ユナイテッド・シネマの経営改革やGong cha(ゴンチャ)の日本市場の立ち上げ、現在はカメラのキタムラの構造改革など、数々のプロジェクトを成功に導き、ファンドや会社オーナーからの絶大な信頼と実績を誇る株式会社リヴァンプ 経営支援チーム。投資検討段階から、投資後のバリューアップ、エグジットまで一貫し、PEファンドを中心とした株主と企業の成長に伴走します。今回は、同組織をリードする取締役 執行役員 千田勇一様より、チームの特徴や、過去に成功したプロジェクトの裏側、今後目指す方向性などについてお聞きしました。
コンサル機能と投資機能が組織内で共存する、経営支援チーム
田口
まずは、千田様のご経歴についてお話しいただけますか。
千田様
私は2006年にゴールドマン・サックスの投資銀行部門に入社しました。企業投資にも関わり、自己勘定投資でUSJを買収した経営再生プロジェクトでは、第1期のCEOであるグレン・ガンペルの部下として経営会議などに参加しました。そのプロジェクトで、経営の仕事に興味を持ち、2009年にリヴァンプに参画しました。入社後は、一貫して中小企業の経営改革を推進しております。
田口
リヴァンプの組織構成や、千田様がリードされている経営支援チームの役割についてお聞かせいただけますか。
千田様
組織構成は、経営支援チームが約100人、業務・デジタル&ITチームが約200人です。
経営支援チームでは、PEファンドなどの投資先に駐在し、経営戦略立案から実行までの一貫した支援を通してバリューアップを行います。また、投資機能がチーム内に存在していることも特徴です。
他ファームとの違いですが、多くのファームではスコープがあり、レポート納品が基本です。一方で我々はスコープもなく、レポートを書いて終わりという仕事もほとんどありません。他のファームが3ヶ月でプロジェクトを回していくところ、我々は最低でも1年はプロジェクトに携わります。
田口
投資機能を持つコンサルティングファームは他にもありますが、違いについてはどうお考えでしょうか。
千田様
たとえ投資機能を持っていても、コンサルティング部門と投資部門で組織が分かれているケースが多く、戦略上、投資をコンサルティングと同列に扱っているファームはあまり聞かないですね。
実は、投資とコンサルティングは世界的に見ても水と油です。ベイン・アンド・カンパニーからベインキャピタルが分離した例は有名ですよね。金融の世界は、儲けた者が勝つ世界です。そこに、戦略の美しさで勝負してきたコンサルティングが入っても思想が全く違うので、ビジネスとして成立しないのではと考えています。
田口
なぜ御社では投資とコンサルティングを両立できているのでしょうか。
千田様
リヴァンプはそもそもコンサルティングファームではありません。創業者の澤田貴司(元ファーストリテイリング取締役副社長)や、玉塚元一(元ファーストリテイリング代表取締役社長兼COO)は事業会社出身ですし、私とCFOの大山拓也は投資銀行出身です。一般的に金融出身者は効率性を求めるものなのでオペレーションには手を出さないのですが…我々はオペレーションが好きなので、それが上手く両立に繋がっていると思います。私の中では、リヴァンプはコンサルティングファームより商社に感覚が近いと思っています。
過去の経営支援で積み上げた経験値と関係性が、Gong cha(ゴンチャ)日本進出の成功を導く
田口
御社の経営支援らしさが伝わる案件事例がありましたら、お聞かせいただけますか。
千田様
例えば、タピオカミルクティーで有名なゴンチャの日本進出を手掛けたのは我々です。ユニゾン・キャピタルの韓国チームがゴンチャ・コリアを買収後、子会社であるゴンチャ・コリアが台湾にある本社を買収したのですが、その流れで日本進出の話が私に回ってきました。そもそも、日本で展開できるか判断して欲しいというご依頼だったので、実際に韓国に試飲しに行き、美味しかったので引き受けました。日本展開にあたり、まずは我々の方で会社を設立し、コンセプト作りや、店舗の立地選びから考えました。
田口
ゴンチャは、現在国内で120店舗を越えているそうですね。ゴンチャでタピオカミルクティーを知った方も多いと思います。ここまでマーケットを広げられた理由はどこにあるのでしょうか。
千田様
実は、当初ここまで大きくなるとは思っていませんでした。タピオカミルクティーは、既に原宿などのクレープ屋さんで販売しており、それに加え、たこ焼きチェーン店の築地銀だこが新宿のアルタ前にタピオカ屋を出店したのですが、撤退していました。我々はコールドストーンを築地銀だこの創業者である佐瀬守男社長に売却したご縁もあり、その時の状況を実際に伺いました。
様々な情報をチームで分析して話し合った結果、タピオカをスイーツとして売るとフリークエンシー(頻度)が下がってしまい、市場サイズが小さくなるという結論に至りました。決定打は、コールドストーンやクリスピー・クリーム・ドーナツで学んだことで、甘すぎるものは毎日何回も食べられないんです。
そこで、「お茶のお店」というコンセプトに変更し、甘さもゼロから調節できるようにして、「タピオカはトッピング」という立て付けにしました。
そして、「大きな市場の10%を取る」という商売の基本からスターバックス コーヒーの市場に狙いを定め、実際にスターバックス コーヒーでの経験を持つ葛目良輔さんに社長に就任してもらうことに決めました。
また、最初に出店の誘いが来たのは、原宿の一等地、今のアットコスメの横の空き店舗でした。おそらく、普通のコンサルなら「フラッグシップストアが大事だ」と定石通りに考え、そこに出店すると思います。ですが、我々はキラー通り商店街に1店舗目を出しました。誘いに乗らず踏み留まってキラー通り商店街を選んだのには理由があります。かつてリヴァンプがコールドストーンの日本展開を手掛けた際に、六本木ヒルズに出店して痛い目に遭ったからです。
田口
良い場所に店を構えたからって売れるわけではないと、過去の失敗が活かされたのですね。コンセプトや店舗が決まり、実際にビジネスを進める上で、重要なことは何だったのでしょうか。
千田様
商売をするためにはパートナーが必要です。例えば、タピオカを扱う物流会社も、電話1本で簡単に物量を調整できる関係になりたいわけです。幸いにも、我々は過去にクリスピー・クリーム・ドーナツを手掛けていたこともあり、懇意にしている食品系の物流会社がいました。ゼロからドアをノックしても入れませんが、私達は長く実ビジネスをしてきたので、そうしたパートナーがいるのです。
田口
その後、多店舗展開はスムーズに進んだのでしょうか。
千田様
マーケットが盛り上がり、類似他社が一気に流れ込んできましたが、ゴンチャは無理な店舗展開を行いませんでした。これもクリスピー・クリーム・ドーナツの経験が活かされました。クリスピー・クリーム・ドーナツはアメリカ本社との契約で次々と新店舗を出さなければならず、オペレーションを崩すほどの店舗展開をしてしまいました。ゴンチャではそれを避けるため、本当は2〜3倍の店舗を出せるところ、あえて出店を抑えました。やはり、リアルビジネスは戦略を紙に書くだけでは駄目で、「オペレーションをわかっていないといけない」というのを我々は色々なところで学んできました。
現在、ゴンチャはアメリカのファンドに譲りましたが、過去に得た全ての経験を注いだ案件でした。
7割がPEファンド案件、経営的な能力の差分が顕著に出る時代に
田口
ゴンチャの事例のように、PEファンドからの依頼が多いのでしょうか。
千田様
エクイティやガバナンスを持つ方、つまり株主、PEファンド、会社オーナーとの仕事がほとんどです。その中でも、おっしゃる通りPEファンドからの依頼が増えていて、今では7割近いです。キャリアインキュベーションが出版した『プロ経営者・CxOになる人の絶対法則』には、日本はもうCxOの席があまりないから、CxOになるならPEファンドの案件に行きなさいと書かれているのですが、まさにそういう状態だと思います。
田口
経営者不足が起きているのですね。
千田様
そうですね。あとは経営陣としてスタートアップに入り、立て直さなければいけない場面も増加してきました。私は数年前、ベンチャーの仕事にいくつか携わりましたが、当時は良くも悪くもあまり複雑な経営技術は必要なく、とにかく前に進めば売り上げは上がる時代でした。それが今では、複雑性の拡大やマーケットの成長の鈍化により、経営的な能力の差分が出てしまうようになりました。
加えて、「本当の事業承継」が今起きていると感じます。戦後にビジネスを立ち上げた世代が亡くなって事業継承をしたものの、ここ数年で様々な問題が噴出し始めているんです。M&Aの会社がぐっと伸びていたのはそういう背景があったからですが、結局、売った後に誰が経営するのかという、経営者不足の問題が起きています。経営者の需給は構造的で、この先も続くのではないかと思っています。
田口
メインクライアントであるPEファンドからはどのような点が評価されているのでしょうか
千田様
「事業に近い」と評価いただくことが多いです。依頼される案件のうちリピート率は90%以上です。今日もPEファンドと打ち合わせをしてきたのですが、「今入っているコンサルから我々に切り替えたい」と声が掛かりました。こういう話が最近増えており、一番多いのは戦略系コンサルティングファームからの切り替えです。切り替えの理由として、プロジェクトが終わっても実行できず、「納得していない」という声をよく聞きます。
経営者のインキュベーターになる
田口
キャリアの観点から、リヴァンプに入社するメリットを教えてください。
千田様
直近でスタートアップの勢いが落ち始め、当たり外れが顕著になり、調達環境も楽ではなくなっています。当たり外れを見極め、転職や起業でCxOを目指すのはハイリスクです。
スタートアップに転職してIPOに一発賭けるという経験はリヴァンプではできないですが、ミドルリスク、ミドルリターンで事業に寄り添いながら「経営のプロ」として生きていくという意味では、他のコンサルティングファームとは比にならないほどの事業経験を積むことができます。スタートアップだけでなく、大企業の変革を当事者として経験できる機会もあります。
田口
リスクを下げながらもハンズオンで経営を行う経験が積めるのは、リヴァンプの最大の魅力かもしれないですね。
千田様
そうですね。実はこの5年間で、半年で解雇になったCxOを10人以上見てきました。アメリカだったらすぐに次のキャリアがありますが、日本は村社会で、1回そういうことがあると噂になってしまい、次のキャリアが築きにくいというリスクがあります。そういう意味でも、我々のような会社が経営者のインキュベーターになるべきだと考えています。
田口
最後に、リヴァンプならびに経営支援チームの今後の方向性について教えてください。
千田様
1つ目は、コンサルと投資の融合の促進です。イコール、事業オーナーとしての推進ですね。自分達が株を持った状態での仕事が増えていくと思います。
2つ目は、業種業界の拡大です。これまでは小売・飲食・サービスなどBtoCビジネスに強みを持ってきました。しかし経営改革の必要性は、特定の業界の問題だけではないと考えています。将来を見据えた経営改革を、幅広い業種業界に対して提供していきたいと考えています。
3つ目は、海外進出です。我々はアウトインの案件を多くやってきましたが、今は日本企業の海外発展を支援するタイミングだと思っています。