「新しい資生堂のインキュベーター」となることを目指し、「デジタル高度化をリードすること」をミッションの一つに掲げる資生堂ジャパン株式会社 プレミアム事業本部 カスタマーストラテジー&プランニング部 ストラテジープランニング室 データアナリティクスグループ。
今回のインタビューでは、グループマネージャー 永盛達也様、伊藤純一様、栁川泉美様より、資生堂におけるデータアナリティクスグループの立ち位置やミッション、実際の業務内容、カルチャーなどについてお聞きしました。
※掲載内容は2023年7月取材時点のものです
データアナリティクスグループ 永盛様、伊藤様、栁川様のご経歴
高嶋
まずは、お三方のご経歴からお伺いしてもよろしいでしょうか。
永盛様
最初に、新卒入社したコンサルティングファームのメンバーでスタートアップ企業を立ち上げました。「ビッグデータ」のビジネス機会を掴んで、一からサービスを創り出す環境に惹かれたからです。そこで幅広く緊張感のある業務を多く経験しましたが、次はより同世代のライバルが多い競争環境に身を置きたいと考え、PwCコンサルティング合同会社に転職してデータアナリティクス領域の知見を深めました。そして5年ほど過ぎたあと、実ビジネス成果にこだわったチャレンジをしたいという気持ちが強くなり、事業会社側に飛び込むことにしたのです。
当時、化粧品に対して特別強い関心を抱いていたわけではなかったのですが、ストラテジーと協働したデータアナリティクス領域での裁量あるポジションと、DX化に向けた最初の立ち上げフェーズであるという環境が自分の志向とマッチしたため資生堂への参画を決めました。現在は、カスタマーストラテジー&プランニング部(以下、CS&P部)内のデータアナリティクスグループ(以下、DAG)においてグループマネージャーを務めています。
伊藤様
私は、大学院修了後、新卒で資生堂に入社しました。資生堂を選んだ理由は、化粧品が人の感性を刺激する情緒的価値としての側面と技術や理論を重んじる理性的な側面の両方が組み合わさっており、商材としての魅力を感じていたからです。入社後、半年間営業を担当した後、DAGにジョインしました。
栁川様
私も新卒で資生堂に入社し、今年で3年目になります。入社以降、営業としてホームセンターやスーパーマーケットというチャネルの本部担当をし、個人で購入されるお客さま向けの売り場づくりや施策提案など、お得意先さまと協働でビューティーカテゴリー全体の売上拡大を図っていました。2023年1月にDAGへ異動となったのですが、これまでの営業とは業務も雰囲気もまったく異なり、まるで別の会社に就職したような気分です。
市場が縮小する中で、データを活用した「新しい仕組みづくり」が必要とされている
高嶋
続いて、現在、資生堂が置かれている市場での立ち位置とDXの取り組みについてお聞かせください。
永盛様
まずは、資生堂が置かれている国内の化粧品市場についてお話しします。日本は、周知のとおり、少子高齢化にともなって人口が減少しており、かつ、長期に渡る経済成長の停滞もあって低価格商品が選好されることも増えてきています。その結果、「人口×単価」から成る市場規模は縮小均衡となっており、それが今の私たちが現実として認識すべきマクロなビジネス環境だと考えています。
加えて、化粧品市場は日本の化粧品メーカー以外にも、商社、医療品メーカー、OEM企業、韓国コスメなど、さまざまな競合が多く参入している状況のため、非常に厳しい市場であることは間違いありません。そうすると、資生堂にとっては化粧品業界シェア日本ナンバーワンのポジションをいかに守り切るかという戦い方が重要になってきます。
そうしたときに資生堂は、今までのように全人口をターゲットとした総花的なセールス&マーケティング施策を打っていくスタイルではなく、「選択と集中」で、いかにシェア減少を食い止めて成長に転換していくための効率的なビジネス運営ができるかが肝要です。例えば、既に資生堂を愛用してくださるお客さまに対してどうすれば長くリピートし続けていただけるか、更なる商品を併用いただくためにはどのようなコミュニケーションが適切か、潜在的な優良顧客をどのようにピンポイントで見出すか、そういった観点などにフォーカスした仕組みづくりが必要であり、今まさにデジタルを活用してこういったようなテーマに取り組んでいます。
高嶋
市場環境が厳しい中で、ビジネス効率を重視し、成長に転換していくためにデジタルを活用していこうと。それに対して、経営陣の理解や温度感はいかがでしょうか。
永盛様
今は、日本全体がDXを推し進めていくべきとの流れもあり、資生堂も同様に機会を感じ取っているため、経営陣からも理解を得ています。公式には、「Global No.1 Data-Driven Personal Skin Beauty & Wellness Company」というデジタルビジョン実現を目指し、取り組みを加速させている状況です。また、資生堂では数年前にアクセンチュア社とパートナーシップを結んでおり、攻めと守りの両面でのDXを推進しています。
高嶋
経営陣もデータ利活用の重要性について理解を示しているのですね。
永盛様
先ほども申したように、資生堂では事業を推進するにあたって「選択と集中」をしていかなければなりません。経営資源を効果的・効率的に活用すべく、「ここは大事だ」「ここは手放そう」という意思決定が必要になります。それを決定付けるのがデータアナリティクスの活用です。そういった意味では、資生堂全体の意思決定をも動かすほど、重要な役割を私たちの組織が担っているということになります。
ミッションは「資生堂のデジタル高度化をリードすること」
高嶋
データアナリティクスグループのミッションと、社内におけるグループの立ち位置についてお聞かせください。
栁川様
まず前提として、私たちDAGが所属するCS&P部は、「新しい資生堂のインキュベーター」としての存在を目指しており、データ分析のプロフェッショナル集団として、そのコアを担うのがDAGです。つまり、資生堂のデジタルの高度化をリードしていくことが私たちグループのミッションです。
今、会社全体でDX化への動きが強化されており、社内ではデータを起点としたさまざまなプロジェクトが増えています。私たちDAGは、DX化に関係する多数のプロジェクトにアサインされており、組織横断的にプロジェクトに携わっている点が特徴だと思います。
伊藤様
DAGの業務は、大きく3つあります。
1つめは、データドリブンな戦略策定のためにデータ分析を行い、経営層の意思決定を支援するプランニングの仕事です。資生堂全体のKPIやKGIの指標設計、トレース、またブランドごとの中期経営戦略に沿ったプロモーションや新商品の効果検証などを行っています。
2つめは、分析結果の実行に向けたエグゼキューションの仕事です。例えばどれくらいの価格帯の商品であれば、どういったビジネスオポチュニティがあるのかを分析し、その結果をもとに営業の施策や集中すべき業務の意思決定をサポートしています。
3つめは先に説明した2つ両方に関わる内容で、GCP(Google Cloud Platform)を活用したデータ分析の基盤構築とその運用、さらにその中でデータを起点とした新規ビジネスの企画なども行っています。
コンサル時代には触れられなかった「豊富なカスタマーデータ」
高嶋
これまでのお話の中にもありましたが、DAGでは具体的にどういったデータを扱っているのでしょうか。
栁川様
DAGでは、さまざまな種類のデータを取り扱っています。まず、美容部員であるパーソナルビューティーパートナー(以下、PBP)による、お客さまとの応対で得られた店頭データです。このデータにはお客さまの購入履歴やカウンセリング情報などが含まれています。他にも各ブランドのアンケートデータ、店内のタッチパネル式顔診断による顧客の体験データ、顧客の購買情報であるIDーPOSデータなどがあります。
さらに今後は、「健康や自分らしい美」への関心が高まり、「肌の健康」に対する意識が一層高まると予想されます。「Personal Beauty Wellness Company」として、お客さま一人ひとりの嗜好に合わせたビューティー体験を提供していくべく、多様なデータ・コンテンツを取り込んだデジタルプラットフォームの構築、データドリブンな事業活動も加速していくため、扱うデータは更に増えていくと思います。
高嶋
コンサルティングファーム出身の永盛様から見て、現在扱えるデータや見られるデータの量、内容に違いを感じていますか。
永盛様
そうですね。データの種類も量も断然増えました。コンサルティングファームに在籍していた時は、特定のプロジェクト案件に関わるデータしか見ることができなかったので、他に社内でどういったデータがあるのかを把握したり活用したりすることが困難でした。また、セキュリティ上、会社の内部にいるからこそ扱えるデータもたくさんあります。
「大手企業」のアセット活用と「ベンチャー」のスピード感、双方を体感できる
高嶋
伊藤様にとって、今、働く上でどのようなやりがいを感じていますか。
伊藤様
私たちのグループは、資生堂という日系の大手企業でありながらも、スピード感のあるベンチャーやコンサルティングファームの要素を兼ね備えているところが特徴です。資生堂が長年培ってきた研究データや全国にいるPBP、各店舗の最先端な機器類など、資生堂が持つ豊富なアセットを活用できるという強みを持ちつつ、一方でまだ解のない新たな取り組みに向かって自分の力を試すことができること。その両面を経験できることにやりがいを感じています。
高嶋
栁川様は働く上でのやりがいについてはどう感じていらっしゃいますか。
栁川様
DAGでは、年次に関係なく裁量の大きい仕事ができます。過去にとらわれず将来を見据えて動きだすことができるグループだと思っているので、新しい未来に向けて挑戦できること。そして、自分たちが今、携わっていることが未来への基盤になっていくということ。そこに大きなやりがいを感じています。
高嶋
お二人とも今のお仕事に満足されているようですが、アサインの希望はそれぞれ通るものなのでしょうか。
伊藤様
DAGが担当している業務テーマが広いため、定期的なグループマネージャーとのタッチポイントの中で自分のやりたいことを伝えることで、関心の高い案件に携われています。案件への関わり方についても、将来のビジョンを見据えた上で経験を積めるポジションなど考慮してもらっていると感じます。
栁川様
また、アサインされる上で、まずは自分がそのプロジェクトをやりたいかどうかという意思を必ず確認してくれます。私は今、エグゼキューション寄りの案件が中心ですが、今後プランニング寄りの分析にも携わっていきたいという思いが芽生えた時に、希望を伝えれば相談に乗ってもらえます。いろいろなことにチャレンジしやすい環境ですね。
高嶋
アサインを決める側の永盛様としては、コンサル時代と比べて変化はありますか。
永盛様
そうですね。コンサルティングファームの場合は、プロジェクトごとにスコープを設定しますが、私たち事業会社の場合、厳格にスコープ定義する必要がありません。また、単発のプロジェクト単位で評価をするわけではないため、中長期視点でメンバーが最もモチベーション高くパフォーマンスを発揮できる柔軟な環境および案件づくりが最も重要だと考えています。つまり、コンサル時代よりも、どうすれば各メンバーのキャリアビジョンに沿ったスキルや能力を伸ばし引き出すことができるか、といった観点を強く意識してアサインと案件づくりをするようにしています。
コンサル出身者も多く、「ファクトベース」で議論できるカルチャーがある
高嶋
続いて資生堂のカルチャーについて伺いたいのですが、永盛様は資生堂に入社されて1年以上が経ちますが、入社前と入社後で印象は変わりましたか。
永盛様
資生堂全体とは異なり、想像以上に私たちの部門は、資生堂の中でも特殊でした。ストラテジーからエグゼキューションまでの幅広い専門性を各々持ったメンバーが混在した部門組織となっているため、各人の得意領域を組み合わせたEnd to Endの密なコラボレーションが実行できています。また事業変革を期待された部門でもあるため、歴史ある大手企業ながらも、新たなチャレンジをポジティブに受け入れる風土が整っているように感じます。
高嶋
伊藤様にとって、資生堂の魅力、カルチャーはどのように感じますか。
伊藤様
資生堂には、世界の中でも資生堂にしかない価値があると思っています。それは日本特有の美しさを尊び、広めようとする姿勢です。日本の伝統や審美に関する意識を世界に発信してきた資生堂は、数ある日本の大手企業の中でも独自の立ち位置を築いていると考え、そこが魅力だと感じます。
高嶋
栁川様はいかがでしょうか。
栁川様
資生堂はどんな方でも受け入れる姿勢がある会社だと思っています。社内には、年齢や年次を問わず1人の社会人として壁もなく受け入れる方が多い印象です。また、メンバーの成長に繫がることならば、時間を惜しまずに寄り添ってくれる方も多いです。とにかく資生堂社員の人となりが私は好きですね。
「半数以上がキャリア採用」20~30代メンバーの若手が活躍
高嶋
DAGが資生堂を変えていく1丁目1番地にいる組織だというのがお話を伺っていて伝わってきました。改めて現在の組織を支えるメンバーについて教えていただけますか。
栁川様
メンバーは、グループマネージャーである永盛を含めて9名います。そのうち、6名がキャリア入社社員で、うち4名がコンサルティングファーム出身、うち2名がそれぞれ、リサーチ会社、消費財メーカー出身です。また、新卒入社4年目が2人と3年目が1人、グループ全体としても20〜30代が多く若手が活躍しているグループです。
永盛様
DAGが所属するCS&P部には、データアナリティクスを担当する私たちDAGをはじめ、営業施策のプランニングを行う組織、ストラテジーを検討する組織、小売店舗向けのマーケティングを支援する組織と、さまざまな役割がミックスされています。
事業企画ポジションとして、さまざまな部署と密にコミュニケーションを取りながら連携できるところがDAGの魅力です。実際、DAGで分析した結果をもとに、施策と現場が動き、そのリアクションとしての結果データが生まれる。こういったPDCAを回していくことできる点が、実効性のある良い組織形態だと思います。
高嶋
ちなみに組織内では普段、どのようにコミュニケーションを行っているのですか。
伊藤様
チャットでのコミュニケーションが中心です。私たちの部門はコロナ禍に発足された組織なので、最初からチャットがスタンダードですね。リモートワークですが、それによるコミュニケーションの難しさを私自身が感じたことは特にありません。
高嶋
リモート環境で連携をしていくにあたって、何か工夫されていることはありますか。
栁川様
プロジェクトごとにグループチャットがありますが、必ずグループマネージャーが入っているので安心感がありますね。何かあればグループマネージャーとクイックにやり取りができるため、コミュニケーションにおける障壁がなく、ストレスや不安を感じることはありません。
高嶋
現在DAGが求めている人物についてお聞かせください。
永盛様
2つあります。まずは、組織に魅力を感じてもらえる人。繰り返しになりますが、私たちはデータアナリティクスだけではなく、ストラテジーをはじめさまざまなバックグラウンドの人たちと連携して事業を行っています。専門性を活かしながらも、こういった環境に興味を持てる人がいいですね。
もう1つは変革マインドがあること。私たちの挑戦はまだまだ初期段階。「資生堂という大きな日本企業を自分の手で変えていくんだ」という気概を持った人にチャレンジしてほしいと思います。
データアナリティクス領域で、自身の「プレゼンスを高める余地」がある
高嶋
皆さん今後の展望があればお聞かせいただけますか。
栁川様
私は将来的に、商品PRに携わりたいと考えています。現在はリテーラー向けの分析を担当していますが、ゆくゆくはブランドマーケティングといった生活者向けの分析にも携わっていきたいと思っています。
元々、美容は好きなので、定性的なスキルにおいては既に兼ね備えていると自負しております。次はアナリティクス領域において、一人前になれるスキルを身に付ける、そして定性と定量2つを掛け合わせることで、資生堂で価値を創出できる人間になりたいと思っています。
伊藤様
私は、これまでデータを活用する地盤づくりと、データを用いた施策検証といった経験を積んできました。次のステップでは、得られたデータを活用して生活者の行動をどのように変えていけるのか、そういった顧客体験のところをデータドリブンで戦略を立てていくことに興味があります。
永盛様
これまでスタートアップで経験を積み、コンサルティングファームではデータアナリティクスとしてテクニカルな部分を身に付けた状態で、資生堂に入社しました。今、私が目指したいことは、専門的なデータアナリティクスを活用しながらビジネスとして成果を出していくことです。この伝統ある日本の大手企業の中でDXを推進していくことは、当然、困難さもありますが、ここでしっかりとチーム全体で成功体験としての事業価値創出を行うことが当面の目標です。
高嶋
では最後に、資生堂へ興味をお持ちの方へメッセージをお願いします。
栁川様
化粧品業界というとあまり馴染みのない方にとってはハードルの高さを感じてしまうかもしれません。しかし、美容知識に関しては、社内の研修制度はもちろん、周りのメンバーもサポートしていきますので安心してチャレンジしていただければと思います。
伊藤様
私たちのグループは、キャリア採用で入られた方も早期にプロジェクトリーダーとなり、自分の価値を発揮されている人たちがたくさんいます。永盛をはじめ、CS&P部のトップもコンサルティングファーム出身者です。キャリア入社の方でもすぐに活躍できる環境が用意されていると思いますね。
永盛様
データアナリティクス領域の方たちは、IT系企業やコンサルティングファームへ転職されるケースも多いかと思いますが、そこは既に競争も激しくレッドオーシャンで、新たなキャリアチャンスを得る機会は相対的に限定的です。一方、私たちの環境はまだまだブルーオーシャン。伝統的な日本の大企業での変革に携わりながら、自分自身のプレゼンスを高めていきたい方にとっては最適なチャレンジ環境ではないでしょうか。