今回は、RPAなどの新しいテクノロジーを通じて、我慢せず自由にクリエイティブな仕事ができる社会を目指すPeaceful Morning株式会社の代表取締役CEO 藤澤 専之介様より、直近のRPA市場の動向や、導入した企業の成功・失敗事例、また今後のRPA市場を予測し、そこから市場において求められる人材のスキルセットについて、アクシスコンサルティングの伊藤がお聞きしました。
- 目次
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- 「テクノロジーを用いることで我慢しないで働こう」をミッションにPeaceful Morning株式会社を立ち上げ
- RPA市場好調の3つの理由:生産年齢人口減少の解決策/分かりやすいROI/イニシャルコストの低さ
- イニシャルコストは1台100万円が目安
- スピーディーにプロダクトを作り、ユーザーの反応が直接見られるのがRPAエンジニアリングの魅力
- RPAエンジニアとして成功するためには業務フローの理解とコミュ力がマスト
- 将来のRPA市場:2022年に国内で1000億円規模のマーケットに成長すると予測
- 今後は<RPA×業務>の知識があるRPAエンジニアの市場価値が上がる
- RPA導入の目的はコストカットではなく、クリエイティブな時間の創出にある
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「テクノロジーを用いることで我慢しないで働こう」
をミッションにPeaceful Morning株式会社を立ち上げ
伊藤
近年RPA(Robotic Process Automation)が話題となっていますが、本日はRPAについて分かりやすく説明していただけますと助かります。
まず初めに、藤澤様の会社についてご説明いただいてもよろしいでしょうか。
藤澤様
私は現在Peaceful Morning という会社を経営しています。主な事業としては人事採用のアウトソーシング、RPAプロフェッショナルを活用したRPA導入コンサルティングを行なっています。
社名は、Peaceful Morning=平穏な朝を迎えよう というメッセージングから由来しています。働いていく中で大変なことがあっても我慢しないといけない場面があると思うんですけど、今はテクノロジーのお陰で我慢しないで働ける世の中になっています。こういった背景から、「テクノロジーを用いることで我慢しないで働こう」ということを会社のミッションにしています。
その中でも、今一番注目しているテクノロジーがRPAです。RPAを活用することで自分が今までやりたくなかった単純作業から解放されて、もっと好きな仕事や、やりたいことに没頭できるような環境を目指していこうという目標を掲げており、直近ではこの領域に関する事業に力を入れています。
Peaceful Morning株式会社 代表取締役 藤澤専之介様
伊藤
RPAに注目したきっかけについて教えていただけますでしょうか。
藤澤様
もともとRPAという言葉は知っていたのですが、特に知ることになったきっかけとして、IT系の展示会でRPAのブースが必ず大々的に出展されていたことが大きいですね。また、RPAベンダーの採用活動を支援した際に、やはり業界の勢いもあるので、会社や業界に優秀な方たちが次々と集まってくるのを実感しました。
このような経験から、優秀な方たちが集まってくる領域だと気付き、必然的に「これは伸びる」と思い、注目をしたという経緯ですね。
RPA市場好調の3つの理由:生産年齢人口減少の解決策/分かりやすいROI/イニシャルコストの低さ
伊藤
現在RPA市場が伸びている理由は何でしょうか。
藤澤様
いくつかありますが、一つ目に社会的な背景が挙げられます。これだけ生産年齢人口が減少していく中で日本のGDPを保とうとすると、母数を増やすために移民を受け入れるか、もしくは一人当たりの生産性を上げるという二つの選択肢が残されていると思います。ただ、移民を受け入れるのは現状の日本の社会では難しいので、生産性を上げる方法としてRPAが最も実行的であると言われています。
二つ目は、ROIがわかりやすいツールであるという点です。RPAを導入する時のROIは、RPAが導入されることによる人件費の削減額になります。一方でコストはRPAソフトウェアのライセンス費用と、それにプラスして、例えばコンサルを使う、SIerを使うといった導入にかかる費用。最後に運用する人件費です。支出額と削減できる人件費を天秤にかけた時に、後者の方が大きければ、投資対象になりますが、現状は効果が明確に出ていることもあって、RPAに投資する企業が増えていますね。
三つ目は、イニシャルコストの低さや、始めやすさです。ソフトウェアのライセンス費用はERPに比べると低いですし、ERPだと全社的に導入を考えなければいけないと思うのですが、RPAの場合は「経理部のこの事業から自動化してみましょう」とか、「人事部のこの業務から自動化しましょう」という形で細かく区切って簡単に導入を始められるので、今これだけ受け入れられているのかと思います。
イニシャルコストは1台100万円が目安
伊藤
三つ目の理由に関連する質問ですが、RPAを導入する際のイニシャルコストはどれくらいかかるのでしょうか。
藤澤様
ソフトウェアにも寄りますが、多くが年間のサブスクリプションのビジネスモデルなので、1年間でロボット1台使うのにいくらっていう形です。
だいたい1台で100万円ぐらいのイメージを持っていただけは良いと思います。ただ、最近だともう少し安いものも出てきています。
伊藤
1台100万円でできることは、例えばどういうことでしょうか。
藤澤様
まずRPAにもいくつか種類があるんですけど、わかりやすく分けるとデスクトップ型とサーバー型という2種類のRPAがあって、デスクトップ型はパソコンにソフトウェアをインストールして、そのパソコンが処理をするというものです。
サーバー型はソフトウェアをサーバーで管理するので、クライアントPCどれでも使える状態になります。100万円で見積もると、だいたいデスクトップ型のパソコン1台にロボットが入るイメージです。
何ができるかですが、このパソコン上で行なっているルール化可能な作業は基本的に全てできます。例えば、WebアプリケーションにIDとパスワードを入れてログインし、そのWebアプリケーション上で作業をする。場合によってはそこからデータをCSVで引っ張ってきて、Excel上で作業をし、データを編集してOutlookでメールを送るといったルーティンワークなど、基本的にデスクトップ上でできる作業は全部、ルール化できれば自動化ができるというのがRPAの特徴です。
伊藤
例えば私たちのようなエージェント業務の中で、RPAを導入して一番効果が出そうなのはどの業務ですか。
藤澤様
業務で一番価値を生み出している「直接人と話をする」「その人にどういうキャリアが合いそうか提案をする」という作業自体は自動化が難しいと思います。
ただ、例えば企業の下調べをしたいとなった時に、ルール化してデータを引っ張り、人材に送信するということはできると思います。
例えば【ある人が受ける企業に関する情報を二日前に引っ張ってきてメールで送る】というパターンをRPA上でルール化することで、実際にデータ会社から情報を取ってきて、メールを自動で送るといったことはできますね。
スピーディーにプロダクトを作り、ユーザーの反応が直接見られるのがRPAエンジニアリングの魅力
伊藤
RPAの導入は大手企業の導入が多い印象ですが、中堅・中小規模の会社での成功事例はありますか。
藤澤様
確かに、RPAと聞くと大企業における大規模運用のイメージが非常に強いですよね。それには、理由があって、RPAの導入にはソフトウェアの費用がかかるだけではなく、コンサルティングファームを使う際の導入費用や、SIerにお金を払って運用をお願いするケースが多く、ホストサイドのコストが膨らむので、業務量が多くないとROIが合わないという経緯で大企業の導入が多かったです。
ただ、最近は簡単に使えるRPAツールも出始めているので、RPAのソフトウェアだけ導入して、あとは自分たちで運用するとROI が合うことも多いですね。
具体的には、例えば社員数100人程度の採用支援ツール運用会社では、ユーザー部門に所属する8名で定型業務を洗い出し、自動化を行いロボットを動かしています。
伊藤
その規模の企業で何台ぐらいのロボットが稼働しているのでしょうか。
藤澤様
正確な台数はわかりませんが、多分、同時に動いているロボットが5台以上はあると思います。
伊藤
5台ということは、24時間稼働しますから10人月分ということですか。
藤澤様
そうなりますね。
伊藤
RPAは管理部門への導入が多いのでしょうか。
藤澤様
おっしゃる通り、バックオフィスが圧倒的に多いですね。例えば、営業事務的な仕事で、契約関連で必要な情報を引っ張ってきて入力するといった作業で一番使われています。
ただ、RPAツールを使うためのスキルはエンジニアから見て簡単というレベル感なんですね。なので、営業や経理の人がいきなり使えるかというと難しく、一定期間トレーニングしないと使いこなせません。
ITリテラシーがあるバックオフィスの人が少し勉強して、それで初めて使いこなせるという状況であることも、中小企業でなかなか広まっていかない理由なのではないかと考えています。
伊藤
なるほど。近年のトレンドとしてM&Aや組織再編が増えてきています。例えば複数社間でバックオフィス業務をシェアード化する場合、RPAを活用するメリットはありますか?
藤澤様
業務を効率化しようとなった時に、システム開発してから解決しようと思うとお金がかかりますし、しっかり業務を見直した上で要件定義して、システム開発しようとなると、プロジェクトが大きくなってスピードも減退してしまいますよね。
一方で、RPAぐらいのコスト感であれば、「まずやってみるか」という感覚で導入しやすいツールだと思います。まずは1社だけ動かしてみて、上手くいったら、横展開するといったやり方もあるかもしれないですね。
伊藤
導入するにあたってハードルはありますか。
藤澤様
RPAにはエンドユーザーコンピューティングというキーワードがあって、ユーザー部門が自分たちでロボットを作るという考え方なんですね。なので、経理の人が気づいたことがあったら自分でロボットを組んで動かすこともできます。
ただ、現状RPAを導入して成功している会社のほとんどが、情報システム部がロボットを作っているケースです。情報システム部が現場から意見を吸い上げて、その要件を満たすロボットを作り、あとはエンドユーザー部門が実行ボタンを押すだけというパターンがよくある成功例です。
逆に、よくあるRPA導入失敗事例としては、プログラミングでも出てくる「変数」の概念を説明しないといけない時です。エンドユーザー部門にRPAのツールを配ると「変数」の概念から説明しないと行けなくて、理解する前に諦めてしまうパターンが多いですね。
伊藤
RPAを稼働させるにはHTMLやCSSといった「コードを書く」という作業が必要なのでしょうか。
藤澤様
RPAの仕組みを分かりやすく説明すると、子ども向けのプログラミング学習ツールでスクラッチというものがあります。これは何かというと、レゴみたいにパーツを組み合わせて、そのパーツを組み合わせるとプログラムができるんですけど、RPAもそれと同じようにいろんなパーツがあるんです。
例えばログインをするためのパーツや、画面上でメッセージボックスを出すパーツ、IDを入力するパーツなど、色々なパーツがあるので、そのパーツを組み合わせてロボットを作っているというイメージです。
なので、プログラミングできる人からするとわざわざコードを書く必要がなく、パーツを組み合わせれば処理が動いてしまうのですごく楽だという話はよく聞きますね。
伊藤
エンジニア出身の人だったら簡単に作れるようなものですかね。
藤澤様
そうです。最近、あるJavaエンジニアがRPAエンジニアに変わって、「初めてエンジニアの仕事をしていて良かったと思った」、という話を聞いたんですね。理由は、Javaエンジニアの場合、プロダクトの完成まで時間がかかりますし、尚且つ、分業体制なんです。一方で、RPAの場合は比較的簡単に作れるので、大きなプロジェクトであっても一人でやれるケースがあります。
ユーザーから「こんなものが欲しい」と言われたら「二時間待っててくださいね」と言って、少し作業して「こんな感じでどうですか」って見せて、「これはこうした方がいいかな」と言われて、また作って見せるといったフローで、ユーザーとの距離も近いですし、クライアントの業務に深く携われますし、目の前でユーザーの反応が見えて面白いということでした。また、プロジェクトとしてもウォーターフォール型ではなく、アジャイル型という特徴があります。
RPAエンジニアとして成功するためには業務フローの理解とコミュ力がマスト
伊藤
ではRPAエンジニアになるためには何ができれば良いのですか。
藤澤様
今の話にも繋がりますが、業務フローの理解力が必要だとはよく言われています。RPA導入における一番の問題は、業務フローが可視化されていないことだからです。
「自動化がしたいんだけども、そもそも経理部のメンバーが何をやっているのかがわかりません」とか、「何か一つの作業をする時にどういうフローでやっているのかがわかりません」とか、「人によってやり方がバラバラです」とか、そういった点に問題があります。RPAエンジニアはユーザー部門がどんな業務をやっていて、それをどうロボットで解決するのかを綿密なコミュニケーションを通して理解しなければいけないのです。
もう一つは、RPAツールにはアクティビティ(ツールによって呼び方はさまざまあります)と言われる、動作を指示するパーツがあるんですけど、パーツにはない動きをRPAにさせたい時にプログラミングを書く必要があるんですね。なので、コーディングや、システム開発全般の知識は持っていた方が、RPAエンジニアとしては強いと思います。
伊藤
以前弊社でも基幹システムを導入した時に、自分たちの業務フローを洗い出すのが一番大変だった事を思い出しました。
藤澤様
RPAもその問題はよく起きます。また、入り口からRPAを導入したいと相談される企業は視点が違うと思っていまして、RPAはあくまで手段です。例えばもっと業務を効率化したいとなった時に、効率化するためにはそもそも論としてその業務を止めたら良いのでは、といった視点も大上段で考えるとあり得ますよね。
A・B・CからA・C・Bといったように業務フローの順番を変えるといった話も出てきますし、システム導入もあり得るかもしれません。それでも駄目だったら、「RPAを使ってみたらどうですか」「エクセル上だけだったらマクロを組んでみたらどうですか」と、色々な手段が出てくると思います。最初からHowの思考でRPAを考えてしまうと、正しい解決策が導き出せない可能性が高いです。
伊藤
業務を最適化する上で、RPAのツールを使うのはどうだろう?と考えないと駄目ということですね。導入が目的になってしまうケースもありますか。
藤澤様
はい。導入が目的になってしまうことはありますね。ただ、逆に属人化しているプロセスが多い会社の場合。RPAを導入するから、一旦全ての業務を可視化するというのは、錦の御旗と言いますか、そういう号令によって、自然と不明確だった業務フローが明確になり、RPA導入前にすでに効果が出たといった話もあります。
将来のRPA市場:2022年に国内で1000億円規模のマーケットに成長すると予測
伊藤
次に、今後のRPA市場の話に移りたいと思います。今後この市場はどのように変化していくのでしょうか。本日のお話を聞いていると、RPAのメリットを啓蒙できれば、中小企業でもインパクトが大きいのではないかと考えているのですが。
藤澤様
おっしゃる通りですね。まず、RPA市場の話をすると、例えばITRの調査によれば2018年の国内市場はソフトウェアベンダーの売上だけで88億円になるようです。そして2022年までに400億円の市場になると言われています。この数値はコンサルティング会社のコンサルフィーやSIerの開発費用、RPAの教育費用は一切含んでいないです。またOCR(文字認識)といったRPAに付随する数値は含んでおらず、2022年には実質的には1000億円ぐらいのマーケットに成長すると予測されています。
一方で、ガートナーの調査では、現在RPAは幻滅期に入っていると言われているんですね。過度な期待があって導入したけれど、効果が得られなくて幻滅してしまっているというフェーズです。
なので、RPAツールの方向性としては二つあります。一つは、ガートナーの調査のようにRPAは幻滅期に入っているという考え方。もう一つは黎明期という考え方です。
実は、今後RPAにはインテリジェントオートメーションという新しい機能を備えると言われています。これは何かというと、RPAがルール化された定型業務を自動化するものなのに対して、インテリジェントオートメーションは知的集約型のものも自動化することができます。
伊藤
AIとRPAが融合するということでしょうか。
藤澤様
おっしゃる通りです。AIとの融合という形です。主要な海外のRPAベンダー、例えばオートメーション・エニウェアという会社は、上場前の時価総額の評価が2000億以上です。UiPathも3000億以上ですが、そういった会社には、AIの技術を持つ会社が出資をしています。例えばUiPathにはGoogleが出資をしています。そこで集まったお金をどう使うかというと、AI+RPAによる単純作業の自動化だけではなくて、知的なところも自動化できるようになるというのが、エンタープライズ向けに出てくる流れの一つだと思います。
一方で、中小企業や、ベンチャーでは向けにもっと簡単なRPAツールが登場すると考えています。先ほど、プログラミングの素養がある程度あった方が良いという話をしましたが、インターネットが使えるレベルでも使用できる簡単なRPAがもっと出てくると思います。
ただ、RPAを簡単にしようとすると、汎用的なツールが増え、結果的にたくさんボタンがつくことで、より複雑になってしまうというジレンマを抱えると思います。そこで、もっと領域特化型のRPAになってくると考えています。
例えば経理特化型RPAや、人事特化型RPA、人材紹介特化型RPAなど、なるべく領域を特化して、できることを減らすことによって、簡単に使えるRPAが増えると思います。
伊藤
RPAソリューションは、SIerの救世主となるのでしょうか。
藤澤様
現状でもそうなっていますね。理由は、RPAの導入プロジェクトの中で、「こっちはシステム導入した方がいい」という案件も出てきますし、場合によってはそれがBPRのプロジェクトになったりします。RPAを起点に様々なソリューションに繋げていけるからだと思います。
ただ、RPAの本質的な効果は、システムの外注化から、システムの内製化にあります。今までは例えばERPシステム導入後は、少しの機能追加に大きな金額がかかって簡単に直せなかった。それがRPAの場合は自分たちで簡単に直せるのです。
最終的にはシステム内製化を促進させてく方向に進むと思います。
伊藤
なるほど。それは深い話ですね。
藤澤様
面白いですよね。アメリカだと先ほども述べたオートメーション・エニウェアという会社のRPAツールの評判が良く、シェアが高いです。その理由は、日本とアメリカのIT内製化の違いにあります。
アメリカには基本的に社内にエンジニアがいます。一方で、日本ではその機能をIT子会社や、SIerに頼んでいる状態です。
アメリカだと社内の人が簡単にRPAのようなテクノロジーを使いこなせるんですよね。自分たちでこうやって活用しようというのがすぐできるんです。ただ、日本はまだその段階にはなっていないので、少しずつ社内の人を育成することで、自分たちで自在にRPAツールを使えるようにしようという流れになっています。ですので、今後は「育成」が日本のRPA市場のテーマになるかと思います。
今後は<RPA×業務>の知識があるRPAエンジニアの市場価値が上がる
伊藤
そういう未来において、RPAエンジニアのキャリアパスはどう変わっていくのでしょうか。
藤澤様
今、RPAのツールでWinActorというものがあるんですけど、WinActorが使えます、UiPathが使えます、BluePrismが使えますといった、「ツールが使えます」レベルのエンジニアは多分、どんどん価値が下がっていくと思います。
それだけではなく、「お客様の業務を効率化するための業務ヒアリングができます」「お客さんにとって最適な自動化とはこうあるべきという提言ができます」といったレベルでよりレイヤーを上げた提案をしていかないと将来のRPA市場では勝ち残れないと思います。一方で、ツール自体はどんどん簡単になっていく方向に進んでゆくと思いますね。
伊藤
業務コンサルタント的な業務になっていくというイメージですか。
藤澤様
それはあると思います。実は今日のRPAエンジニア育成の動向として、人材会社がRPAエンジニアを育成するという動きが進んでいるんですね。RPAテクノロジーズといってBizRobo!という製品を作っている会社がMAIAという人材会社と連携して「RPA女子」というプロジェクトに取り組んでいます。これは何かというと、自宅でロボット作成ができるエンジニアの女性を育成しようとする教育プロジェクトです。
このように特定のツールが使いこなせる人材を育成する動きは、人材会社からソフトウェアベンダーに至るまで育成を始めているので、ツールが単純に使えるエンジニアは増えてゆく傾向ですので、ツールを使うスキルだけを持っていても市場価値は上がらないと思います。
伊藤
「ツールが使える」レベルのRPAエンジニアが増える方向であれば、特に中小企業では要件定義を出来る人が今よりも必要になるはずですね。
藤澤様
そうなると思います。中小企業だと、外から誰かが入らずに要件定義からエンジニアリングまでできるレベルの方が必要になると思いますね。
伊藤
今後コンサルタントや、エンジニアがフリーランスになろうと思った時に、RPAの領域が武器になることはあるのでしょうか。
藤澤様
RPAというソリューションだけわかりますという状態だと、結局はHowの話になってしまうので難しいと個人的には思っています。
今、弊社のフリーランスエンジニアで、お客様から引き合いがあるのは<RPA×業務>の知識がある方です。例えば長年経理部にいる専門性の高い人が情シスに移り、RPAの導入推進をしているといったキャリアは、RPAフリーランス市場でも特に価値が高いです。
理由としては、業務の最適な姿もわかりますし、自動化する上でRPAをどう活用したら良いのかを理解しています。なので、業務とRPAの知識がセットになってくれば、価値が高いのではないかと思います。コンサルティングファームで活躍されている方ですと、どこかに強い領域があるので、RPAキャリアとの親和性は高いと思います。
伊藤
RPA単体のスキルでいうと、だいたい何年ぐらい経験していると一通りのことをやったと言えるのでしょうか。
藤澤様
日本だとRPAは2016年頃から本格的に導入され始めました。現状ですとSIerの場合は3ヶ月間新卒に研修を行い、すぐプロジェクトに入れ、稼働することもあります。なので、現状では1年ほど経験があれば、経歴としては長いと言えます。
伊藤
今のうちに携わっておくと先駆者の一員になれそうですね。一方で一連のRPA大型導入が完了した後のRPA領域のキャリアについてはどうお考えですか。
藤澤様
ERPも同じだと思うんですけど、RPAもデジタルトランスフォーメーションにおけるプラットフォームになろうとしています。
RPA上でデータを貯め、OCRでデータを引っ張り、AIで分析して活用するといったインテリジェントオートメーションとか、RPAと何かを連携させて面白いことをやるとか、そういうところまで仕事を広げられると市場から求められる価値のあるキャリアになるのではないかと思います。
RPA導入の目的はコストカットではなく、クリエイティブな時間の創出にある
伊藤
最初の質問に戻りますが、個人的にはRPAのメリットはコスト削減だけではないと思っています。社員の定型業務を減らして、付加価値のある仕事ができる時間を増やすといった生産性向上に興味があります。現在はコストカッターとしてのRPAという印象が強いですね。当然そういった側面もあるとは思いますけれども、生産性を上げるためにどれだけアドオンのスペースを作るかという視点でRPAを使うという発想がもっと取り上げられれば良いと思います。
藤澤様
それはすごく重要な考え方ですね。やりたくない仕事をやることで、やりたい仕事をやっている時のエネルギーを奪っていることもあるわけですよね。単純作業なんて特にそうだと思います。
ソフトウェアベンダーが発信しているメッセージも、基本的には今の話と同じメッセージングにはなってはいるのですが、単純作業がなくなったことでどれだけクリエイティブな仕事ができているかといったところにフォーカスしたニュースはまだ出てきてないのが現状です。
エージェント業で考えると、優秀なエージェントはロジカルではないマッチングをしてみたり、そういうある意味無駄の積み重ねで自分の領域を広げたりされていますよね。RPAによってそういったチャレンジングなことに時間が割けるようになるといいですよね。