事責任者として現地の人事施策などを担当してきました。
その当時、人員削減を伴う構造改革や事業のカーブアウトなど、日本とは異なるカルチャーの中でさまざまな経験をするうちに、もっとM&Aや人事の軸となるものを磨いていきたいと思うようになったんです。転職先を考える中でも、PwCアドバイザリーの人事アドバイザリーチームは、新しくできたチームであり、そこに魅力を感じて2021年10月に入社しました。
「M&A」や「企業再生」に伴う「組織人事」に特化
井内
それでは、人事アドバイザリーチームの概要をお聞かせください。
宮寺様
M&Aや企業再生の支援を担うPwCアドバイザリーで、組織人事領域のサポートを担っているのが人事アドバイザリーチームです。シニアマネージャー以上はセクター制で組織化されていますが、人事アドバイザリーチームはセクターをまたいでクライアントを支援しているのが特徴ですね。
プロジェクトは多岐にわたっており、人事デューデリジェンスやカーブアウトの支援、買収後のPMIにおける人事制度の統合、カルチャーの融合など、人・組織にまつわるM&Aや企業再生の局面においてサポートしています。
井内
M&A後のPMIにおいて、労働組合や従業員との交渉も御チームが担当されているのでしょうか。
宮寺様
いえ、それはあまりありません。M&Aにおけるシナリオを作成したり、交渉で使えるトーキングポイントをまとめたりすることはありますが、私たちのチームが労働組合や従業員と直接対面して交渉することはないですね。
井内
カウンターパートはどういった層になりますか。
宮寺様
案件によって異なりますが、基本的にはクライアントの経営陣あるいはCHRO(最高人事責任者)、人事部長などが多いです。とはいえ、M&A案件なので経営陣だけしか入っていないケースもあります。その場合は、経営者に人事について説明しながら施策を推進していきます。
井内
案件の内容としては、財務領域、非財務領域ではどちらが多いのですか。
宮寺様
あまりサービス自体を財務、非財務で区切ってはいないのですが、どちらかと言えば非財務領域が多いと思います。また財務領域で年金などを扱う場合は、ディールズの財務チームと協業しながら進めていきます。
PwCグループ内の専門性を持ったチームと密に連携し、One Teamでサービスを提供
井内
他ファームの組織人事系のチームと比較された際に、人事アドバイザリーチームの特徴や強みについて、野崎様はどのようにお考えでしょうか。
野崎様
一言で表すと“総合力”だと思います。人事アドバイザリーでは、私たちだけでサービスを提供するのは極めて稀であり、必ずPwC Japanグループ内の財務、税務、法務を担当する法人や、IT、事業再生といった専門性を持った他チームと連携し、One Teamなってクライアントに相対していきます。私たちのチームの経験や知見に、他チームの知見を掛け合わせることで、より最適な構成でクライアントに対して柔軟に対応できる。そうした動きは、かつて私が在籍していた人事コンサルティングファームにはなかった大きな違いだと思いますね。
また、組織の壁を超えてシームレスに連携し、人事領域以外からの知識を吸収できるという環境も特徴的だと思います。同時に、クロスボーダーの案件では海外のメンバーファームともOne Teamとなって取り組んでいきますので、グローバル志向の方にも魅力的な環境だと思います。
井内
一般的な組織人事系コンサルティングチームとアドバイザリーにおける御チームとの違いはどのようにお感じになられていますか。
宮寺様
私は長年人事コンサルティングに携わってきましたので、その経験からスポーツに例えてお答えすると、人事コンサルサルティングが“ボクシング”であれば、私たちは“総合格闘技”をやっているイメージです。もちろんボクシングを極めていくことはすばらしいことです。一方で、私たちはボクシングの強みを活かしながら、総合力で勝負をしていく。そういった違いがありますね。特にシニア以上のメンバーになると、広い視野を持ったマネジメント力がより強く求められると思います。
井内
メンバーファームであるPwCコンサルティング合同会社にもピープルチームがありますが、違いを教えていただけますか。
宮寺様
M&Aや企業再生といった局面での組織人事は私たちが担い、一般的な人事コンサルティングはPwCコンサルティングのピープルチームが担当しています。とはいえ、私たち人事アドバイザリーチームは、まだ立ち上げ段階でリソースが足りていないため、人事制度の改定などはPwCコンサルティング側にお願いするケースも多いです。
M&Aの成功要因として、「組織人事」への注目度が急激に高まっている
井内
では続いて、クライアントからは現在どのようなニーズが増えていますか。
宮寺様
M&Aにおける組織人事の課題が高まっていますね。その背景には、M&Aを行った場合、一般的に買収した後に人事周りに問題が生じやすいということが、企業側もこれまでの経験から分かってきたからだと思います。
私は10年前にM&A領域の組織人事の世界に足を踏み入れましたが、注目度は年々高まっており、より複雑化しています。特に今は、経営陣だけでなく従業員に対してのリテンション、つまり人材の流出を防ぐための施策を考える必要性も生まれています。また最近は、M&A後にどのようにカルチャーを融合していくか、買収後のミッション・ビジョン・バリューをどのように制定するか、などのソフトイシューに関する案件も増えている印象です。
野崎様
まさに人事イシューのところですね。昔はデューデリジェンスを行う際、財務や法務には予算が多くかけられるのに対して、人事はほとんど注目されていませんでした。しかし現在、私が携わっているグループ再編においても、再編前から“統合後の人事領域のあり方”について時間をかけて検討するようになってきたなと実感しています。
大口様
私も同じ意見です。今、私が担当している案件でも、ファイナンスやリーガル、タックスなどいろいろなチームと協業して動いていますが、「最終的に経営者や経営幹部はリテンションできるのか」「どうやったら事業計画達成に向けて従業員のモチベーションを高められるか」など、クライアントの中でも人事領域のプライオリティが高まっているのを感じています。
井内
宮寺様が担当されている直近の案件についてお聞かせください。
宮寺様
直近ではグループ内再編が増えています。これまでは日本企業が海外の企業を買収して、事業をどのように拡大していくかという案件が多くありました。しかし最近は、海外の企業を売却する際の組織人事や、海外拠点を閉じる際の従業員の解雇についてのお問い合わせも少なくありません。全般的に買収、売却ともに組織人事課題が増えている印象ですね。
井内
野崎様は、現在どのような案件を担当されていますか。
野崎様
国内M&A案件の人事デューデリジェンスや、グループ内の組織再編を主に担当しています。組織再編においては、労働条件の統合や従業員のコミュニケーション支援などを行っております。
井内
大口様は、現在どのような案件を担当されていますか。
大口様
私は主に、クロスボーダーのM&Aや事業再編における人事領域を支援しています。具体的には買収局面での人事デューデリジェンスや経営幹部のリテンション、従業員コミュニケーションなどの支援を行っております。
井内
今後、人事アドバイザリーチームが新たにアプローチしていきたい領域やテーマはありますか。
宮寺様
まずはチームそれぞれのケイパビリティを上げていくことですね。そして、将来的には今はまだあまり携われていないHRテックの領域も広げていきたいと思います。その知見を持っている方に参画していただけると、さらに面白い化学反応が生まれるのではないかと期待しています。
「今にも従業員が辞めそう」「2週間でお願い」など、求められる瞬発力
井内
人事コンサルティングと比べて、皆様はどういう瞬間にやりがいを感じていらっしゃるのでしょうか。まずは、宮寺様いかがですか。
宮寺様
M&Aや再生局面の人事は、一般的な人事コンサルティングと比べて、かなり混沌とした状況下において力技で物事を進めることが多いんですよ。例えば一般的な人事コンサルティングの場合、「この日から、4ヵ月間でやりましょう」と前もって決めていくところを、私たちの場合はクライアントから連絡が入り「従業員が辞めてしまうからすぐに始めてほしい」「2週間でお願いしたい」というところからスタートします。そして、私たち自身も時には冷や汗をかきながらも、限られた時間の中で課題を整理し、組織コンサルティングとしてきちんとバリューを出していく。そういった瞬発力を発揮できるのが私たちのチームの強さであり、そこにやりがいを感じています。
井内
野崎様は、いかがですか。
野崎様
M&Aに携わる際、凝縮された時間の中でさまざまなチームとタッグを組み、クライアントが安心してDay1を迎えることができた時が、最もやりがいや充実感を感じますね。
井内
大口様は、どういった瞬間にやりがいを感じますか。
大口様
2つあります。1つは自分自身の成長です。本当に混沌とした状況の中で、これまでの経験やチームのナレッジをかけ合わせてアウトプットしていく。その過程を積み重ねていくことで自身の成長を実感しています。
もう1つは、自分の考えたアウトプットが形となり、クライアントに価値を届けられるようになった時です。クライアントから感謝されたり、クライアントが見えていなかった課題に気付けるようになったりした時に大きな喜びを得られますね。
事業会社で人事戦略やM&Aに絡む組織再編を経験してきた方なら十分に活躍できる
井内
あらためて、人事アドバイザリーチームの組織体制を伺ってもよろしいでしょうか。
宮寺様
現在は16名が所属しており、国内と海外とでゆるやかにチームが分かれている状況です。まだ新しいチームなので、参画してくださる新しい方たちと一緒に組織を作っていきたいと思っています。
井内
メンバーのバックグラウンドを教えていただけますか。
宮寺様
M&Aで人事領域を数多く手がけてきた者や、人事コンサルティングで長く経験を積んできた者、事業会社出身で大口のように海外人事を経験してきた者、労働組合に対応してきた者などさまざまです。ディールズの特徴としていろいろな案件がありますので、それぞれが持つエクスパティーズを組み合わせて対応するよう常に心がけています。
井内
コンサルティング未経験者であっても活躍できるのでしょうか。
宮寺様
現在、マネージャー以下でコンサルティング経験があるメンバーは2人です。ほとんどが未経験者なので、心配はありません。特に事業会社で人材戦略やM&Aにおいて人事の経験をしてきた方は、その経験を充分に活かしていただける環境だと思います。
井内
人事アドバイザリーチームでは、どういったメンバーを求めていますか。
宮寺様
何か1つでも人事領域において尖ったスキルを持っている方です。例えば事業会社で、拠点の閉鎖に伴い労働組合とタフなコミュニケーションをした経験がある方など、そういった経験は間違いなく活きると思います。一方、単純なオペレーションだけしか経験のない方は難しいかもしれませんね。
充実したトレーニング体制、コンサルティング未経験者でも安心して参画可能
井内
大口様は、コンサルティング未経験で入社されていますが、御チームの研修やトレーニング体制について教えていただけますか。
大口様
未経験の場合、ディールズでは約1ヵ月間、中途入社向けの研修があります。そこでコンサルタントとしての心構えやスキルなどをしっかりと学ぶことができます。またメンバー一人ひとりにメンターが付き、コーチを含めさまざまなサポートが受けられる体制が整っています。他にも、シニアアソシエイトやアソシエイトクラスのメンバーの有志が2週間に1回のペースで集まりナレッジシェアをしたり、定例ミーティングにおいてもチーム全体としてナレッジをシェアする体制になっていたりと、学びの機会は溢れていると思います。
野崎様
会社のトレーニングとしては、入社時のみならずいろいろな領域のプログラムが多数用意されています。今はオンラインで学べるeラーニングに加えて、人事チームとしても未経験者向けに手厚いサポート体制を整えているところです。会社側、人事チーム側から両輪でさまざまな知見を学ぶことができるので、コンサルティングが未経験の方でもご安心ください。
井内
御チームの働き方について教えていただけますか。
宮寺様
チームとしては、メンバーのライフスタイルを考慮し、時間や働く場所に縛られないフレキシブルな働き方を推進しています。
一方で、M&A案件に関しては決して楽とは言えません。例えば私が携わるクロスボーダーの案件では、時差の関係で現地との交流が真夜中になることもあります。当然、9時から17時で終わるような仕事ではなく、コミットする時間帯も決まっています。またデューデリジェンス・レポートを提出する前日は徹夜で仕事しなければならないこともあるでしょう。そういった厳しさがある中で、フレキシブルさを保てるように意識しています。
井内
野崎様は、いかがですか。
野崎様
M&A案件は、決して9時から17時で終わる仕事ではありませんが、仕事には波がありますので、休める時はしっかりと休むように心掛けています。また私自身、1日の中でプライベートの事情で動けない時間帯もあります。その時間帯での業務は避け、一方でやるべきことはその日のうちに済ませるなど、メリハリをつけるように心がけています。
井内
大口様、いかがですか。
大口様
現在は在宅勤務がメインで通勤がないため、前職と比べワークライフバランスがしっかり取れていると思います。特に前職では平日は家族との時間がほとんどとれず、休日は疲労困憊になっていました。今振り返ると仕事一辺倒の人生だったなと思います。一方、今は始業前に子どもを幼稚園のバス停まで見送りをしたり、可能な限り家族と一緒に夕飯の席を囲んだりとワークライフバランスは良化していますね。当然、業務内容はタフではありますが、以前よりも充実していると感じるのは、フレキシブルな働き方が許される環境だからなのかもしれませんね。