グローバル企業の全社リスク管理に関するアドバイザリーやガバナンス構築などのサービスを展開しているPwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)のガバナンス・リスク管理・コンプライアンス(GRC)チーム。グローバル企業の海外子会社への内部監査支援等多く手掛け、海外出張の機会が豊富な点も特徴です。
今回は、同チームに所属される上席執行役員パートナー 高木和人様、シニアマネージャー 吉岡美佳様より、ご経歴、入社後スピーディーにプロモーションされた秘訣、チームや案件の特徴などについてお聞きしました。
PwC Japan監査法人 GRCチーム 高木様、吉岡様のご経歴
井内
まずは高木様から、ご経歴と現在のご担当業務について、お聞かせいただけますか。
高木様
私は公認会計士試験に合格後、大手監査法人の、日本と香港オフィスで10年ほど勤務しました。その後、外資系の事業会社の税務部門のリーダーを務め、スイスでも短期のビザを取得して勤務しました。また、日系の事業会社では内部監査とグローバルファイナンスを担当し、そこでも短期のスイス子会社勤務を経験しています。以上のように、監査法人、外資系、日系のそれぞれで、国内外の勤務経験があることが、私の経歴の特徴だと思います。
現在は、このPwC Japan監査法人で、GRCの部門長と、ヘルスケアインダストリーのリーダー、2つの役割を担っています。
井内
続いて吉岡様、よろしくお願いします。
吉岡様
私は大学院を修了後、国内大手のインフラ会社の法務部門で、国内・国際法務、および、コンプライアンスを10年ほど経験しました。インフラの大型事業やICT事業、海外の現地子会社の設立と管理など、幅広く担当し、海外出張もとても多かったです。
当社には、2019年秋にシニアアソシエイトとして入社し、マネージャーを経て、昨年シニアマネージャーに昇格いたしました。
現在は、GRCに所属し、グローバルでのコンプライアンス体制の構築を中心として、リスクマネジメントやガバナンス、内部監査のご支援もさせていただいています。また、お客様向けのセミナー実施や、人材採用と採用後の育成やフォローアップなどにも関わらせていただいています。
井内
前職から転職を検討されたきっかけは何だったのでしょうか。
吉岡様
法務業務は、大まかにいうと、契約交渉、訴訟対応、知的財産管理、株主総会対応、法務戦略、国際法務、コンプライアンスなどの領域に分かれています。前職では、10年ほどでその領域を一周した感がありました。特に、グローバルコンプライアンスを対応する中では、コンソーシアムを組む他社の取り組みを見る機会も多く、自分の視野が広がっていく感覚がありました。こうした中で、自社だけでなく、多様な会社のベストプラクティスを追求して、個社や業界を超えたレベルの底上げに貢献したいと考えるようになりました。
加えて、「自分の裁量やキャリアを広げることにチャレンジしたい」という想いが強くありました。
井内
転職活動を通して、どういったポイントで現職を選ばれたのでしょうか。
吉岡様
先ほど申し上げた、スピード感のあるキャリア構築と、様々な会社のベストプラクティスの追及という2点を軸足に、最終的には監査法人やコンサルティングファームに絞って転職活動をしていました。
PwC Japan監査法人は面接官や社員の雰囲気からカルチャーの良さをひしひしと感じました。また、グローバルも含めて様々な案件に取り組めると聞き、自分の可能性を広げるチャレンジができそうだ、と思ったことも決め手になりました。
井内
実際に入社されていかがでしたか。
吉岡様
転職後は驚きの連続でした。特に驚いたのは、部門間の垣根の低さ、意思決定や業務のスピード感、人間関係の良さの3つです。
シニアアソシエイトとして入った私に、複数のパートナーや他部門の方から気軽にチャットをいただいたときはカルチャーショックを受けました。シニアアソシエイトという立場でも、こんなに自由にパートナーや他部門のメンバーと話せるものなのかと、その垣根の低さに驚かされました。
また、物事がすぐに決まっていくスピード感や、周りのメンバーがすぐに手をさしのべてくれる環境にも驚きました。個人的に「監査法人」というと、入社前は競争が多くて厳しい人間関係をイメージしていましたが、PwC Japan監査法人は全くそういうことがなくて。皆、お互いにケアをする精神が強く、あたたかい指導や協力があったので、キャッチアップをすることができました。
転職後のキャッチアップを支えた「積極的なコミュニケーション」と「好奇心」
井内
吉岡様は事業会社から入社後、順調にプロモーションをされている印象ですが、その要因はどこにあるとお考えですか。
吉岡様
そうですね、入社時に上司から言われた、「1年目は焦らず、友だち作りの年、人財ネットワークを作る年だと思って取り組みましょう」という言葉が大きかったと思います。
その言葉に従って、部内だけでなく、PwCコンサルティングやPwC弁護士法人などPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)のメンバーとも積極的にコミュニケーションを図り、関係構築に努めました。「これについて教えてください」とか「これってこういうことですか?」とか、いろいろ多くの人と話をする中で、専門知識に加えて、「この人の話し方が勉強になる」、「この資料の作り方が勉強になる」といった気づきがあって、様々な視点を吸収することができました。
また、こうしたコミュニケーションやネットワークの構築を支えるのは、人や知識を「もっと知りたい」と思う好奇心です。強い好奇心を持って仕事をしてきたことが、今につながっているのだと感じます。
井内
積極的なコミュニケーションと好奇心がポイントだったのですね。
続いて、高木様の目線も伺いたいのですが、吉岡様のような事業会社出身の方を見た時に、スピーディーに成長される方と少し苦労されていると感じる方の共通項などございますか。
高木様
私たちの部門には事業会社出身のメンバーが多く在籍しています。吉岡のような成長の著しいメンバーに共通しているのは、モチベーションや向上心が高く、自分の強みをうまく使いながら、好奇心を持って仕事に取り組んでいるという点です。
最初は私たちのカルチャーになじむことができず苦戦するメンバーもいますが、事業会社出身の先輩が支援することで時間が経てば一人前のコンサルタントへと成長してくれています。
井内
吉岡様は逆にキャッチアップで苦労されたことなどございましたか。
吉岡様
私の場合は、仕事のスピード感についていくこと、ゼロベースでロジックや解決策を組み立てることへのマインドチェンジが必要でした。まず、物事の決定も資料作成も、すべての仕事のスピード感が早いので、自分の作業のどういう部分に無駄があって減らしていけるのか、ということは意識しました。また、前職の法務では、条文や判例など、参考にできる拠るべきものや、逆に思考の制約になる前提条件が多かったのですが、ここでは、ゼロベースで、クライアントにとっての課題や論点を特定し、最適な解決策を考えることが重要になります。その点について、既存の自分の考え方やアプローチをアジャストしていくことは意識しましたね。
井内
前職の知見が活きたと感じた場面もあるのでしょうか。
吉岡様
はい、大きく分けて3つあります。1つ目は、大企業の組織力学や非合理性をわかっていること。2つ目は、実務と理論のバランスをどう取っていくかを常に考えてきた経験。3つ目は、訴訟や賠償など、相当困難な交渉を経験して得たコミュニケーション力です。
大きな会社ほど、理屈やロジックが合っているだけで提案や解決策が通るというわけではないんですよね。理論だけではなく、実務への目配りや配慮をしながら、施策の内容やタイミングを図っていかなければいけない。そういった清濁両面の視点を併せ持った懐の広い解決がどうしても必要になりますし、状況に合わせて足し算・引き算をしたご提案を考えられるのは、前職からの経験が大きいと思います。
井内
事業会社でロジックが通用しないというお話は候補者から時々お聞きします。そうした環境下でビジネスを推進した経験は、御社で活きるということが良くイメージできました。
続いて、吉岡様のキャッチアップを支えた社内制度がもしあればお教えください。
吉岡様
当社では、職員一人につき、必ず一人のコーチがつく人事制度をとっています。年間を通じて随時、自分が望むキャリアに向けてどんなアサインを希望するのか、コーチと相談することができます。また、同職階の相談相手としてバディ制度もありますし、OJTを通じて、仕事のやり方や物事の考え方を学んだり、皆さんの良いところやスキルを真似したりすることができました。私も入社時以降、現在に至るまで、コーチの方を中心に多くのアドバイスをいただき、助けられました。
“徹底的なクライアントファースト”に支えられた、「ダイバーシティ×風通しの良さ×コラボレーション」で価値を最大化
井内
次に、GRC部門の現在の組織体制やサービスの全体感について、ご説明いただけますか。
高木様
GRCは300名弱の組織で、ガバナンス・内部監査チーム、リスク・レギュラトリーチーム、ERM・コンプライアンスチームの3つに分かれています。
もともとは、監査法人の中で複数の部門に分かれていたのですが、「同じようなサービスをしているなら、インダストリーの垣根をなくして1つのチームにしよう」ということで、一緒に協力できる体制を作りました。 複数の部門がまとまって今の部門ができた背景から、多様なメンバーが集まっており、それぞれがチームを越えて協力し合いながら、部門を運営しています。
井内
GRCチームの強みをお聞かせください。
高木様
メンバーの多様性と風通しの良さだと思っています。当社にはSpeak Upというカルチャーがあり、メンバーが自発的に自由に会話できる環境が根付いています。そのため、クライアントの課題解決に一丸となって取り組むことができています。
吉岡様
私も高木さんとほぼ同じで、私たちの強みは柔軟性、多様性、グローバル性の3つだと考えています。クライアントは、日々刻々と変わる社会情勢と不確実な未来の中で、どういう方向性で進めば良いのか不安を感じています。この時、1つの物差しではなく、様々な考え方やグローバルな背景を持つ多様なメンバーが、それぞれのスキルを横展開して協力しながら、考え方に固執することなく柔軟に導き出した解決策を提供できることが、私たちの魅力であり強みだと思います。
井内
そういったカルチャーを醸成できている要因はどこにあるのでしょうか。
高木様
私たちの部門はダイバーシティそのもののような組織で、メンバーの国籍も12カ国にのぼり、バックグラウンドも、国家公務員、銀行、証券、事業会社、会計士、弁護士等出身は多岐にわたっています。様々なバックグラウンドを持つ方がいるのに、風通しが悪いとその知見や経験をうまく活かすことができません。私たち全員が日常的にそれを意識し、風通しの良いカルチャーの醸成に取り組んでいます。また、税務、法務、コンサルティング、ディールアドバイザリーサービスも含めた様々な専門家が所属するPwC Japanの法人と一緒に課題に取り組む部門を超えたグループ横断的のカルチャーも定着してきました。
こうしたカルチャーは、徹底的なクライアントとの信頼の構築の意識に支えられており、PwCの強みになっていると感じています。
井内
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)にもリスクチームがありますが、GRCチームとの違いや、協業事例があればお聞かせください。
高木様
どちらも総合的な人材を育成している点は同じなのですが、その入口が違うと思っています。
例えば、私たち監査法人は、特定分野の専門家で、その専門家が部門を超えたPwC Japan横断的なプロジェクトに入って様々なメンバーと働く中で、深い専門性を横に広げていきます。
一方、PwCコンサルティングは、ロジカルシンキングから入り様々な課題を解決していくうちに深い専門性を身に付けていく印象があります。
それぞれ独立した法人ですが、最終的なゴールは同じなので、コラボレーションは活発です。監査法人とコンサルティング、双方のメンバーが一緒に働くことで、お互いの強みを活かすことができます。
吉岡様
コンサルティングのチームとのコラボも大袈裟な感じではなく、チャットで「今から30分この案件について話したい」と気軽に声を掛け合えて、お互いに教えたり教えられたりする、フラットでシームレスな関係ができていますよね。
景気に左右されず、豊富なグローバル案件へ安定的に関わることができる
井内
GRCチームはグローバル案件も豊富だとお聞きしています。
高木様
はい。私たちのチームには、吉岡のようにグローバルに活躍している人も結構いて、アジアや欧米など、精力的に海外を飛び回ってもらっています。海外の子会社に課題を抱えているクライアントも多いので、グローバルに活躍する機会は十分にあると思います。
例えば、日本本社のクライアントと私たちGRCチームのメンバーが海外の子会社に行き、現地のPwCのメンバーと組んで課題や解決策を議論しています。私自身、入社当時は月1度のペースで海外に出張していました。
吉岡様
私も先週まで、留学生を対象にした新卒採用のイベントで、米国に出張していました。チームとしても、グローバルな素地のある方々にぜひ入っていただきたいと考えています。
井内
GRCチームのビジネスですと、基本的に景気にあまり左右されず、海外出張の機会は安定的にあると想像しているのですが、実際はいかがでしょうか。
高木様
はい、海外子会社を含めたガバナンスの高度化は重要な経営アジェンダとなっています。また私たちの仕事はクライアントとチームになって一緒に取り組むことが多く、景気にはあまり左右されずに中長期にわたってご一緒させていただくケースが多くなっています。
井内
グローバル案件について、具体的な事例をお伺いできますか。
吉岡様
私が印象に残っている案件の一つとして、とあるメーカーの案件があります。海外に点在する拠点のコンプライアンス体制の脆弱性や、グローバルで多言語の社員のコンプライアンス意識を調査し、全社的なコンプライアンス体制の底上げを目指すという内容でした。
その際に意識したのが、「主観と客観」の2本立てで、物事を立体的に見るということです。まず一方で、各拠点で働く方たちが、コンプライアンスについてどんな主観的な意識を持っているのかを調査し、他方で各拠点のコンプライアンス体制を客観的に評価させていただきました。そして、社内の主観的評価と、当社の第三者評価を照らし合わせ、ギャップを分析することで、会社の課題を立体的に見える化し、解決策を導き出しました。また、その際には、事業会社の法務部では経験できなかったであろう、デジタルツールを使ってビジュアライズしたデータや分析を行い、様々な経験を積むことができました。
グローバルの地域や拠点ごとの特有の意識や課題が可視化され、それに対応する効果的な打ち手について、分かりやすい形でお示しできたことで、最終的に、「これは社内では絶対できなかったし、コンプライアンスって面倒くさくて難しいと思っていたけど、楽しいものなんですね」と言っていただけて、思い出深い案件になりました。
個人の特性を活かした育成と柔軟な働き方
井内
現在、GRCチームではどのようなご人材を求めていますか。
高木様
自分自身でチャレンジして、成長していきたいというモチベーションが高い人が大前提になってくるでしょうか。その上で、グローバル経験がある方やグローバルコミュニケーションを得意にされている方、デジタルツールなどに対して好奇心があり、学びたい、使いたいという方はアドバンテージがあると思います。
あとは、専門的な領域を持っている方や、コンサルティング的なマインドセットを持って、コミュニケーションが得意な方。これら全てを併せ持っている必要はないので、このうち複数を持っているという方には、ぜひ来ていただきたいなと思っています。
吉岡様
事業会社の方は、「私の専門性で役に立つのか」と不安になられているかもしれませんが、何か1つの専門性を突き詰めてきた方だけでなく、事業会社の中でゼネラリストのように多くの部署や分野を回ってきて、いろんな経験をしてきた方も、大きな武器を持っていると思います。
加えて、人とコミュニケーションしていく力のある方。私たちは社内だけではなく、クライアントとお話をして、課題は何なのかを聞き出していかなければなりません。こうしたコミュニケーション力や好奇心は、重要なポータブルスキルだと思います。
井内
メンバーの育成面で気をつけていらっしゃることがあれば教えてください。
高木様
一般的な知識を得るための研修プログラムは先に自己学習の機会として提供し、現場では経験を有する多くのメンバーと協働することで、価値のあるスキルを身に付けていただければと思っています。
クライアントに対して価値を生むスキルは現場で学ぶことが多いと思っています。そのために、基本的な知見は現場に入る前に身に付けてもらい、それから現場を経験してもらうようにしています。私たちはマザーケースと呼んでいるのですが、難しい課題をクライアントと一緒に苦労して乗り越えて行く経験が、長い信頼関係を醸成し、人材の育成にも役立っていると考えています。
吉岡様
私が育成で大切にしているのは、PwCのカルチャーを踏襲して「ポジティブな面に着目する」こと。そして、「20%ルール」です。
例えば、業務が20%できたところで報告するよう、あらかじめ伝えておけば、方針のズレを防ぎつつ、その人が20%でどこまでできるのかという力量を計ることもできます。個人の特性を考慮して指導ができますし、「未完成の段階でも相談してよい」という心理的安全性は確保することもできます。
その他にも、「オンラインやチャットだと気持ちが伝わりづらいので、普段より20%温度感を上げていこう」とか、「初対面の方とのミーティングでは、普段より20%丁寧な言葉遣いを意識しよう」とか、そんな風に育成するようにしています。
どこまで頑張ればいいのか、ということが見えづらいと、育成されるメンバーも息切れしてしまうので、育成の場面でも、期待値を明らかにして、少しでも定量的に、かつ、チャレンジ可能なワンステップということを意識しています。
井内
働き方についてはいかがでしょうか。
高木様
やはり、案件によっては締切日の追い込みで忙しくなったりもします。ただ、それも人事による勤務時間のモニタリングがあるため、仕事時間が多くなると通知がくるようになっています。一昔前の深夜残業、休日勤務といった感じではなくなっています。
多様な人材を確保するため、働き方の自由度はかなり高まっており、クライアントの状況によってはリモート勤務がメインということも可能です。もちろん、チームの中で議論して「オフィスに出てきて一緒に働こう」と決めることもありますし、チームそれぞれの独自性に任せています。
吉岡様
リモートか出社か、は基本的に個人に任されていますが、業務により出社が多い仕事や時期もあれば、完全リモートワークの時期のときもあります。
私は、副業で絵本作家をしているのですが、業務後に作業ができるくらい、残業時間や働き方など、自分で自由に選択することができています。もちろん、忙しい時もありますが、働く場所も自由なため、たまに地方でリモートワークをすることもありますし、時間の調整をする余地や裁量は十分にあると思います。