Fintech、AIといった新しい技術の台頭や、低金利が続く不安定な情勢の中で、金融機関のビジネスを安定させ、また促進させるため、高度な専門性によるリスクアドバイザリーを行う有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ファイナンシャルサービシーズ(FS)。今回のインタビューでは、同部門の徳永光佑様、今野正章様より、FSの体制や、クライアントが置かれている状況に対してどのようなサービスを提供しているかなどについてお聞きしました。
徳永様、今野様のご経歴
梅本
お二人のご経歴についてお聞かせください。まずは徳永様、お願いいたします。
徳永様
私は大学院で中小企業金融や地域経済について研究し、卒業後は政府系の金融機関に入社しました。再生案件や審査を中心に4年程勤めた後、もっと金融や地域経済といったマクロ的な観点からの金融サポートをしたいと思い、トーマツへ転職しました。それまでは、トーマツのことは全く知らなかったのですが、金融機関のリスク管理をすることは地域金融を支えることであり、こうした金融機関自体を支える仕事に非常に魅力を感じました。
入社後1年程は金融の規制対応専門のチームに所属し、その後は監査とリスクアドバイザリーのメンバーで構成されたクロスファンクションチームに移り、国際会計基準(IFRS)支援といった案件に携わってきました。私の「クレジットリスク専門家」としての自覚は、このクロスファンクションへの参加によって培われてきたと思います。
現在は、クレジットリスクの分野でも、国際会計基準対応や、将来予測や気候変動などのより応用的な領域、そして、新規事業開発などの新しい取り組みに注力しています。
梅本
では続いて今野様、お願いいたします。
今野様
私は新卒で外資系の生命保険会社の代理店営業部で、銀行や証券会社、会計事務所といった代理店に対して中小企業向けの保険商品のプロモーションや営業支援、コンプライアンス体制の支援を行っておりました。業務の中でお客様から経営についてご相談を受ける機会が多々あり、次第にコンサルティングワークに興味を持つようになり、転職を志しました。
転職タイミングで業界ビジネスの在り方を変えるような規制の変更があったことから、リスク管理や法令遵守といった対応の重要性を痛感し、内定をいただいていた複数のコンサルティングファームの中から、「守り」に重点を置いているデロイトトーマツのリスクアドバイザリーに参画することを決断しました。
入社後は保険チームに所属し、クライアントの法令遵守体制、リスク管理体制強化のご支援や、新会社設立にあたっての規制対応、リスク管理、コンプライアンス対応等のご支援を行なっています。
梅本
複数のコンサルティングファームのなかからデロイト トーマツを選んだ要因について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
今野様
面接は大きな要因の1つですね。トーマツの場合、最終的に自分が所属するチームのマネジャーあるいはパートナーと面接を受けるのですが、そこで彼らの仕事に対する姿勢に強く惹かれました。
特に、今の上長は私と同じく保険業界出身の方だったので、お互いの問題意識を共有できたと言いますか、他のコンサル会社のような単純なケース面接ではなく、終わった後に自分の中がクリアになり、学びがあったと感じることができました。
面接も架空のケースではなく実際の問題を取り上げて対話や議論を重ねていくスタイルでとても印象的でした。
梅本
面接で示唆を得ることができたのですね。徳永様は、デロイト トーマツを選んだ決め手はありますか。
徳永様
まず、リスクアドバイザリーを選んだのは、クレジットリスク、統計、データサイエンス、金融工学という専門性やナレッジを身に付けることができるからです。例えば、次のキャリアとして事業会社に戻って活躍したいと思った時に、新しい武器になると思ったからです。その中でも、トーマツはリスクアドバイザリーとして国内で最大規模の金融関連ソリューションと人員を備えているので、一番良い環境だろうと思いました。
私は面接のことはあまり覚えていないのですが、確か、バーゼル最終化の課題などについて聞かれ、当時はそんなこと全然知らなかったのでよく分からないことを答えたような気がします。もしかすると、知識というよりディスカッションに対する姿勢を見ていたのかもしれません。
金融機関の課題解決を広く扱うファイナンシャルサービシーズ
梅本
現在お二人はリスクアドバイザリー事業本部のファイナンシャルサービシーズ(FS)に所属されていますが、組織の概要や役割について教えていただけますか。
今野様
FSは、金融機関向けに信用リスク・市場リスク等のリスク管理や内部監査、あるいはコンプライアンス体制、といった幅広い分野のアドバイザリー業務を提供している部門で、200名以上が在籍しています。
その中でもいくつかのチームに分かれており、銀行や保険といった金融セクター毎にフォーカスしてサービスを提供するチームや、信用リスク管理など特定の領域について専門的なサービスを提供するチーム等があります。
私は保険業界を担当するチームに所属し、保険会社にコンプライアンス態勢整備などのサービスを提供しています。当社は特定の領域に関する専門家が多いイメージがあると思うのですが、セクターに特化したチームは、幅広い業務が経験できるという点に特徴があると思います。
梅本
徳永様からはいかがですか。
徳永様
私はFS内で2つの役割を担っています。その内の1つは、今野さんからも説明があった特定の領域の専門家としての役割で、私は、クレジットリスク管理に関する業務に関与しています。
もう1つの役割は、「インキュベーション」です。これは既存の金融専門領域の枠組みでは捉えられないけれど、金融工学や統計、規制といった知見を応用してサービスを提供するものです。例えば、事業会社が、自社が保有する独自のデータを使って、新しくレンディングサービスを始めたいとなった時に、市場はどのくらいの規模なのか、貸出金のプライシングはどうするのか、どれぐらい資本を投資するか、規制や会計にはどのように対応したらいいのか等、ビジネス構築の部分と専門性の部分の境目になっている課題に対応します。こうした境目の領域は、2〜3年前まで各専門家がアドホックに対応してきたものだったのですが、現在ではそれらを横断的に担当するインキュベーション・チームを設けており、私はそちらでも活動しています。
規制・リスクなどの「守り」だけでなく、ビジネスの成功まで考え抜く「攻め」の案件が増えている
梅本
高い専門性で、様々な課題解決に取り組まれていますが、その中でも特に今の金融機関が置かれている課題や、喫緊のテーマについてもお聞かせください。
徳永様
特にクオンツの立場からすると、今の日本の金融機関を取り巻く状況は非常に不確実性が高いと感じています。国際的にみても、長らく成長性が低い市場ですし、低収益ながらも潰れないという稀有な立場でもある。それが今、いよいよ利上げかという状況に置かれています。
利上げが起こると保有する有価証券に大幅な評価損が発生することがありますし、融資をしている銀行も貸出金利が上がって、企業の利益が圧迫されるために、倒産が増加する蓋然性も高まります。市場リスクと信用リスクが強く相関する状況であり、リスクコントロールは非常に難しくなるでしょう。
金利が上がった分を吸収できる収益性が上がっていない現状で、金利を上げると間違いなく日本の経済は悪化する。そういった状況のなかで、リスクを最小限にし、どうすればこの局面を乗り切れるのか、かなり切迫感を持って考えているところです。
梅本
そういったクライアントの課題がある中で、FSではどういったサービスを提供していこうとお考えなのでしょうか。
徳永様
日本の金融機関はそういったリスクをずっと抱えてきましたから、規制会計の文脈で一つの処方箋として、フォワードルッキング引当が導入され始めています。これは、金融機関の期待損失、貸倒引当金に将来予測をしてあげて、ある程度軟着陸させるというものです。
トーマツでは、そうした制度導入に継続的に取り組んできました。
梅本
続いて今野様から見たクライアントの課題感についてはいかがでしょうか。
今野様
最近は当局対応が増えていると感じています。例えば、法人向けの生命保険に関する規制に対応できていなかった保険会社が業務改善命令を受けたり、あるいは、営業職員が募集コンプライアンス違反を犯してしまったりしたケースです。
お客様とお話している中で感じるのは、当局が示す金融機関との対話を重視したプリンシプルベースの検査・監督がより浸透してきていることです。検査マニュアルは最低限担保が必要な基準として念頭に置きつつ、個社のビジネスモデルに起因するリスクに対してフォワードルッキングな対応を如何に提案できるかが、我々に求められているポイントだと思います。
梅本
今野様のお話は主に「守り」、一方で徳永様のお話は「攻め」の印象を受けました。リスクというとやはり「守り」のイメージが強いですし、御社は業界の中でトップクラスのアウトプットを誇っていると思うのですが、「攻め」という観点での御社の動向についても、さらに詳しくお聞かせください。
徳永様
私は非金融機関のレンディングサービス立ち上げに携わった経験があるのですが、規制、会計、プライシングやリスクなど、やらなくてはならない「守り」をきちんと考えた上で、さらにビジネスとしてフィージブルなのかという観点を持って立ち上げたいという、「攻め」の案件が増えてきていると思います。こうしたスピード感を持ったお客様が金融業界に参入したいというときに、トーマツが選ばれているのだとも感じています。
今野様
2線であるコンプライアンス部門やリスク管理部門に対して、新規ビジネスを始める際に対応が必要なリスクや規制対応について網羅的にアドバイスするというプロジェクトもある為、「守り」だけでなく「攻め」の部分もカバーしていると感じています。
「攻め」の部分は、グループで経営戦略に強みを持つデロイト トーマツ コンサルティングもありますから、協業することもできますし、こういったところも我々の強みですね。
柔軟な働き方で、無理なく「成長したい」という思いに応えてくれる
梅本
ここからは、社内での働き方についてお聞きしたいと思います。ワークライフバランスなどで前職との違いを感じることはありましたか。
今野様
前職は営業なので、突発的なお客様対応で遅い時間に仕事をすることも多かったです。今の仕事でもそういったことはあるのですが、トーマツでは早帰りデーが設定されていたり、パソコンの深夜利用の制限など働き過ぎを防ぐ仕組みがあり、以前よりも時間のコントロールがしやすく、メリハリがついた仕事ができるようになったと感じています。
梅本
徳永様はマネジャーとしてメンバーのマネジメントも業務に加わってくるかと思うのですが、そのあたりはいかがですか。
徳永様
基本的に、チームメンバーも私も働き方は完全に自由だと思っています。私は子どもがまだ小さいので、例えば15時から16時までは子どもを風呂に入れるために抜けることもありますし、メンバーもそれは同様です。
トーマツはその人の、その時々の状況に応じて仕事量を抑えたり、成長のタイミングだと思ったときには体調を崩さないように適切なフォローがあった上で頑張ることもできる、フレキシブルな会社です。
今野様
手を挙げればいろいろとやらせていただける会社ですよね。徳永さんがおっしゃる通り、「自分が成長したい」という人にはチャンスをいただける会社なので。少しハードなところもあるかと思いますが、自分で調整できます。気さくな方が多いので心地の良い職場だと思います。
梅本
働き方やご自身の仕事内容、キャリア面などを上司の方と面談をする機会は設けられているのでしょうか。
今野様
チェックインというデロイト トーマツ グループでの取り組みによって、自分の振り返りのために定期的にマネジャーと話す機会がありますし、それとは関係なくその時々でフィードバックをいただけますね。私は今リモートで働いているのですが、コミュニケーションする機会はかなり多くて、配慮をいただいていると感じています。
梅本
徳永様はご自身が面談をする立場でもありますが、いかがですか。
徳永様
そうですね。リモートワークだと、メンバーがどんなスキルを持っているか把握できないことがあって、その辺りを細かく擦り合わせるために、ディスカッションするような時間を設けることもあります。カジュアルなものですがそこにパートナーが入ってくることもありますよ。
梅本
「手を挙げればいろいろとやらせていただける会社」とのお話がありましたが、サービス開発なども会社から後押ししていただけるのでしょうか。
徳永様
例えば、ITソリューションベンダーと協業し、気候変動リスクのソリューションをつくったり、それをベースにデロイトのアジアパシフィックレベルでのアライアンスの深化などにも取り組んでいる最中です。
スタッフのときに「やりたい」と手を挙げて以来、ずっと私がリードしてきました。その人の職位に関わらずやる気がある人ならば、「そのままやらせてみよう」という感じでしたね。シニアマネジャーやパートナーの方たちが温かく見守ってくれました。
コンサルから事業会社、官公庁まで、メンバーのバックグラウンドの広さも魅力
梅本
メンバーのバックグラウンドについてもお聞かせください。
今野様
事業会社出身の方とコンサルティングファーム出身の方が半々くらいですが、他にも監督当局から入られた方など、本当に多様な人材がいるなと思いますね。
徳永様
私の周りはコンサルティング出身の方が多いですね。また、天文学の博士号を持っていらっしゃる方や、世界的に有名なシンクタンクでエコノミストとして活躍されていた方など、尖った方がいらっしゃる印象です。
梅本
エンジニアや税理士など、スペシャリティを持った他の法人やチームの方と協業することもあるのでしょうか。
徳永様
そうですね。新しいサービス立ち上げの際にはデータアナリティクスのチームに入っていただいたり、新規事業開発ではマーケット市場調査の専門家の方とやってみたりとか。
今野様
トーマツのグループ中でのクロスファンクションはもちろん、外部の企業と連携した新しいサービスの立ち上げもありますね。
梅本
最後に、FSに興味をお持ちの方にメッセージをお願いいたします。
今野様
この職場は専門性が求められるので、向学心がある方に向いていると思います。ただ私も高い専門性を持っているというわけではないので、専門性というところにとらわれずとも、保険業界、あるいは金融機関、金融セクターに対してコンサルティングやアドバイザリーをしたいという方には、是非来ていただきたいです。
徳永様
私自身もそうでしたが、最初からシニアマネジャー、マネジャーとして入られる方と比べて、スタッフ層から入る方はまだそこまで専門性はないと思うのです。専門的な事柄は身につくまでに時間がかかりますし、どうしても日々の作業をこなしているだけでは身につかないところもあります。ですから、やはり自分で興味を持つ範囲を深めていくことが必要ですし、自分で専門性を磨きたいという思いのある方、ご自身の考え方を持っている方にフィットするのではないでしょうか。そのような方に対しては、ナレッジの共有や、必要な業務経験の提供など、幅広く成長を支援できる環境が整備されています。