「有力デジタルマーケターが語るキャリアの築き方」セミナーレポート

有名デジタルマーケターが語るキャリアの築き方
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3人はなぜ転職したのか?

2月10日に主催アクシスコンサルティング、企画運営サポートD4DRで、「本間充×奥谷孝司×菅恭一スペシャル対談イベント『有力デジタルマーケターが語るキャリアの築き方』」を、六本木アカデミーヒルズにておよそ100名を集め開催しました。

昨年、本間氏は花王からアビームコンサルティングへ、奥谷氏は無印良品からオイシックスへ。そして菅氏は朝日広告社から、自ら設立したベストインクラスプロデューサーズへ。それぞれ大きなキャリアチェンジをして業界の注目を集めました。

転職をした理由や新天地でこれから実現したいことなど、デジタルマーケターのキャリアについて語っていただきました。

目次
  1. 花王の中でのキャリア形成が見えてしまった
  2. 自分で自分の人事を書いてきた
  3. 他の会社のビジネスロジックを知りたいというのが大きな動機
  4. 顧客時間を意識させることがデジタルマーケティングの仕事
  5. チーフデジタルオフィサーの役割はマーケティングとITをつなぐこと
  6. 大切なのは執念。自分の仕事に対する執念
  7. 退職届を出した翌日にデジタルマーケティングの組織を任される
  8. クライアントにとってのベストインクラスを一緒にプロデュースしていく
  9. 箱から出たときに自分にどれだけ実力があるのか
  10. 組織づくり:鍵となるリーダーシップと連携
  11. 小さく始めるか、大きく始めるか
  12. 必要なのは複数の専門性を組み合わせること
  13. 社会に役立つ仕事に身を投じよう

藤元健太郎氏(以下、藤元)
本日は皆様お集まりいただきましてありがとうございます。今日ファシリテータ-を務めるD4DRの藤元です。

今日のスピーカーの皆さんは著名人ですね。デジタルマーケティングで活躍されている方々をお招きしました。普段はデジタルマーケティングをどうするかという話が多いと思いますが、今日は少し角度を変えてキャリアの話という切り口でいきたいと思います。

また今日はデジタルマーケティングのお話なので、会場の皆さんともインタラクティブにつながりたいと思います。最新のアンケートシステムをご用意しました。皆さんのお手元にお配りしている端末がありますね?その番号を押すと回答できます。

まず1問目。皆さんの会社を思い浮かべてください。またクライアントビジネスをしている方はクライアントを思い浮かべても結構です。

Q1 A1

藤元
回答結果を見てみましょう。Amazonと戦えるレベルの会社がいますね(笑)。2番も意外と多い。いかがですか?

本間充氏(以下、本間)
この1番の会社に転職しようかな(笑)。

藤元
今日の参加者はレベルが高いですね。普通のセミナーだと皆さん「勉強している」というところですが。では2問目。

Q2 A2

藤元
経営会議レベルという方もいらっしゃいますね。気配もないもいますね。どうですか?菅さん。

菅恭一氏(以下、菅)
担当役員が少ないと思います。

奥谷孝司氏(以下、奥谷)
COCO (Chief Omni-Channel Officer)という肩書きは私ぐらい。会ったことがないです。

藤元
こんな感じで、皆さんのレベルがわかったのでそれに合わせてトークしていきたいと思います。まずは3人に15分くらいずつお話をお聞きします。本間さんからお願いします。

花王の中でのキャリア形成が見えてしまった

本間氏

本間
皆さんこんにちは。アビームコンサルティングの本間と申します。

アビームコンサルティングに入り、4ヶ月と10日が過ぎようとしています。10月1日は奥谷さんとたまたま転職の日が同じで。示し合わせたかのように一緒でした。それを日経BPさんが嗅ぎつけて炎上して大変な10月1日を迎えましたが(笑)。

皆さんのお手元に東洋経済がありますが、このインタビューが私がアビームコンサルティングに入社して最初の仕事でした。アビームコンサルティングは私を使えるだけ使い倒そうという商魂たくましい優秀なコンサルティング会社で(笑)、本当ならアビームコンサルティングの記事なのでサービスのことを書けばいいのに、サービスがいっさい出てきません。

社長の岩澤と、役員の赤石と一緒に出させていただいていますが、本間という名前を知っている人に対してアビームコンサルティングを認知してもらったほうがいいのではないかということで、「そもそも君がなぜ転職したかを語ってもらったほうがいい」とこの記事になりました。

私は花王に何ら不満があったわけではないです。正しくいうと、何ら不満があったわけではないというのは5%くらい嘘で、私の花王の中でのキャリア形成がもう見えてしまったからです。

すなわち花王だとあるところでキャリア形成が止まってしまうのではないかと理解したので辞めた。だけど花王でやっている業務や方法に不満があったわけではないというのが正しいです。

自分で自分の人事を書いてきた

私自身はトップデジタルマーケターと言われていますが、実はなんちゃって数学者です。

研究所採用で花王に92年に入社して97年まで研究員として働いていました。実は1回目のキャリア変更は97年3月。「花王の研究所を辞めさせてくれ」と言った変わった花王社員です。

花王はR&D(研究開発)が非常に大きくて、2,000人くらい研究員がいる組織体なのですが、研究所から異動したいと主張した人間はそれまでほとんどいませんでした。それで取締役会議等で扱いを決めるために3ヶ月紛糾することになります。

そもそも研究員を辞めてどこかに異動すると言っても、部門別給与体系になっていましたから、給与をどうするかという問題も発生しますし、役員変更を伴う人事ローテーションはあまりしたこともない。

申し出たのは7月ですけれど、10月~12月まで私は花王の中で「ほしい人はいるか」とさらされることになりました。ありがたいことに複数の部門に手を挙げていただいて、私は当時栃木で勤務していましたが、20時から東京に行って何度か役員にも会いました。

「研究所を辞めてどうしたいの?」と聞かれて。しかし辞めたいというのは決まっていましたが、その先で何をやりたいかは決まっていませんでした。

研究員として自信がなくなったので辞めたいと。転職エージェントが一番扱いに困る例ですね。そのような経緯で1回目の社内転職をしたのです。

97年に研究所を辞めて、1年間デザイナーという肩書きになりました。当時マルチメディアという言葉がありまして、マルチメディアクリエーターとデザイナー、しかもマルチメディアデザイナーリーダー。それから4年間はHTMLを書く小僧です。フロントエンドプログラムをずっとやっていました。

HTMLが書けるし、FlashやDirectorも扱えましたし。なんちゃってマルチメディアデザイナー。
そのような仕事を続けるうちに、2000年当時インターネットの部署が花王にはなかったので、インターネットを仕事にしていこうと思うようになりました。それで次の社内転職はきちんと「やりたいことがある」と、社長に直談判しました。

花王にはインターネットのマーケティング部門がない。海外には事例はあるけれど国内にはまだほとんどない。今のうちにやりましょうと。

社長からは「君の言っていることは正しそうだけど、正しいかわからない。手を挙げてくれた君にグループを部長として任せたいけど、君のキャリア形成上任せられないので、君の知らない部長が上に立つことも含めて了承してくれるのであれば認めてあげる」と。

間に転職エージェントが立っていたら、「こんなはずではなかった」と言うところですが、でも社内転職なので仕方がない。ということで、花王時代は2回社内転職をしたということになります。

その後も自分で作った部署を自分で壊したりといろいろやりました。24年間花王にいましたが、自分なりに言うと96年に東京研究所から栃木に転勤になったところだけは人事部門の指示でしたが、97年以降は自分でキャリアを書いています。

他の会社のビジネスロジックを知りたいというのが大きな動機

本間氏

花王を離れた理由ですが、私はもうすぐ49歳になりますが、男の子も4回目の干支を迎えると感傷的になりまして、仕事における新しいフレームはあと2回くらいしかないと。一方、終身雇用がさらに延びていくのに同じ会社にい続けるのかということもありました。気づいた私も遅いのですが、48歳の干支のうちに何か活動しないと駄目だろうと。

転職エージェントにも、48歳のうちに転職しなかったら花王に骨を埋めますと言いました。やりたいことは決まっている、花王というマーケティング会社でマーケティングを理解した。でも花王しか知らない。花王のビジネスロジックは知っている。でもこれが正しいかわからない。他の会社のビジネスロジックも知りたい。それが転職の本当の理由でした。

最初は事業会社、奥谷さんのような事業会社を検討しました。事業会社で私にお呼びがかかる転職先は2つあります。デジタルマーケティング部門を作ろうとしている会社か、今あるデジタルマーケティング部門を大きくしたい会社かです。

これから作ろうとしている会社にはワクワク感がありますが、私がそこで成功したとして、その頃にはもう53-54歳です。「とある会社のデジタルマーケティング部門を大きくしました」とプレゼンしても、その年齢になるとさすがに次の行き先はない。

他方すでにデジタルマーケティング部門がある会社に行った場合は、「俺じゃないといけないの?」という問題があります。そこで様々なマーケティング部門を見られる会社はなんだと考えた結果がコンサルティングファームだったのです。

私はそれまで入社活動は花王1社しかしていません。面接も面談も一回も落ちていない。

今回は真面目にしました。「インタビューに来てください」と言われたら全部断らずに行きました。転職活動の面接とはこういうものなのだとわかり、アビームコンサルティングでは、素直に自分がやりたいことを打ち明けました。

するとアビームの赤石が、「今来てくれたらアビームでやれると思うよ」と。自分がやりたいことをやってくれという会社とマッチすることが転職なのですね。

そんな話を今回参加された方とはしたいと思います。

藤元
ありがとうございました。では奥谷さんお願いします。

顧客時間を意識させることがデジタルマーケティングの仕事

奥谷氏

奥谷
オイシックスの奥谷です。よろしくお願いします。スライドを見ながら説明したいと思います。まずは組織編から。

オムニチャネル

常に言っていることなのですが、デジタルマーケティングをやらないと顧客時間が見えません。縦割りのマーケティングでは総合的に見えない。結局買い物をする時間は一瞬の話なんですね。長いのは買うまでと買ってからです。

買うまでにいろいろ考えますし、買ってよかったらまた買う。こういうことを知りたいと思うのであれば、デジタルマーケティングをやらないといけない。でもここを見られるようにするには時間と手間がかかりますから。勇気がいります。

組織でいうと、企業でどれだけ顧客時間を意識していますか?ということを意識させるのがデジタルマーケティングの仕事ではないかと思います。お客様の行動を見て、お客様が自社をどう見ているか?ここを整理するのもデジタルマーケティングの仕事ですよね。

カスタマージャーニー

もうひとつ言いたいのは、人と物との接点を考えていますか?ということです。売っているものが何であろうとそこを考えておかないと、お客様を逃しますから。無印良品に在籍していたときにMUJI passportを作ったのはそのような理由からです。

お客様は別にMUJI passportがあるから商品を買うわけではありません。ではMUJI passportの価値は何かというとまさにマーケティングだと思うのです。メディア価値をいかに作るかというのが重要なのです。

自分の仕事だけならwebストアを運営していればよかったのですが、勝手にいろいろ広げてしまいました。キャリアを作ったというのは大げさかもしれませんが、今思うとそういうことかもしれません。

チーフデジタルオフィサーの役割は
マーケティングとITをつなぐこと

奥谷氏

デジタルマーケティングに関わる人間が次に何をすべきかというと、新しいEコーマスです。単に何かを買ってくれたら何かあげるという関係なら、別にデジタルマーケティングでなくてもいいのです。

せっかくデジタルでつながるならエンゲージメントを作ってほしい。エンゲージメントという話になるとwebだけではないですよね。会社全体でエンゲージメントやブランドを作っていくという可能性は追求したほうがいいと思いますし、そういうことを描けるのもデジタルマーケティングのよさですね。

エンゲージメント・コマースというのは全社視点です。それを実現させるためには、鳥の目というか、ビジネスをITの目で見る必要があると考えています。特にオフラインが強い会社はそうせざるを得ない。

やはりチーフデジタルオフィサーの役割はマーケティングとITをどうつなぐかということ、そこに汗かくことだと思います。コミュニケーションするためにはつながないといけません。

また無印良品ではwebストアの売上を持っている部隊が全社のデータも持って全社最適で動けました。それが結果的によかった。プロフィットセンターとしての役割と責任がありましたから。

一方でコストセンター。お金はたくさんある。いろいろデジタルマーケティングをやらせてくれる。ただ経営からは温かい無視。このような組織を率いている方は注意しなくてはいけません。

「わからないからあいつに任せておこう」「とりあえず話題になっているからいいよ」という温かい無視は危険です。いつか心が折れてしまいますので、無視されないようにするにはどうしたらいいか考えてください。

デジタルマーケターにとっては、デジタルの理解よりビジネスの理解のほうが大事だと思います。デジタルマーケティングを浸透させるためにはビジネスモデル全体を把握しないといけません。

私はスーパー文系。HTMLも書けません。でも一方でITにとても興味を持っています。あとは体育会系の話になりますが、熱意と説明責任。これを繰り返すしか方法はないでしょう。それをやればうまく行くかもしれません。

デジタルマーケター社内編

大切なのは執念。自分の仕事に対する執念

転職することがいいキャリアなのか、正直わからないです。ただ先ほど本間さんがおっしゃったように、大きな会社で働いている人は、自分なりに考えているつもりでも社内のキャリアしか考えてなかったということにあるとき気づくわけです。

とはいえ、そもそも自分でキャリアを作れるものなのか。本間さんの社内転職も、自分のやりたい仕事に対する執念が結果としてキャリアになった。やりたいことや、やらずにいられないことを一生懸命にやって、その結果自然にできていくものだと思っています。

私も44歳での転職ですからかなり遅いほうです。ただ迷ったら進むタイプなので、残り20年近くもあると思ったときに転職を決断しました。

デジタルマーケター社外編

この歳ですけれどゴールがないというか、目の前にあるおもしろいタスクに一生懸命悩んで、そういう意味でデジタルマーケティングはなにをやっているかよくわからないことが多いので、そこはチャンスだなと。あまり先が見えてしまうと力を抜いたりすることもあるので。

デジタルマーケターの未来は明るいと思います。簡単に言えば「転職したらいいんじゃないですか?」ということです(笑)。

藤元
ありがとうございました。では、菅さんお願いします。

退職届を出した翌月にデジタルマーケティングの
組織を任される

菅氏


皆さんこんばんは。株式会社ベストインクラスプロデューサーズの菅と申します。

私自身は1998年に総合広告会社の朝日広告に入社しました。名前のとおり朝日新聞さんが親会社で、私のスタートは仙台でした。

朝日広告社は関東甲信越から東日本全域の朝日新聞の各県版の広告枠をレップとして買い切っています。仙台に配属され、朝日新聞の宮城県版に広告出してくださいと飛び込み営業をしていました。

デジタルマーケティングとの縁ができたのも仙台時代で、通信キャリアのauさん、当時はauではなく東北セルラー電話という会社でしたが、ちょうどEZwebというサービスが出てきたときに、docomoやJ-PHONEとの差別化で若者を取り込もうとして、auが学割を訴求していたのです。

auオリジナルの公式コンテンツのプロバイダ事業を請け負いました。音楽のコンサートチケットがどこよりも早くEZwebで先行予約できるというサービスからスタートして、他にもいろいろと。そのうち東北でデジタルのなにかをやっている奴がいるということで、東京に飛び込むことになりました。

2001年から配属になったサイバービジネス局でいろいろな業種を担当しましたが、今の自分につながっていると思うのは、人材派遣会社のお仕事です。当時の人材派遣はとらばーゆなど求人情報誌を見て応募するのが一般的でした。これを初めてweb化するという事業でした。今では当たり前になったwebで仕事検索ができるサービスです。

ただオンラインだけは終わらないので、会場に行って登録してもらったり、電話で受け付けたり。コールセンターのwebシステムとデータベースの構築は、今横にいるD4DRの藤元さんと一緒にやりました。今考えるとオムニチャンネルですね。ありがたいことに事業開発やデジタルがどうビジネスにつながるのか?ということを学べる環境にいることができました。

その後ネットバブルが崩壊して、サイバービジネス局が解散しました。各自バラバラになり、ちょっともやもやしていたときにいい転職のお誘いをいただきました。

2004年に退職届を出して、大手の代理店に行こうと考えていたのですが、そのとき社長から「ではどういう組織を作りたいんだ?広告会社にとってデジタル組織のあるべき姿はどのようなものなのか持ってこい」と言われたのです。一晩かけて考えたものを提出しました。

通常は4月に組織改編、人事異動があるのですが、翌月の10月15日に新しいデジタルマーケティングの組織ができました。そこから約10年間、自分から言い出した組織なので形にするところまでやり遂げました。そして昨年の4月にデジタルインテリジェンス横山隆治さんと一緒に今の会社を創ったという流れです。

クライアントにとってのベストインクラスを
一緒にプロデュースしていく

菅氏

私は本間さんや奥谷さんと異なり、クライアント支援会社で仕事をしてきた人間です。どうやってクライアントのデジタルマーケティングに寄り添うかを一生懸命考えてきました。

一般に広告代理店はアウトプット志向が強いというか、キャンペーンを立ち上げることに注力しがちですが、私が朝日広告社時代に見ていたチームはそこだけに留まらず、プランニング・プロデュースから、様々なデータを見てマネジメントしていくというところまで取り組んでいました。

今はベストインクラスプロデューサーズという会社を経営していますが、”ベストインクラス”とは、元々は医療で使われる言葉です。症状に対していくつかの薬の成分を調合して処方する、それぞれの成分のなかでベストなものを組み合わせる、という意味で数年前からアメリカのマーケティング業界のなかでベストインクラスという言葉が使われはじめています。

広告代理店一社にまとめて預けるのではなく、それぞれ強みを持ったパートナーをクライアント自身がグリップして動かしていく。そのような状態を日本にもっと定着させていきたいという想いですね。クライアントにとってのベストインクラスを一緒にプロデュースしていくという会社です。

マーケターが直面している課題

クライアントのマーケターの周りには、たくさんのパートナーとプレーヤーがいます。売り込みもすごく多いですし、どうしても打ち手志向になってしまうところがあって、顧客目線や事業目線で見たときに、断片化していて連続性がなくなっています。

それをどのようにつないでいくか?というのが大きな課題で、うちの会社はそこにコミットしています。フォーカスしているのは3つです。シナリオ設計。データマネジメント。チームビルディング。この3つを手がけることで顧客中心のマーケティング施策が連続性を持ってつながると考えています。

カスタマージャーニーをベースとしたシナリオがあり、それを支えるデータ、その間に打ち手の施策、これが実現できるようなチームをクライアントの中につくっていきます。

マーケティングマネジメントの実行プロセス

箱から出たときに自分にどれだけ実力があるのか

私自身は前職に不満があって辞めたわけではありません。キャリアという点では部門を立ち上げてちょうど10年間取り組んで、会社の中ではデジタルに一番詳しいし、立場もあったのでなんでも言葉が通る。続けていればもっと偉くなっていたかもしれません(笑)。

ただ、箱の中でなんとなく鼻が高くなっている自分と、事業会社のリアリティとの間にどんどん距離が広がっているという危機感がありました。箱から出たときに自分にどれだけ実力があるのか。それを知りたいと思ったのが大きかったですね。

私も40歳を超えてからの転職ですが、自分の人生の残り時間を考えたときに、社内で少しずつステップアップして社業に貢献するのに自分の時間を使うのと、それとも自分なりに業界に対して課題意識を持ったわけなので、そこに時間を使うのと、どちらが世の中に対してレバレッジが効くかと考えたときに、「もう一回失敗しても大丈夫かな? 死にはしないか」ということでやってみようと思いました。

藤元
ありがとうございます。では、パネルディスカッションに入る前にまた、アンケートをしたいと思います。3問目、組織の話です。

Q3 A3

本間
まだ孤独な感じですよね。2~10人は少ないですよね。


デジタルマーケティングができるというのと、推進できるというのは違いますよね。推進するとなるとリーダーシップが求められるので。

藤元
次は、皆さんのスキルについて聞いてみたいと思います。

Q4 A4

藤元
お!3人いますよ。お三方と同レベルの方。

本間
早く名刺交換しましょうよ(笑)。一緒に仕事しましょう。でも4を押すのは日本人の謙遜でしょう。

藤元
では最後です。今後どうしたいか?

Q5 A5

本間
ばらけましたね。でもCMOになりたい人がこれだけいるということは日本の未来は明るいと思います。

奥谷
前向きでいいですよね。

組織づくり:鍵となるリーダーシップと連携

藤元氏

藤元
ここからはデジタルマーケターのキャリアについてパネルディスカッションで考えていきたいと思います。まずはデジタルマーケティングの組織づくりについてどのような課題を感じますか?

本間
海外のグローバルカンパニーは自分で組織のメンバーを集めてくることができますが、日本は現場の意思で組織を作れません。意思決定の速さも含めてスピード感の差を感じますね。奥谷さんも無印良品のときのチームは与えられたものだったのでは?

奥谷
そうです。だから私はチームを勝手に横へ太らせていきました。未経験の領域へ拡大したのです。そうすると、縦より横で活躍する人材も出てきます。


「なんとなく」デジタルマーケティングの組織を作っている会社が多いですよね。その結果、前に進まない。上手くいっている会社は、組織を横断して動けるリーダーがいます。経営、IT、営業など複数の部門と連携しています。

本間
マーケティング部門とIT部門・情報システム部門が対立している会社は多いですよね。それをまとめるには、デジタルマーケターの強いリーダーシップまたは権限移譲が必要ですね。

奥谷
柔軟なITトップの存在も重要です。

本間
リーマンショックまでは、日本のIT部門は会社のコストダウンが使命でした。今はさらにマーケティング部門の仕組みも考えなければいけなくなっています。でも新しい予算を確保するのは難しい。その一方で、マーケティング部門が毎月億単位のお金を宣伝につぎこんでいるのを複雑な気持ちで見ています。

奥谷
マーケティング部門とIT部門の架け橋をすることは大切ですね。

本間
菅さんは組織の中では出すぎた釘になっていましたよね。中途半端だとそこまでいかなかった。奥谷さんも突出していました。

奥谷
私は勝手に組織を作り過ぎたかもしれないですね。でもお客様のことを考えたら、やらざるを得なかった。ただ、あまり早く先へ走り過ぎると、梯子をはずされたのか、自分が遠くに来過ぎてしまったのかわからない状態になります。

本間
確かにおもてなしを追求すると、現状とできる範囲との狭間でもどかしい思いをすることがありますね。実現するために、倍のメンバーがほしいとか。

奥谷
時間がもっとあればとかね。

小さく始めるか、大きく始めるか

全体

藤元
企業がECを導入したころは、実験的アプローチがしやすかったですよね。最初はあたりさわりのない商品で試して、その後、本当に売りたいものに移行した。しかし、デジタルマーケティングは全体最適を考えないと結果が見えにくい場合があります。デジタルマーケティングを小規模な組織で始めるのか、全社で動かしたほうが良いのか、進め方で悩んでいる会社は多いと思うのでご意見をいただけますか。

本間
悩んでいる人は、アビームコンサルティングに仕事を発注してください(笑)。

どのようにスタートするかは、デジタルマーケティングを推進する人の性質によりますね。他部門を巻き込める人は会社全体で議論をして、動かしたほうがいいでしょう。

デジタルマーケターは無免許運転者が多い。「デジタル」も「マーケティング」も知らない人が仕事をしています。単純にマーケティング部門からデジタルマーケティング部門を作ろうとするからです。本来は、会社で広く募って、誰が担当したらよいかというところから議論したほうが望ましいのです。IT部門を巻き込むことや、お客様相談センターにも話を聞くことなども大切です。

さらに言うと、デジタルマーケターは精神的に強い人がいいですね。会社全体で取り組む場合、「あいつらだけ新しいことやって」と妬まれても気にしない人です。

でも、日本のデジタルマーケティングが進まない根本的な理由は、始め方や担当者ではありません。会社としてマーケティング自体を変えなければいけない時期に来ているのに、それについて議論していません。嗜好が多様化したロングテールの時代となり、マスマーケティングが崩壊している状況にもかかわらず、それを認識せずに前へ進んでいます。

奥谷
ネット企業であるオイシックスも、ネットでのマーケティング議論を深めるのはこれからです。私は小さく始めていくつもりです。いきなり大きく理論をたてて証明していくのではなく、経験を積んだ後に「次はこれが実現できそうだ」とつなげていきます。

無印良品のときは会社を理解していたので、ひとつ着手して動き始めると全体へ一気に広げることができました。オイシックスはまだその段階ではないのでスモールスタートをします。


デジタルマーケティングとはなんでしょうね。

本間
私はデジタルとマーケティングの間に「レ点」を打ったほうがいいと考えます。マーケティングのデジタル化だと。


確かにネットマーケティングの話だけをしていることもありますよね。日本ではマーケティングといいながら「4P(Product、Price、Promotion、Place)」の「Promotion」の話しかしていないことがほとんどです。会社としてデジタルマーケティングをどう定義するかで、取り組みの範囲が変わってきます。

奥谷
オイシックスに入り、前職と比較してよりオンラインカンパニーだと思うのは「Webは売り場」としてみている点です。無印良品の場合、Webは買い物をせずに、見ているだけでも構いません。Web は両方の人の場なのです。

必要なのは複数の専門性を組み合わせること

全体2

藤元
デジタルマーケティングの分野の人材をどう集めていますか。また育てていますか。

本間
今日のセミナーに参加した人が興味あるのは、「転職に興味のある人」か、この三人が転職して上手くいったのかを確認したかった人」じゃないでしょうか(笑)。

デジタルマーケティング分野の人材は不足しています。産業も仕事の仕方も変わってきている今、転職したい人には多くの可能性があります。たとえば、もっと先に進もうとしているコンサルティングファームは、明らかに人が足りないですよ。

奥谷
デジタルマーケティングにおいては企業は二極化しています。デジタルマーケティングカンパニーとそうでない会社です。過渡期なのでそれをわかっている人は転職も視野に入れ、自分のスペックをあげたほうが良いでしょう。会社に残る人は教育によって人材をボトムアップさせることが必要です。


私の会社ではシナリオ設計、データマネジメント、チームビルディングをビジネスで手掛けていますが、それぞれ微妙にスキルが違う。今後はスキルの組み合わせが鍵になります。会社や上司がある程度今のスキルを軸に幅を広げる設計をしてあげることも大事です。

奥谷
上司がそれをできない場合もあるので、自分でも意識しておくといいですよね。ある分野の専門性を持つことができたら、近い領域のものも得意にする。専門家ではないけど、AとBとCが3つできる「あの人」は重宝するよね、という感じになります。


全方位60点〜70点という人は結構強いですよね。

面接だけではわからない

藤元
各社どのようなデジタルマーケティングの担当者を採用していますか?

本間
コンサルティングファームは事業会社出身者を望んでいます。事業会社のナレッジや新規事業を創造できる人を求めています。顧客側も事業会社に在籍した人のほうが事情を理解してもらえて、無駄のないコンサルティングを受けられると考えるからです。

藤元
一緒に働きたい人のバックボーンなどはありますか。

奥谷
元野球選手とか(笑)。要するになにかしらを極めた人、探究心のある人です。ネットがわからないと困りますが、例えばリスティングを極めた後、他の分野も挑戦してビジネスや社会のことも理解していれば、年齢も関係ない。T字型人材ですね。

本間
そういう人は履歴書をどのように書いたらいいと思いますか?

奥谷
今教育にも携わっているのですが、面接や履歴書で判断するよりも、教える場でよいと思う人に声をかけています。ワークショップの中で、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力をみていきます。


うちは零細企業なので、1人失敗すると大きなリスクですよ(笑)。

私の場合はマーケティングが好きかどうかを重要視しています。生活者と企業の立場でニュートラルに見たときに、自分の指針をもちながら仕事ができる人を採用します。一緒に仕事をするとわかりますが、1時間の面接で判断するのは難しい。先日一人採用したのですが、半年間仕事をしてお互いの相性を見てから採用を決めました。

本間
つまり適格な人の選び方がないくらい、混沌としている状況ですね。

藤元
知識が共有され業界も活性化するので、人材は流動化したほうがいいと思うのですよね。事業会社からコンサルティングファームを行き来するというのはアメリカでは一般的です。事業会社で培った知識をコンサルティングファームで生かし、さらに知識をアップデートするために事業会社に戻る。日本ではどのようにしたら、人の流動化が進むと思いますか。

本間
4年前に海外へ行ったとき、「What was your business?」とIBMの役員に質問され、最初なにを問われているのかわからなかったのです。

すると相手のほうから「そうか、お前は花王にしかいなかったのか」と言われ、過去のキャリアについて聞かれていると気づきました。

海外では、自分のキャリア形成を常に意識しています。日本は大企業になるほど上に行くと誰もがジェネラリストになります。私はたまたま同じキャリアを積み上げることができたけれども、日本でももっと意識してキャリア形成をしたほうがいいでしょう。会社は雇用を守るけど、あなたの人生は見ていません。辞める権利を持っているので、常にそれは意識して真剣にキャリアについて考えておいたほうがいいですね。

奥谷
必ずしもジェネラリストになりたい人ばかりではありません。日本では地位が先にあり、仕事が後からついてくるケースが多いのですが、それはおかしな話です。会社と個人、雇用の関係はもっと多様化すべきでしょうね。社長になれる人は一人です。社長の可能性のある人が部門を転々として毒がぬけてしまうと、それでいいの?と思います。

だから、私らみたいに会社を辞めて悩んだほうがいいんじゃないですか?(笑)。


本間さんも奥谷さんも私も40代で転職しています。遅いですよね。若い時から5年ごとにキャリアをしっかり考えていたかというと、そうでもないのです。

本間
実は、30代のインターネット全盛のときに、転職のチャンスがあったんですよ。六本木ヒルズにオフィスを持つ、そうそうたる外資のインターネット関連の企業から声がかかりました。でもそのときは勇気がなかった。花王という大企業を捨てた瞬間、全てが失われると思ってしまったのです。本当はそんなことないのに。その時は、働いているのではなくて、会社に行っていただけなのでしょうね。


私が辞めるときに気になったのは「恩義」ですね。無責任に放り出した罪悪感がありました。日本の企業は、一度外に出て力をつけた人材がもっと気軽に戻れるような企業体質になるといいですよね。

奥谷
無印良品を辞める際、人事の役員に報告しに行ったところ、「お前が辞めると聞いたから、ある制度を作った」と言うのです。それが「カムバック制度」でした。

そんなにすぐ帰ってきませんよ、と思いましたが(笑)。

藤元
いずれお三方に社長で戻ってきてくれ、という日がくるかもしれませんよね。

社会に役立つ仕事に身を投じよう

藤元
最後、デジタルマーケティングにおいてキャリアを積みたい参加者の方に一言ずつ激励のメッセージをお願いします。

本間
意識の高い方が集まっていると思いますので、会社を辞める口実として、日本のために働く、と考えてくれませんか?企業に在籍し続けることが本当に日本や世界のためになるかどうか。それで少し自分の心を解放して、選択肢を増やしてみるのもいいのではないかと思います。

奥谷
本間さんのように思っているところはありますね。日本人がキャリアを意識し過ぎると、結局会社を辞めないほうがいい、という結論になってしまいがちです。やりたいことがあり、現時点でできないなら辞めたほうがいいと思います。考えて動き続けていればキャリアになります。失敗もキャリアです。


奥谷さんのように、やりたいことを見つけることが大事です。それが社会とどういうつながりをもてるのか。今の会社でできることであれば、そのまま続ければ良いし。できないのであれば飛び出す。社会に役立つことであれば必ず応援する人はでてきます。

藤元
デジタルマーケティングの知識がつくと選択肢が増えていきます。マネジメントだけでなく、スペシャリストや大学の先生、評論家にもなれます。職種が多い魅力的な分野なので、参加者の方もぜひキャリアを積んでいただければと思います。

スピーカーの皆様ありがとうございました。

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